IT資産管理のいまと未来勉強会リポート:ライフサイクル管理でコスト削減(2)(2/2 ページ)

» 2010年07月27日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]
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IT資産管理の「いま」と「これから」

 勉強会の最後には、片貝氏と武内氏、それに基調講演のスピーカーを務めた株式会社クロスビート 取締役 チーフソリューションプランナー 篠田仁太郎氏を交えて、パネルディスカッションが行われた。なお、モデレータは@IT情報マネジメント編集部の大津心が務めた。

ALT パネルディスカッションの様子。左から、片貝氏、篠田氏、武内氏≫

○IT資産管理の現状は?

 まずは、国内におけるIT資産管理の現状について、各パネリストが見解を述べた。

 武内氏は、ツールベンダとしてさまざまな企業のニーズをヒアリングしてきた経験から、以下のように述べる。

 「多くの企業が既に何らかの資産管理ツールを導入しているが、それによってコスト削減や業務効率化、SAM、ライセンス管理などを実現できているかというと、ほとんどできていないのが実情だ。これは今まで、世の中の動向やトレンドを追いかけながら、その都度、ポイントソリューションをバラバラに導入してきた結果だと思う。例えば、『TCOを削減しなければ!』といってインベントリツールを導入し、次に『今度はセキュリティ強化だ!』といってセキュリティ製品を入れ、その次には『コンプライアンスを何とかしなければ!』といってログ管理製品を……。といった具合だ。このように個別最適で導入してきたシステムは互いに連携できていないので、運用に手間が掛かり、苦労している企業が多い。それらをもう1回見直して、どうやって全体最適を図っていくか、どうすれば効率的に管理できるようになるのか、というふうに考え直しているユーザーがほとんどだと思う」

 また、片貝氏はサービス事業者としての立場から、次のように述べる。

 「われわれはIT資産管理をSaaSとして提供しているが、SaaSのメリットはコスト削減だけではない。むしろ、自社でIT基盤を構築したり、保守契約を管理したり、運用のための要員を抱えなくて済むので、結果として『本来の業務に集中できる』という点にメリットを見いだすユーザーが多い。しかし、コストの問題も決して無視できない。実際のところ、資産管理の必要性は認識しながらも、コストが掛かるからなかなかできない、というジレンマに陥っているユーザーは多い」

○なぜIT資産管理は失敗するのか?

 次に、IT資産管理の導入に失敗する例が後を絶たないのはなぜか、という点について各パネリストが見解を述べた。篠田氏は、IT資産管理やSAMの最大のハードルは、導入時の「現状把握」にあると説明する。

 「SAMを新たに導入する企業では、現状をまったく把握できていないゼロ状態からスタートしなくてはいけない。しかも、そもそも何を把握すれば良いのかも分からない。そういう状態から始めなくてはいけないので、大変になってしまう」(篠田氏)

 では、効率的に現状把握を行うためには、どのような指針で作業を行えばいいのだろうか?

 「まずは、『なぜSAMに取り組むのか?』という目的意識をしっかり持つことが大事だ。基調講演でも述べた通り、何のために管理しなくてはいけないのかというと、『管理しなければいけないから』であって、何か具体的なメリットのために管理しようとしてしまうと、手段を間違いやすくなる。管理とはどのようなものも同じで、直接的なメリットを生むのではなく、まずそれをやらないことによる、デメリットをゼロに近づけるプロセスだ。管理のメリットといわれるものは、そうすることで副次的に出てくるものだと考えておいた方が良い。そこをしっかり踏まえたうえで、その次に『どのようなレベルで管理するのか?』『どういう体制で管理するのか?』『どの範囲までを管理するのか?』といったことを検討していくのが望ましい方法と思う」(篠田氏)

 一方で、IT資産管理を導入する際に、ツールに依存し過ぎることが導入失敗の一因だと指摘する声も多い。この点について、同氏は次のように説明する。

 「ツールに頼ってしまう理由は簡単で、ユーザーが『このツールを入れたら一気に管理できるようになるのでは……』という“夢”を見てしまうからだ。自分たちで現状を調査するのはとても大変だ、ということはユーザーも分かっている。分かっているからこそ、それを簡単に済ませようとする。そこでツールを導入するのだが、単に情報の収集をさせるだけで、後は何もせずに放っておいてしまう。そして、ツールの契約更新のタイミングになって、『このツールではうまくできなかったけど、もう1回別のツールを入れてみよう。今度はうまくいくかもしれない』となる。このような、『今度こそは』『今度こそは』の繰り返しが、これまでの実情だったのではないか。しかし、ツールはあくまでもその名の通り『道具』であって、それをどうやって使うかが一番大事。それを考えずに、その道具が自分たちのニーズに合うかどうかも分からずに、まず道具だけを入れてしまう。それがうまくいかない1番の理由だと思う」(篠田氏)

