連載:見えてきた「次世代IFRS」(2)
2つの特徴で読み解く「次世代IFRS」への対応
井上寅喜
株式会社ヒューロン コンサルティング グループ
2010/2/3
変化し続けるIFRSをどうとらえて、どう対応していくのか。「次世代IFRS」のキーワードから、企業が考えるべきことを挙げてみよう(→記事要約<Page 3>へ)
PR
前回(「米国会計基準の影響で変化を遂げるIFRS」)は、今後予定されるIFRSの改訂がどのようなインパクトを及ぼすか検討し、IFRSのこれまでの動きを、MoU、そして米国会計基準との関係という観点から解説した。
今回は、前回の続きとして日本におけるコンバージェンスの動向を再確認し、その上でMoU(Memorandum of Understanding、米国財務会計基準審議会と国際会計基準審議会のコンバージェンスについての覚書)および次世代IFRSとの関係について言及する。次に次世代IFRSの特徴を検討し、次世代IFRSの基本的考え方について確認する。最後に、これまでの内容を踏まえ、今後日本企業がIFRSのアダプションの動きの中で留意すべきポイントを指摘したい。
なお、本稿は筆者が個人的な立場で執筆するものであり、文中の意見にわたる部分は、個人的な見解に過ぎないことをあらかじめお断りしておく。
日本におけるコンバージェンスの動向とMoU
前回指摘したとおり、従来、日本においても1996年の会計ビッグバン宣言以降、金融商品会計をはじめとする多くのコンバージェンスの努力が継続されている。まずは近年のコンバージェンス作業の状況について概観してみたい。図1をご覧いただきたい。
【図1】短期・中期コンバージェンス項目 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
企業会計基準委員会(以下ASBJ)が2007年8月8日に国際会計基準審議会(以下IASB)との間で行った「会計基準のコンバージェンスの加速化に向けた取組みへの合意」(以下、東京合意)を踏まえ公表されたプロジェクト計画表に基づき、2011年6月30日を目標として急ピッチでコンバージェンスが進んでいることがご理解いただけるであろう(現状のプロジェクト計画表についてはASBJ資料を参考:PDF)。
2008年12月に欧州委員会が、日本会計基準について、EU採用のIFRSと同等である旨を決定したことを考えても、日本会計基準が現行のIFRSや米国会計基準に遜色ない会計基準として生まれ変わりつつあることがうかがえる。
しかし、MoUあるいは次世代IFRSと、日本におけるコンバージェンス作業との関係という観点では、東京合意の具体的な内容について、より注意を払わなければならない。
東京合意の本文では、以下の指摘がある。
「(コンバージェンスにおける)この目標期日(2011年6月30日)は、2011年6月30日後に適用となる新たな基準を開発する現在のIASB の主要なプロジェクトにおける差異に係る分野については適用されない。」(括弧内は著者追記)
これは、上記に示した2011年6月までの日本会計基準の改訂作業が、MoUに基づくIFRSと米国会計基準のコンバージェンスにより生まれる次世代IFRSに、必ずしもすべての項目においてつながるものとはいえないことを意味している。
2011年6月以降も日本におけるコンバージェンス作業は継続されることから、次世代IFRSの内容についてもいずれ日本会計基準に取り入れられていくことになると思われるが、日本会計基準が次世代IFRSの内容を後追いで取り入れていく形をとる以上、結果として日本会計基準が次世代IFRSと常に同一の内容を維持することはできないと考えられる。
すでに金融庁より2015年または2016年における強制適用の示唆がなされていることを考えれば、IFRS適用を検討するうえで、日本会計基準のコンバージェンスの動向を観察するのみならず、併せて次世代IFRS自体に強い関心を抱く必要があるといえ、それら動向に基づいた適切な対応が求められることになるであろう。