もう一度見直したい、「SCMって何?」「もう二度と失敗しない」SCM完全ガイド(2)(1/2 ページ)

前回、SCMとは「無駄をなくして、もうけ続けるためのビジネスの体系」であると紹介した。でもそのためには、具体的に何をすればよいのだろう? SCMとしてなすべき業務を、もう一度、確認しておこう。

» 2008年08月25日 12時00分 公開
[石川 和幸,@IT]

SCMとは、“利益とキャッシュを生み出し続ける”こと?

 前回、「『失敗』から学ぶSCMの基本」では、SCMを以下のように定義しました。

必要なモノを、必要な時、必要な場所に、必要な数量だけ届けるために組み上げられた、もうけ続けるためのビジネスの体系


 定義にあるように、SCMが「もうけ続けるために営まれる」ことは明らかです。SCMで狙うべき効果も「もうけを生むこと」といえるでしょう。しかし、「もうけを生む」といってもよく分からないので、具体的に考えてみましょう。

 まず、ビジネス上の「もうけ」とは、換言すれば「利益」といって差し支えないでしょう。すなわち、「継続的に利益を生むこと」がSCMの狙いとなります。もう1つ、利益だけでなく「現金=キャッシュを生み出す」ことも「もうけ」といえます。「お金が手に入る=もうけ」と考えるのです。

 すなわち、「利益とキャッシュを生み出し続けること」がSCMの狙い、ということになります(ただし「利益」と「キャッシュ」については、その関係性に踏み込むと話が複雑になってしまうので、ここではあくまでSCMを理解するためのものとして、単純に考えてください)。

 しかし「利益とキャッシュを生み出し続けること」では、財務的な狙いでしかなく、SCMという企業活動の具体的な活動目標にはなり得ません。これをもう少し、業務的な視点で分解してみましょう。

SCMの狙い(1)──「利益」を生み続けるためには?

 「利益」を生み続けるためには何をすればいいのでしょうか? 1つには売り上げを向上させること、そしてもう1つはコストダウンを図ることです。では、これらを実現するためには、どうすればよいのでしょうか?

■売り上げを上げるためには

 売り上げを上げるために、何をすればいいのでしょうか──これが、SCMという業務上の第1の具体的目標となります。売り上げを上げるには、マーケティングの4Pの手法にのっとり、顧客が商品・サービスを買ってくれる要因を明らかにする、もしくは、売り上げを阻害する要因を解消していくことが必要となります。

 売り上げを伸ばすためには、例えばデザイン、製品機能、価格などが重要な要因となります。しかし、ここでは、あくまでSCMにかかわる話に限定しましょう。SCMという「モノを届けること」に絡んだ狙いとは、欠品しないこと、納期を守ること、正確な納期回答が迅速にできること、などが挙げられます。

 欠品しないことが重要なのは、欠品していると顧客が買うことをやめてしまうからです。いわゆる“売り逃がし”ですが、これは1回だけ販売機会を失う、といった話ではありません。顧客は、1度他社の製品を買うと、以降も他社の製品を買い続けてしまい、自社製品を買ってくれなくなる恐れもあるのです。

 需要や要求があるのに供給ができないというのは競合他社の製品を買ってください、といってるようなもので、最も避けたい事態です。従って、SCMでは「欠品しない仕組みを作る」ことを狙う必要があります。

 また、納期を守れなければ、欠品と同じ影響が生じます。オーダーをキャンセルされたり、怒った顧客が二度と買ってくれなくなったりする恐れがあるからです。

 このことは、正確な納期回答と対を成しています。いい加減な納期回答では、当然ながら納期を守れないので、企業として信用が保てません。「納期回答が迅速にできる」ことが競争力となり得る理由もここにあります。そもそも納期を迅速に回答できず、そのために受注できない会社もあるからです。

■原価を低減し、コストダウンを図るためには

 利益を上げるには、コストダウンも欠かせません。SCMでは、効率的に生産や調達の準備をして、無駄な費用がかからないようにすることが重要です。SCMの各工程を「整流化」して、スピーディに意思決定できる業務体制を編み上げ、無駄を徹底的に省く──すなわち、無駄な在庫を作らないことによって、保管・廃棄費用を減らしたり、不要な輸送を省いたり、必要以上の人員や余計な設備を準備しないことを狙うのです。

SCMの狙い(2)──「キャッシュ」を獲得し続けるためには?

 キャッシュを獲得し続けることもSCMの重要な狙いです。売り上げ向上やコストダウンも、もちろんキャッシュの獲得に役立ちます。これとは別に、不必要な固定資産を持たないことによってもキャッシュフローを増大させることができるのです。つまり在庫と設備を減らすことでキャッシュフローを増やすのです。

■在庫と設備を減らすためには?

 一般に在庫削減はSCMのメインテーマとして取り上げられます。上記のような方法で無駄な在庫を作らないことが最善の策となります。一方、SCMの議論で設備の話が出ることには、違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。しかし設備とは、ビジネスモデル構想や予算策定など、SCM計画と密接に関係しているのです。

 次のページ、「6つのフレームワークを駆使して、SCMを編み上げる」のセクションでも説明しますが、設備投資額とは、ビジネスモデル構想からサプライチェーンモデルを導き出し、さらにそこから長期的な販売計画、生産計画を決め、その結果として導き出さなければなりません。つまり無駄な設備を減らすためには、ビジネスモデル構想までさかのぼり、適切な投資額を理詰めで導き出すことが不可欠となるのです。

 この判断を誤ると、不要な設備を抱え込んで、資金繰りに苦しむことになります。無駄な設備投資をしない、あるいはアウトソーシングで変動費化しておくなど、できる限り設備を減らしてキャッシュフローを増やすことも、SCMの狙いの1つなのです。

SCMという業務上の具体的な目標

 では、ここでまとめておきましょう。SCMの目標「利益とキャッシュを生み続ける」を、業務上の具体的な目標まで掘り下げると、以下のようになります。

  • 欠品しないこと
  • 納期を守ること
  • 正確な納期解答が迅速にできること
  • そのための仕組みを作ること
  • 無駄な在庫を作らないこと
  • 無駄な設備投資をしないこと

 いかがでしょう? 財務的だったSCMの目標が、がぜん具体性を帯びてきたと思います。では、これらを実現するためにはどうすればよいのでしょうか? そこで登場するのがSCMのフレームワークです。

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