適性検査で分かった中国人技術者採用の傾向と対策現地からお届け!中国オフショア最新事情(4)(2/3 ページ)

» 2006年09月23日 12時00分 公開
[幸地司,アイコーチ有限会社]

適性検査で中国人IT技術者の採用プロセスを改善する

 先日、銀座で開催された日中ビジネス交流会において、適性検査ツールによって中国人プログラマを効率よく採用するという興味深い事例を耳にしました。リクルートによると、適性検査とは「性格や気質、興味・関心・価値観、スキルを測る」検査であり、主に次の3つのタイプに分かれるそうです。

  1. 性格・気質などを測る検査
  2. 興味・関心・価値観などを測る検査
  3. 能力・スキルなどを測る検査

 これらのテストの結果はあくまで「統計的に推測される」結果でしかなく、必ずしも特定個人が「そうである」と断言するものではありません。あくまで個人の適性を測る1つの手段です。

 2006年夏、日本人向けの適性検査で高い評価を受けているある会社(A社)が中国市場に本格参入しました。大連市政府関係筋から、IT人材の適性検査に関する相談を受けたのがきっかけだといいます。

 ある人は、「こうした適性検査がどの程度有効なのか?」と疑うかもしれません。筆者の場合、「日本人向けに開発されたツールが本当に中国でも役に立つのか?」といった疑問や、「中国の地域性や民族の違いを無視して中国をひとくくりに扱ってもよいのだろうか?」という疑問を感じました。

 結論を先にいうと、上記はすべて問題ないようです。心理学やコンピテンシー論、組織行動論を学び、自らがさまざまな適性検査を受けた筆者の経験からいうと、現在の適性検査の信頼性は極めて高いと思います。ある人が適性検査で好成績を収めようとして意図的に回答しても、ツールは「信頼係数−低」を返します。記憶力に優れた専門家が長時間掛けて適性検査を受けると、意図的に結果を操作できるかもしれませんが、通常は極めて困難です。

 詳しい理論は割愛しますが、適性検査のコアエンジンは、人種や文化にさほど依存しません。人間という生き物は喜怒哀楽の感じ方は万国共通である一方で、その表現方法は文化によって著しい差が生まれるといいます。

例:困ったとき→日本人は苦笑いするが、欧米人には不可解

 なので、日本人向けに開発された適性検査であっても、根幹のアルゴリズムは中国でも十分に通用するのです。実は、日本人向け適性検査のエンジンであっても、基は欧米の研究成果そのものなのです。

中国における人的資源管理に関する問題

 A社が調査した、中国における人的資源管理に関する問題を整理します。

経営トップ(菫事長、総経理)が抱える問題

 キーワードは「短期離職」と「生産性の低下」です。一般の中国企業ではジョブローテーションがうまく機能しないため、現在の職場になじめないと判断されると「即クビ」が待っています。

  • 中間管理層の社外流出
  • 抜てきした中間管理層が責任を持って仕事をこなせない
  • 配置の不適性による効率の低下

人事部が抱える問題

 日系企業では、よく「中国人は自己PRが得意だが……」と愚痴をこぼしますが、そもそも、日本人担当者がすべての中国人従業員を採用面接すること自体に無理があります。幹部社員の採用には十分に時間を割くべきですが、一般のホワイトカラー社員(プログラマレベル)の採用プロセスは改善の余地があります。

  • 採用した新人が職場に合わない
  • 求人コストが高い
  • 良い人材を見つけるのが難しい

中国人社員が抱える問題

 自我が強い半面、他人の意見に耳を傾けない中国人社員がたくさんいます。そのため、正しい評価基準を持つことができず、能力開発の機会を失いがちだといわれます。

  • 正しく自己評価できない
  • 自分では能力を伸ばす方法が分からない

中国で適性検査を実施してみて分かったこと

中国人の信頼係数は意外と高かった

ALT 大連で催されたソフトウェア交易会の様子。広大なコンベンションセンターに所狭しとソフトウェア会社がブースを出していた

 大連・上海・北京の日系企業で中国人を対象に適性検査したところ、回答に多少あいまいなところもありましたが、おおよその部分は信頼できるとの診断結果が得られました。

 中国人は、都合よく自己アピールするため、「適性検査でうその回答を並べ立てるのではないか?」との懸念がありましたが、まったくの誤解でした。一方で、信頼係数を低下させるもう1つの原因があります。それは「社会秩序の欠落」です。

 しかし、結果からは、日系企業に応募する中国人の多くは、規則や秩序に最低限気を配ることのできる人間である傾向が示されました。

物質的欲望については、日中で大きな違いは生じない

 適性検査で分析される「物質的欲望」とは、モノやお金、資産などに未練を持つかあっさりしているかを示す社会的な特性です。これも事前の予想に反して、「中国人と日本人との間で大差ない」という結果が得られました。実に興味深い結果です。

中国企業は「努力型/自制型」の従業員を求める

 一般に日本人は「努力型/自制型」の性格・パーソナリティーが多く、中国人は「活動型/積極型」が多いです。対照的に、中国企業の人事部は、自社の従業員に対して「努力型/自制型」を求めていることがインタビュー調査で判明しました。

 いままで、個人の性格判断は面接官の力量に頼っていましたが、ツールの導入によって、会社として統一基準を設けることができるようになります。

短期離職に大きく寄与する因子は……

 A社の適性検査では、下記2つの因子が従業員の短期離職を判断する重要な手掛かりだということが判明しました。

  • モラトリアム傾向
  • 勤労意欲

 「モラトリアム傾向」が強い人とは、自分の考え方や生き方について、確信が持てずに悩んでいる人です。「勤労意欲」については読んで字のごとく、働く意欲のことです。1000名以上の工員を対象に適性検査を実施したある中国工場では、極めて「定着性/安定性」の点数が低い従業員がいたといいます。そして、3カ月後に追跡調査をしたところ、その人はすでに工場を辞めていたことが判明しました。

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