“仮想化”を成功させるには体感し、習熟せよ特集:実用フェイズに入った仮想化(1)(1/2 ページ)

懐疑から実用に動き出した仮想化――。現在、仮想化はどのように使われているのだろうか? 事情に詳しい日本仮想化技術 代表取締役社長兼CEO 宮原徹氏に話を聞いた。

» 2009年09月01日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

「仮想化に問題はない」は悪魔の証明

――仮想化の普及について現況はどのように感じられますか?

宮原氏 コンサルティング現場の実感としては、無償で利用できる仮想化製品が増えてきているので、インフラ系のエンジニアの間では“動かしてみた”というのは、ごく当たり前になっていると感じます。具体的には「VMWare Server」や「VMware ESXi」、あとは「Citrix XenServer」もだいぶ増えていると思います。次の興味対象としてはLinuxの「KVM」、それからマイクロソフトの「Hyper-V 2.0」あたりでしょうか。

――実用導入はどうでしょう?

宮原氏 全体的には慎重だと思います。開発環境は別にして、業務システムの基盤として本格導入するようなプロジェクトだと年度予算で動きますから、本年度については情報調査でそろそろ選考評価に進もうかぐらいの段階ではないでしょうか。

 触ったことがない方は「何か問題が起きるのでは」「性能が出ないので」といった心配がいまだにあるようですが、技術的にはもう問題ありません。アプリケーションが止まった、ストレージが遅いというケースはありますが、それは仮想化だからではないですね。仮想化ならではの問題というのはありません。

 ところが、問題が起きていないことを証明するのはとても難しいのです。そのために導入推進する方は、いろいろ評価したり、資料を作ったりしなくてはいけなくて、ちょっとかわいそうですね。このあたりは実績で見せていくしかないので、そういった意味でも「触った経験がない」という状況をなくさなければいけませんね。

「コスト削減」を目的化するのは危険

ALT 日本仮想化技術 代表取締役社長 兼 CEO 宮原徹氏

――仮想化を導入されている企業の目的はどのようなものでしょうか?

宮原氏 システムを運用する現場と経営に近い方々の間にギャップがあるように感じます。

 現場の方からすると、マシン台数が多過ぎるのでこれを整理したいという思いが強いようです。古いサーバは息も絶え絶えなのに止められない、いつ壊れるか分からない??そういうものを仮想化したら非常に楽になるというように、システムを確実に動かし続けるための技術という視点ですね。

 一方で経営に近い立場の方からすると、仮想化によって運用コストを下げたいという思いが強い。ですから、稟議(りんぎ)を通すために「コスト削減」といわざるを得ない。これは否応なしですね。

 ただし、昨今のコスト削減ありきの風潮にはちょっと危うさを感じます。評価指標にコストを使って見積もりの判定を行うと、大事なものが抜け落ちたり、不満だらけのシステムが出来てしまったりしかねません。インフラとして3年、5年と使うものですから、きちんと機能要件を検討してその中であきらめるものを明示的に決めていくというやり方をしないと、結局はすべての機能要件を満たさないものになってしまうと思います。

 仮想化の本来的なメリットは、ハードウェアのくびきから逃れられるというところにあるはずなので「よりよいものをより安く」という観点で見ていった方がいいでしょう。せっぱつまったものを移行させるとか、ちょっと余剰が出た部分を新規の開発サーバとして使うというような使い方でも、電気代の削減やスペースの節約、ハードウェアの導入コストが下がるといったコスト削減は可能です。コスト削減は“結果としての効果”と考えた方がいいでしょう。

 導入に対するアプローチも大きく二分されるように思います。仮想化すると同時にインフラを新しいものに切り替えて大幅にサーバ数を削減するという抜本変革型と、少しずつ仮想化を進めて余ったサーバをほかに流用するという節約型でしょうか。ただし、使い廻すよりも安いハードウェアを買った方が得な場合もあるので、コスト削減を考えるならシビアに計算を行うべきでしょう。コスト削減であれ、ほかの目的であれ、明確かつ適正な評価基準を持つべきです。

 より大きな視点としては、投資のポートフォリオを見直すというのは間違いなくあると思います。インフラやハードウェアについて個別投資はやめた方がいいでしょうね。全社投資という観点は必要だと思います。

目的の明確化を!

――仮想化導入を成功させるポイントは何でしょうか?

宮原氏 最近しきりにいっているのは「目的の明確化」、最終的にITをビジネスにどれだけ貢献させることができるか、です。目的の第1はスピードですね。

 何らかのシステムを作るというときに、従来のように企画して稟議を通して、見積もりを取って、購買依頼を掛けて、サーバ納品が1カ月後です――ではもうやっていられない。つまりITが重荷になってしまっていて、ビジネスのスピードについていけていないわけです。仮想化やクラウドSaaSBPOといったキーワードに対する興味というのは、そこから出てくるのではないかと思います。

 パブリッククラウドを業務システムに適用するというのは、まだ材料がそろっていない感じです。先進的なユーザー企業は、将来的にはPaaSHaaSの利用を見据えながら、現状は自社運用――オンプレミスやプライベートクラウドを指向しているという段階だと思います。

 仮想化やクラウド化では手放しに導入するのではなく、ビジネスプロセスを見直すというスタンスが必要でしょう。ビジネスプロセスを改めて見直して、ITがどれくらい貢献しているのかを考えていく。貢献できていない理由として、システムが使われているけれどコストが掛かりすぎているとか、逆に作らなければいけないシステムなのにコスト高で実現できていないとか、そういった部分を仮想化で解決できるかもしれない。そうした視点で考えていくことが必要だろうと思います。ある意味で当たり前の話ですね。

 仮想化のもう1つの目的に、高可用性があります。キーワードとしては高可用性があって、その次はバックアップ/リカバリ、そしてディザスタ・リカバリですね。

 高可用性がテーマとなっているときは、対象は間違いなく重要なシステムですから、そのシステムがリプレイスというタイミングで弱点だった部分を修正したいというニーズですね。ここは間違いなくあまりやられていなかった部分です。

 この部分に関しては従来のパラダイムを抜け切れていない設計になってしまう場合があるので注意が必要です。先日もあるセミナーで聞いたのですが、仮想化システムに予備機を入れていました。仮想化は部分が相互補完して全体の可用性を高めるもので、遊んでいるリソースをなくすための技術なのですが。意思決定権ある方ほどパラダイムが切り替わっていないので、注意したいですね。

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