Book Guide

こちらは旧ブックガイドのページです。2009年4月7日〜2010年6月29日までの紹介書籍を掲載しています。それ以前のものにつきましては過去の書籍紹介インデックスをご参照ください。リニューアルしたブックガイドコーナー「情報マネージャとSEのための『今週の1冊』」はこちら
過去の紹介書籍インデックス

■2010年6月29日紹介
かつての“SCMにまつわる誤解”を払しょく
図解 なるほど! これでわかった――よくわかるこれからのSCM
●石川和幸=著
●同文館出版 2010年6月
●1,700円+税 978-4-495-58881-6
 日本企業がSCM(サプライチェーン・マネジメント)に取り組み始めたのは2000年ごろのことである。しかし、2008年のリーマンショックの際、需要の減少に対応できず、積み上げられた在庫の山を見て初めて「SCMなど実現できていなかった」ことに気付いた。この苦い経験から、いま多くの企業がSCMの再構築に乗り出している――そんなショッキングな前置きを基に、かつての“SCMにまつわる誤解”を要所要所でひもときながら、“正しいSCM像”を論じている点が本書の大きな特徴である。
 中でも最も象徴的な誤解は、SCMに対する「効率的な在庫管理体制を整備すること」「合理的な輸送体制を確立すること」といった理解である。だが在庫を適正化しても必要なときに市場に届けられなければ意味がない。輸送を効率化しても欠品していれば販売機会はつかめない。つまりSCMとは部門間連携が不可欠であり「1部門の業務効率化」レベルで済む話ではないのだ。 だが、これを理解していなかったために部門最適にとどまり、サプライチェーン全体の効率化に至らなかった例は枚挙にいとまがない。
 そして、もう1つの代表的な誤解は「情報システムを導入すればSCMを実現できる」という“幻想”である。「そもそも情報システムとは、基本的に標準化された業務しか行えない」。そしてSCMとはサプライチェーンの全関連組織を統括する「マネジメント」業務である。その運用には「意思決定層の判断が不可欠」であり、そもそも標準化できるような業務ではないのだ。だが、多くの企業が「自動最適化」というITベンダの甘い誘惑を前にして、この当たり前の事実を見落としてしまった――
 「調達、生産、輸送、販売を効率化し、在庫と利益を最適化する手法」と言ってしまえばSCMは実にシンプルなものである。しかし実際には至るところに失敗につながる誤解が潜んでいる。そんな認識に基づいて、決して教科書的な“説明”に陥らず、リアルなSCM像の解説にこだわっている点が本書の最大の特徴といえよう。いまSCMに携わっている人や、SCMの業務知識を入手したいSEにとって、生きた知識を学べる格好の参考書となるのではないだろうか。(@IT情報マネジメント編集部)
環境問題を“ビジネスチャンス”ととらえよ
国際競争力を創るグリーンIT――世界の低炭素化を引き込む事業戦略
●椎野 孝雄、古明地 正俊、中川 宏之、伊藤 慎二=著
●東洋経済新報社 2010年5月
●1,800円+税 978-4-492-80082-9
 世界的な環境意識の高まりを受けて、いま、多くの企業が「グリーンIT」に取り組んでいる。 だが、これまでは「コスト削減」「CSRの一環」という見方が強く、積極的な取り組み事例はあまり聞かれなかった。そうした中、本書では「環境意識の高まりは、(環境に寄与するあらゆるITシステムに対するニーズを高め)ビジネスチャンスの源となる」と解説。より戦略的にグリーンITの活動に乗り出すことで「自社の発展を狙うべきだ」と説いている。
 ご存じのように、グリーンITには、IT機器のエネルギー消費量を抑える「グリーンIT 1.0」と、ITを活用して産業活動や交通などのCO2排出量を削減する「グリーンIT 2.0」と呼ばれる2つの概念がある。本書がフォーカスしているのは後者であり、例えば「人や物の無駄な移動を抑制する」物流・配送管理支援システムや、「自動車のエネルギー効率を改善する」ITS(高度道路交通システム)などが今後強く求められるようになる――すなわち、“需要”を生み出すと解説。こうした「環境に寄与するシステム」の開発に積極的に取り組むことで、企業は環境対策と自社の発展を両立できると述べている。
 なお、このように「環境問題」と「そのための技術革新」をセットでとらえ、意識的に「環境維持と経済発展の両立を狙う」取り組みは、OECD(経済開発協力機構)や欧州全域において「エコ・イノベーション」と呼ばれ、環境問題に対する新しいアプローチとして注目されている。その点、日本企業が「コスト削減やCSRの一環として」といった固定観念を振り払い、「ビジネスチャンス」として、現在よりも積極的・戦略的に環境ニーズ=“需要”に対応すれば、「日本の国際競争力も高められるのではないか」と分析している。
 各種メディアにおける“グリーンITブーム”は去ったが、企業が本腰を入れるべきなのは、むしろこれからである。言葉ばかりが先行しがちだった「グリーンIT」を学び直すとともに、今後のトレンドを占ううえでは最適な一冊といえるだろう。 (ライター・生井俊)
経営の本質は、人と人が有機的に連携し合える「組織力」にある
組織力――宿す、紡ぐ、磨く、繋ぐ
●高橋 伸夫=著
●筑摩書房 2010年5月
●740円+税 978-4-480-06548-3
