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IFRS関連書籍ブックガイド(2)

会計プロフェッショナルの苦悩と喜び

2011/3/28

IFRSの適用は企業の経理部はもちろん、情報システム部や監査法人にも大きな影響を与えます。また、財務諸表の読み手にとっても考え方の変化を迫ります。会計プロフェッショナルはIFRS適用ではどのようなことを考える必要があるのか。3冊の書籍を紹介しましょう。紹介した書籍のプレゼントも実施します。

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情シスと経理の溝を埋める

『会計士さんの書いた情シスのためのIFRS』(日本IT会計士連盟 坂尾栄治/原幹/青木幹雄/高見亮 オージス総研 竹政昭利=著)

 情報システム部門、略して情シス。企業の重要な資源である、ヒト、モノ、カネ、情報のうち、主に情報を管理する情シス。企業の内部で業務システムを開発し、システムを運用するなど、情報インフラを支えている情シス。IFRS導入時に会計システムの変更などで大きな影響を受けることになる情シス。経理財務部門の次にIFRSが気になる情シス。

 本書は、そんな情シス向けに書かれたものです。IFRSの入門から始まり、会計システム、IFRSと日本基準の会計処理の違い、システム導入アプローチについて解説されています。

●日本IT会計士連盟 坂尾栄治/原幹/青木幹雄/高見亮 オージス総研 竹政昭利=著
●翔泳社 2011年1月
●2480円+税
●出版社のWebサイト

 本書の優れている点はIFRSにおける会計処理とシステムに着目するだけでなく、導入実務をも意識した作りになっている点です。

 特に現在の経理業務はシステムに依存して会計処理を行っています。会計システム単独だけでなく、会計システム自体が販売、給与計算や生産といった他の業務システムと連動している会社もあると思います。さらには、ヒューマンエラーの防止や決算早期化、さらには内部統制の影響もあって、システム化の流れがさらに加速している会社も多いのではないでしょうか。

 こうしたことから、経理部門もIFRSを効果的・効率的に導入するためにシステムを意識して進めることになります。情シス側としても、IFRSが現在改訂を行っている点などを踏まえた上で、適切にシステムに反映していくことが必要となります。

 このように、IFRS導入作業は両者が相手の立場を理解し、協力して進めることが大切です。しかしながら、IFRSの入門書の多くは会計処理が中心で、情シスの方にも読みやすい本は非常に少ないです。また、経理の視点から会計システムを勉強できる本も少ないのが現状です。その中で本書は、経理と情シスが一緒に読むことも十分可能な内容であり、部門間の相互理解を深める意味でも有益な1冊となると思います。

 また、これまでの日本基準とは違い、IFRSに対する知識においては、経理も情シスも、ベテランも若手もほぼ横一線です。この時期に勉強を始めると経理よりもIFRSに詳しい情シスになれるかもしれませんし、プロジェクトで最もIFRSに詳しいのが一番の若手のケースということもあるでしょう。情シスの方も、IFRSの導入を1つのチャンスととらえて勉強を始めるのはいかがでしょうか。

 本書は、IFRSを勉強したいという情シスの方やシステムを理解したいという経理部門の方にも読んでほしい入門書です。

(事業会社経理、公認会計士試験合格者 高野裕郎)

財務諸表の”why”をトコトン追求する

『企業の経営戦略を決算書から見抜く 「財務諸表」読解入門』(高田直芳=著)

●高田直芳=著
●日本実業出版社 2011年1月
●2000円+税
●出版社のWebサイト

 財務諸表の読み方を指南するビジネス書が売れています。企業のストック、フロー、そしてキャッシュの情報を示す財務諸表はまさに企業の成績通知書であり、同時に未来予測の書でもあります。会計にかかわるか方はもちろん、一般のビジネスパーソンも財務諸表の読み説きは必須の時代といえるでしょう。

 本書の「はじめに」にあるように、この本では「財務諸表(決算書)の仕組みに関する説明」と、財務諸表に隠された「経営戦略を読み解く方法」を説明します。これまで損益計算書、貸借対照表と呼ばれてきた日本の財務諸表はIFRSアドプションによって包括利益計算書、財政状態計算書と変わります。名前が変わるだけでなく、これは本書でも強調されていることですが、会計処理の概念が従来の「収益費用アプローチ」から「資産負債アプローチ」へと変わります。

