前回記事「利益とは? IFRSをめぐる議論をまとめた」では、純利益・包括利益を巡る議論について、IFRS推進派と慎重派の議論を整理した。今回は、公正価値会計を巡る議論と製造業にIFRSを適用することに関する議論を取り上げることとする。
IFRSは公正価値会計なのか?
まずは、東京財団の「日本のIFRS(国際財務報告基準)対応に関する提言」(以下、「東京財団の提言」と表記、資料へのリンク)からIFRS慎重派の見解を見てみよう。
IFRSと日本基準の「会計観」の本質的な違いを認識することがまず重要である。現行IFRSの具体的な規定をみると、まだIFRS本来の会計観(資産負債アプローチ・公正価値会計)を完全に体現しているとはいえない。
(東京財団の提言、4ページ) |
|
ここでは、IFRS本来の会計観として公正価値会計を明示している。そして、IFRSにおける「公正価値」の取り扱いについて、次のように説明している。
資産負債アプローチをとるIFRSにとっては、資産の評価が極めて重要となる。その際に使われる概念が「公正価値」である。公正価値は、金融商品、有形固定資産、棚卸資産、投資不動産等、IFRSの様々な領域で使用が求められ(あるいは選択が認められ)、その領域は拡大を続けている。
(東京財団の提言、10ページ) |
|
また、2011年6月30日に開催された企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議では、複数の委員から、IFRSでは資産を時価評価する点の指摘がある(議事録へのリンク)。
このIFRSについて、私どもは幾つかの懸念を持っております。1つは、資産負債アプローチという中で、固定資産や金融資産などの資産価格の増減によって利益が大きく変動する性格のものであるという点です。
(日本労働組合総連合会 副事務局長 逢見直人氏)
皆さんおっしゃっているように、すべての資産、負債の時価評価や、その結果としての包括利益一本やりの考え方に対しては、(中略)ものづくりの企業経営の立場からいうと、やはり問題があろうかと思っております。
(東海ゴム工業 代表取締役社長 西村義明氏) |
|
これに対して、IFRS推進派の意見を見てみよう(参考記事:「IFRSは製造業に向かない」を元IASB理事が検証)。
「資産負債アプローチを採用するIFRSでは、資産及び負債の評価の中心は、公正価値である」という仮定の下に(…【中略】…この仮定は間違っている)、IFRSは金融業には適切で、製造業には不適切であるという主張がある。そこでは、IFRSには、フローの期間配分という発想がないと指摘されている。IAS第16号(有形固定資産)やIAS第38号(無形資産)は、取得原価で認識された有形固定資産や無形資産の減価償却による期間配分を基本としており、そのような資産を公正価値で測定するという議論は、これまで、IASBで一度も行われていない。
なお、現行IAS第16号やIAS第38号では、当初取得時以降の会計処理として、原価モデルと再評価モデルのいずれかを選択することを認めているが、再評価モデルは、財政状態計算書(貸借対照表)で認識されている有形固定資産の簿価が公正価値と大きく異ならないようにするために行われるものであり、金融商品などに適用される公正価値測定とは異なるものである。
(前IASB理事・山田辰巳氏2011年8月24日講演会資料)
|
|
前回記事|1 2 3|次のページ