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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(19)

JTの売上高4兆円が一瞬にして蒸発するIFRSの憂鬱

高田直芳
公認会計士
2011/9/29

百貨店業界の全売上高の35.3%を一気に吹き飛ばし、アルコール飲料業界とタバコ業界の売上を数兆円単位で減少させる憂鬱の種が現れた。それは数年後に迫った、国際会計基準(IFRS)の適用だ。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年11月13日)

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IFRS導入で明らかになる
売上高至上主義の弊害

 IFRSに関してあまた議論されるもののうち、今回は、百貨店業界にとって甚大な影響を及ぼす「収益計上基準」を取り上げる。

 収益とは収入と利益の合成語であり、この場合の収入は現金収入ではなく、売上高を指す。したがって、増収増益は売上高増&利益増であり、減収減益は売上高減&利益減を表わす。

 収益性の指標としては、第14回コラム(REIT市場とROE編)でも紹介したようにROAやROEなどがポピュラーだ。ところが、日本では売上高の絶対額を重視する傾向が強い。百貨店業界をはじめとする小売業、そして卸売業や商社は、いまだに売上高至上主義の呪縛から逃れられないでいる。その呪縛を(好意的に解釈するならば)解き放とうとしているのが、IFRSである。

 IFRSでは原則として、「商品の販売や役務の提供により、売り手から買い手にリスクと経済的便益が移転したかどうか」によって、売上高の認識を行なわせようとしている。

 その際、不良債権や不良在庫などのリスクを負わなかったり、価格設定に関する裁量権を持っていなかったりする企業は「代理人」とみなされ、当該企業は仲介手数料だけを売上高として計上する必要に迫られる。こうした売上高の表示方法を、「純額表示」という。

 〔図表1〕を再び見て欲しい。ユニクロは自らリスクを抱えたビジネスを展開している企業であるから、3276億円の売上高はすべて「本人の努力」によるものであろう。

 それに対して、全国87社の売上高合計1兆1311億円は、かなり怪しい。その根拠は、百貨店業界に古くからある「消化仕入れ」という商慣行にある。「売り上げ仕入れ」や、それを短縮して「うりし」と呼ばれることもある。

全売上高の35.3%が吹き飛ぶ!?
悪しき慣習「消化仕入れ」の副作用

 「消化仕入れ」の例として、富山の薬売り(全国配置家庭薬協会)を持ち出そうと考えたが、ドラッグストア隆盛の時代に、そのようなビジネスモデルはもはやお目にかかれない。

 拙著『会計は、コストをどこまで減らせるのか?』70頁の「第9話:小売業のビジネスモデルは『富山の薬売り』にあり」で詳述しているので、興味のある読者のみ該当箇所を一読していただきたい。本コラムでは「消化仕入れ」の概要を紹介することにしよう。

 その基本は、商品を販売した時点で商品もまた仕入れたとみなす点にある。売上高と売上原価を同時に計上するのは当然の会計処理である。つまり、“商品仕入高と売上原価を同時に計上する”のが「消化仕入れ」の特徴である。

 また、値札に書かれてある販売額がそのまま百貨店の売上高となる。こうした表示方法を、「総額表示」という。

 ところで、百貨店のフロアを歩き回って、その品々をつぶさに観察していると、店頭に並んでいる化粧品や洋服のほとんどは、化粧品メーカーやアパレルメーカーのもので、百貨店自身は売れ残りのリスクを負っていないことがわかる。

 百貨店はメーカーなどに軒先を貸している大家にすぎず、IFRSの考えかたからすれば、百貨店は「代理人」なのである。

 代理人とみなされた場合は、どうなるか。百貨店の売上高は総額表示が許されなくなり、化粧品メーカーやアパレルメーカーから受け取る賃料(場所代)だけを純額表示することになる。

 〔図表2〕は、〔図表1〕に雑貨・家庭用品を加えた、百貨店全体の売上高構成である。対象期間は、2009年3月から2009年8月までの半年間としている。

〔図表2〕百貨店全体の売上高構成


 〔図表2〕から明らかなことは、もし、紳士服・用品(2136億円)、婦人服・用品(7370億円)、その他衣料品(1805億円)のほとんどが消化仕入れであった場合、これら全売上高に占める割合35.3%が(場所代部分を除いて)IFRSが導入された時期に一瞬にして吹き飛ぶことになるのだ。

 昔ほどではなくなったが、口銭ビジネスを展開している商社についても、同じような爆弾が隠されている。IFRSは、会計制度に仕組まれた時限発火装置であるといえるだろう。

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