仮想化が拓くディザスタリカバリの可能性仮想化時代のビジネスインフラ(3)(1/2 ページ)

ITシステムが被災した場合に備えて、即座に復旧できる体制を整えておくディザスタリカバリ。復旧期間を短くしようとすると等比級的なコスト上昇がみられる取り組みだが、仮想化技術はその合理的な実現にも大きく貢献する。

» 2009年03月09日 12時00分 公開
[大木 稔 ,イージェネラ]

万一の際の“備え”は“無駄”でもある!?

 ディザスタリカバリ(以下、DR)や事業継続計画がITシステムに必要不可欠だと、特に強くいわれるようになったのは、2001年9月11日にニューヨークで起こった世界同時多発テロからです。

 ただ、DRという考え方自体は20年以上前から存在しており、「地震や自然災害によるダメージから、ITシステムをいかに迅速に復旧させるか」 をテーマとしてきました。

 以前は「データやシステムのバックアップを定期的に行い、数日〜1週間以内にITシステムを復旧させる仕組みと体制を準備する」といった形を基本とし、実際のDR作業も「地震・自然災害によりコンピュータ施設がダメージを受けたときに、1週間以内に同じ構成のシステムを設置し、稼働させる」という、あくまで保険的なサービスに過ぎませんでした。

 現在のビジネス環境ではこれでは遅すぎます。瞬時に、でないとしても、数時間以内にはシステムと業務を復旧させる必要があります。事実、ここ数年で、リアルタイムやリアルタイムに近い速さでシステムを復旧できる、DRサイトやDRサービスが多くの企業で導入されつつあります。

 リアルタイム性の高いDRを実現する手段にはさまざまなものがあります。例えば、あるストレージを別のストレージと同期させておき、障害発生時に短時間で被災時のデータまでさかのぼれるようにするレプリケーション、2台以上のハードディスクに同時に同じデータを書き込んでいくミラーリングなどです。

 これらDRソリューションの問題点は高コストということです。上述の説明を見てお分かりように、リアルタイムDRのポイントは、いざというときに備えて予備のシステムを用意することにあります。これは見方を変えれば、「災害に備えて、普段は何もせずに待機しているシステムを存在させておく」ということなのです。システムを二重に持つわけですから高くつくのは当然です。

 災害対策として、こうした体制となるのはある程度は仕方のないことかもしれません。しかし、ここで完全に思考停止してしまうのは決して正解ではありません。例えば、あなたの会社で100台の基幹システムを運用しているとしましょう。そうした中、「DRのために、もう100台のシステムが必要になります」と聞いたら、経営にかかわる立場のあなたとしてはどう思いますか? 「仕方がない」で済ませるのでしょうか?

仮想化技術で合理的にDRを実現する

 いくら災害対策とはいえ、さすがに看過できないと思います。そこで考えてほしいのが仮想化技術です。仮想化技術を使えば、より合理的にDRを行える可能性が出てきます。

 例えば、予備システムを100台用意したとします。仮想化技術を使うことで、平常時にはこれらを別の用途で使用することができます。そしていざというときには、予備システムに本番システムの機能を移し、即座に復旧できる体制を用意することができるのです。

 より具体的にいえばこういうことです。一般に、本番システムの代替機能を果たすDRサイトを用意する場合、本番システムとまったく同じ構成のシステムを、違う場所に用意します。MACアドレスやWWN(World Wide Name:ファイバチャネルネットワークにおける機器の識別子)など、細かい設定情報まで含めて、すべて本番システムと同じようにセットしておくのです。このため、予備システムを別の用途に使うことは原則できません。

 その点、現在、世の中にある仮想化技術を使用すると、本番システムと同じ設定情報をソフトウェアで管理・保管することができるのです。つまり、いざというとき、それまで別目的で使用していた予備システムの環境を即座にシャットダウンし、本番システムの設定情報を管理・記録したソフトウェアを予備システムのハードウェアで立ち上げるのです。このシャットダウンと立ち上げは5分程度あれば可能です。すなわち5分以内で本番システムの復旧を実現する、というわけです

 いかがでしょう。仮想化技術の活用で、普段は別目的で使用しているハードウェアを万一のときだけ、特定の──素早い復旧が求められるシステムに割り当てることができるのです。

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