PMOの存在意義を理解してもらうためには、その働き、成果を数値で示すのが一番だ。今回はPMOの成果を定量化する方法と、そのアピール方法を伝授する。
前回は連載のプロローグとして、「プロジェクトマネジメントの見える化」の意義を解説した。今回からはケーススタディを交えて具体的な実践方法を紹介していきたい。
まず前回では「プロジェクトマネジメントの見える化により、その活動成果をKPIを使って定量的にモニタリング可能とすれば、成果が不十分だったとき、プロジェクトの状況に応じてマネジメントをアジャストしていくことができる」と説明した。
そこで今回は課題管理――プロジェクト推進中に生じるインシデントを把握・管理し、確実に解決していくための一連のプロセス――について、KPIの設定方法やモニタリング方法を具体的に解説していこう。
まず、「課題管理の見える化」の全プロセスを紹介しよう。図1の通り、KPI設定→モニタリング→評価と、大きく3つのプロセスで構成されるが、プロジェクトマネジメントの管理項目や領域と不整合があったり、「課題管理の見える化」の作業に忙殺され、そもそものプロジェクトマネジメント業務を阻害してしまったりしては本末転倒である。よって、PMO発足時に作成するプロジェクト計画(プロジェクトマネジメント計画)に「課題管理の見える化」のプロセスを組み込み、全体のバランスを計っておくといいだろう。
最初のプロセスはKPI設定である。KPIは「プロジェクト計画で定義した管理領域は、何のために設定したのか」に着目すると考えやすい。
よって、課題管理の場合は「プロジェクトのQCD(Quality=品質/Cost=コスト/Delivery=納期)を計画目標通りに達成するために、課題を確実に検知・対策すること」が目的であるため、「検知や対策の度合いを認識できる指標」をKPIとすれば良い。例えば「課題検知数」「課題解決数」、そして「課題の重み」の3つはどうだろうか。ここではこれらをKPIと設定したと仮定して話を進めたい。
課題の検知数や解決数については、「PMOが主体的に検知・解決したもの」と「プロジェクトの自助努力で検知・解決したもの」を区分しておくことが、「誰の貢献か」判別する際に必要となる。よって、課題管理表に識別子(課題検知者)を加えておくといいだろう。次に、課題の重みだが、仮にその課題を「検知しなかった」、または「検知したが放置してしまった」場合、「プロジェクトにどんな被害が想定されるのか」をQCDなどの観点で定義しておくと、PMOが「どのくらい貢献したか」を計れるようになるだろう。具体的には以下の図2のように考える。
最後に、プロジェクトオーナーや、エンドユーザーとKPIについて合意しておくことも欠かせない。“ユーザー幹部の成果評価傾向”などのアドバイスをもらえるかもしれないし、せっかくなのでユーザーに響きそうなKPIを設定したいからである。
KPIが明確になったら、次はそれをいかに収集・記録するかの検討だが、これは一般的な課題管理のスキームに付加するだけでいいだろう。課題を検知し、課題管理表(データベースなどシステム化されているケースもあるだろう)に登録する段階で、その「検知者」と「その課題の重み」も登録しておくのである。検知者判定の正当性や、重みの妥当性は、定例会議などPMO内の課題棚卸しの場でレビューの上、確定すれば良いだろう。
もちろん、管理対象プロジェクトの特性や工程によっては「課題検知数が多ければ良い」というものでもないが、リソース管理(各メンバーのパフォーマンス管理)という意味でも、「課題検知数の量や推移」は各メンバーの活躍状況を把握する一つの参考値にはなるだろう。
また、PMOメンバーにとって、レビューは「他のPMOメンバーは、どういう思考・方法で課題を検知しているのか」といったノウハウを知ることができ、非常に有益な場となるはずだ。結果、「PMO全体のパフォーマンスとモチベーションを向上させる」効果を発揮するのである。
さて、いよいよ成果の評価である。
そう、前回の冒頭で紹介した、少しドキリとするあの問い掛け??「Aさん、プロジェクトは無事終了したわけだけど、Aさん率いるPMOはどのくらい貢献したの? 成功したのはプロジェクトメンバーの自助努力の結果じゃないの?」にズバッと回答するのである。
PMOによる「課題検知数」と「課題解決数」は、図1のような定常的な課題管理プロセスで計測しているわけなので、その「課題検知数に各課題の重みを乗じた値」がプロジェクト成功への寄与度――すなわちPMOの存在意義であるという論理で回答してみるのである。
具体例を示そう。ある課題を放置した場合、開発工程の手戻りにより「10人日のリカバリ工数が必要な課題」を、10件検知あるいは解決したとき、計5人月(10人日×10件=100人日)分の予算増加リスクをPMOがつぶした――つまりPMOの成果と定義するのである。ここまで定量的に示せないとしても、「課題の20%はPMOが検知している」とか、「重要課題10件をPMOが主体的に解決した」といった値でもいいだろう。
大事なことは、こういったKPIを、ユーザーのプロジェクトオーナーをはじめとする各関係者に定期的に報告し、ユーザーに安心感を与えることである。また、明確なKPIによって他社と差別化できるほか、何より、自分たちの活動成果を定量的に認識することによって自己改善ができることもポイントである。
実践編第1弾として「課題管理の見える化」を解説したが、皆さんのヒントになっただろうか。次回は、スケジュール管理、次々回はコスト管理の見える化と進めていくが、これら「管理領域の成果見える化」を行うことで、皆さんの“プロジェクトマネジメント成果の正当性”はますます強固なものになっていくと思う。引き続き、ご期待いただきたい。
荒浪 篤史(あらなみ あつし)
日立コンサルティング シニアマネージャー。大手ネットワークベンダーにて、さまざまな業種の企業および団体、官公庁のオープンシステムの設計プロジェクト・マネジメントを手掛け、IT企業の立ち上げにも参画した。2007年より現職。これまで大手メーカのITインフラ再構築プロジェクト、大手商社の全国240拠点のITインフラ構築、運輸運送業情報システム子会社のプレゼンス向上などに携わった実績を持つ。
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