「仮想化で収益向上」は経営層から提案せよ仮想化時代のビジネスインフラ(2)(1/2 ページ)

仮想化技術を使えば、ITシステムのより効率的な導入、運用が可能になる。コスト削減はもちろん収益向上にも大きく貢献する。しかし一番大切なのは、「仮想化技術の活用」を、誰が提案し、誰が判断するか、ということだ。

» 2009年02月05日 12時00分 公開
[大木 稔 ,イージェネラ]

本当の“ITコスト”をご存じですか?

 前回『“自主性”なくして、仮想化技術は生かせない』では、CEOをはじめとする経営陣が、IT活用の議論に積極的に参加しなければいけないというお話をしましたが、今回はより具体的に、ITコストについてお話ししたいと思います。

 まず企業におけるIT予算構造について考えてみましょう。おおまかにいって、IT予算にはハードウェア、ソフトウェア、通信費、運用管理費、保守費などがあります。中でも近年はハードウェアの価格が下がり続けており、IT予算全体のうち、ハードウェアの占めるコストは年々減少し続けています。企業によってはIT予算全体の1割に満たないケースもあります。

 しかし「ITコストについて考える」というと、このハードウェアの初期コストだけに着目して「高い、安い」というだけの議論がなされることがよくあります。これはまさしく“木を見て森を見ず”の典型といえます。コストが掛かるのは購入した後なのです。

 サーバを例に考えてみましょう。サーバ自体は安く購入したとしても、まずそのセットアップにお金が掛かります。ある企業では、毎年300台のサーバを購入していますが、OSのセットアップまでベンダに依頼すると、1台当たり数十万円を請求されるそうです。300台なら、単純に掛け算をすると数千万円ということになります。

ALT 図 ハードウェアは購入後にコストがかかる。例えば、IDCが2006年に発表した「サーバ設置台数とシステム投資費用」の調査データもそれを表している。年々サーバの購入単価が安くなっているため、サーバ購入費用はほぼ横ばいでありながら、サーバ台数が増えた分、その後の運用管理費が年々上昇し続けている

 数千万円といえば、数人の正社員を雇用できます。それと同じだけのコストがサーバのセットアップだけで毎年決まって消えていくとは、直接的にITに携わっていない経営者にとっては、少し想像しにくいことでしょう。残念ですが、これが現実なのです。

コスト削減だけではなく、収益向上に寄与する

 そこで本連載のテーマである仮想化技術の活用を考えてみましょう。サーバを仮想化してイメージ運用をすれば、1台の物理サーバに複数台のサーバを統合できます。また、物理サーバのセットアップには1台につき丸1日掛かりますが、仮想サーバ1台当たりのセットアップは15分もあれば完了してしまいます。

 これを基に、物理サーバと仮想サーバ、それぞれの場合において、300台のセットアップに掛かる時間を単純計算してみると、物理サーバの場合は1日×300台=300日も掛かりますが、仮想サーバは15分×300台=4500分(75時間)、すなわち実労働で10日あまりあれば十分という計算になります。実に30分の1にまで抑えることができるのです。仮想化技術を使えば1台の物理サーバに複数台のサーバを統合できるわけですから、数千万円掛かっていたセットアップ費用も大幅に抑えられます。

 また、新しい業務アプリケーションを導入する場合も、仮想サーバならアプリケーションが動作する環境を30分ほどで整えることができます。物理サーバの場合は、動作するまでに少なくとも3日、手間取ると1週間ほど掛かります。特に、そのアプリケーションが商用サービスに使うものであれば、このスピードの差は大きな意味を持ちます。例えば、1週間、ビジネスのスタートが遅れると、いったいどれだけの機会損失になるのでしょうか?

 そう、ここで重要なのは、「大幅なコスト削減になる」こと以上に、「必要なアプリケーションを短期間で動かすことができる」ということです。仮想化技術を使うことで、新しいサーバの用意、OSのセットアップから、アプリケーションの実稼働まで、短期間で行えることで、サービスを早く開始でき、その分、売り上げと利益が得られるチャンスが拡大することになるのです。

物理サーバが増えれば、故障の可能性も増える 

 もう1点留意したいのは、年々増え続けるサーバです。物理サーバの数が増えれば、故障する確率も保守費も格段に上がります。

 サーバのトラブルによってミッションクリティカルなシステムに支障が出れば、夜間や休日でも直ちに現場に駆け付けて作業に当たり、多くの人が徹夜で作業を行うのが一般的です。「サーバを買ったベンダやSIerには、365日24時間の保守費を払っているから、どれだけ故障しようとコストは関係ない」と思ったら大間違いです。自社に情報システム部門があれば、自社の担当者もベンダやSIerとともに復旧作業に当たることになります。当然、その社員らには夜間手当て、休日手当てを支払わなければなりません。

 現業部門のことを考えると、サーバのトラブルはさらに深刻です。復旧するまでの間、業務が停滞してしまいます。つまり、社員に給料を払っていながら、業務を遂行できないのです。それどころか、取引先への納品など対外的な部分にも影響が及べば、企業としての信用にもかかわります。会社にとって、これは間違いなくロスです。

 ましてや、サーバのトラブルや夜間の復旧作業などが続けば、コスト面での損失に加えて、社員のモチベーションやモラルまでもガタガタになりかねません。その点、仮想化技術を使って物理サーバの台数を減らし、ハードウェアをシンプルな構成とすれば、トラブルが起こる確率を下げることができるのです。

 以前、弊社がコンサルティングを請け負ったある企業の方から、「仮想化を導入して、やっと枕を高くして眠れるようになった」といわれたことがあります。ということは、仮想化を導入していないため、上記のようなことが心配で、いまだに安心して眠れない方が世の中にはたくさん存在しているということです。経営者や経営層の人たちは、このような“実態”をきちんと理解しておく必要があるのではないでしょうか。

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