 業務の問題を改善するときには、“完ぺき”があり得ない「人の行動」を正すのではなく「仕事のプロセス」に原因を見いだし、解決すべきだとされている。だが、こうした業務改善の鉄則も、頭では理解していても実践となると難しいことが多い。では、そのハードルとなっているのは何か? 例えば業務以前に、人と人が協力し、原因を考え合い、解決する「組織力」がそもそも足りないのではないか?――本書ではそんな問題意識に基づき、“組織と人という業務基盤”に着目した、より根本的な業務改善を促している。
 中でも筆者が勧めるのは「コミュニケーション」の改善だ。例えば、従業員が「コミュニケーションに問題がある」というとき、具体的には2つのことを意味しているという。1つは「言葉数や説明が少ない」という不満、もう1つは「1から10まで説明しないと理解できないのか」という不満である。前者は若手に、後者はベテランの従業員に多い。従って、コミュニケーションを改善するためには、双方の視点に立ち、業務上「一言でも済むこと」「1から説明すべきこと」を認識したうえで、それに基づいた説明や話し方を心掛ける必要がある。そうした認識がないことが、あらゆる誤解やミスの原因になるのだという。  
 一方、組織力を磨くためには「スケール観」を持ち、“組織のふるまいを洗練させ続ける”ことも大切だという。この「スケール観」とは、自分の組織に「できること」「できないこと」を適切に判断する視点のことである。すなわち、組織の特性や能力をしっかりと見極め、それを最大限に発揮できる居場所――市場環境を求め続けることが、組織を継続的に進化させ続けるポイントになるという。
 このほか、本書では「宿す、紡ぐ、磨く、繋ぐ」という4つのキーワードに沿って、単なる“人の集まり”から、各人が有効に機能し合える「組織」になるための方法論を分かりやすく解説している。業務改善がうまくいかないと思ったら、ぜひ一度読んでみることをお勧めする。(ライター・生井俊)
仮説検証を確実に実践するために、データを見る“センス”も伝授
消費を見抜くマーケティング実践講座――データから仮説を導く4つの視点
●杉浦 司=著
●翔泳社 2010年4月
●1,800円+税 978-4-7981-2119-2
 ビジネスの成果が思わしくないとき、「努力が足りない」などと精神論を持ち出すのは間違っている。「結果」に一喜一憂するのではなく、計画と結果の差異に何らかの因果関係を見いだし、次のより良いアクションに役立てる、すなわち「仮説検証」を繰り返すことが大切と考えるべきだ――本書ではこのような主張に基づき、「仮説力」を高めるためのノウハウや効率的なデータ分析方法などについて、事例を用いながら具体的に解説している。
 筆者がまず紹介するのは「標本収集」「データ分析」「仮説立案」「仮説検証」「モデリング」という仮説検証のための5つのステップだ。具体的には、「母集団の特性を反映する標本」にフォーカスしてサンプルデータを集め、そこから何らかの“トレンド”をつかむ。それを基に仮説を立案して計画を立て、実際にアクションを起した結果を再度分析し、「モデリング」によって因果関係を明確化する。
 ただ、こうしたプロセスは言葉で言ってしまえば簡単なようだが、その実践には2つの大きなハードルが潜んでいる。1つはデータからトレンドをつかむための「センス」、もう1つはトレンドから仮説を立てるための「想像力」だ。そこで本書では、そうした「センス」の培い方、磨き方を具体例とともに紹介しているほか、想像力の源となる「4つの視点」も詳細に解説している。「仮説検証」をテーマにした作品は数あれど、そのために必要となる「人の資質や能力の開発/支援」にまで踏み込んだ作品はかなり珍しいのではないだろうか。
 このほか「仮説力でビジネスは確かに変わる」と題して、アマゾンやソフマップ、ファンケルなどのケーススタディを紹介。中でもTwitterを使って自らトレンドを創出しているユニクロの事例などは非常に興味深く読める。ただ、そうした事例においても、参考にすべきポイントについては非常に具体的に解説するなど、一貫して“実践”を重視していることが本書の大きな特徴だ。「試行錯誤」という言葉の意味を学び直し、確実に実践できるようになる一冊。(ライター・生井俊)
グーグルの活動から、企業における環境対応のトレンドを学ぶ
グーグルのグリーン戦略――グリーン・ニューディールからスマートグリッドまで
●新井 宏征=著
●インプレスR&D 2010年4月
●1,700円+税 978-4-8443-2848-3
 グーグルと言えば、「検索をはじめとする各種ITサービスの会社」というイメージが強いが、実は、同社は「環境問題への貢献」というテーマについても、その組織力、技術力を生かして積極的に取り組んでいる。本書では、グーグルがWeb上で公開している「グリーン戦略」の取り組みの全貌を紹介、そのさまざまなトピックを通じて、企業や社会における今後のエネルギー利用の在り方を占っている。
 「クリーンエネルギー」に関する同社の取り組みは5つある。その1つが「RE<C(Renewable Energy cheaper than Coal)」だ。これは「再生可能な資源によって発電できる電力」を石炭の火力から作られる電力よりも安く供給することを目指すもの。当面は同社が2007年に設立した慈善組織、「Google.org」が中心となって太陽熱発電や風力発電などの技術開発に取り組むが、グーグル社内にも「再生可能エネルギーの研究開発グループ」を持ち、潜在的な先進技術についても積極的に開発を推進しているという。  
