仮想化を生かすコツは、いったん仮想化を忘れること特集:仮想化構築・運用のポイントを探る(2)(1/2 ページ)

“サーバ仮想化”はもはや当たり前の取り組みとなったが、それ以上に仮想化を活用できているケースは極めて少ない。前回はその理由として、「システム構築のグランドデザインがなく、サーバ仮想化以上の展開が見いだせていないためなのではないか」という見解を紹介した。今回は、その分析を受けて「どうすれば“サーバ仮想化”から先に進めるのか?」、より現実的な観点から仮想化活用のポイントを探った。

» 2010年07月12日 12時00分 公開
[内野宏信,@IT情報マネジメント編集部]

どうすれば“サーバ仮想化”から先に進めるのか?

 “サーバ仮想化によるコスト削減”が当たり前の取り組みとなった一方で、物理/仮想環境が混在してシステムインフラが複雑化し、「エンジニアの知識・スキル不足」「パフォーマンスの低下」など、運用管理に悩む企業が増えている??前回はそんな現況を基に、「システムの可視化」と「構成・変更管理」、さらにそれらの基盤となる「システム/運用プロセスの標準化」が仮想化技術を活用するポイントとなることを紹介した。

 また、「システム/運用プロセスの標準化」を行うためには、標準化の判断基準となる「システムの全社的なグランドデザイン」が求められる。しかし、部門ごとにシステムがサイロ化しているケースが一般的な中、全社的なグランドデザインを用意している例は非常に少ない。

 現在、“サーバ仮想化によるコスト削減”から先に進むことができていない企業が多いのも、このグランドデザインがなく、先の展開を見いだせていないことが真因なのではないか??前回は、そんな見解も併せて紹介した。

 そこで今回は、以上の分析を基に、「どうすれば“サーバ仮想化”から先に進めるのか、仮想化技術をより有効に活用できるのか」について、ガートナー ジャパンのアナリスト 亦賀忠明氏に、より現実的な観点から話を聞いた。すると氏は「グランドデザインの必要性」に同意を示しながらも、「いま1番大切なのは“チャレンジ”する姿勢とプロ意識だ」と、“姿勢”の問題から話を切り出した。

活用上の課題があっても、新技術に進んで取り組んだ企業が勝つ

 「x86サーバのマルチコア化や、仮想化ソフトウェア市場の成熟によって、仮想化技術は一層使いやすいものとなった。しかし、多くの企業が試行導入を果たしながらも、“サーバ仮想化”以上の展開に踏み出せていない。だが、だからといって『仮想化の活用が進んでいない』と考えるのは早計だ。金融など一部の企業では、『仮想化はミッションクリティカルに使えるのか』といった疑問を抱きながらも、ビジネスにおける有用性を認め、本格展開を狙って積極的に試行錯誤を続けている。そうした企業もあることを認識してほしい」

 亦賀氏はこう述べたうえで、@IT情報マネジメントの読者アンケートで挙げられた課題、「エンジニアの知識・スキル不足」「パフォーマンス低下」などを指し、「これらは仮想化に限らず、新技術が登場するたびに挙げられてきた課題。これからも、新技術が登場する限り挙げられることになるだろう。つまり、新しいテクノロジが出てくれば、スキルやパフォーマンスなどの課題が浮上するのは“当たり前”。そこで立ち止まらず、解決方法を見いだすべく、前に進み続けることが大切だ」と力説する。

ALT ガートナー ジャパン リサーチ ITインフラストラクチャ バイスプレジデント兼最上級アナリスト 亦賀忠明氏

 例えば、「エンジニアのスキル不足」を感じるなら、スキルを持った社外エンジニアを探す、社内エンジニアの教育にコストをかける、「パフォーマンス低下」という問題があるなら、適切にチューニングできるようベンダから情報収集する、ノウハウを学ぶ??こうした具体的な行動に出ているか、自問してみてほしいという。

