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連載:IFRS対応ITシステムの本質

最初に考えたい総勘定元帳の「松竹梅」

鈴木大仁
アクセンチュア株式会社
2009/7/30

IFRSは企業の会計ルールや業務プロセスなど経営要素全般に影響を及ぼすが、ITシステムでは総勘定元帳が影響を受ける。IFRS対応システムで最初に考えたいのは総勘定元帳の「松竹梅」だ(→記事要約<Page 3 >へ)

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 2005年の強制適用までにIFRS対応を終えた欧州企業の中には、現在もなおIFRSに対応した本格的なシステムの再構築に取り組んでいる企業があります。彼らはまず、2005年のIFRS強制適用段階では梅コースを選択し、その後の業務負荷、日増しにスピードアップが要請される連結決算開示、そして多極化するグローバル経済環境下で経営統一することの必要性から、松コースへの切替(再構築)を図っているのです。

 日本企業は、IFRS対応の後発という利点を活かし、先行している欧州企業の事例を踏まえて初めから1つ上のレベルを目指すべきだと考えます。いま、我々が直面している2009年のグローバル経済と、欧州でIFRSが強制適用された2005年当時を比較すると、経済が求めるスピードやダイナミズムは大きく異なります。これから再構築するITシステムは、このようなグローバル経済の変化に追従可能かつ複数国での共通利用が可能なシステムが求められます。

 また、梅コースを考えている中堅、国内ビジネス中心の企業は、システムの骨格部分がIFRS未対応という中途半端なシステム再構築は避け、直近の費用対効果が見合う骨太の梅コースを貫くことをお勧めします。そして、次の基幹系システム再構築や、ERPバージョンアップの機会に合わせて、松、竹コースへの道を描いておくべきと考えます。

ポイントは総勘定元帳の持ち方

 IFRS対応“松竹梅”システムの開発は、システムの骨格部分を構成する組織・勘定・製品・取引先などの主要コード/マスタや、会計をはじめとする主要業務プロセスを、グループ全体で適用できるようにグローバル規模でデザインし、テンプレート化することから始めます。

 その中でも最重要要素である総勘定元帳/勘定科目表(英語では、General Ledger/Chart of Account)について、解説します。

 まず、梅コースの場合にはIFRS対応が連結会計に限られるため、連結会計システム中の元帳を従来の日本基準からIFRSに刷新します。松コースと竹コースは単体と連結をダイレクトに接続するため、ERPなどの単体会計システムの元帳をIFRSをベースに刷新することを推奨します。

 単体会計の元帳をIFRS対応する理由は以下の2点です。

(1)IFRS対応により、マーケットに開示する財務諸表や経営者の見る数字(マネージングアプローチ)はすべてIFRSベースになるため、日々の業務オペレーションや各決算もIFRSを適用することが必要になる。
(2)IFRS対応によって業務量が増加する中、日本基準や米国会計基準ベースの財務諸表をIFRSベースの財務諸表へと調整仕訳/組替対応する方法では、連結開示45日以内という要請に間に合わないリスクがある。

 税務については、諸外国の動向から見ても、IFRS強制適用後も日本独自の基準に基づくと考えられます。つまり、ダブル・スタンダードを採ることになり、総勘定元帳、もしくは勘定科目表を切り分けて持つことができる仕組みが必須となります。

モデル別元帳の持ち方(アクセンチュア資料から作成)

 

 欧米のグローバル企業では、このダブル・スタンダード型がもはや常識となっています。具体的には、上記図に示すとおりですが、複数元帳(総勘定元帳の単位に情報を切り分ける)であっても、単一元帳(勘定科目表の勘定科目の単位で情報を切り分ける)であっても、日々の業務や決算のベースとなるIFRSを基準とすることが重要です。日本企業は、何十年も慣れ親しんだ日本基準の勘定科目表を脱し、グループ全体の会計ルールとして適用するIFRSベースの英文付き勘定科目表を定義することから始めることになるでしょう。

筆者プロフィール

鈴木 大仁(すずき ひろひと)
アクセンチュア株式会社
IFRSチーム
システムインテグレーション&テクノロジー本部
パートナー

1989年、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。大手消費財メーカー複数社のIFRS導入やERP再構築プロジェクトを手掛ける。そのほか、大手化学メーカー、大手食品・飲料メーカー、大手自動車会社などでERP導入プロジェクトを担当。
アクセンチュア IFRSサイト

要約

 IFRSは各企業の会計ルールや業務プロセスなどの経営要素全般に影響を及ぼすが、ITシステムは、中でも対応工数・プロジェクト期間の面で最も大きな影響を受ける。

 IFRS対応システムの選択肢として“松竹梅”の3コースが考えられる。必要最低限のIFRS対応は梅コース、グローバルで高収益を挙げる企業レベルの本格対応は松コース、その中間が竹コース。中間の竹コースは、国内ビジネスを中心とする企業や、ERPのバージョンアップに合わせたIFRS対応を図る場合の実践的な選択肢となる。

 日本企業は、IFRS対応の後発という利点を活かし、先行している欧州企業の事例を踏まえて初めから1つ上のレベルを目指すべきだ。これから再構築するITシステムは、このようなグローバル経済の変化に追従可能かつ複数国での共通利用が可能なシステムが求められる。

 IFRS対応“松竹梅”システムのポイントは総勘定元帳の持ち方。梅コースの場合にはIFRS対応が連結会計に限られるため、連結会計システム中の元帳を従来の日本基準からIFRSに刷新する。松コースと竹コースは単体と連結をダイレクトに接続するため、ERPなどの単体会計システムの元帳をIFRSをベースに刷新することが推奨される。

 税務については、諸外国の動向から見ても、IFRS強制適用後も日本独自の基準に基づくと考えられる。つまり、ダブル・スタンダードを採ることになり、総勘定元帳、もしくは勘定科目表を切り分けて持つことができる仕組みが必須となる。

 欧米のグローバル企業では、IFRSと税務のダブル・スタンダード型がもはや常識となっている。具体的には、複数元帳であっても、単一元帳であっても、日々の業務や決算のベースとなるIFRSを基準とすることが重要。日本企業は、何十年も慣れ親しんだ日本基準の勘定科目表を脱し、グループ全体の会計ルールとして適用するIFRSベースの英文付き勘定科目表を定義することから始めることになるだろう。

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