 一方、「持続可能性の追求」という側面では、現在2つのデータセンターにおいて、室温の維持・冷却などに再生水を利用している。この運用実績を基に、同社のデータセンター全体の水消費のうち、80%を再生水で賄う計画もあるという。このほか古くなったサーバ部品の再利用、リサイクルなども実践している。
 こうしたさまざまな話題を俯瞰(ふかん)していると、グーグルという企業が環境問題に対しても長期的観点を持っており、投資のポートフォリオを描いて、着実かつ確実に対応を進めている姿が強く感じ取れる。そうした計画的なスタンスが、規模や業種を問わず、あらゆる企業にとっても重要なポイントとなることは言うまでもない。自社における環境活動の中身、展開を考えるうえで、ぜひ“世界トップレベルの環境対応”を参考にしてみてはいかがだろうか。(ライター・生井俊)
物語を通じて“自分なりのCIO像”を考える
ビジネスリーダーにITがマネジメントできるか――あるITリーダーの冒険
●ロバート・オースティン、リチャード・ノーラン、シャノン・オドンネル=共著/淀川 高喜=訳
●日経BP社 2010年4月
●2,000円+税 978-4-8222-6243-3
 ビジネスとITの橋渡しを行える人材の重要性は以前から指摘されているが、そうした人材は極めて少ない。本書ではそんな現状を踏まえ、「ビジネスリーダーにITがマネジメントできるか」、物語形式でシミュレーションするとともに、適宜挿入した“読者への質問”を通じて、CIOに求められる役割を考えさせる構成としている。
 物語は金融サービスを手掛ける企業、IVK社を舞台に、1話読み切りのオムニバス形式で展開される。例えば「コミュニケーション」の章では、セキュリティ事故により、CIOに任命されたばかりのジム・バートンがCEOの信頼を失うところから話が始まる。それ以降、CEOはジムに対して何かと指示を出してくるようになるのだが、その指示は実効性や実現性に疑問符が付くようなものばかりだった。
 このままでは自分の仕事ができない。そこでジムはプライドを捨てて以前のCIOに助言を求めにゆくのだが、こうした物語を基に、「(ITの専門家ではない)ボスをマネージするためにはどんな方法が良いか」などの質問を読者に投げ掛けるのである。
 一方「人材マネジメント」の章では、優秀なプログラマのアイバンが主人公となる。彼はIT部門内でも群を抜いて優秀なのだが、仕事の半分以上の時間をほかの活動に当てているという問題があった。いくらアイバンが優秀でも、企業モラルの観点からこれを見過ごすことはできない。こうした問題にCIOはどう対処すべきなのか――どの企業でも起こり得る身近な問題にフォーカスしている点が本書の最大の特徴といえよう。
 このほか、「CIOのリーダーシップ」「ITのコスト(管理)」「プロジェクトマネジメント」などの章を収める。本書では「これを教材として周りの人間とディスカッションすると、より深い学びが得られる」と勧めている。500ページ超のボリュームだが、1話1話を読むのにさほど時間はかからない。ちょっとした空き時間を使って、ぜひ“自分なりのCIO像”を思い描いてみてはいかがだろうか。たとえあなたがいまCIOではなくても、ここで考えたことは日々の業務に必ず生きてくるはずである。(ライター・生井俊)
クラウド時代に向けて、自社の経営力、人材力を確認しておこう
日本のクラウド化はなぜ遅れているのか?――世界標準のクラウド・エンジニアが日本を再生する
●森 和昭=著
●日経BP企画 2010年4月
●1,500円+税 978-4-86130-446-0
 コンピュータが登場した20世紀後半、企業にとって「コンピュータを持つこと」はそれだけで他社との差別化要因になり得た。しかし「持つこと」はやがて当たり前となり、「どう使うか」で差別化する「利用競争」の時代に入った。そして「必要なときに、必要なだけ利用するクラウド時代」に入りつつあるいま、「利用競争」はますます激化しつつある――本書はこうした見解に基づき、競争を支える「経営の在り方」と「人材育成」という企業の基本命題を、いまあらためて見直しておくべきなのではないか、と提案する。
 特に筆者が強調するのは人材育成の重要性だ。「持たずに利用する」IT環境で求められるのは、従来の「労働集約型の技術者」ではなく、業務とITの豊富なナレッジを基に戦略を提案できる「知識集約型の技術者」だ。筆者はこうした人材の獲得や育成支援こそが、「経営上の最重要課題」であり、このことを多くの企業が認識すべきだと説く。  
 一方で、クラウド時代においては“経営の基本”を徹底できているか否かもカギになる。筆者は経営をクルマの運転に例え、「ハンドルは付いているか(事業の方向性は決めてあるか)」「アクセルを踏むとスピードは出るか(決めた方向に向けて事業を加速できる体制が整っているか」「ブレーキは機能しているか(方向性に間違いはないか、適宜見直しているか)」の3点を確認することが重要だと説く。クラウドサービスにより、事業の“加速”を支援するITシステムは、従来よりも容易に活用できるようになる。ゆえに、交差点で一時停止し、周囲を確認しないと――自社の方向性と市場状況を確かめ、最適なシステムを賢く活用しないと――イチかバチかで見切り発車してしまい、かけた時間やコストが無駄になってしまう可能性も高まっているためだ。
 世間では「クラウド」という言葉が日々喧伝されているが、いかに便利なものであろうと「手段」に過ぎない。これを使って自社の課題を解決し、「差別化要因」にできるか否かは、あくまで使う側の“見識”や“基礎体力”に懸かっている――そんな当たり前の事実を、あらためて認識させられる1冊である。(ライター・生井俊)
