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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(10)

公的資金の影が忍び寄る
“過小資本”メガバンクの苦悩

高田直芳
公認会計士
2011/1/13

サブプライムローンやリーマンショックの影響で、惨敗している銀行業界。メガバンク各社は、数千億円の増資により状況の改善を目指すが、過小資本状態の彼らがこの苦境から抜け出すのは簡単ではない。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年6月19日)

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銀証の融合・分離の歴史は繰り返されるのか

 前回までに取り上げた小売&流通業界は、そのほとんどが2月または8月決算だ。第9回コラムのセブン&アイ、イオン、ローソン、そして第8回コラムのニトリやポイントは2月決算であり、第7回コラムのファーストリテイリング(ユニクロ)は8月決算である。

 これは「ニッパチ」といって、2月と8月は在庫の谷となり、実地棚卸が他の月に比べると楽になるからだ。それでも製造業などに比べると、在庫点数ははるかに多いのだが。

 今回取り上げる銀行業界は、そのすべてが3月31日決算である。これは別に、この日の現金残高が最も少ないからではない。銀行法17条において「銀行の事業年度は4月1日から翌年3月31日までとする」と法定されているからである。

 銀行業界が横並び体質だと揶揄(やゆ)されるのは、事業年度の枠を法定されているところから始まっているのかもしれない。

 筆者が都市銀行の一つに就職した当時は、確か12行か13行はあったと記憶している。しかも、アメリカで1933年に制定されたグラス・スティーガル法の影響が長く存続していて、銀行と証券の業務隔壁(ファイアウォール)が厳格に守られていた。

 それがいまでは3メガバンクに集約されて「銀証融合」時代だという。されど、あと数年もすれば「歴史は繰り返す」で、再び「銀証分離」へ戻るような気がしないでもない。

経営分析のプロ集団を分析する

 今回は、3行に集約されたメガバンクへの経営分析を試みる。銀行といえば、経営分析のプロ集団である。融資先に対する分析資料には事欠くことがない。

 ところが、「紺屋の白袴」とでもいうのだろう。他人(事業会社)に対する分析に忙しくて、自ら(銀行)の分析を行なった事例を見かけるケースはほとんどない。もちろん、銀行などの金融機関には“Tier1”といった自己資本比率に関する経営指標が存在する。

 自己資本比率を単純に説明するならば、貸借対照表の純資産を総資産で割った比率をいう。純資産は別名、自己資本とも呼ばれる。『日経会社情報』などでは、純資産から少数株主持分と新株予約権を控除したものを自己資本と定義して、ROE(自己資本利益率)を算定しているので注意したい。

 銀行の場合はさらに「中核的自己資本」という定義がある。これが先ほど紹介した“Tier1”だ。

 ただし、その計算構造は難解である。筆者はメーカーとの付き合いが多いので、“Tier1/Tier2”といえば「1次下請け/2次下請けが、どうしたって?」といった程度の理解しかない。おまけに、自己資本比率には“core Tier1”といったものまであるらしい。

 この機会を利用して、銀行の自己資本に関する問題について述べてみたい。

惨敗の銀行業界をタカダバンドで垣間見る

 自己資本という核心に迫る前に、まずは銀行の業績を眺めてみることにしよう。2009年3月期に係る銀行の決算を分析したところ、その結果は惨敗であった。試しに、三井住友の決算データをこのコラムで再三登場している「タカダバンド」に当てはめてみたのが〔図表1〕である。

〔図表1〕三井住友のタカダバンドと売上高


  利潤の最大化を示す最大操業度売上高(赤い線)と、量産効果を最大に引き出す予算操業度売上高(青い線)に挟まれた「タカダバンド」に、大きな蛇行運動が見られる。

 07/9(2007年9月期)から07/12(2007年12月期)にかけて大きく蛇行しているのは、あの「サブプライム―ローン問題」が炸裂した時期である。(これについては後述する)

 その後、タカダバンドは高どまりで推移するのかと思っていたら、09/3(2009年3月期)では奈落の底に突き落とされてしまった。損益分岐点売上高(緑の線)は3兆円から4兆円の間を推移しており、SCP分析の面目をかろうじて保っているといったところだ。

 しかし、これでも〔図表1〕の三井住友はまだマシなほうであり、三菱UFJとみずほは、分析の体をなしていないので掲載は差し控えたい。地方銀行になると、もっと悲惨な分析結果となっている。

銀行の損益分岐操業度率は40%なり

 〔図表1〕の三井住友の例に限らず、2006年あたりまで銀行業界は健全経営だったようであり、参考として当時の損益分岐操業度率を紹介しておくと、各銀行ともほぼ40%で推移していた。

 メーカーの損益分岐操業度率が60%〜90%で推移するのに比べると、銀行の損益分岐操業度率は極めて低い。サブプライムローン問題を乗り切ることができたのも、損益分岐操業度率の低さによるものだったのかもしれない。

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