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業種別IFRSガイド(1)

グローバル製造業がIFRS適用で苦労するのはここ

垣内郁栄
IFRS 国際会計基準フォーラム
戸野本時直(監修)
アクセンチュア 製造・流通本部 エグゼクティブ・パートナー
2010/3/10

「多品種、高頻度、少量生産」に直面するグローバル製造業。IFRSを適用するうえではいくつかの会計基準を確認する必要がある。ERPなどのITシステムについてもグローバルで標準化し、できるだけ運用の負荷を下げることがポイントとなるだろう。(→記事要約<Page 2 >へ)

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多品種、高頻度、少量生産

 いまの世の中はユーザーニーズが多様化し、一様の製品がすべての人に受け入れられることは少なくなっている。携帯電話が典型的なように、その時々の流行を受けて四半期など短いサイクルで製品は発表される。さらに個別ニーズに対応するため、製品は受注生産の色が強くなり、その分、生産量は少なくなる。“マス”ではなく“個”客を見なければならないといわれるのはそのためだ。

 自動車や電子機器、産業機械、日用品など製造業はその多くの企業がグローバル展開している。世界展開する製品であればなおさらである。ユーザーニーズのみならず各国・地域で利害の絡んだ異なる規制、コンプライアンスへの対応まで迫られ、これらに対応していく難易度はますます高まっている。いわゆる「多品種、高頻度、少量生産」への対応がグローバルレベルで不可欠となってきている。

 加えて、さらなる生き残り条件として必要となってくるのが、自社以外も含めたグローバルの経営資源をいかに有効に、効率良く活用できる体制が構築できるかということである。単に割安な部材が海外から調達でき、オフショアの安い労働力を活用した生産拠点を設け、世界の幅広い地域で販売する、これだけでは世界各国の有力企業に対抗していくことはできず、これらを有機的に連携させ、すべてを自らの手足のように使いこなせる段にまで進化させて初めて、世界と戦える土俵に上がる資格が得られる。

 これらの流れは、自動車や携帯電話など一般消費者に近い製品だけでなく、個別受注型の製造業でも同様だ。製造業企業はこのような「多品種、高頻度、少量生産」に対応する財務会計を含めた、経営管理の仕組みを整えることが求められている。

 頻発する自動車のリコール問題でも明らかなように品質に対するユーザー意識の高まりも企業の変革を促している。どの製造業も1社ですべての工程を担うことは少なく、複数のパートナー企業と協力して完成品を製造するのが一般的だ。また、部材メーカーであれば、複数の取引先に協力して、その取引先が求める品質の製品をベストのタイミングで納入することが求められている。複数の関係者が入り組む中でいかに品質を維持するのか。その管理をも含めたシステムが重要になっている。

まず検討したい固定資産

 このような状況に身を置く製造業がIFRSを適用する場合、いくつかの会計基準をクリアすることが必要になる。どの製造業企業でも影響を受けそうなのが、IAS16号の有形固定資産だ(参照記事:「有形固定資産」は2つの要件で認識される)。製造業企業が持つ工場や製造設備などが対象になると考えられるが、日本基準と比較してどの資産を有形固定資産として扱うかは、IFRSは規定しておらず、各企業が自らで判断する必要がある。

 有形固定資産では減価償却も焦点になる。IFRSではコンポーネント・アカウンティングの考えの下、取得原価に対して重要な構成部分は個別に減価償却する。よく例に挙げられるのは航空機で、航空機の機体とエンジン、座席はそれぞれの個別に減価償却することが求められる。製造設備などにおいても、どの単位で減価償却を行うのかというポリシーをあらかじめ決める必要があるだろう。

 設備などの耐用年数、残存価額についても同様に見直しが必要だ。従来、固定資産、残存価額は日本の税法に基づき決められることが多かったが、IFRSではそれぞれの実状に合わせて各企業が判断する必要がある。この際、「初度適用」で考慮すべき「遡及適用」を十分に認識しておく必要がある。免除規定も存在するが、税法とのギャップによっては初年度の開示に向けて膨大な作業が発生する可能性が高い。もちろん、だからといって実態が変わるわけではないのだが、準備には十分な時間をかけることを想定しておいた方がよいと思われる。さらに日本基準でも適用が始まる資産除去債務への対応も迫られるだろう(参考記事:4ステップで進める資産除去債務への対応 )。

 IFRSの財政状態計算書に響いてきそうなのは固定資産の減損だ(IAS36号、参考記事:IFRSと日本の「減損会計」、その違いは?)。日本基準と比べてより早い段階、つまり減損の兆候が分かった段階で減損する必要がある。また、製造業企業で問題になりそうなのが、無形資産における開発費の資産計上だ。日本基準では個別に無形資産を扱う会計基準はなく、IFRS適用企業は新たな対応を迫られるケースが多くなりそうだ。

 無形資産では特に研究開発費の扱いが問題になる(参考記事:「無形資産」「リース」の会計基準を見てみよう)。日本基準では研究開発費を原則として支出時に費用処理しているが、IFRSのIAS38号では、条件を満たす場合、開発時の支出を資産計上する必要がある。製造業企業は研究費と開発費を分けて管理する仕組み、有形固定資産と同様に無形資産を評価し、残存価額、耐用年数を認識する必要があり、企業は検討を要するだろう。

 今後は研究開発の案件ごとにそこから生み出されるはずのキャッシュフローの評価・管理を継続的に行っていく必要がある。研究開発案件の取捨選択を行ううえでこれまで以上に重要な判断要素になってくるであろうし、研究開発部門の評価にもつながってくることになる。投資家がそこまで監視するようになるということだ。IFRSはバランスシートとキャッシュを生み出す力に強く傾倒している。企業は単なる会計処理を行うのではなくて、事業に投じている資産が日々の業務を通じていかにキャッシュを生み出しているのかをより強く意識する必要があるだろう。

 収益認識については従来の出荷基準が認められない可能性もあり、会計基準の動向に注目することが大切だ(参考記事:「収益基準」を5つの観点から見てみよう)。現代の製造業企業は多数のパートナーとビジネスを行っているのが一般的。収益認識が変更されると、パートナー企業も対応が迫られる。例えば、納品先とEDIなどでデータ連携しているような場合はもちろん、手書きの伝票によるやり取りを行っている場合においても、納品先の協力なしに自社だけで処理を完結することはできない。自社のみならず取引先の業務やITシステムへの影響度を測りながら、現実的な解決策を探ることが求められる。

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