世界のオピニオンリーダー17人の考え方を学ぶ
これから資本主義はどう変わるのか――17人の賢人が語る新たな文明のビジョン
●ビル・ゲイツほか=著/五井平和財団=編=著
●英治出版 2010年1月
●1,900円+税 978-4-86276-076-0
 リーマンショック以降、世界経済は非常に厳しい状況にあり、立ち直るまでにはまだまだ時間を要する。こうした中、世界で活躍するオピニオンリーダーらは、経済やビジネス、国際社会などをどう見ているのか――17人のインタビューを収録し、来るべき「資本主義社会の近未来」 を占っている。
 まず巻頭で紹介されるのは、マイクロソフト会長 ビル・ゲイツ氏の言葉だ。氏は「歴史の大きな流れを見れば、世界は少しずつ、確実に、良くなっている。より健康に、裕福に、教育水準が高く、そして平和になっている」と述べる。「大切なのは、私たち人類が成し遂げてきた進歩を認めることだ。それにより未来の見え方が少しずつ変わってくる」のだという。“バランスの取れた正確な現状認識”は改善・改革の前提条件。良い面も見ようという氏の主張は、“悪い面”ばかりがフォーカスされがちな現代にあって、非常に新鮮に響く。
 一方、「すべての人がチェンジメーカーになる時代」と語るのは、起業家などを支援する非営利組織、アショカ財団会長兼CEOのビル・ドレイトン氏だ。氏は「私たちができる社会貢献とは、特定の問題を解決することではない。(数々の問題を解決できるような)変革者になれると信じている人の割合を増やすこと」だと主張する。また、財団として育成したいのは「行き詰まっている状況を見つけると喜んで立ち止まるような人材」だという。氏の言葉はアショカ財団について語ったものでありながら、自社内の人材育成にも通じるような、さまざまなヒントに満ちている。
 このほか、ソフィアバンク代表の田坂広志氏など、その人選は実に多彩。自らの目で経済、ビジネスの潮流を読むことも大切だが、「オピニオンリーダーらはどう見ているのか」、先を見据える“視点”を拡張することで、いま見えている未来像は「また少し変わってくる」はずである。(ライター・生井俊)
SEの仕事を効率化する“生きたヒント”を紹介
SEは人間力
●井上 樹=著
●技術評論社 2010年4月
●1,480円+税 978-4-7741-4167-1
 ソフトウェア開発の現場は「過酷な労働環境」だと言われ続けてきた。これには技術上の問題もあるが、“人間”の業務のこなし方にも問題がある。本書では、筆者がコンサルティングの現場で感じた“人”に起因する問題に焦点を絞り、日々の業務効率化につながるヒントを具体的に紹介している。
 例えば、ユーザー企業(ユーザー部門)との打ち合わせの場では、「最初から技術の話をするべきではない」と説く。まずは「目的は明確か」「(システムを使って業務を行う)組織のバランスは取れているか」「情報の流れは円滑か」「計画は存在するか」など、ゴールと現状を把握する――すなわち、技術論に偏ることなく、ユーザーの合意をきちんと得ることの重要性をあらためて強調している。  
 また、プロジェクト管理には、計画全体を統括する「マネジメント」と、計画遂行に必要な資材の手配など、“総務”的な業務を管理する「アドミニストレーション」という2つの側面がある。本書では「プロジェクトメンバーを開発に集中させるために」との考えから、「マネジメント」に比べて語られることの少ない後者にフォーカス。“プロジェクトアドミニストレーション”の在り方を考察している点もポイントだ。  
 後半では「コンサルタントになる方法」についても触れているが、決して教科書的ではなく、一貫して“現場視点”で語られている。日々の業務を思い返しながらSEの基本を振り返ることで、筆者が言うような「今度コレやってみようといったアイデア」が自然と思い付くのではないだろうか。SEを目指す人から現場で活躍している中堅SEまで、お勧めの一冊といえる。(ライター・生井俊)
成長率が失速する前に、進むべき方向性を再確認せよ
ストール・ポイント――企業はこうして失速する
●マシュー・S・オルソン、デレク・バン・ビーバー=著/斉藤 裕一=訳
●阪急コミュニケーションズ 2010年1月
●2,200円+税 978-4-484-09117-4
 過去50年間に「フォーチュン100社」にランクインしたことのある大企業500社を分析すると、その多くが“ストール”――成長率の失速を経験しているという。本書では、そうした失速が「短期的、長期的にはどのような影響を及ぼすのか」「そこからどう回復していくべきか」などを考察している。
 興味深いのは、500社の分析から見えてきたという「ストールする危険ゾーン」の存在だ。過去の記録から、「企業が成長停止を迎える平均値」を「売上高」で分析すると、その値は年々上昇しており、現時点では売上高400億ドル(日本円で約3兆7000万円)前後が“危険”なのだという。そして、今後10年以内に多数の企業がこの危険水域に近づくといわれている。
 では、ストールを回避するためにはどうすればよいのか――その解決策の1つとして、本書は「戦略前提の明確化」を挙げる。これは、経営陣が「なぜ戦略を採用するに至ったのか、目的を見極めて検証の的を絞る」など、戦略のあいまいさを徹底的に排除し、すべてを明確化することである。現在の戦略を採用する前提となった「経営上の目的」とは何か、経営陣の頭脳の中で暗黙に了解されている考え、信念を明るみに引き出し、関係者間で整理、共有することが大切だという。
