身の丈に合ったBCPをつくるために
2011/5/11
中小企業のBCPプロジェクトから得られたこと
筆者が代表取締役を務めるニュートン・コンサルティングでは、2010年度に東京都の「BCP策定支援事業」から業務委託を受けて、BCPコンサルティングを実施した。これは中小企業におけるBCPを考える上で、筆者にとっても非常に実りの多いものだった。
参考リンク
- 東京発 チーム事業継続(東京都ホームページ)
この事業では、まず東京都が都内の中小企業の中からBCPへの関心の高い35社を選定し、これをグループ分けして集合研修を行った。その上で、各社4回の個別訪問コンサルティングを行い、1社当たり2カ月でBCPを取りまとめた。
もちろん、2カ月という期間は非常に短い。漏れのないようなBCPを策定することは到底無理だ。しかし逆に、それぞれの企業にとっては、「特に重要性の高いリスクは何か」「それに対してどんな手が打てるのか」について、社内の関係者が集まって議論する良い機会になったと思う。
選ばれた35社の多くは、創業者一族を中核とする企業だった。経営者が企業を自らと一体のものとして考える傾向が、BCPへの自然な関心につながっているようにも見受けられた。
その時、BCPが動いた
では、この2010年度の事業に参加いただいた35社の企業は、今回の東日本大震災をどう迎えたのだろうか? 取り組んではみたものの、「現実の震災には何も機能しなかった」のではこれほど悲しいことはない。
その実際の状況だが、2011年3月11日以降、35社のほとんどの企業の方々から、「本当にBCPをやっていて良かった、感謝しています」という連絡が相次いで届いた。多くの企業が震災対応に苦慮している中、たった2カ月でBCP構築に取り組んだ中小企業の人たちが「適切な対応ができ、取引先の信頼を得られた」と口々に報告してきたのである。
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もちろんこれは「そうなればいいな」といった想像などではなく、実際の反応である。彼らは自社内の被災状況を速やかに確認し、社員の安全を確保し、ホームページ、電話、ファックスなどで取引先に迅速に情報を発信した。その結果として「特需が発生した」という企業もあった。
現在、35社の状況を取りまとめているが、震災当日、半分以上の企業では、社長が社外におり、社内での陣頭指揮を取れない状況だったことが分かった。それでも社長の代行順位を事前に決めていたため、ほとんどの企業においてスムーズに対策本部が立ち上げられていた。BCPの本質――「有事の際にどう動くべきか」を徹底して事前に議論していたから、みんなが安心して対応できたのである。
身の丈に合ったBCPとは
この東京都のプロジェクトにおいて、私が一貫して心掛けたことは、“身の丈に合った現実的なBCP”を策定することだった。
例えば、個別コンサルティングでは、「意思決定権を持つ経営層が必ず参加すること」を条件とした。また、事業継続の責任者、BCP対象事業の現場責任者にも毎回参加してもらった。この3つの役割の人々が、事業継続をテーマとした集中的な議論を行うことで、事業運営やIT運用について、「経営者がこれまで意識していなかった点」に気付いたことも多かった。このように経営層から現場層まで、みんなで話し合うことこそが事業継続対策立案の全ての出発点と言える。
一般に、ビジネスに大きな影響を与える問題事象が発生した際、「具体的にどう対応すべきか」について、時間を割いて検討したことがない企業は多い。しかし、一度現状を認識し、問題事象が発生した場合を想像してみるだけでも、備えとしてできることがいろいろと思い浮かんでくるものだ。「事業継続計画」という言葉からは、「コストの掛かる大企業にしかできないような取り組みだ」というイメージを抱きがちなものだが、「ちょっと考えれば防げたことを、できるうちにやっておく」のが、本来の「事業継続計画」の基本なのである。
例えば、あなたは財布をなくしたことはないだろうか。財布の中のクレジットカードを不正に使われないように連絡したくても連絡先が即座に分からず、困った経験はないだろうか。こうした連絡先は、2分もあればどこかに書き留めておくことができる。そのメモを財布に入れていたのでは意味がないが、いくら「自分だけは財布をなくすことはない」と自信を持っていたとしても、2分もあればやれることは、しておいたほうが良いのではないだろうか。
◇
本連載では、次回以降「初動・安否確認」「リスクコミュニケーション」「BCP代替案」「平時のリスクマネジメント」を軸として、上記のような身近な視点から、現実的なBCPを紹介していきたい。
副島 一也(そえじま かずや)ニュートン・コンサルティング代表取締役社長
1991年、日本アイ・ビー・エムに入社。東京23区の法人向けソリューション営業として8年間在籍し、アジアパシフィック社長賞を2回獲得。1998年より、英国にて災害対策や危機管理、事業継続マネジメントなどのコンサルティングを行うNEWTON ITの立ち上げに参加。取締役を経て代表取締役に就任し、金融機関を中心にBCPやDRPソリューションを提供。2005年のロンドン同時多発テロや、バンスフィールド爆発事故からのBCP発動も経験する。2006年、現在のニュートン・コンサルティングを日本で設立し、代表取締役に就任。現在に至る。日本でも多くの企業のBCMS構築支援を実施している。現在IRCA(国際審査員登録機構)JAPAN諮問委員やBSI(英国規格協会)JAPAN諮問委員、JIPDEC BCMS技術専門部会オブザーバーなどを務め、BCMS普及啓発に尽力している。
東日本大震災を機に、事業継続管理(BCM)や事業継続計画(BCP)への注目が高まっている。だが、教科書的な事業継続管理論としては大掛かりな議論ばかりが目立つ。このためにBCP/BCMに対して腰が引けている企業が多いのではないか。本連載は、こうした心理的な障壁を取り除くために“現実的なBCP”とはどういうものかを探っていく。
今回の東日本大震災を受け、「BCPは本当に機能したのか?」という議論が持ち上がっている。しかし、その議論は“BCPに取り組むそもそもの目的”を見失っている可能性がある。BCPの本来の目的は「有事に適切に事業継続できる対応能力を高めること」である。むろん一定の被災想定は行うのだが、“それでも起きた想定外の事象”に対する対応能力を高めることが重要なのだ。BCPはあくまで道具に過ぎない。それを使って対応するのは人間であり、「道具を使う人間の対応能力を上げること」がBCPの真の目的なのだ。
筆者が代表を務めるニュートン・コンサルティングでは、2010年度に東京都から業務委託を受けて、都内の中小企業35社を対象に集合研修を行った。その上で各社の個別コンサルティングを行い、1社当たり2カ月でBCPを取りまとめた。その35社は東日本大震災に対し、たった2カ月で立案した対策でも「適切な対応ができ、取引先の信頼を得られた」と報告してきた。このプロジェクトで私が一貫して心掛けたのは“身の丈にあった現実的なBCP”を策定するということだった。「事業継続計画」という言葉からは「コストの掛かる、大企業にしかできないような取り組み」というイメージを抱きがちなものだ。だが本来的には「ちょっと考えれば防げたことをできるうちにやっておく」のが「事業継続計画」の基本なのである。
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- 第2回 BCPに不可欠! 初動対応計画、3つのポイント
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