ベトナムオフショア、言葉の壁は厚い?世界のオフショア事情(4)(1/3 ページ)

今回はベトナムにおける日本語学習の状況や、日本向け人材とのコミュニケーションにおける勘所を紹介する。

» 2008年09月02日 12時00分 公開
[霜田寛之(オフショア大學 講師),Global Net One株式会社]

 19世紀ころに日常生活における漢字の使用を中止したベトナムでは、日本語対応力という観点で見ると、おおむね中国に劣ります。

 理工系大卒者への日本語教育ビジネスの盛り上がりや、各社による日本語教育の実施、留学生の採用などの動きは盛んですが、日本語のドキュメントやコミュニケーションに対応するケースでは、日本語のプロフェッショナルが活躍する割合が高いといえます。ベトナムのソフトウェア業界では、彼らのような日本語のプロフェッショナル、つまり通訳/翻訳者をコミュニケータと呼びます。

 今回はベトナムの日本語事情とともに、このようなコミュニケータやベトナム人ブリッジSEなどとのコミュニケーションを題材に取り上げます。

ベトナムの日本語学習者人口と日本語教育

 国全体としての日本語対応度を比較するために、ベトナム・中国・インドの日本語能力試験の受験者数を挙げてみます(表1)。表を見ると、中国は非常に多く、16万人もの受験者がいます。対してベトナムは8000人。人口に対する割合でも、ベトナムでは1万人に1人と、中国の1万人に1.3人に及びません。

表1:2006年日本語能力試験地域別受験者数
受験者数 人口に対する割合
ベトナム 8045 1万人に1人
中国 16万5353 1万人に1.3人
インド 5366 1万人に0.05人

 また、表2は受験者数ではなく学習者数ですが、この伸び率では中国・台湾・香港とベトナムは高い数字を示しています(ただし、中国は前回調査ですべての対象を網羅できなかったために、今回伸び率が高まったという要因もあるようです)。

表2:学習者数上位10カ国の前回調査との変化
順位 国・地域 学習者数
(2006年)
学習者数
(2005年)
増減率(%)
1
韓国 91万957 89万4131 1.9
2
中国 68万4366 38万7924 76.4
3
オーストラリア 36万6165 38万1954 ▲4.1
4
インドネシア 27万2719 8万5221 220
5
台湾 19万1367 12万8641 48.8
6
米国 11万7969 14万200 ▲15.9
7
タイ 7万1083 5万4884 29.5
8
香港 3万2959 1万8284 80.3
9
ベトナム 2万9982 1万8029 66.3
10
ニュージーランド 2万9904 2万8317 5.6
出典)国際交流基金

 ベトナムでは日系企業の進出増加に加えて、ドラえもんなどの日本のアニメやドラマの影響、バイクなどの製品品質に対する評価もあって、日本の文化に対する国民の関心は高く、日本語学習者の増加にも影響を与えているのでしょう。

 とはいえ、欧米で日本語の学習をする人は趣味的な要素が強いのに比べ、ベトナムでは、留学や日系企業への就職、キャリアアップといった目的が明確であるために、非常に熱心に勉強をします。つまり、文化を学びたいだけの人は少なく、日系企業の進出や日本向けの仕事の増加が、最大のモチベーションであると推測できます。

 日本語人材の育成に一役買っているのが人材教育ビジネスで、理工系の大学生/卒業生に日本語を数カ月〜1年程度学ばせた後、ニーズのある日本企業や現地企業に雇用してもらうモデルなど、いくつかの形態があります。機械系や電子系エンジニアの方が先行していましたが、ITエンジニアに関しても、ここ最近は増加してきています。

 また、日本のODAによって、ベトナムの理工系における最上位校であるハノイ工科大学では、日本向けブリッジSE養成プログラムがスタートしています。ここでは、入学時に選抜された1学年120人の生徒が、卒業までの5年間をかけて日本語とIT系の技術を身に付け、将来の両国の懸け橋となることを期待されています。

 そのほかにも、ベトナムのガリバー企業であるFPTコーポレーションが2007年に設立した私設大学のFPT大学や、ベトナムソフトウェア協会(VINASA)の大学であるVINASA大学などでの日本語教育も期待されています。

各社の日本語対応状況は?

 日本市場に対してこれからアプローチを始めるベトナム企業は、大きく分けて2種類あります。1つ目は大企業を中心として、さまざまな国に向けてオフショア開発の受託サービスを提供している企業が、日本向け人材をそろえて日本市場へ参入するケースです。

ALT あるベトナムオフショアベンダで寿司パーティをやっている様子。このように定期的にパーティを開くなど、アットホームな雰囲気を大事にしているという

 もう一方は、日本への元留学生や日本企業での就業経験を基に、最初から完全に日本向け企業として起業するケースです。ほかにも、日本企業の子会社や日本人がベトナムで会社を作るケースもあります。

 前者は、当初はまずコミュニケータ兼マーケティングセールスのような人材を用意し、プロジェクトの成長に合わせて、ブリッジSEの採用や育成をしていきます。一方、後者は、最初からブリッジSEの能力がある人材がトップを務めるため、後からコミュニケータがついてくるといった傾向があります。

 後者の場合、トップが日本の文化を知っており、企業全体として日本市場にコミットしているため、自然と従業員の関心も日本に集中しやすく、日本語研修や日本語の資格手当の効果も比較的高いといえます。なお、大手の中には、数カ月間プロジェクトから離脱させ、フルタイムで日本語研修を実施している企業もあります。

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