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連載:経営財務トレンド(2)

IFRS教育の肝は「英語で読んで考えて」

垣内郁栄
IFRS 国際会計基準フォーラム
2009/8/13

 IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)をスムーズに適用するためには社内での教育やトレーニングが欠かせないといわれる。しかし、その方法は各社とも手探り状態。IFRS教育について中央大学 専門職大学院国際会計研究科の教授 高田橋範充氏に聞いた。

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――金融庁の中間報告ではIFRS適用について教育の重要性がうたわれています。特に企業内での教育はどう考えればいいでしょうか?

高田橋氏 IFRSは原則主義で基本的に細かい規則がなく、自分たちで考える必要があります。思考方法を身に付ける必要があるということです。どこかに書いている規則で財務諸表を作るのではなくて、考え方が分からないと財務諸表が作れない。そこが一番違うところです。この考えにはイギリス文化が強く反映されていると思います。日本の会計原則的な思考をしていくと、分からなくなる。それをどう理解させていくかが学校教育にとって一番重要なことでしょう。

 そのためには翻訳を使わずに英語でのIFRS教育が重要です。英語で読んで英語で考えて、英語で伝達をするという当たり前のことをまずは始めます。それをやらないといつまでもIFRSは分からないのではないでしょうか。IFRSでは英語の情報が圧倒的に多くなり、ドラフトなども英語です。現場では翻訳している時間がないことも考えられます。英語で考えていくしかないという場面もあるでしょう。企業内でもIFRSを英語で読んで理解する体制が必要です。

――IFRSの原文と日本語訳では違いがありますか?

高田橋氏 日本語訳と原文ではIFRSの印象が異なります。日本語に翻訳してそれをベースに考えると日本語の思考になります。英語で考えることを身に付けるしか方法はないでしょう。

――企業内で会計に関わる人は大学で専門的に学んだ人もいるが、OJTで学んできた人も多い。そういう人はIFRSにどう対応するのがいいでしょうか。

中央大学 専門職大学院国際会計研究科の教授 高田橋範充氏

高田橋氏 IFRSは会計的な意識よりもディスクロージャーとしての意識が強い。会計は仕訳を切って利益を計算するという業務管理活動ですが、IFRSは会計ではなく、いわゆるファイナンシャルレポーティングやディスクロージャーをどうするのかということが主題です。このことは日本では伝わっていなくて、会計的な捉え方をされているケースが多いようです。もちろん、ディスクロージャーが変わるということは会計処理が変わるということですが、それだけではない。思考の転換が必要になるでしょう。

 思考を転換するには(IFRSの)フレームワークの理解が欠かせないでしょう。これまでの会計基準の変更のように対処療法的に対応していると、いつまでたっても経営の先が読めないことになります。企業は腰を据えて考える必要があるように思います。企業の見方、評価の仕方が変わるということから理解しないといけないでしょう。

――ただ、企業内の財務、経理部門は内部統制の対応をやっと終えた段階。腰を据えた、組織的な対応が難しい企業も多いと思います。

高田橋氏 この10年間は会計ビックバンから始まって、日本版SOX法、IFRSと矢継ぎ早に企業の対応が求められています。ここから思うのは、世界ではグローバリゼーションが進展し、共通の粒度を作らないといけないとの認識が広がっていることです。日本人はそこから目をそらしているのではないでしょうか。国際的なルール作りが話題になっているにも関わらず、日本人はまったく無視して自分たちのルールにこだわっているように思えます。今後グローバリゼーションがさらに進むとIFRSの財務諸表が当然になるかもしれません。外在的な出来事としてIFRSを理解するのではなく、IFRSを成長のチャンスに結び付けるような思考の転換に持って行かないといけないでしょう。

 IFRSを受け身的に議論すると、結局は最低限の適用になり、最後はExcel上の組み替えで対応しようということになります。しかし、それでは結局システムのコストがかかってしまいます。プランニングを初めからきちんと行い、取引や業務プロセスの変更にも対応する必要があります。会計システムだけの話ではありません。長いタイムスパンで考えないと失敗すると思います。

 いまの日本の企業は非常にきついのでそんなことはできないという声もありますが、このままでは日本企業全体が沈んでいくし、縮小するのは間違いないでしょう。本格的に国外に出て行くしかないと思います。グローバリゼーションを考えるきっかけとしてIFRSを捉えるのがよいと思います。黒船的な意識ではなく、IFRSを使って、世界に出て行こうという発想を持つことが大切です。

 IFRSは欧州連合(EU)の動きと同期しています。欧州統合の1つとして会計の統合も捉えることができるでしょう。欧州の人にはその意識がある。彼らにとって、IFRSは自分たちの戦略的ツールの一つなのです。欧州に対応し、存在感を出すためにも、アジアはアジアとしてまとまって意見発信するのもいいでしょう。

 

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