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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(28)

医薬品業界を襲う「2010年問題」とIFRS

高田直芳
公認会計士
2012/3/8

ディフェンシブ銘柄とは、現在のようなデフレ状況下においても「不況に耐性のある企業」の株価を指す。今回はその中でも代表格である医薬品業界などを取り上げ、IFRSによる影響を探っていきたい。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年3月19日)

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 株式投資の世界には、ディフェンシブ銘柄という用語がある。「守勢に立つ」という意味ではなく、現在のようなデフレ状況下においても「収益に大きなブレが生じない企業」の株価を指す。「不況に耐性のある企業」とでもいえよう。

 コラムのネタとしては、こうした「ディフェンシブもの」よりも、「平成の脱税王」の責任を問う「オフェンシブもの」を執筆したほうが、世間ウケがいいのは承知している。なにしろ、時効期間が過ぎれば脱税できる、と納税者の多くが学習してしまったのだから。かの総理大臣に倣って、先日終了した確定申告の件数は全国的に激減したのではないか、と思えてしまうほどだ。

 とはいえ、今回扱うディフェンシブ銘柄のように、「腰だめ」で銃を構える話題も欠かせない。今回は、医薬品業界をはじめとしたディフェンシブ銘柄を分析するのと同時に、コラムの最後では国際会計基準(IFRS)を持ち出して、押っ取り刀で構える企業の喉元に、銃口を突きつけてご覧に入れよう。

ディフェンシブ銘柄の
「シャープのβ値」を算出

 物騒な前置きはともかくとして、「あの企業は、ディフェンシブ銘柄だ」と呼ばれるためには、第6回コラム(東芝編)で紹介した「シャープのβ値(資本資産評価モデル)」が1よりも小さいことが必要条件である(十分条件ではないことに注意)。業種としては、医薬品・食品・鉄道・電力などが挙げられることが多い。

 次の〔図表 1〕は、それら4業種についてβ値を求めたものだ。


 〔図表 1〕で求めたβ値は、横軸に日経平均の株価変動率、縦軸に当該企業の株価変動率をそれぞれ置いて散布図を描き、第3象限から第1象限に向かって描かれる右上がりの直線の傾きのことである。

 表計算ソフトのExcelを使って、株価変動率から散布図を描き、β値までを一発で求める方法については、拙著『会計&ファイナンスのための数学入門』117ページ以降を参照していただきたい。

 本連載でも過去に散布図を掲載している。第6回コラムの〔図表5〕では東芝・シャープ・ソニーを、そして第10回コラムの〔図表2〕では三井住友銀行の散布図を描き、それぞれのβ値までを求めた。

自動車業界の株価は
日経平均よりも上下幅が大きい

 次の〔図表 2〕は、主な業界のβ値(平均)を筆者が調べたものである。

 筆者が個人的に制作した「原価計算工房」というソフトは本来、原価計算や原価管理を行なうためのものなのだが、ことのついでに上場企業のβ値を解析する機能も搭載させている。「ITさまさま」の時代である。

 さて、〔図表 2〕にある医薬品から電力業界までは、〔図表 1〕の業界平均を転記した。〔図表 2〕にある自動車から商社までのβ値が「1」を超えている点に注目していただきたい。

 自動車業界のβ値は「1.227」になっている。これは、もし、日経平均株価が1%上昇した場合、自動車業界の株価は1.227%上昇することを表わしている。

 もちろん、日経平均株価が1%下落した場合、自動車業界の株価の下落幅は1.227%になる。つまり、β値が「1」を超える業界の株価は、日経平均株価の上下幅よりも大きな上下動を示す。

〔図表 2〕の上半分にある医薬品から電力業界までは、もし、日経平均株価が1%下落しても、それよりも小さい下落率にとどまることを示している。医薬品業界であれば、0.859%しか下落しない。

 不況期は、上昇率の大きさよりも下落率の小ささに注目が集まる。これがディフェンシブ銘柄といわれる所以だ。

 なお、〔図表 2〕の最下段にある情報通信業界のβ値が「1」を下回っている。この業界もディフェンシブ銘柄といえなくもない。

 確かにNTTやドコモのβ値は0.7台なのだが、ソフトバンクのβ値が1.126になっているので、情報通信業界平均のβ値が0.855にまで高まってしまっている点に注意したい。「業界の暴れん坊」ソフトバンクだけのことはあるようだ。

同じディフェンシブでも
まるで違う「医薬品」と「鉄道」

 本コラムの冒頭で、医薬品・食品・鉄道・電力はディフェンシブ銘柄だ、と紹介した。これらは内需関連という共通項を持っている。しかし、「医薬品」と「食品・鉄道・電力」とでは、ディフェンシブの温度差がまるで異なる点に注意する必要がある。

 まず、医薬品は資源価格の影響を受けにくいという特徴を持つ。また、医薬品は利幅が厚いため、粗利益率や投下資本利益率(ROI)のランキング表を作成すると、医薬品企業のほとんどが上位にランクインする、といった特徴も指摘できる。

 さらに、武田(武田薬品工業)やアステラス(アステラス製薬)のような新薬メーカーにとっては、無借金経営が大前提である。医薬品業界の1位と2位にある武田とアステラスの貸借対照表を見ると、それが一目瞭然だ。両社はともに、銀行借入金や社債といった有利子負債をほとんど抱えていない。

 ここで間違えてならないのは、有利子負債がない→支払利息が発生しない→景気変動に伴う金利動向に左右されない→だからディフェンシブ銘柄なのだ、とはならない点だ。

 なぜなら、鉄道や電力は、莫大な借金経営の下に運営されているからである。JR東日本と東京電力の有利子負債を見ると、それぞれ3兆5400億円と7兆5000億円に達する(09年12月期現在)。

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