プロジェクトマネージャは、説得術を磨くべしやる気を引き出すプロジェクト管理(5)(2/2 ページ)

» 2008年06月20日 12時00分 公開
[安達裕哉,トーマツ イノベーション]
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キーパーソンに判断材料を提供する

 さて、キーパーソンには実際に意思決定をしてもらわなくてはなりません。ここで最も重要なことは、「判断材料を提供する」ということです。

 なぜでしょうか? それは、「仕事には唯一の正解がない場合がほとんど」だからです。意思決定は常に、不確実な状況の中、手に入る最大限の情報を基に行われます。

 よって、キーパーソンに意思決定をスムーズに行ってもらうために、プロジェクトマネージャは次の仕事を確実に行う必要があります。

  1. 選択肢を示す
  2. 各選択肢のメリット、デメリットを両方示す
  3. 資料を作る

 前述のようにビジネスに唯一の正解というものはありませんので、1は当然行うべきことになります。キーパーソンは、より良い選択肢を求めています。そして、選択肢を示すことはプロジェクトマネージャの重要な役目です。

 また、どのような選択肢にも、それを行うメリットとデメリットが必ず存在します。メリットは分かりやすいのですが、デメリットについてはキーパーソンの認識が不足している可能性が十分あります。プロジェクトマネージャはデメリットの見切りを行い、キーパーソンの漠然とした不安を見える化しなければなりません。結果、キーパーソンはスムーズに意思決定を行うことができるようになるのです。

 皆さんは買い物をするときに、いいことしかいわない販売員を信用できるでしょうか? 何か裏があるのでは、と思うのではないでしょうか? それと同じことです。

 さらに、下の図を見てください(図5)。これはキーパーソンがメリットとデメリットを基に意思決定を行うプロセスを単純化したものです。メリットとデメリットを比較し、メリットが大きければ「やる」「後でやる」、デメリットが大きければ「やらない」と判断できます。

ALT 図5 メリットとデメリットを比較する(出所: トーマツ イノベーション)

 最後に、メリットとデメリットをキーパーソンに示すときは、必ず資料を作ることを心掛けてください。「面倒だな」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、「絶対に」資料を作成してください。資料がないと、話が間違って伝わります。

 大抵の場合、重要な意思決定にかかわる話は独り歩きしがちです。こちらの意図が分かりやすく伝わる資料がなければ、誤った情報をもとに意思決定がなされるかもしれないのです。

言い方に気を付ける

 さて、今回最後の話題です。どのような人にも感情があるので、プロジェクトマネージャは「言い方」に気を付ける必要があります。顧客の機嫌を損ねると、自分の話を聞いてもらえなくなります。どんなにいい提案でも、聞いてもらえなければ意味がありません。

 聞いてもらうためのポイントは、次の3つです。

  1. 顧客のいいところを褒めてから、話をスタートする(ほめスタ)。
  2. 「提案」しない。「共感」してもらう。
  3. 顧客が間違っていても「違う」といわずに、「こんな選択肢もあります」という。

 まず1つ目の「ほめスタ」からご紹介しましょう。顧客を説得したいときは、まず褒めてから聞いてもらいたいことをいってください。本音では、誰も人から説得されたくありません。自分の考えが正しいと思いたいものです。従って、顧客は初期段階では聞く準備ができていない状態であると考えてください。顧客をうまく褒めることで心の窓を開かせ、こちらのいうことを聞いてもらう準備をさせることが大事です。

 聞く準備のできた顧客に対して、次は「提案」と行きたいところですが、少し待ってください。提案の前に、まずは「共感」させることが大事です。次の2つの会話例を見てください。

[共感させていない会話]

顧客 ×××で問題が起きているんだって? 困ったね。何とかならない?

プロジェクトマネージャ はい。私から提案があります。×××で問題はないと思います。

顧客 本当? そんなんで解決するの? 僕は×××だと思うんだけどね……

[共感させている会話]

顧客 ×××で問題が起きているんだって? 困ったね。何とかならない?

プロジェクトマネージャ そうですねえ、確かに問題ですね。どういう状況か、何か聞いていらっしゃいますか?

顧客 ×××だと聞いたんだけどね。

プロジェクトマネージャ そうですか、その報告について、どう思われましたか?

顧客 ×××だと思うんだけどねー、困ったよねー。

プロジェクトマネージャ そうですよね。確かに、私もそう思います。もう手は打たれたのですか?

顧客 できることはしたんだけど、まだ不安なんだよね。何かいい手はない?

プロジェクトマネージャ お客さまのされたことで大丈夫だと思いますが、念のため×××もしてみてはいかがでしょうか?

顧客 いいねえ、それ、やってみてよ。

 いかがでしょうか? 肝心なのは、まず「顧客がしたことを、最大限聞くこと」、次に「顧客がしたことを受け入れつつ、それにプラス・アルファした提案をすること」です。これで、顧客の共感を得ることができます。

 最後に、たとえ顧客が間違っていても「違う」といわずに、「こんな選択肢もあります」といってください。顧客を真っ向から否定することは、避けなければいけません。

 本質的に、ビジネスにおいては「合っている」「間違っている」は存在しません。顧客に対して「違う」ということは、プロジェクトマネージャの傲慢といえるでしょう。自分の意見はあくまで1つの選択肢にすぎないと認識し、顧客の意思決定を補助する立場であることを忘れない。これこそ、説得と承諾の奥義です。

筆者プロフィール

安達 裕哉(あだち ゆうや)

トーマツ イノベーション株式会社 シニアマネージャ

筑波大学大学院環境科学研究科修了後、大手コンサルティング会社を経てトーマツ イノベーション株式会社に入社。現在、主としてIT業界を対象にプロジェクトマネジメント、人事・教育制度構築などのコンサルティングに従事する。そのほかにもCOBIT、ITサービスマネジメント、情報セキュリティにおいても専門領域を持ち、コンサルティングをはじめとして、企業内研修・セミナー活動を積極的に行う。



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