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連載:SAPで実現するIFRS対応(1)

SAPユーザーがIFRS対応で考えるべきこととは?

鈴木大仁
アクセンチュア株式会社
2009/11/2

大企業向けERPとして高いシェアを持つSAPシステムのIFRS対応を説明する。ポイントになるのは目指す経営モデルとバージョンアップのタイミングだ。SAPユーザーがIFRS対応で考えるべきこととは?(→記事要約<Page 3 >へ)

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バージョンアップ時の着眼点

 SAP製品の話に戻そう。特にSAPユーザー企業は、バージョンアップとIFRSのスケジュール上の関係だけでなく、新バージョンに乗り換えるときの中身(勘定科目/総勘定元帳などの中核となるデータ構造)を、どこまでIFRSに本格対応させるかによって、単純な「テクニカルアップグレード+IFRS機能追加方式」とするか、データ構造の見直しを伴う「再構築方式」とするか、アプローチや推進プロジェクトの形が大きく異なってくる。この点については、各社が導入しているいまのSAP ERPと、前述した欧米ハイパフォーマンス企業のERPとの質的な違いを比較すると、想像しやすい。

 総勘定元帳を心臓部、会計情報の流れを血管に例えると、バージョンアップ方式による従来の日本基準ベースからIFRSベースへのオペレーションの切替は、静脈を動脈と入れ替える大手術をするようなものであり、制約やリスクは極めて高いものとなる。

 その理由は、複数会計基準対応したNew GLを導入すると、総勘定元帳として、Leading Ledger(主総勘定元帳)と複数のSub Ledger(サブ総勘定元帳)とを保持することが可能となるが、IFRSに本格的対応するならば、マネジメントアプローチの観点から、社内で経営管理する業績情報をそのまま開示することが求められるからだ。これは、日々のオペレーション(伝票更新など)や経営管理をIFRSですべきことを示唆している。

 具体的には、日本国内の企業にとっては、Leading LedgerをIFRSベースの総勘定元帳/勘定科目体系とし、Sub Ledgerに税務対応目的で従来の日本基準の総勘定元帳/勘定科目体系を設定すべきこと(元帳逆転)を意味する。そして、堅牢な設計構造を持つERPでは、販売(SD)/在庫管理(MM・PP)/固定資産(AA)、管理会計(CO)などのすべてのサブモジュールは、Leading Ledgerにのみ直結しており、元帳の逆転に伴い元帳の前方にある伝票処理を担う販売物流・資産管理業務から、元帳の後方にある管理会計業務のすべてに渡って会計情報流(トランザクション)の入れ替えが必要となる。

 ただ、これは決して悲観的にとらえることではない。再構築方式とはいっても、既存のアドオン機能などシステム資産の継承は可能であり、引き継げる資産は引き継ぎ、IFRSという原則主義のもと、時代にあった自社の経営管理の在り方を、本社単体のみならず、グループ企業全体をスコープとして考える重要な機会となる。

 そして、このような考えで構築したERPは、国内外の子会社・関係会社でも共通利用可能となり、まさしく欧米ハイパフォーマンス企業のERPの導入モデルに昇華するからだ。

 最後に、Financial ConsolidationとPlanning and Consolidationという連結会計ならびに経営管理製品についても少し触れておきたい。ERPがグローバル統一のオペレーションモデル実現のツールとすれば、これらはグループ経営管理実現ツールとして、とらえることができる。つまり、“経営の中身を考えること”“グローバル本社とグローバル拠点がコラボレーションし、経営管理サイクルを回す仕組みを考えること”から、この部分への取り組みが始まる。

筆者プロフィール

鈴木 大仁(すずき ひろひと)
アクセンチュア株式会社
IFRSチーム
システムインテグレーション&テクノロジー本部
パートナー

1989年、 アクセンチュア入社。大手消費財メーカー複数社のIFRS導入やERP再構築プロジェクトを手掛ける。そのほか、大手化学メーカー、大手食品・飲料メーカー、大手自動車会社などでERP導入プロジェクトを担当。IFRSフォーラムで「IFRS対応ITシステムの本質」を執筆
アクセンチュア IFRSサイト

要約

 大企業向けERPとして高いシェアを持つSAPシステムのIFRS対応を説明する。ポイントになるのは目指す経営モデルとバージョンアップのタイミングだ。SAPユーザーがIFRS対応で考えるべきこととは?

 IFRS元年である2009年は、SAPユーザー企業やSAP製品の導入を検討する企業にとって、これまでにない変化が訪れようとしている。IFRSは多極化する市場において、投資家が会計基準の相違なく企業を評価するために必要不可欠な共通尺度であり、採用を検討する企業にとっては、本社中心や個社単位の経営から、グループ全体の最適経営へと舵取りを大きく変えることを世の中にアピールできるのである。つまり、IFRSの本質は経営の中身を考えることである。

 現在、SAPが販売している複数会計対応版であるSAP ERP Central Component(ECC6.0)以前のバージョン(V4.7=Enterprise)を導入しているーザー企業は、2013年3月の保守期限終了のタイミングで大きな判断を迫られる。

 2015年3月期、もしくは2016年3月期からの強制適用を想定すると、2013年4月に始まる会計年度からIFRSバランスシートを準備し、IFRSベースの転記をすべきことを示唆している。つまり、2013年3月まではSAP ERPの旧バージョンで運用して、2013年4月からは新バージョンでの運用を開始し、新バージョンはIFRSに対応したものとして構築することが理想となる。

 またSAPは、ビジネスユーザー向け製品ポートフォリオに含まれる「SAP BusinessObjects Financial Consolidation」と、「SAP BusinessObjects Business Planning and Consolidation」を新たな連結会計ならびに経営管理製品として紹介している。

 SAP製品を選択するのであれば、IFRS対応に伴う連結会計システムの刷新を考える際、ERPと合わせた統一IT基盤上で、多くのIFRS対応実績とIFRSテンプレートを具備し、連単会計機能横断での構成検討が容易なこれらの新製品は、代替案の1つとして有力と考える。

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