中国とまったく対照的なベトナムオフショア事情世界のオフショア事情(3)(4/4 ページ)

» 2008年08月04日 12時00分 公開
[幸地司,アイコーチ株式会社]
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朝送ったメールの返事が夕方まで返ってこない

――「マネジメントの質」とまでいってしまうと大げさかもしれませんが、オフショア拠点のまとめ役や窓口役の重要性を再認識させられました。今後、現地の優秀なリーダーに負荷が集中することが予想されます。そうなると、プロジェクト全体が滞る可能性がありますね

廣中氏 ベトナム初挑戦だったということもあり、日本からの質問に対する回答時間は中国よりも遅いように感じられました。翻訳に手間取ったのかもしれません。ただし、時間はかかっても回答内容は、ベトナムの方が洗練されていたと思います。私が経験した中国オフショア開発では、質問すると1〜2時間のうちに何らかの回答が戻ってきました。ベトナム開発では、朝の質問が夕方に届く、という感覚です。

――ベトナムからの回答時間が遅いのは、通訳がボトルネックになるからでしょうか?

廣中氏 通訳ではなく、現地の開発リーダーがボトルネックになっていると思います。中国の開発会社では、プログラマが直接仕様書を読めるように教育されます。漢字文化圏ということもあり、教育に掛かるコストはベトナム人に日本語を教えるよりも低いでしょう。このプロジェクトでは、優秀なリーダーがすべてを把握しようとしているように感じました。結果的にそこがボトルネックになってしまっているのでしょう。

――すぐに対応するが手戻りも多い中国、よく練られているが対応が遅いベトナム。対照的な両国ですね

廣中氏 あくまでも私個人の体験ですが、ベトナムからの回答はよく整理されていましたし、後での訂正も最小限で済みました。その点、中国オフショア開発の際は、個別の担当者がばらばらに対応するので回答の品質もまちまちでした。どちらも一長一短だと思います。ベトナムはもう少し技術者に日本語を教えてほしいですし、中国は開発リーダーの統率力を高めてほしいと思いました。

まとめ

 日本からの仕事に慣れきった中国オフショア開発会社は、日本の要求のいいなりになりがちです。逆に考えると、これは過剰ともいえる適応力を持った中国人の魅力の1つですが、ときとして結果責任を放棄する傾向があることもあちこちから報告されています。あいまいな指示や誤った指示を受けても、何の疑問も持たずに作業を進めてしまい、後で手戻りが発生することは日常茶飯事です。

 今回ベトナム開発に挑んだ廣中氏は、ベトナム拠点の開発リーダーが最終顧客の意図を理解しようとし、プロフェッショナル技術者としてシステム開発の目的を達成しようとする姿に感銘を受けました。特に、外部設計など顧客から提供される上流成果物に対する質問や指摘という形で端的に示されたそうです。

 ただし、ベトナム初挑戦ゆえの贔屓(ひいき)目に見た評価かもしれません。廣中氏に「ベトナム人は優秀か」と問うたところ、即座に「まだ分からない」と答えました。ベトナム人技術者の平均的な能力が高いのか、この出会いはまれなことなのかは、もっとベトナムでプロジェクトを実践してみないと判断できません。

日本人と中国人、ベトナム人の主観的な比較表
日本
中国(大連)
ベトナム
日本とのコミュニケーション手段   日本語の仕様書を直接読める技術者は多い 通訳や翻訳後の仕様書を基にして開発を行う
教育水準 OJT至上主義。いままでやってきたことに従う。教科書通りに行うことより、現場に蓄積されたノウハウを優先する 教科書の開発方法論は知識として知っているが、顧客の要求が優先される 教科書の開発方法論を知っているし、実践するべきと考えている
仕事の仕方 チームプレー。個性的な行動は好まれない。関係者の合意を取ることが最重要 個人プレー。独創的なアイデアを褒められると大変喜ぶ。メンテナンスできなくなってしまうので、褒め過ぎないように気を付けること チームプレー。個人の個性よりも、正しいアルゴリズムなのか、方法論的に正しいのかを気にしている
バグの対応 お客さまへの仕様の確認不足による仕様変更は、外部設計フェイズのバグである 追加費用が発生するかどうかにかかわらず、仕様変更とバグの違い、責任所在にはこだわる バグが出ることは恥ずかしいことだと認識している。技術者としてのプライドは高い
品質 どうあるべきかは理解していても、明らかに時間や人手といったリソースは足りない 単体テストが十分に完了していないと分かっていても、納期優先で納品してしまう。明らかに無理な場合を除き、納期の交渉はあまり受けたことがない 細かいレベルで進ちょくを管理している。日本側の都合による仕様変更などは、納期について交渉される
人材定着率 転職より、転業(SEを辞めてしまう)されそう 高給優遇に弱い。最近は飽和感あり もしかして、日本よりアメリカの仕事の方が好き?

 唯一いえることは、今回たまたまプロジェクトを担当したベトナムの技術者は、これまでの廣中氏が中国オフショア開発で出会った技術者よりも、「相性が良かった」ということだけです。それでも、廣中氏はベトナムの可能性に明るい未来を見いだします。

「ベトナムは日本と同様、勤勉で誠実な人が多いと聞きます。視察で訪問した際に街で見掛けた土産物には大変繊細な加工が施されたものが多いです。もし職人の技術が正しく評価される社会なのであれば、システム開発の土壌として優れたものがあると思います」(廣中氏)

筆者プロフィール

幸地 司(こうち つかさ)

琉球大学非常勤講師

オフショア開発フォーラム 代表

アイコーチ株式会社 代表取締役

沖縄県生まれ。

九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ株式会社(旧アイコーチ有限会社)を設立。現在はオフショア開発フォーラム代表を兼任する。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門〜失敗しない対中交渉〜」の執筆を手掛ける傍ら、東京・大阪・名古屋・上海を中心にセミナー活動をこなす。


オフショア開発フォーラムhttp://www.1offshoring.com/

アイコーチ株式会社http://www.ai-coach.com/


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