 ポイントは、誰か1人が自分の考え方をまとめる「専断方式」ではなく、経営陣がこぞってこの作業に取り組むことである。それにより、企業の方向性の確認とともに参加メンバーのモチベーション向上も期待できる、と提言する。
 企業ストールについて、根本的要因から、戦略的要因、組織デザインの要因へと少しずつひも解いていく構成。取り上げている企業規模が大きいとはいえ、「戦略前提の明確化」などは経営の基本でもある。対岸の火事ととらえることなく、成長企業の経営者にはぜひお勧めしたい。(ライター・生井俊)
クラウドサービスを活用した内部統制対応を考察
なぜクラウドコンピューティングが内部統制を楽にするのか
●戸村 智憲=著
●技術評論社 2010年4月
●1,580円+税 978-4-7741-4193-0
 内部統制の重要性や、その実践に求められるITツールの必要性を痛感しながら、内部統制対応が遅々として進まない企業が多い。その最大の原因は、対応コストと取り組みの敷居の高さにある。本書では、SaaSをはじめとするクラウドサービスが浸透しつつあるいま、ITツールを購入するのではなく、「ITツールを借りて活用する」内部統制対応について考察する。
 筆者は、その際のクラウド活用について、「IT業界側が、横断的にJ-SOXクラウド・パーク構想を進めていくべきだ」と提案する。筆者が提唱する「J-SOXクラウド・パーク構想」とは、SaaSをはじめとするクラウドサービスの活用を軸に、日本版SOX法対応に必要なコスト、工数、人員などの削減を総合的に支援していこうとする概念である。例えば、クラウドサービス提供者側に、外部委託業務における内部統制の運用状況を監査するための基準である「18号監査報告書」や「SAS70」レポートを提出できる体制があり、内部統制対応に配慮しながらIT資産のクラウド化を提案できれば、多くの企業にとって「雑多な業務に費やされる高度なIT人材」は不要になり、IT統制にかかわるコストや労力を軽減できる。
 クラウドサービスの提供者であるKDDI、セールスフォース・ドットコムのキーパーソンとの対談も収録する。内部統制対応に対するクラウドサービスの利用は始まったばかりであり、全体的に明言を避けた論調だが、内部統制対応の方向性や今後の可能性を押さえることができる。(ライター・生井俊)
世界を席巻する製品の設計理念やシステム構造を読み解く
アップル、グーグル、マイクロソフト――クラウド、携帯端末戦争のゆくえ
●岡嶋 裕史=著
●光文社 2010年3月
●740円+税 978-4-334-03553-2
 2010年春、アップルがiPadを発売する。iPodを大きくしただけともみえるが、彼らは成功した製品のサイズを少し大きくしたとか、競合相手と同種の製品でひともうけしてやろう、といった安易な発想でこれらの製品を開発したわけではない。本書では、企業がこれまでに投入した製品、これから発表する製品を取り上げ、その背景に隠された設計理念やシステム構造を考察していく。
グーグルの社是は、「世界中の情報を整理すること」。整理といえば聞こえが良いが、それは情報の掌握で、すべての情報を整理するために必要なことだ。そのグーグルが、2010年に投入する予定なのが「Chrome OS」。OSと名前が付いているが、これはあくまでもブラウザのChromeを動かすことのみを念頭において設計したOSと考えられる。そのため、Chrome OSの汎用性は高くないが、必要最低限な構成のため、高速性、堅牢性、安全性が得られる。パソコンに情報を残さない設計になっているところも、情報をインターネットに集約したいグーグルの意図と合致した戦略といえる。
他方、「パソコン界のフェラーリ」とも称されたアップル。フェラーリは憧れの対象や象徴にはなるが、主流ではない。アップルも同様に傍流だったが、iPodで転機が訪れる。携帯音楽端末のトップに躍り出たことで、トップだけが許される無茶をやった。携帯音楽端末で築いた足場をそのままに、iPodと電話とインターネットアクセスをくっつけたiPhoneを投入。各社がクラウド時代の端末を模索する間に、「解はこれだよ」と鮮やかに席巻した。そのことで、実はアップルはクラウド側の重要なのど元を押さえている、と説く。
「2番ではいけないのですか?」と言った国会議員の言葉を引用しながら、「1番でなければ生き残れない」と、クラウドで出遅れた日本にエールを送る。「ハングリーで、バカな」企業や個人だけが新しい時代を担う資格を持つ、と締めくくっている。(ライター・生井俊)
クール革命とクラウドの時代を企業や経営者はどう生き抜くべきか
クラウド時代と<クール革命>
●角川 歴彦=著/片方 善治=監修
●角川書店 2010年3月
●705円+税 978-4-04-710226-2
 21世紀に入って大衆は、140字でつぶやく「ツイッター」などを媒介にして、無名の「個人」からリアルタイムの巨大な「メディア」となった。大衆が「すごい」「カッコいい」「クール」と賞賛するモノや出来事が、社会を変革していく。その「クール革命」の時代を、経営者やビジネスマン、クリエイターはどう生き抜くべきか、本書はまとめる。
