大量・多種類のデータを、いかに“価値”に還元するか?レポート ビッグデータセミナー(1/2 ページ)

@IT情報マネジメント編集部では2012年3月8日、東京・秋葉原の富士ソフト アキバプラザで、第16回 @IT情報マネジメントカンファレンス「大量・多種類のデータを、いかに“価値”に還元するか? ROI最大化、収益向上に寄与するビッグデータの真意と活用の鍵」を開催した。ここではその要点をレポートする。

» 2012年04月10日 12時00分 公開
[唐沢正和,@IT]

データから得られた知見を“結果”に結びつけるためのポイントとは

 経営環境は日々、めまぐるしく変わり続けている。そうした中、市場で勝ち残るためには、自社を取り巻く大量・多種類のデータを、確実・効率的に収益向上に還元することが不可欠となる。例えば、構造化データ、非構造化データをどのように利用すれば、売り上げの向上に還元できるのか。自社を取り巻いているクチコミを、どのように活用すればマーケティングROIを最大化できるのか。

 こうした「大量データを収益向上に生かす取り組み」として「ビッグデータ」という言葉が注目されているが、ビッグデータとは単に「大量データの分析・処理」を意味するものではない。「大量・多種類のデータを価値に還元し、収益につなげること」が、ビッグデータの真意であり、他社に先んじるためのポイントなのだ。

 @IT情報マネジメント編集部では、そうした考え方に基づいて本企画を立案。「データから引き出せる価値」とは、具体的にどのようなものなのか? 「価値を引き出すために必要なテクノロジとは何か」という2つの問題意識を主軸として、アナリストやベンダに講演いただいた。今回は、カンファレンスで紹介された知見を、より多くの企業にご活用いただけるよう、その内容を要約してお伝えしたい。

経営とITをつなぐビッグデータ〜死蔵する業務付随データから価値を導く〜

 基調講演には、野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタントの鈴木良介氏が登壇。ビッグデータとは具体的にどのようなもので、なぜこのタイミングで注目されているのか、国内外の事例を交えながら「データから価値を引き出すポイント」について講演した。

 鈴木氏はまず、ビッグデータについて「事業に役立つ知見を導出するための、『高解像』『高頻度生成』『非構造なものを含む多様』なデータ」と定義。事業に対する付加価値を生むようなデータ特性を想定すると、結果として「ビッグデータ」にならざるを得ないとの考えを示した。

野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタントの鈴木良介氏 野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタントの鈴木良介氏

 では、なぜこのタイミングで注目を集めているのか? ユビキタスやセンサーネットワークなど、今までに「データ分析の重要性」を説きながらも看板倒れに終わったブームはいくつもあった。ビッグデータは、これらと何が違うのか???鈴木氏は、その理由として3つのポイントを挙げた。

 「1つめは、この10年間の電子化・自動化の進展により、低コストで取得できる“使えるデータ”がたまってきたこと。例えば、データを生み出す源として、SuicaやFOMA、iPodがこの10年間で新たに登場してきた。2つめは、IT活用を進めなければ企業の競争力に大きな差が出る状態に入ったこと。そして3つめは、ビッグデータを『取得・生成』『蓄積』『処理・分析』するためのツールがそろってきたことだ」

 次に、ビッグデータの活用が企業にもたらす付加価値について、「製品開発や販売促進、保守・メンテナンス、コンプライアンス、業務基盤/社会インフラの運用など、さまざまな分野で効用が得られる」と解説。代表的な事例として、Amazon.comのリコメンド機能や、通信インフラのキャパシティが限られている新興国で使われている、通信需要に応じて通信料金を変動させる仕組み、“Dynamic Discount Solution(DDS)”の例などを挙げた。

 一方、ビッグデータ活用の今後について、「人材不足が最大のボトルネック。これからは、事業とITに詳しく、データリテラシに富む人材の獲得・養成が不可欠になる」と指摘。また、データの流通事業に着手する企業が少しずつ増えていることを挙げ、「今後、情報流通基盤事業が新たなビジネスとして立ち上がる可能性がある」との見通しを語った。

ビッグデータの金脈を探しあてる!〜先行事例と調査に見る先進企業の取り組み〜

 ベンダによるセッションでは、SAS Institute Japan マーケティング本部 本部長の北川裕康氏が登壇。ビッグデータに関する調査および同社ソリューションのユーザー事例から、ビッグデータを価値ある資産に変えるためのポイントを紹介した。

SAS Institute Japan マーケティング本部 本部長の北川裕康氏 SAS Institute Japan
マーケティング本部 本部長の北川裕康氏

 まず、“SASの考えるビッグデータ”として、北川氏は「正確でタイムリーな意志決定をする上で、データの量、多様性、スピードが、企業が持つストレージやコンピュータの能力を超えてしまっている状態」と定義。

 ビッグデータに関する調査結果を踏まえながら、「ビッグデータを活用するためには、分析ツールを導入するだけでなく、データ基盤を整備し、分析スキルを持つ人材をそろえることが重要」と指摘した。

 また、従来のアドバンスド・アナリティクスの次のステップにあるものとして、より成熟度の高い分析を意味する“ビッグ・アナリティクス”という言葉を紹介。企業の既存ITリソースのキャパシティを超えるほどの大量データを分析する“ビッグ・アナリティクス”により、「既存領域はもちろん、今まで手つかずだった領域についても詳細な分析ができ、企業にはより高い競争優位性がもたらされる」と解説した。

 同社では、このビッグ・アナリティクスを実現するソリューションとして「SAS High-Performance Analytics」を提供。これにより、「約10億件のデータを、グリッドおよびインメモリで高速処理することで、通常は11?12時間要する分析時間を、1分以下に短縮できる」という。

 最後に、ユーザー事例として通信業のTelstra、小売業のCATALINA MARKETINGなどのケースを紹介し、多くの企業がビッグデータ活用に乗り出し、着実に成果を挙げつつあることを訴えた。

ビッグデータ活用のために整えるべき次世代情報系アーキテクチャ

 2番目のセッションでは、EMCジャパン グリーンプラム事業本部の松下正之氏が、EMCが提唱する「ビッグデータを活用するために整えるべき、次世代情報系アーキテクチャ」を紹介した。

EMCジャパン グリーンプラム事業本部の松下正之氏 EMCジャパン
グリーンプラム事業本部の松下正之氏

 松下氏は、ビッグデータ活用に向けた次世代情報系アーキテクチャとして、(1)スケーラビリティ(2)非構造化データの処理(3)構造化データと非構造化データを統合して処理できる機能(4)高速処理(5)企業システムに求められる非機能要件の実装という5つのポイントを紹介。これらを具現化するための中核技術となるのが、「スケールアウト・アーキテクチャ」であると述べた。

 EMCでは、このスケールアウト・アーキテクチャをベースにしたソリューションとして、構造化データ処理インフラの「Greenplum Database」と、非構造化データ処理インフラの「Greenplum MR」(Hadoop Distribution)を提供しているという。

 「Greenplum Database」は、データベース最適化のニーズに対応し、「Greenplum MR」は基幹バッチ処理の高速化を実現する。「この2つのソリューションを組み合わせることで、構造化/非構造化データを含めたビッグデータ活用のための分析基盤を実現できる」という。

 さらに、松下氏は、「スケールアウト・アーキテクチャによるビッグデータ分析基盤の整備に合わせて、ビジネス部門と情報システム部門におけるデータ分析リテラシの向上施策も忘れてはならない」と提言した。

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