 つまり、財務諸表の読み説き、活用の方法が大きく変わるということです。IFRSでは財務諸表の表示も従来と変わりますが、その概念が変わることが特に大きいでしょう。本書で力を入れて説明されるのは、この会計思想の変化です。「はじめに」では「財務諸表の基本的な仕組みを解明する”why”をトコトン追求する」と宣言されています。

 といっても難しい説明はありません。「財務諸表って何?」から始まり、その基礎やビジネスにおける意味が分かりやすく説明されます。IFRSで迎える財務諸表の変化、考え方の変化も説明されているので、IFRSを学びたい人にも適していると言えるでしょう。

 本書が注力するもう1つの説明が財務諸表から分かる企業の経営戦略の読み説き方法です。著者の高田直芳氏は当IFRSフォーラムでも連載「大不況に克つサバイバル経営戦略」(ダイヤモンド・オンライン転載)を掲載しています。この連載でも語られているように本書では財務諸表に記載されているさまざまな指標を駆使して企業の過去・現在・未来を明らかにします。その指標とはコスト、税金、純資産、キャッシュなど。ファイナンス理論も活用しながら、企業の実体を分析するための知識が得られます。

(IFRSフォーラム 垣内郁栄)


会計監査プロフェッショナルの苦悩と喜び

『監査法人』(矢島正雄/小林雄次=脚本 小林雄次=ノベライズ)

●矢島正雄/小林雄次=脚本 小林雄次=ノベライズ
●TAC出版 2010年10月
●1500円+税
●出版社のWebサイト

 本書は以前、NHK土曜ドラマとして放映された番組をノベライズ化した小説です。2010年放送の連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』で主役として大注目された女優、松下奈緒が、重要な脇役である山中茜として出演しました。普段仕事で忙しく、なかなかテレビを落ち着いて見る機会がない会計人の方には、松下奈緒の出世作として名高いドラマでもあります。

 本書の主なストーリーは、クライアントの企業が次々と粉飾に手を染める中、主人公である若杉健司はクライアントに対して適正な会計処理を厳格に適用するように求める「厳格監査」で監査を進めていきます。その結果、クライアントは上場廃止、そして倒産。その中で健司は、公認会計士としてこのまま厳格監査を進めるのか、それとも「ぬるま湯監査」で粉飾を見過ごしてしまうのか。苦悩する中で健司が成長していくというストーリーです。

 公認会計士は多くの方にとってなじみが無い職業です。そもそも決算がどのように行われているかさえ、経理を除くとあまり知られていません。その中で「財務諸表の適正性について意見を表明する」公認会計士、そして公認会計士で組織された監査法人は大半の人にとっては不思議な業界に映ることでしょう。

 公認会計士という世間に知られていない分野を小説にするには困難が伴います。会計監査の現場では聞かないような不自然な台詞や状況がドラマでは見受けられました。ドラマのイメージをそのまま引き継ぐためか、本書でもそのまま登場してしまいます。

 しかし、その違和感を差し引いても、その題材とストーリー、個々の登場人物のキャラクターのおかげで、健司と同じように悩みながら読むことができました。

 プロフェッショナルである公認会計士、その会計士で組織された監査法人。プロフェッショナルである彼らも普通の人間です。この粉飾を止めたら会社は倒産、自分の目の前の人間が解雇になるかもしれない。その中で公認会計士として、毅然として不適正意見を表明できるのだろうか。もし自分が健司と同じような立場だったら、健司と同じことができるのか。それとも違う行動を取るのか。自分がプロフェッショナルとなるために、今後磨かなくてはならない資質とは何か。本書は小説ではありますが、良い題材になるのではないでしょうか。

 公認会計士のみならず、プロフェッショナルと呼ばれる職業の方や、それを目指す方には、自分自身が健司と同じ立場だったらどうするのか、ぜひとも読んで考えていただきたい一冊です。

(事業会社経理、公認会計士試験合格者 高野裕郎)

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締め切りました。ご応募ありがとうございました。

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