 「まずは“課題”という認識を変えておきたい。仮想化技術を使いこなすうえでの問題は、ビジネスのスピードアップ、永続的なコストカットなど、自社のビジネス目標を達成するための“チャレンジ”と認識し、足を止めないことが大切だ。また、情報システム部門の人間は『必ず使いこなす』というプロ意識を高めるべき。これまでもSOAなどの新技術が登場してきたが、活用するうえで数々の課題を抱えながらも、早くから取り組んだ企業ほどノウハウを蓄積し、実際に競争力向上を果たしてきた。仮想化技術も同じ展開になるはずだ」

EAのアプローチで、仮想化の採用を考える

 ただ、亦賀氏は“仮想化に取り組むスタンス”については、以上のように檄を飛ばしながらも、「“チャレンジ”には合理性が不可欠」として、慎重な取り組みの重要性を訴える。

 氏も、仮想化技術を本格活用するうえでは「ビジネスとシステムのビジョンを描いておくことが重要」と話すが、「現状(as is)から理想(to be)に至るまでの“一連の流れ”として、ビジョンを描くことが大切だ」と解説する。

 具体的には、まずビジネス/システムの現状(as is)と、あるべき理想像(to be)を明確化する。そのうえで、現状から理想に至るまでに「ビジネスにはどの時点で、どんな要件が必要なのか」「それを実現するシステムには、どの時点で、どんな要件、どんなテクノロジが必要なのか」を明確化し、理想像(to be)まで段階的に発展させていくためのロードマップを描く。それを新技術の導入や、運用プロセスの標準化を行う際の「基準」とする。「仮想化技術も、この枠組みの中で導入・活用を考えれば本格展開に移行しやすいはずだ」という。

ALT 図1 “理想”に向けてシステムのグランドデザインを描く際の考え方。ビジネス/システムの「現状(as is)」「あるべき理想像(to be)」を明確化し、現状から理想に至るまでに、ビジネスとシステムに何が必要なのか、先を予見しながらロードマップを描く≫

 このロードマップを描き、実践する際のポイントは3つある。1つ目は、仮想化をはじめとする最新の技術動向に常に注目し、“先”を予見すること。「技術は早いスピードで進化する。そうした中、それまで古い技術を使っていた企業が、ある時点でいきなり数段進歩した新技術に“大ジャンプ”して使いこなすのは難しい。よって、常に先を見据えて、どんな技術が出てくるのかを把握したうえで、適切なタイミングで段階的に取り入れられるよう計画する。そのうえで、然るべきタイミングになったら、実際に導入・活用しつつ、さらに次の展開を図るための準備を整える」

 2つ目は、ビジネスの現状分析とシステムの棚卸し、それに基づく「システム/運用プロセスの標準化」にこだわりすぎないこと。これは、技術が進化するスピードが速いため、システムの棚卸しをして必要なものを見極め、運用プロセスを確立する以前に、次の新技術が登場してしまうことも少なくないためだ。「システムの棚卸しと、それに伴うシステムの選定、プロセスの標準化は欠かせない作業だ。だが、“現在の運用体制”の確立にこだわり過ぎると、市場の動きやテクノロジに置いていかれる??すなわち企業競争力を低下させる恐れがある」

 よって、現在の運用体制の分析・確立は、(その見極めにはプロとしての知見が求められるが)“ほどほど”のレベルにとどめ、次はどんなシステムと運用プロセスが求められるのか、定期的にテクノロジの進行状況を見極めておく。亦賀氏は「ビジネスの要件に沿って、現在のアーキテクチャ(as is)と目指すべきアーキテクチャ(To Be)を作成し、両者の差から組織をあるべき姿へ近付けていく“変革のプランニング”??すなわち、EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)のアプローチを思い出すことが大切だ」と解説する。

 そして3つ目は、以上のような変革プランのロードマップを描く際には、仮想化技術をいったん忘れること。亦賀氏はこのポイントを最も強調する。

 「目的はあくまで自社のビジネスを発展させ、目標を達成することにある。その実現手段は仮想化に限らない。よって、いったんゼロベースでテクノロジを見渡し、そのうえでビジネスの要件に合わせて、いま使うべきもの、この先使うべきものをロードマップにはめ込んでいく。こうしたスタンスでないと、適切に技術を活用できないどころか、技術に振り回され、肝心の目的を見失うことになりかねない」

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