言葉の不統一がもたらす業務とシステムへの悪影響ユーザーサイド・プロジェクト推進ガイド(16)(1/2 ページ)

部門・部署ごとに使われている用語が違うことがよくある。言葉の不統一は、業務効率化やシステム開発に大きな障害となる。その改善アプローチとは?

» 2006年10月27日 12時00分 公開
[山村秀樹@IT]

 言葉は、意思の疎通に不可欠なツールです。ジェスチャーやイメージもコミュニケーションの重要な手段ですが、言葉を知らなければコミュニケーションは成り立ちません。人間は言葉で考えるからです。

 しかし、言葉は誰にとっても同じものを示すわけではありません。また、同じものを同じ言葉で示すわけでもありません。ある新聞に、「ばんそうこう」の呼び方が地域によって異なる(毎日新聞2006年9月20日)、「パンツ」の意味が世代によって変わってきている(毎日新聞2006年9月21日)という記事が掲載されていましたが、言葉は世代や地域ごとに違います。

 特に若い世代では、既存の言葉をアレンジしたり、新たな言葉を作ったりします。もともとある言葉を、本来の意味とは違う意味で使うこともあります。これらの言葉は仲間内で楽しむための遊び道具であり、大人とコミュニケーションするためのものではありません。

 当然、これらの言葉は大人にとっては意味不明で、若者言葉を苦手と思う人もいれば、不快感を持つ人もいます。日本語の乱れを気にする人にとっては一大事と考えられているようです。

 言葉が限定的にしか通用しないという現象は、業界や企業組織でも見られます。さすがに、ビジネスの世界では程度や情緒を表すのに「超〜」「ヤバイ」などの形容はしないでしょうが、業界・企業・職場ごとにその内部でしか通用しない、略語・造語・方言・符丁が存在します。これらはその外部では通用しません。同じ言葉を使っていながら、違う内容を指している場合もあります。

 ユーザーサイドのプロジェクトチームが、これら業務で使われている用語を調査分析し、システムで使用する用語として整理することは、業務効率の向上に寄与するシステムの構築につながり、またプロジェクト作業はもちろん運用に入ってからのシステムのメンテナンス作業の効率にも有効です。

用語の無法地帯は至る所にある

 企業の合併作業において、用語がバラバラで苦労したという話はよく聞きます。お互いに話していることが分からなかったり誤解することが続けば、作業の進ちょくは望めません。精神的にも、タフな作業がこれから続くというのに、たかが言葉で早くもストレスでいっぱいの状態になります。

 このような現象は、合併のようなまったく文化の違う組織の間だけに起こるものではありません。1つの会社の中でも見られます。

 同じ会社で同じ業務にかかわっていても、職場が違えば違う用語が使われていることがあります。例えば、ある製品を製造する工程を、正式な名称で呼ぶ職場もあれば、そこで作られる特有の製品名で呼ぶ職場もあり、またその作業で使用される機械設備の名で呼ぶ職場などもあります。

 また、職場が違えば、同じ用語でも違う内容を示す用語があります。例えば、「計画どおりつくれ」といった場合の「計画」は、ある職場では「設計図」のことであり、別の職場では「スケジュール」であったり、「予算」のことであったりします。

 1つのコンピュータ・システムだけを見ても、用語が一貫していないことがあります。人の作業をそのまま機械化しただけの古いシステムもそうですが、業務改善を伴ったシステムであっても用語に注意を払っていないケースは驚くほど多くあります。過去の多くの失敗システムや開発に難渋したシステムでは、「この画面ではこの用語」「あの帳票ではあの用語」というように、用語が無節操になっているケースが多いのではないでしょうか。

用語が統一されていない場合の業務上の問題

 用語が整理・統一されていなければ、効率のよい企業活動はできません。

 その職場のことだけを考えている人やすでに慣れてしまった人は、用語が統一されていないことにも特段、問題を感じることは少ないでしょう。しかし、全社(全事業所)的な数値を扱うなど部門横断的な仕事をする人たちにとっては、不都合なこと極まりありません。項目名が同じであっても、数字の意味合いが違うことに気が付かない場合、重大なトラブルや事件にさえもなります。

 例えば、経理部に上がってくる伝票に、同じ内容なのに部署ごとに違う表現になっている項目があれば、いちいち整理し直す必要があります。同様に、項目名が同じであっても、その値の意味合いが違えば、整合性をとるための手間が必要です。少し前まで、スーパーマーケットなどで商品の表示金額に消費税を含んでいるところとそうでないところがまちまちだった状況(総額表示方式以前)を思い出してもらえば、不便さが分かると思います。

 慣れれば問題がないといっても、慣れるまでが問題です。混雑した状況に慣れるまでは、少なからず時間がかかるでしょうし、その間のミスも無視できません。

 また、人事異動で別の職場から移ってきた人が、その人の経験に従って当たり前のように仕事をすれば、それが間違っているという事態は困りものです。すでに十分な経験を持つ人であっても、職場を替わるたびに、「戸惑い→慣れ」を繰り返すような組織は、時間の無駄遣いに気がついていないか無視していて「仕事の遅いところは、いつまでたっても仕事が遅い」から脱却できないところです。

 そもそも「慣れれば問題がない」という考え方も、実は間違っています。人は慣れていてもミスを犯します。労働災害は“慣れた作業”をしている最中に発生することが多いのです。「不安全要因は慣れや経験で克服できる」と思い込んでいるところに問題があるのです。不安全要因があれば、災害が発生する可能性があるのは当然のことです。

 複雑な問題やまぎらわしい問題に慣れることで対応しようとすることは、“悪慣れ”であって本質的な解決にはなりません。問題はふとしたことで顔を出します。人事異動で変わってきた人が、慣れてしまったとしても、複数のところから上がってくる意味合いの違う数値を取り違えてしまうことがあります。

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