「仮想化で収益向上」は経営層から提案せよ仮想化時代のビジネスインフラ(2)(2/2 ページ)

» 2009年02月05日 12時00分 公開
[大木 稔 ,イージェネラ]
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“二重化”も、シンプルな運用が秘訣

 システムの運用において、不必要なコストを掛けている例はたくさんあります。例えば、万一システムがダウンしても、すぐに切り替えられるよう、もう1つ同じシステムを用意しておく“二重化”です。二重化に問題があるのではなく、その管理に想像できないほどのコストを掛けている例が多い、ということが問題なのです。

 中には、二重化していたにもかかわらず、トラブルがあった際に切り替わらず、サービスが停止してしまったという話もよく聞きます。2008年の暮れに、輸送機関の予約システムや運行管理システムのトラブルで大混乱になったニュースは記憶に新しいところです。

 では、なぜ止まってはいけないシステムが止まってしまうのでしょう? また、なぜすぐに復旧できないのでしょうか?

 これは仮想化の話とは直接的には関係ありません。しかし、二重化したシステムがいざというときに機能しない場合、システムが複雑化していることによって、問題の切り分けもとても難しくなっています。また、その運用には多くの人がかかわり、相当なコストが掛かっているケースも多いものです。

 ただ、二重化していたとしても、その運用に本当にそれほど多くの人員が必要なのでしょうか? ある企業ではミッションクリティカル・システムを支える400台のサーバを2人で管理しています。400台のうち、200台は物理サーバ、200台は仮想サーバですが、それらを一元的に管理できるダッシュボードを利用して、システムのトラブル対応や、アプリケーションのバージョン管理、パッチ作業などを2人で行っているのです。

 また、仮想化技術を使えば、物理サーバの空いているリソースを割り当てることで、迅速に仮想サーバを用意することができます。現業部門のユーザーからシステム上の要請があって、「新しいサーバが必要」と判断すれば、物理サーバのようにまずハードウェアを確保することから始めることなく、ほんの30分でユーザーが使える状態を整えることができるのです。

 そうしたことを考えると、先の「二重化しているのにシステムが止まってしまう、復旧にも時間がかかってしまう」といったケースについても、仮想化技術を活用すれば、もっとシンプルで効率良く運用できる可能性があるのではないかと思うのです。

 運用にお金を掛け過ぎていないか、皆さんももう一度、自社のITコスト構造を見直してみてはいかがでしょうか。

経営層も“仮想化”という回答を用意しておくべき

 ただし、自社システムの運用体制を見直したうえで「改善しよう」と結論を出したら、思い切った「構造改革」をお勧めします。

 システムはビジネスを支えるものである以上、その運用管理体制の“改革”は、情報システム部門だけではなく、各現業部門にも影響を及ぼします。これはCEOも参加した“トップダウン”でないと実現できません。情報システム部門だけに丸投げせずに、経営陣も議論に参加することが改革を成功させる鍵です。

 ただ「運用管理」という言葉は、「新規開発」などに比べてネガティブなニュアンスでとらえられているケースが多いものです。例えば「システムの運用管理」と聞いて、経営層や管理層の人が想起するのは次のようなことではないでしょうか。

 「ユーザーからのアクセスがサーバに集中している」というなら、なぜ何もできずに手をこまねいているのか? 「システムの対応能力を増強すべき」というなら、なぜいますぐ増強できないのか? よいアイデアが浮かんだときに、なぜすぐシステムに反映できないのか?

 何の問題も、何の要求もなく、ただ稼働している間は、どんなシステム構成でも同じようなものです。しかし、現在はこれだけ変化の多い時代であり、システムも市場環境変化に合わせて変えていく必要があります。システム構成を複雑にすればするほど、いざというときに何もできなくなってしまいます。仮想化を使ってシンプルな IT 環境を実現することのメリットは一目瞭然です。

 こうした時代において、経営層や管理層は上記のような“疑問”を感じたとき、システムのことを情報システム部門に任せきりにして、自分の疑問をただ現場の社員にぶつけるだけではいけないと思います。市場環境変化に応じて機敏に対応できるよう、システムをシンプルに、効率良く運用・管理する手段として、自ら「仮想化」という答えを準備しておく必要があると思うのです。

 そして、情報システム部門のスタッフに対して仮想化の話を切り出したとき、もし「無理です」といわれたら、なぜ無理なのかをきちんと議論すべきです。すでに上記の“疑問”を解決できる仮想化技術は世の中で使われています。「知らない」ということは職務怠慢といわざるを得ません。

 現在の技術を把握しておくのは情報システム部門の仕事です。ただ、技術の概要を理解し、自社の事業にはどんな技術が最も適しているのかを理解するのは経営層の仕事です。そして、実行するかしないかも、最終的には経営層が判断しなければなりません。

 情報システム部門に対して経営層がいうべきことは「Just do it!」です。そして、経営層の決断に対して情報システム部門がいうべきことは「Yes, we can!」であるべきなのです。

著者紹介

▼著者名 大木 稔(おおき みのる)

イージェネラ 代表取締役社長。日本ディジタルイクイップメント(現 日本ヒューレット・パッカード)でNTTをはじめとする通信業向けの大規模システム販売に従事した後、オクテルコミュニケーションズ、テレメディアネットワークスインターナショナルジャパンで代表取締役を歴任。その後、日本NCRで事業部長、日本BEAシステムズで営業本部長を務めた後、2006年1月から現職に着任した。現在は「インフラレベルでの仮想化技術が、企業にどのような価値を生み出すか」という観点から、仮想化技術の普及・啓蒙に当たっている。


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