中国人の日本型開発アプローチに対する本音は?オフショア開発時代の「開発コーディネータ」(16)(2/3 ページ)

» 2006年03月16日 12時00分 公開
[幸地司,アイコーチ有限会社]

日本企業の仕様変更が嫌われる本当の理由とは

 日本から変更要求が発生したとき、会社の存続と持続的成長にコミットする中国企業の経営層は、「正当な対価を支払ってもらえれば対応すべきだ」と考えるのが一般的です。プロジェクトマネージャも同様に、プロジェクトを完遂させるには、日本側の変更要求に対応するしかありません。余計な作業が増えるため、本音はやりたくないかもしれませんが、「やるしかない」のがプロジェクトマネージャ層なのです。

 一方、日本側の変更要求に対応しても技術蓄積に結び付かないと考えてしまう技術者がいると、現場のモチベーションは一気に下がってしまいます。現場の技術者は、経営者やプロジェクトマネージャ層とはコミットする対象が異なるので、日本からの要求変更の対応に嫌悪感を隠しません。日本式開発アプローチに不満を持つ中国企業では、現場で以下のようなネガティブな思考パターンが支配的だと考えられています。

ALT 「仕様変更に対応」→「時間の浪費」→「モチベーション低下」→「生産性低下」→「昇進なし」→「昇給なし」→「離職」→「不安定で未熟な自分」→……と思考が変化していく

 以上から中国企業の思考パターンを分析すると、筆者が主催する無料のメールマガジンに中国人読者から寄せられた下記コメントを、より深く理解することができるでしょう。

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対日オフショア開発では、変更対応についていろいろな考え方があります。

私が実際プロジェクトを携わってきた感覚としては、経営者またはプロジェクトマネージャ層は、「お客さま(特にエンドユーザー)からの要望は、もちろん神様からの指示なので、ある程度対応せざるを得ない覚悟が必要である」という考えがあります。

対照的に、現場からは「最初からそういう部分(仕様変更部分)をはっきりすればよかったのに、せっかく頑張って作り上げたものを、また変更するのは……」という意見がかなり多かったです。

受注側の立場だと、変更対応に当たった工数を加えて、お客さまが料金を払ってさえいただければ、特に問題がないと思いますが、実際問題として現場のモチベーションコントロールはかなり難しくなります。

場合によっては、作業効率が一気に下がるケースもありました。従って、変更対応の際には上記のバランスを考えることに結構気を使っています。

(上海オフショア開発交流会の参加者)

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ALT 上海百貨店の正月の装い

  「日本式開発アプローチを理解するには、日本に行くしかない」。このように技術者が考えるのは、当然の成り行きだと思います。中国人技術者が、日本で1〜2年修行するジョブローテーションは技術者のスキル範囲が広がるうえに、マネジメント能力の向上や異文化交流の促進に期待が持てます。

 そこで、中国人技術者を日本に招聘して、現場の雰囲気を体験させようとする動きが以前にも増して活発化しています。ところが、実際には若い中国人技術者の間で日本出張を歓迎しないムードが広がりつつあることが、最新のインタビュー調査で明らかになりました。彼らは、言葉もままならない状態で日本に行くよりも、本国の快適な環境下でスキル向上を図ることを願っています。会社と現場の技術者の目的が合致しない状況が長く続けば続くほど、日本式開発アプローチへの理解がさらに遠のいてしまいます。

中国国内の開発はどのような進め方をしているか

 この連載では、過去に何度も日本側の準備不足や未熟な設計技術の不具合について言及しています(第4回「いいかげんにして! 日本企業─中国に嫌われる理由」、第5回「続・いいかげんにして! 日本企業─理不尽な態度」)。その一方で、次のような素朴な疑問が生まれています。

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中国国内のプロジェクトの状況はどうなっているのでしょうか。

「出来上がったものを見てから修正する」というやり方は、中国国内でも同様に行われているのではないでしょうか。日本企業だけが一方的に悪者扱いされるのは、しゃくに障ります。

(日本人読者)

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 余談となりますが、筆者主催のメールマガジンで紹介した3つの意見を紹介しましょう。

[1]中国にも設計書がない開発プロジェクトはたくさんある

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中国国内の大型プロジェクトでも設計書がない、開発ルールがあいまい、といった状況がたくさん存在します。

それで一時的にプロジェクトが成功しても、メンテナンスや機能追加のときに大変苦労しています。これは、決して良い結果ではありません。むしろ、ユーザーに迷惑を掛けている状況です。

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[2]中国では反復型開発プロセスが主流である

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日本の国内開発は、基本的にウォーターフォールモデルに基づいています。

しかし、中国の国内開発では、反復型開発プロセスが多いと思います。早期確認によって手戻りの作業を軽減し、納期を短縮する発想です。

従って、反復型開発プロセスを利用するためには、以下の条件が必要だと思います。

  • 小規模のプロジェクト
  • 顧客が反復型開発プロセスを認める
  • コミュニケーションが綿密に取れる

中国の国内開発ではこれらの条件を満たすことが多いので、適材適所を考えると、やはり反復型開発プロセスを利用する方が得策です。

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[3]中国では「納品」を優先。仕様変更やバグ修正は後から対応

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弊社が取引するIT会社の社長さんがおっしゃるには、中国の国内開発については、まず納品し、その後の保守工数で仕様変更(場合によってはバグも!)に対応しているようです。

実際、品質が悪いものを製造し、保守契約を結ばずトラブルになることもあるようです。この辺りは、韓国の技術者の方も同じようなものだとおっしゃっていました。

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