気が付いてみると、日米の大手家電メーカーがソフトウェア会社の下請けになっている。その理由の1つは、デジタル化時代への対応ができていないこと。もう1つの問題点は、1つ1つのプロダクトアウトにこだわって、全体構想が描けないことだ。それを解決するためには、根底に広がっている「クール革命」の潮流を意識すること、大衆第一主義を貫くこと、知的グローバリゼーションの意義をよく理解し、地球規模で競争できる製品開発に注力すべきだ。それにより、勝者総取りの法則で圧倒的な成功を勝ち取ることができる。
また、「クラウド」は、情報産業の一部ではなく、情報産業そのものといえる概念となる。大企業でも到底、投資不可能なフル装備のコンピュータシステムを、民間で個々人の誰もが利用できる。そうなると、企業は必然的に情報処理の大部分をクラウド事業者に預けることになる。ユーザー同士の合言葉は「所有から利用へ」だ。発電機による電力が20世紀を支えた基盤だとすれば、情報の発信機であるコンピュータが、新しい社会と私たちの生活の基盤となっていて、その中でクラウドが新たな産業革命を起こす、と予想する。
「クール・パワーを新しい国力へ」と説く本書。ガラパゴスともいわれる日本文化については、そのままでいいと評価。一方で、「知」のグローバリゼーションからは逃げられないとも述べている。ここ数年を振り返り、数年後を見通す読み物として興味深い内容といえる。(ライター・生井俊)
新時代におけるCIOの仕事を成功させるオリエンテーションガイド
プロフェッショナルCIOの教科書
●甲斐莊 正晃、桐谷 恵介=著
●中央経済社 2010年2月
●2400円+税 978-4-502-67320-7
 今日、新たなIT投資のためには「業務改革」という成果が求められている。企業の情報活用の責任者・CIOは、これまで求められなかった「改革の推進役」すなわち「Chief Innovation Officer」としての役割が加わった。本書は新時代におけるCIOのオリエンテーション・ガイドブックとして、CIOの仕事を成功させる知識と知恵をまとめる。
企業の社内改革がなかなか進まない事例を見ていくと、失敗するケースに共通する「改革の失敗パターン」がある。多くの企業で見られるのが、経営陣が自らのリーダーシップを示そうとせず、プロジェクト活動を社内の特定の部門や担当者に任せっきりにしてしまうこと。組織に属する人間は「自分が認められる」ために、組織の上に立つ人の言動を常に見ている。社内改革を成功させるためにも、すべての社員に共通するこの修正をうまく利用し、会社のトップが「ITを活用した社内改革」に、どれだけ本気なのかを示すことが大切だ。
また、アインシュタインが「E=mc2」という公式を示したが、それと同じように改革の方程式もある。これは、「E=gi2」と表記され、左辺のEは「改革の効果(Effect)」を意味する。右辺のはじめのgは「業務改革の度合い(Gyoumu)」を、次のiは「意識改革の度合い(Ishiki)」を、もう1つのiは「情報改革の度合い(Information)」を示す。この改革の方程式で注目してほしいのは、企業の改革を構成するこの3つの要素が足し合わされるのではなく、掛け合わされることではじめて効果が発揮される点にある、と説く。
ほかに、改革を成功に導くノウハウとして、視点を部分最適から全体最適へ転換すること、業務の問題解決の方法は社員がすでに持っていると気付くことなどを紹介。社内改革のためには、顧客起点で考えるトレーニングの必要性も強調している。(ライター・生井俊)
■2010年3月16日紹介
データと情報を資産として管理し戦略的に生かすための心構え
戦略的データマネジメント――企業利益は真のデータ価値にあり
●トーマス・C・レドマン=著/栗原 潔=訳
●翔泳社 2010年2月
●2200円+税 978-4-7981-2080-5
 優秀なマネージャであれば、自分の将来、そして、自分が属する組織の将来が「データ」と「情報」に依存していることを知っている。しかし、データと情報に対して適切な扱いをしない企業が多い。本書では、データと情報を資産として管理し、さらに先へ進んでいくために企業が行うべきことをまとめている。
優れた意思決定者は信頼できる高品質な入力に勝るものはないことを認識し、それを得るためにデータや情報のソースを積極的に管理するしかないことも理解している。例えば、データエラーを頻繁に修正していた購買部門のケースでは、時間の浪費と社員のモラル低下が起きていた。そこで、購買部門で修正するのをやめ、エラーのある申請書を突き返すようにした。生産部門は不満を漏らしていたが、すぐにエラーはなくなった。
データと情報が経営資産という位置付けに真にふさわしい存在になるためには、市場で価値を提供できなければならない。市場に投入するための最も自明な方法は、新しいコンテンツを作り、販売することだ。データと情報を市場に投入する方法は15種類あると見ているが、今後数年でそれらがまったく古くさくなってしまうだろう。とはいえ、「真に求めるデータ」へのニーズは高まってきており、企業にとってはその需要を満たす機会が生まれてくる。それだけに、企業が投げ掛けるべき質問は「コンテンツビジネスに参入すべきか」ではなく、「当社のコンテンツ戦略は何なのか」にある、と説く。
後半は、データと情報の管理システムについて人的課題と、システムの進化方法を解説する。ハウツーを学ぶ本というより、企業内にあるデータと情報の重要性を認識し、変革していく手助けになる。(ライター・生井俊)
■2010年3月9日紹介
年間1億枚の紙を削減したNRIのノンペーパー戦略
野村総合研究所はこうして紙を無くした!