 では逆に、ツールを提供するベンダ側の姿勢に問題はないのだろうか? 篠田氏は、コンサルタントの立場から以下のように見解を述べる。

 「ツールベンダやツールの販売会社は、『とにかくこれを入れればできますよ!』と言う。しばしばクライアントから、ツールベンダとのミーティングに同席してくれるよう頼まれるが、その席上で『こういう場合どうするんですか?』『ああいう場合はどうすればいいんですか?』とベンダ側に質問すると、『いや、そこまでやる必要はありませんよ』という答が返ってくる。しかし、SAMの最終的なリスクを負うのはクライアントなのに、『やる必要はない』とベンダが断言すること自体がそもそもおかしい。本当は販売しているベンダ自身も詳細が分かっていないにもかかわらず、そのことに自分たちも気付かないままに、クライアントにツールを勧めてしまっているケースが多いからだと思う」(篠田氏)

 一方、武内氏はツールベンダとしての立場から、ソフトウェアメーカーの姿勢も踏まえたうえで次のように述べる。

 「今日あるソフトウェアのライセンスにはさまざまな体系があり、ユーザーがそれらをすべてきちんと管理するのは本当に大変な作業だ。しかし、ISO 19770-2にあるように、ソフトウェアメーカーとツールベンダが製品とライセンスをISO規格に準拠させるようになれば、ユーザーの管理性は上がるはずだ。ソフトウェアメーカーも現在、製品ライセンスをISO規格に沿ったものにしようと計画しているが、実現するまでにはまだ時間がかかる。その間は、やはり何らかの方法でユーザー側がライセンスを管理しなくてはいけない。従って、われわれツールベンダも気を引き締めて、ユーザーがより楽になれる方法を真剣に考えていかなくてはいけない」

○現状把握を行ううえでのポイントは?

 では、実際に企業が自社で抱えるIT資産の現状を一から把握しようとした場合、どのようなことに留意すればいいのだろうか? 篠田氏によれば、現場担当者の意識を高めることが重要だという。

 「絶対に失敗するのは、『今度こういうふうに管理を進めるので、ついてはこういう形でこの期間内でやりますので、皆さん協力してください』と、メールや掲示板だけで出すパターン。こういうやり方は、まずうまくいかない。逆にうまくいくパターンは、必ず各部門の管理者を1度召集して、『こういうことなので、協力してください』と、直接きちんと話をするやり方。『なぜやらなければいけないのか』ということを、直接訴えかけて、現場に当事者意識を持たせることが重要だ。特に、当初はなるべくリアルの場を設けて説明をする方が良い」(篠田氏)

 一方、IT資産管理を導入・構築するにはそれ相応のコストが掛かるため、現場だけでなく経営層も説得する必要がある。そのためには、ROIなどを含めた説得材料を用意する必要もあるかもしれない。実際に自社内でIT資産管理システムを構築した兼松エレクトロニクスのケースでは、この辺りの事情はどうだったのだろうか?

 「わたしが直接経営陣を説得したわけではないので、詳しい経緯は分からないが、今回われわれがIT資産管理を導入した背景には、SaaSのビジネスを始めるに当たって、まずは社内導入して効果を測定してみようという意図があった。ただしそうはいっても、導入にはハードウェアとソフトウェアの購入費、構築に要する人件費と、少なからぬコストが掛かる。従って、それなりの根拠を経営層に示す必要があったが、われわれのケースで言えば、例えば『夜中までかかって複数の台帳を管理するために行っていた作業の量が半減するので、人件費を大幅に削減できる』といった材料を示すだけでも、導入の価値を経営層に理解してもらえた。それに加えて、サービスを社外に提供して売り上げも立つのであれば、経営陣としても『ならば、やっても良いのではないか』という判断に至ったのだと思う」(片貝氏)

○IT資産管理の今後の展望

 兼松エレクトロニクスの事例のように、今後はサービスとしてIT資産管理を提供する形態が増えてくることが予想される。「SaaS」「クラウドコンピューティング」といったIT業界のトレンドも、そうした傾向を後押ししている。今後、IT資産管理やSAMはどのような方向に進んでいくのだろうか? 篠田氏は次のように予想する。

 「SaaS型のサービスは今後も増えてくると思う。また、今後間違いなく出てくると予想されるのが、インベントリツールの機能にワークフローを付加したものだ。また、SAM自体についていえば、何らかの認証機関を設けて、SAMの達成度合いを審査して認証を付与する制度を検討する動きも始まっている。さらに、これが単にユーザー側の認証だけではなく、サービスを提供する側の能力も客観視できる認証も含むようになっていけば、より“正しいSAM”が普及していくことになると思う」(篠田氏)

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