連載:IFRS対応ITシステムの本質(2)
先行企業のIFRS対応システムを解説しよう
鈴木大仁
アクセンチュア株式会社
2009/8/17
欧米グローバル企業は日本企業を凌ぐ圧倒的な業績を誇っている。このような欧州のハイパフォーマンス企業はどのようなIFRS対応ITシステムを開発しているのか。その開発思想を解説する(→記事要約<Page 3>へ)
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連載の第2回はIFRS応用編です。IFRSを活用し、第1回で解説した「松企業」への変革を果たしたグローバル企業のITシステム、システム以外の側面も含めたグローバル経営管理モデルについて説明します。現在、日本でも松企業を目指して検討や構想を始めている企業もあり、日本企業にとっては、IFRSへの対応がグローバル経営管理モデル再構築の始まりになると考えています。
今回の世界同時不況は、世界の資本市場がもはや一体化していることを示しています。ITの急速な進展により、1国や1企業の動向が世界経済に瞬時に影響するようになりました。その影響の範囲は、先進国のグローバル企業にとどまらず、さまざまな国やその国内企業、消費者にまで及んでいます。
多極化経済において各企業に求められる能力
これまでの日米欧を中心とする世界三極、アジアを含めた四極といった地域や国という管理単位の壁はなくなり、新興国、途上国も含めて市場はつながってきています。まさに多極化という言葉で呼ぶことが相応しい多極一体型経済が、今後私達がプレーし続けねばならない場所なのです。
このような環境下で各企業はどのような経営能力が求められるでしょうか。まず、地域や国を超え、本社と各拠点間の事業や製品、サービス、業務取引ごとの業績情報を“見える化”する力(マイクロ・マネジメント力)が求められます。さらにその実績値を踏まえて、タイムリーに業績を予測し、拠点ごとの対応アクションを促す経営能力が求められます。
グローバル・ハイパフォーマンス企業
アクセンチュアが2006年から2008年に実施した調査(High Performance IT Research 2006-2008)では、企業のIT関連支出を、固定的IT支出(運用保守費用)と新規IT投資(成長やコスト削減のための投資)に分けて分析しています。これによると、日本企業のIT支出のうち76%が固定的IT支出であるのに対し、欧米企業では53%にとどまるという結論が出ています。
また、ハイテク、自動車、消費財、保険業をはじめ、各業界でトップクラス企業として名を連ねている欧米のグローバル企業の売上高成長率(CAGR)が10%以上なのに対し、日本企業は数%です。また営業利益率は欧米企業が10〜20%台なのに対して多くの日本企業は数%という結果が出ており、欧米企業が日本企業を凌ぐ圧倒的な業績を誇っています。
では、IFRSの先駆者である欧州のハイパフォーマンス企業のITシステムの構築思想を以下に説明します。
徹底した標準システムの採用
◆ERP(単体会計システム及び基幹系業務システム)
日本企業でも従来から国内や海外の拠点に標準システムを導入してきましたが、それらの多くは同じ製品ベンダの同一ERPシステムを使用していても、1つの拠点で構築したシステムをコピーして独自にカスタマイズを加えた上で使用する、もしくは最初から別々に構築する、という個別最適の考え方に立ったものでした。連結会計に対応するため、連結勘定科目、会社コード、一部取引先や製品コードなど限定された部分のみ共通化していますが、それ以外は拠点ごとに独自を許容、それが当たり前という状況でした。
一方、欧米のグローバル企業の標準システムでは、コードやマスタ、システム機能の徹底した共通化、物理的な共有を推し進めています。IFRS対応を契機に、ここ2、3年の間にグローバルERPシステムを構築した欧州企業の中には、販売物流・製造・調達・会計・人事といった基幹系業務全般の約85%をグローバルで共通化した、またIFRSベースの会計業務のみを対象範囲として場合、98%の機能を共通化したというケースもあります。
また、ITの進歩により、クラウド・コンピューティングに代表されるような、ERPによる全世界の業務や経営管理を1コンピュータ(ハードウェアやインスタンス)上に集約し、運用することがすでに可能な世の中になっています。そして、ITシステム面の効果だけを見ても、徹底した標準化や共通化、ERP運用保守業務を集約することにより、標準的な範囲で50%、中には70〜80%というレベルでのトータルコスト削減に成功しているグローバル企業の事例も数多く挙がっています。システムの初期開発コストについても、拠点ごとにバラバラにERPを導入することに比べ、トータル・コスト効率に優れていることは一目瞭然です。
初期ERP導入ブームは会社単位の導入だった訳ですが、これからのERP導入はグループ単位で導入する。つまり、IFRSの思想と同様に、ERPも単体経営からグループ経営を支えるシステムへの進化していくものと捉えるべきでしょう。