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IFRSを会計×業務×ITで理解する(8)

財政状態計算書(2) 人ごとではない? 従業員給付

原 幹
株式会社クレタ・アソシエイツ
2011/2/28

投資家の視点から作られ、現在の日本基準からの考えの転換が求められるIFRS財務諸表の作成。業務プロセスやITシステムを適切に構築するための情報をお届けする。今回は損益への影響が大きく、あらゆる企業が対象となる「従業員給付」を取り上げる。

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 これからIFRSの適用を目指す日本企業に影響が大きいと考えられる会計基準のポイントと業務プロセスへの影響、ITシステムの対応方法を解説する連載の8回目。今回は損益への影響が大きく、あらゆる企業が対象となる「従業員給付」を取り上げる。なお、以下の文中における見解は特定の組織を代表するものではなく、筆者の私見である。


 本連載は下記の構成にてお送りする。該当パートを適宜参照されたい。

Part1:会計基準ポイント解説(本稿)
IFRSのトピックス概要と日本基準との差異を解説する。

Part2:業務へのインパクトと対応(本稿)
会計基準に対応するための業務サイドへの影響と対応方法を解説する。

Part3:ITへのインパクトと対応(ERP&IFRSへ、無償の会員登録が必要)
会計基準によるITサイドへの影響と対応方法を解説する。



 第8回は、

  • 従業員給付(IAS第19号)

について取り上げる。

Part1:会計基準ポイント解説

 IAS第19号では「従業員給付」を「従業員の勤務の見返りとして企業が支給するあらゆる形態の報酬」と定義している。具体的には以下の種類がある。

  • 退職後給付
    従業員雇用の終了後に支給される給付。
    例:退職給付(退職年金や退職一時金)、退職給付以外の給付(退職後生命保険など)

  • 短期従業員給付
    在職中の従業員に対して、勤務期間終了後12カ月以内に支給される報酬。
    例:賃金給料、社会保障拠出金、有給休暇など

  • その他の長期従業員給付
    退職後給付以外で、関連する勤務期間終了後12カ月を超えて支給される報酬。
    例:長期有給休暇、長期勤続給付など

  • 解雇給付
    退職前の雇用打切りや自発的退職の対価として支給される給付。
    例:早期割増退職金など

  • 株式報酬給付
    自社株式などを公正価値より低い価格で従業員に発行したり、それを取得する権利を従業員に付与したりする形で支給される給付。
    例:従業員持株会など

などがある。以下では、「退職後給付」と「退職後給付以外の従業員給付」に分けて解説する。

退職後給付の会計処理

 代表的な退職後給付として「退職給付」 (退職年金や退職一時金)について解説する。退職給付は、「確定拠出制度」と「確定給付制度」のそれぞれで処理方法が異なる。

 確定拠出制度は、年金掛金などの拠出額が確定しており、退職者への将来への給付額は年金運用実績に左右される退職給付制度である。この制度においては、会計期間中に拠出した掛金費用を即時に費用認識する。

 確定給付制度は、退職者への将来の給付額が一定の算式に基づいて確定している退職給付制度であり、厚生年金基金制度・退職一時金制度・税制適格退職年金制度が代表的だ。確定給付制度における企業の費用負担額は、従業員の将来給付額に基づいて誘導的に算出されるため、その計算は複雑になる。

 確定給付制度における会計処理を理解するために、まず退職給付債務の基本的な考え方について押さえておきたい。退職給付費用を計算するための変数は次のものがある。

  • 勤務費用
  • 利息費用
  • 年金資産と期待運用収益
  • 過去勤務費用
  • 保険数理上の差異

 概念図として表すと以下のようになる。

退職給付の概念図


  では、それぞれの変数を見ていこう。

勤務費用

 1人の従業員が定年まで勤務を継続し、退職一時金を受け取ると仮定しよう。確定給付制度では給付総額が確定しているため、「年間給与額」「勤続年数」「係数」に基づいて算出できる。仮に原幹さん(仮名、35歳)が65歳まで勤務するとして、退職直前の年間給与額を800万円、退職一時金係数を0.05とするならば、退職一時金の給付総額は以下のように算出できる。

 退職一時金の給付総額=800万円×(65歳−35歳)×0.05=1200万円

 この金額を従業員の勤務期間にわたって合理的に配分する必要がある。配分方法は複数あるが、IAS第19号では「予測単位積増方式」(projected unit credit method)に基づき、「支給倍率基準」「期間定額基準」などの方法を採用する。仮に「期間定額基準」によった場合、各期間の費用配分額は

 1200万円÷30年=40万円

 となる。この40万円は30年後における40万円であるため、割引計算を行って現在価値に引き直す必要がある。仮に合理的な割引率が5.00%であった場合、現在における費用配分額は

 40万円÷(1+0.05)^30=92,551円^は、べき乗の意味)

となる。この金額が当期における「勤務費用」であり、当期の損益に認識する。

利息費用

 ある年度に発生した勤務費用には、相応の利息が発生するものと想定する。仮に利率が4.00%である場合には、利息費用は

 92,551円×4.00%=3,702円

となる。

年金資産と期待運用収益

 退職給付の支払財源を年金基金などの外部積立などの方式に求める場合、年金基金への掛金を「年金資産」として給付財源に充当する。先の例にある勤務費用92,551円に対して企業が加入している年金基金への拠出額が40,000円である場合、差額の52,551円が正味の負債として計算される。またこの年金資産にも相応の利息が発生するものと想定する。ここで期待運用収益率を2.00%と仮定すると、期待運用収益は

 40,000円×2.00%=800円

となる。

過去勤務費用

 退職給付制度を新設したり他の制度から移管したりした場合、従来の給付水準に基づく計算金額との差異として「過去に発生した勤務費用の総額」を追加的に負担する必要が出てくる(実際に発生したタイミングから遅れて費用を認識するため「遅延認識」と呼ばれる)。これを「過去勤務費用(または過去勤務債務)」と呼ぶ。

保険数理上の差異

 勤務費用や期待運用収益などの変数は、今後の運用から達成されるべき期待値であり実績値ではないため、期待値との乖離が必然的に発生する。また退職給付債務の計算は保険数理上の多くの仮定(従業員死亡率、中途退職率、昇給率、割引利子率など)に基づいているため、これらの仮定と実際との乖離(かいり)が給付債務額の変動を生む。これらの「仮定と実際との乖離」を「保険数理上の差異」(または「数理計算上の差異」)と呼ぶ。

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