●野村総合研究所ノンペーパー推進委員会=著
●アスキー・メディアワークス 2010年2月
●743円+税 978-4-04-868409-5
 ホワイトカラーの生産性向上には、ヒト、モノ、そしてオフィスなどの働く環境にかかわる要素のすべてが関係する。紙や文房具の1つをとってもその要素が変わることで、ホワイトカラーのワークスタイルは変ってくる。「紙にとらわれない業務スタイル」=「ノンペーパースタイル」を築くとはどういうことなのか。本書では、年間1億枚もの紙を使用していたという野村総合研究所(NRI)の「ノンペーパー活動」をまとめている。
ノンペーパー活動を推進していくうえで重要なのは、まず「整理整とん」だという。具体的には、オフィスにおける紙の量を正確に把握すること、そして整理整とんを会社の指示として行うことである。整理整とんだけでは継続的な協力が得られないため、その結果、空いたスペースを社員のために還元されなければならない。こうした「オフィス改善」に加え、「会議の効率化」や「情報共有化」がしっかりなされていくことで、ノンペーパー推進活動を軌道に乗せることができる。
また、会議の効率化を図るためには、「ノンペーパー会議四原則」を徹底するとよい。1つ目は「会議の検討課題であるアジェンダを出席者に事前配布すること」、2つ目は「資料の事前配布」、3つ目は「会議中に議事録を作成し、議事と同時進行でプロジェクタで投影すること」、4つ目は「会議終了後すみやかに資料や議事録のファイルを配布すること」だ。これらを徹底するまで続けることが重要だ、と説く。
ノンペーパー化を推進する「情報共有のためのIT活用」や「推進組織の作り方」についても言及している。NRIがノンペーパー化して行き着いた先は、紙の削減だけではなく、「知的で働きやすい職場環境」の実現だったようだ。(ライター・生井俊)
■2010年3月2日紹介
RFPからリスクマネジメントまで上流工程が分かる入門書
システム開発 上流工程入門
●システム開発ジャーナル編集部=著
●毎日コミュニケーションズ 2010年2月
●2480円+税 978-4-8399-3469-9
 ここ数年、コンプライアンスへの対応や内部統制の整備は企業にとって火急の課題となっている。同様に、ITに関する調達においても、いつでも第三者に説明できるよう客観性・公平性を維持しながら行うことが求められている。本書では、システム開発におけるRFPからリスクマネジメントまで、上流工程についてやさしく解説する。
PMBOK」「PDCA」「CMMI」という個々の意味が分かる人は多い。しかし、この3つのキーワードを使い100字以内の文章を作るとなると、それぞれの関係を本当の意味で理解していないと難しい。このように、プロジェクトマネジメントを学ぶ際は、PMBOKで表される個々のプロジェクトマネジメント手法だけでなく、会社や組織としてのプロジェクトマネジメント力向上という観点を持つことが重要だ。
また、システム開発のリスク分析を進めていくと、物理的な対策や大きな投資を必要とする対策など、システム開発現場だけではカバーできない対策が必要とされることがある。こうした対策については、リスクマネジメントを専門とする第三者の力を借りるなどし、全体の運用設計や業務面も含めたBCDRへの対応など、組織的な意志決定が求められる。とはいえ、システム開発の現場の人間が「それは自分の仕事ではない」と避けてはダメで、気付いた心配事は必ず上司や関係者に提言・進言しなければならない。さもないと、情報漏えい事故が発生したときに自身が叱責されるどころか、事業存続の危機に陥るほどのリスク要因にもなり得ることを肝に銘じるべきだ、と説く。
なお、3つのキーワードを使った解答例だが、本書では「プロジェクトマネジメント力を向上させるために、“PMBOK”の知識を活用して個々のプロジェクトを成功させるだけでなく、“PDCA”サイクルを回して組織全体の改善を行い、国際的な指標である“CMMI”レベルを高めるようにしましょう」とまとめている。あなたの解答は、的を射たものだっただろうか?(ライター・生井俊)
■2010年2月23日紹介
内部統制はムダなのか――?
経営偽装――不祥事対策への警鐘を鳴らす20の視座
●戸村 智憲=著
●税務経理協会 2010年2月
●1500円+税 978-4-419-05426-7
 従来型の内部統制は、現場の業務活動の効率性・効果性を低下させ、企業活動の円滑な遂行を妨げ、過剰なリスク対応のために企業収益を圧迫する重荷になりつつある。本書では、問題を抱える内部統制を見詰め直し、新たな経営環境・経営課題として内部統制が環境適応システムの1つとしてさらなる発展をとげるよう、20の視座を提供する。
自社内に高コスト・高負荷の状態を甘受して、素晴らしいサーバルームを整備している企業がある。多くはサーバルームが自社内にあるため、入退出管理などの面でいい加減なIT統制対応となっている。社内(オンプレミス)でのIT環境チェック&モニタリングと是正活動が形式だけの対応が現状であれば、クラウドベンダにデータや処理を預けるなど、客観性・独立性ある第三者(サードパーティ)に任せる方がよほど健全なIT環境・IT統制対応が保てる。
また、シンクライアントだけが会社内にあり、各種システムやソフトウェアをJ-SOXをクリアできる業務委託先(クラウドベンダ)のクラウド上に置く環境が実現できれば、極論だがオンプレミスのサーバルームや各種システムは不要になる。そうすれば、自社で行うJ-SOXのIT対応は、ログ管理やIT教育などの基本事項以外にほとんどなくなる。一等地のビル内のオフィスを占拠していたサーバルームというデッドスペースがなくなれば、一層のコスト削減ができるだけでなく、IT要員が雑多な作業に追われなくて済む、とシンクライアントとクラウドのメリットを説く。
一般的な内部統制の課題から、不況時のあるべき姿、自壊してしまった組織の自浄作用にどう向き合うかなども収録する。最後に、内部統制・内部監査は報われない仕事かについて言及している点が興味深い。(ライター・生井俊)
■2010年2月16日紹介
IT業界に求められる「ホスピタリティ」の重要性を解説
伝説のホテルマンが説く IT企業のホスピタリティ戦略――ISFnetの成長モデルにみる技術者を営業マンに変える法
●林田 正光=著
●ダイヤモンド社 2010年1月
●1400円+税 978-4-478-01260-4
