先進企業に学ぶ、スマートデバイス導入効果と管理術レポート スマートデバイス導入セミナー(1/2 ページ)

@IT情報マネジメント編集部では2011年11月8日、東京・秋葉原の富士ソフト アキバプラザで「第13回 @IT情報マネジメントカンファレンス 先進企業に学ぶ、スマートデバイス導入効果と管理術 〜うまく使えば業務効率アップ、不用意に使えばリスク倍増〜」を開催した。ここではその要点をレポートする。

» 2011年12月08日 12時00分 公開
[唐沢正和(取材/文), @IT情報マネジメント編集部(構成) ,@IT]

 近年、iPhoneやiPadをはじめとするスマートデバイスの企業導入が加速している。だが業務の機動性向上、ワークスタイルの変革といった利便性が注目される一方で、セキュリティ面の不安など、安全かつ安定的に運用するための情報はまだ十分に浸透しているとは言えない。

カンファレンス当日は会場が満席に。スマートデバイスの導入・活用に対する高い意識がうかがえた カンファレンス当日は会場が満席に。スマートデバイスの導入・活用に対する高い意識がうかがえた

 そこで@IT情報マネジメント編集部では本企画を立案。カンファレンス当日は、ウルシステムズ テクノロジーセンター センター長の芝田潤氏、ソフトバンクBB 取締役常務執行役員の溝口泰雄氏、そしてソリューションを提供しているベンダ3社の講演を通じて、企業におけるスマートデバイス導入・運用のポイントを“攻め”と“守り”、両方の視点から詳しく掘り下げた。

 当日、会場は満席になり、ほとんどの聴講者が最後まで受講。今回は、カンファレンスで紹介された数多くの知見を、より多くの企業にご活用いただけるよう、その内容を要約してお伝えしたい。

見えてきた企業でのスマートデバイス活用の本質

 まず基調講演に登壇したのは、ウルシステムズ テクノロジーセンター センター長の芝田潤氏だ。氏は企業内にスマートデバイスを導入する際の具体的な進め方、検討すべきポイントについて講演を行った。

 中でも興味深かったのは代表的な導入失敗パターンだ。氏によると、「漠然とした目的で導入したものの、活用し切れず普及しなかったケース」「アプリ開発や導入の方法が分からないケース」「スマートデバイス用のアプリ開発をベンダに発注したが、満足できるアプリが作れず実用化できないケース」の3つが挙げられるという。

ウルシステムズテクノロジーセンター センター長芝田潤氏 ウルシステムズテクノロジーセンター センター長芝田潤氏

 これを受けて、スマートデバイスの導入を成功させるシナリオを紹介。具体的には、「実際に現場層にスマートデバイスを使ってもらい、現場から活用法を収集するシナリオ」と、「スマートデバイス用の業務アプリを企画・開発して利用するシナリオ」の2つがあり、後者については「基幹系システムとの連携による業務効率向上」などが大きなメリットになるという。ただ、芝田氏は「後者の場合、プロジェクト開始前の企画段階において、十分な事前検討を行うことが重要だ」と強調した。

 では、事前検討のポイントとは何か。それは「対象業務/対象ユーザー」「スマートデバイス特有の機能」「アーキテクチャ」「セキュリティ」「運用」の5つだという。

 「特にカメラやGPS、コンパス、音声、手書き文字認識など“スマートデバイス特有の機能・特徴”をうまく活用することで、業務効率をさらに上げることができる。また、データをスマートデバイスに格納するか否か、オンラインでの動作を前提とするか、オフラインでも利用可能とするかを事前に決めておくことも重要なポイント。これによってアーキテクチャが大きく変わってくる」

 一方、スマートデバイス用のアプリケーション開発の段階では、「業務に精通した現場視点を持つ人材を参画させ、自社のIT部門主導で仕様を決定していくなど、開発ベンダに頼り過ぎない体制を作る必要がある」と強調。また、スマートデバイスのアプリケーションは実機で操作したときに想定した印象と異なるケースが多いため、フィット&ギャップ分析が重要であり、この点で従来のウォーターフォール型開発より、方針を修正できるアジャイル型開発の方が適している」とも付け加えた。

 「今後、企業におけるスマートデバイス活用が拡大していくことは間違いない。高い導入効果が期待できる基幹系システムとの連携をはじめ、PCと混在した環境の中で、その機能を業務効率向上にどのように役立てていくのか??当面はこのテーマを考えることが、多くの企業にとって共通の課題となるだろう」

セキュリティ面の不安を安心に変える施策が大切

 ベンダセッションでは、NTTPCコミュニケーションズ ネットワーク事業部 サービス開発部 課長の三澤響氏が登壇。社外から社内ネットワークに安全に接続できる最新タブレットモバイルソリューションについて解説した。

