Oracle OpenWorldに見る“ビッグデータの潮流”レポート Oracle OpenWorld(1/2 ページ)

2012年4月4日〜6日、東京・六本木で開催された「Oracle OpenWorld Tokyo 2012」から、クラウド、ビッグデータという2つのキーワードを取り巻く社会の潮流を俯瞰した。

» 2012年04月13日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 2012年4月4〜6日、東京・六本木で日本オラクル主催のイベント「Oracle OpenWorld Tokyo 2012」が開催された。毎年1回、オラクルの製品や最新テクノロジ、導入事例が紹介されるOracle OpenWorld Tokyoも10回目となるが、今年はIT業界だけではなく一般社会にも浸透しているクラウド、ビッグデータという2つのキーワードがある。

 これに対して同社はどのようなスタンスを表明するのか??業界の中心的なプレーヤーであるオラクルの姿勢から、今のIT業界の動きと、ITと社会の今後のかかわり方を俯瞰してみた。

 今年は3つの会場で計170以上ものセッションが開催されたが、その中から特に印象深かった4つのセッションを紹介したい。

“Engineered System”は、ユーザーに主体性を促すか

 Oracle OpenWorld Tokyo 2012 2日目の冒頭を飾ったのは、米オラクル・コーポレーション CEO ラリー・エリソン氏による基調講演「Extreme Innovation」だ。この講演は、京都で同時期に開かれていたエグゼクティブ向けセミナーの会場からのライブ中継で行われた。エリソン氏の講演に先駆けて登壇した日本オラクル 専務執行役員 三澤智光氏によれば、エリソン氏は大の京都びいきで、別宅も構えているほどだという。

 エリソン氏の基調講演は、現在、オラクルが前面に打ち出しているソリューション戦略「Engineered System」の紹介を中心に行われた。同氏は、「Engineered Systemはアップルの製品戦略とも共通しているところがある」と述べる。

米オラクル・コーポレーション CEO ラリー・エリソン氏 米オラクル・コーポレーション CEO ラリー・エリソン氏

 「アップルの成功の秘けつは、ハードウェアとソフトウェア、それにサービスまで含めて、全て自社で提供している点にある。このいわば“Engineering Work Together”の考え方が、顧客に優れたユーザー体験をもたらす。オラクルが目指すEngineered Systemも、まさにこれと同じ考え方に基づいている」

 つまり、このEngineered Systemとは、ソフトウェアとハードウェアをあらかじめ最適な形にパッケージングし、アプライアンスとしてソリューションを提供することを指す。その先駆けとなったのは、2008年に初代バージョンが発表されたデータベースアプライアンス製品「Oracle Exadata」だが、その後のサン・マイクロシステムズ買収以降は、旧サンのハードウェア技術を積極的に取り入れたアプライアンス製品を次々と市場に投入している。

 エリソン氏は「Oracle Exadata」に加え、同社のミドルウェアアプライアンス製品「Oracle Exalogic Elastic Cloud」、SPARCプロセッサを搭載した汎用アプライアンス製品「SPARC SuperCluster」が、いかに処理性能に優れ、かつ高いコストパフォーマンスを持つかを強くアピール。特に、POWERプロセッサを搭載する「IBM System p」に対し、「Oracle Exadata X2-8を2台使った構成は、IBM Power 795と同等の処理性能を、5分の1の価格で実現できる」と、性能とコスト面での優位性を強調した。

 また、2012年3月に日本国内での提供が開始された、インメモリデータベース搭載のデータ分析アプライアンス「Oracle Exalytics In-Memory Machine」の紹介では、競合製品である「SAP HANA」の話題に触れ、「Oracle Exalyticsは、インメモリデータベース技術の実績、システムの拡張性、サポートするアプリケーションの種類など、あらゆる点でSAP HANAより優れている」とSAPへの対抗心を隠さなかった。

 ただ、講演終了後の質疑応答では、「アプライアンスによるソリューション提供は、結果的にベンダロックインの状態を招きはしないか」と聴講者からの鋭い質問が。だが、これに対してエリソン氏は、「それは絶対にない」と言い切った。

 「単一ベンダの技術でユーザーを囲い込み、法外なコストを要求することは、結果的にはユーザーの離反を招く。ベンダ間の競争により、自由な選択肢をユーザーに提供することが重要だ。従って、われわれの製品より高性能で安価な製品が他ベンダから提供されるのなら、そちらを選んでもらえればいい」

ビッグデータの実用環境はすでに整っている。あとはどう使うか

 一方、米オラクル・コーポレーション Server Technology Senior Principal Product Manager ジャン=ピエール・ダイクス氏は、同社が最近、矢継ぎ早に発表してきたビッグデータ関連の新製品を紹介。

米オラクル・コーポレーション Server Technology Senior Principal Product Manager ジャン=ピエール・ダイクス氏 米オラクル・コーポレーション Server Technology Senior Principal Product Manager ジャン=ピエール・ダイクス氏

 「ビッグデータ」という概念について、「ドライバーが視界に入ってくるリアルタイム情報を基に交通状況を予測し、ハンドルやブレーキ操作などを行うように、ビッグデータとは情報をストリーミングでリアルタイムに処理・分析しながら、ビジネスの将来を占うための技術だ」と説明。その上で、「多様かつ大量のデータをリアルタイムに取得し、それらを迅速に体系化した上で、詳細な分析を行える高度なITプラットフォームが必要だ」として、「取得」「体系化」「分析」という3つのフェイズにわたってソリューションを用意していることを訴えた。

 まずデータの「取得」と「体系化」のフェイズを担うのが、2011年10月に発表されたアプライアンス製品「Oracle Big Data Appliance」だ。同製品は、米Clouderaが提供するHadoopディストリビューション「Cloudera CDH」と、管理ソフトウェア「Cloudera Manager」、オープンソースの統計解析言語「R」、オラクルが提供するKey-Value Store型データベース製品、「Oracle NoSQL Database」などのビッグデータ関連ソフトウェアを、あらかじめセットアップした状態で提供する。

 また、ダイクス氏は、単体のデータベース製品としても提供している「Oracle NoSQL Database」について、「オープンソースのNoSQLプロジェクトで提供されるデータベースソフトウェアとは異なり、Oracle NoSQL Databaseは汎用の商用製品であり、オラクルが正式にサポートを提供する」と、他のNoSQL系データベース製品との安心感の差を強調。

 さらに、Oracle Big Data Applianceで処理した非構造化データを、Oracle Exadataなどのデータベースへ構造化データとしてロードするためのコネクタ製品群「Oracle Big Data Connectors」なども紹介し、「すでに大量・多種のデータを活用するためのテクノロジと製品は用意されており、ユーザー事例も増えている」としてビッグデータの積極的な活用を促した。

 IBMやEMCなど、他ベンダもHadoopベースの商用製品を提供する中、オラクルがHadoopやNoSQLデータベースのソリューションに積極的に取り組むことは、ユーザーにとっては選択肢が広がるという意味でメリットが大きい。ただ、これらの講演内容は、ユーザーに自主性を促すものとも言える。

 例えばベンダロックインを招くのは、ベンダやSIerへの丸投げ体質も大きな原因の1つだ。クラウド、ビッグデータというキーワードの下、処理速度や価格、導入のしやすさなど、各社が製品のスペック競争にしのぎを削るのはユーザーにとって喜ばしいことだが、彼らは選択肢を提示しているに過ぎないし、製品のスペックが自社のゴールに直結しているわけでもない。ユーザー側としては加熱するベンダ間の競争に引きずられることなく、目的に合わせて冷静に製品を選ぶ目が、今後は一層強く求められるのではないだろうか。

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