NTTPCコミュニケーションズネットワーク事業部 サービス開発部 課長三澤響氏 NTTPCコミュニケーションズネットワーク事業部 サービス開発部 課長三澤響氏

 まず三澤氏は、「震災前と震災後で、モバイルワークの導入目的が大きく異なっている」ことを指摘。「震災前までは営業部門への導入が中心だった。しかし震災発生後は、『事業継続性』をキーワードに、事務所以外でも業務が行える環境整備を考える企業が増加した。言わばモバイルワークの導入目的が、“通常業務におけるロケーションフリーなワークスタイルの実現”へと変化している」と解説した。

 モバイルワークの実現のためには、スマートフォンやタブレット端末の導入が必須となるが、企業がこれらを導入するに当たっては、解決すべきセキュリティ課題が山積しているのが実状だ。そこで同社が顧客の要望をまとめたところ、「本人認証、端末認証、端末管理、情報漏えい対策の4点が大きなセキュリティ課題になっていることが分かった」という。

 そこで同社では、これら4つの課題を解決するため、スマートフォンやタブレット端末を使いながら、各種セキュリティ機能によって「安心・安全に社内ネットワークに接続できるモバイルソリューション」を提案しているという。具体的には、本人認証を行う「ワンタイムパスワード認証機能」、端末認証を行う「機体認証機能」、そして一台一台の端末を確実に管理するための「スマートデバイス管理機能」を用意。また、「シンクライアントサービス」の提供によって情報漏えい対策にも対応できるという。

 今後の展開について三澤氏は、「社外で使っていたタブレット端末を、社内でもそのまま使いたいというニーズに応えるため『マネージド無線LANサービス(仮称)』の提供を予定している。これにより、社内・社外を意識せず、タブレット端末をノートPCの代替として利用することが可能になる」と解説。今後も引き続き、企業のモバイルワーク変革を支援するソリューション開発に注力していく考えを示した。

【参考リンク】
進化したNTTPCのタブレットモバイルソリューション(ITmedia TechTarget)

事例でひもとく、スマートデバイス導入成功、3つのポイント

京セラコミュニケーションシステム ICT事業統括本部 ICT第1営業本部 ビジネスイノベーション営業統括部 事業部長早田麻子氏 京セラコミュニケーションシステム ICT事業統括本部 ICT第1営業本部 ビジネスイノベーション営業統括部 事業部長早田麻子氏

 次のセッションでは、京セラコミュニケーションシステム ICT事業統括本部 ICT第1営業本部 ビジネスイノベーション営業統括部 事業部長の早田麻子氏が、成功企業の事例分析に基づいた“導入効果の上げ方、リスクの抑え方”について講演を行った。

 今回、早田氏がピックアップしたのは、化学製品の製造販売を手掛けるA社の事例。A社は全国に5000人以上の従業員を抱え、全国80拠点以上(営業所・工場・研究所含む)を有する化学製造業者。A社では、営業マンの販促ツールを強化することと、隙間時間を活用したラーニング教材を提供することを目的に、営業現場にiPadを導入した。この結果、導入前に比べて顧客との面談時間が165%増加し、それに伴い販売実績も伸びた。また、iPadの導入後は、顧客の63%に「『営業の説明が分かりやすくなった』と評価されている」という。

 では、A社はどのようにして導入成功に至ったのか。具体的には、京セラコミュニケーションシステムがA社のIT部門とともに、3つのステップでiPad導入を進めたのだという。

 「まず第1期は初期展開として、販促用の電子カタログと、商品知識を学ぶEラーニングのみを実装。第2期で、ファイル共有システムやアンケートアプリなどの機能を追加した。そして第3期において、独自アプリを開発したほか、MDM(モバイルデバイス管理)、CMS連携、メール、スケジュール機能などを実装した。つまり、利用者の熟練度に合わせて段階的にiPadの適用場面を拡大した」

 さらにA社には、「業務改善やワークスタイル改革のためにスマートデバイスを使う」という明確な導入目的があったほか、運用についてはアウトソーシングを利用し、IT部門が運用ではなく活用促進に専念したことも成功のポイントになった。一方、リスク対策では、“万全な対策”にこだわり過ぎることなく、まずは実施することを優先し、システム面での対策に加えて教育や運用ルールで補完したのだという。

 これを基に早田氏は、「スマートデバイスの活用には、目的、運用、リスク対策の3点が重要」と指摘。スマートデバイスを着実に業務に取り込むための1つの方法論を示し、導入に向けた積極的な取り組みを促した。

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