 IT企業に「ホスピタリティ」(おもてなし)という言葉はミスマッチだと感じるかもしれないが、その必要度が増している。本書では、伝説のホテリエとして知られる著者がIT企業で行った研修を再現しながら、クレド作成やホスピタリティの重要性を解説する。
企業としてホスピタリティの加わったサービスを提供するためには、まず企業内の風土づくりをしていく。企業風土はトップダウンではなく、下から自然にできていくものだ。そのためには、まず社員全員にホスピタリティとは何かを分かってもらい、社員が力を合わせ、ラテン語で信条を意味する「クレド」を作り上げていく。クレドづくりには時間がかかるが、その過程があることで自分たちで考え、自分たちで磨き合って、企業風土の基盤が築かれていく。
クレドは、いい換えれば「経営者の心」を言葉にしたもの。経営者から社員に伝えたいことそのものだが、実際にクレドづくりをするのは社員たちでなくてはならない。というのも、クレドとは社員の信条やバイブルとなるもので、マニュアルではないからだ。マニュアルを使用すれば社員の行動を均一に模範化できるが、これからはクレドのような行動の根底に持つべき精神が必要だ、と説く。
ほかに人としての基本マナー、コミュニケーション力、人脈のつくり方、気配りと心配りについてをまとめている。事例が分かりやすく、ホスピタリティの意義をつかむことができる。(ライター・生井俊)
■2010年2月9日紹介
SEの革新を断行するヒント満載
生き残るSE――「技術バカ」に未来はない! 世界で通用する「ビジネス・エンジニア」の育て方
●篠田 庸介=著
●日本実業出版社 2010年2月
●1500円+税 978-4-534-04667-3
 ITの分野を見ると、マイクロソフトやオラクルに匹敵するような企業が、日本からはまだ誕生していない。製造業でも、気が付けば日本の優位性は失われつつある。とはいえ、資源のない日本は、昔もいまも、そしてこれからも技術で食べていくしかない。本書では、SEに欠けているものを指摘、SEの革新を断行するためのヒントをまとめる。
SEとして生き残りたいのであれば、「ビジネス・エンジニア」に変わる必要がある。世界に改めて存在感を示すためにも、他国の人が持ち合わせていない、日本人が誇る特性を仕事に活かしていくべきだ。その1つが、大根のかつらむきのように「何かを徹底していく感性」の部分。もう1つが、組織の勝利を第一に考え、集団の強さを最大化できる「組織戦の強さ」にある。野球でもサッカーでも、組織重視のマネジメントが働いたときに、世界と伍する力を発揮する。そこで筆者は、この2つを使って日本人エンジニアはビジネスの最上流を奪取すべきだと主張する。
メンバー全員のモチベーションを高め、チーム全体の力をアップするためには、米国海兵隊のマネジメントを参考にしたい。具体的には、海兵隊員に過酷なブートキャンプを経験させているが、このような活動により隊員同士に「共通の原点」を持たせている。また、リーダーシップの究極の目的は「組織を勝たせること」にある。どんなに部下から信頼されていても、その部隊が負けてしまえば全員が命を失うことにつながる。だからこそリーダーは、いつも「どうしたら組織を勝たせられるか」を最優先にしなければならない、と説く。
ほかに、「すべてメールで済ますのはダメSEの典型」「これからのSEは上司の立場と思考を読め!」「つまらない言い訳をしない」など、生き残るためのコツを凝縮した本書。就職活動中の学生からビジネス感覚を磨きたいSEまで、幅広い層で活用できるだろう。(ライター・生井俊)
■2010年2月2日紹介
市場やお客さまから求められるSEになるための入門書
ビジネスの基本を知っているSEは必ず成功する〈第二版〉
●前田 卓雄=著
●技術評論社 2010年2月
●1480円+税 978-4-7741-4141-1
 経済環境の悪化により、ITへの新規投資やシステム機器の新規購入は抑制気味に推移し、多くのIT関連企業は苦難の時期を迎えている。SEを取り巻く外部環境も激動する中で、市場あるいはお客さまから求められるSEであり続けるためにはどのような知識・経験・スキルを積めばいいのか。本書では、技術の根源にある需要・要求の追求についての考え方や実践を紹介する。
ITやビジネスに実感を持つためには、実際のシチュエーション(現場)と結び付いた立体的なものとして知識やスキルを組み立てる必要がある。会社はなぜ給料を支払えるのか。給料の源はどこにあるのか。なぜ、会社は稼がなければならないのか。どれくらい稼ぐ必要があるのか。ITをどこに役立てるべきなのか。システムをどう設計して実装すべきか――。こうした疑問に答えようとする行為が学習と結び付いていて、これらの結び付きをレバレッジして最大限に活かすことが成功の鍵になる。
能力の強化は座学よりも実践を通じて行われることが多い。効果的な能力向上の仕組みとして、OJTOff-JT(職場を離れた能力獲得)を組み合わせ、効率的なものを選ぶ。体系的な基礎知識から最先端の技術も大切だが、現場で使える生きたノウハウや体得された目に見えないスキルも重要だ。加えて、個々の技術要素を結び合わせる血の通ったものでなければ競合には勝てない。こうした能力強化は、日常の仕事の中に組み入れられるまで工夫を加え、極めることが必要だ、と説く。
第二版では第四部「人と組織のWin-Winマネジメント」を追加し、自分を活かすこと、自分と組織のコンピテンシーを高める手法を取り上げている。SEの基礎を学びたい初心者向けの入門書。(ライター・生井俊)
■2010年1月26日紹介
ネット時代の強みを生かしたマーケティング戦略を学ぶ
超売れっ子2ちゃん出身作家が明かす ネットでビジネスに成功する方法
●三橋 貴明=著
●彩図社 2010年1月
●1429円+税 978-4-88392-717-3
 日本人の多くは「良い製品、良い技術であれば、受け入れてもらえる」と、マーケティング戦略を軽視する傾向にある。IT業界に携わってきた筆者が、自身のブランディングやマスコミの凋落などを例に挙げ、自社・自国の強みを生かすマーケティング戦略やマーケティング的な「センス」の必要性について解説する。
現在、日本のマスメディアは、基本的に間違いを認めない。ユーザー(視聴者や購読者)から「間違っている」と指摘を受けても、間違いを認めないだけでなく、そのうち「スルー」(無視)する。このように、自らの無謬(むびゅう)性に固執し、ユーザーからのフィードバックを拒否するマスメディアや評論家ばかりはびこる現実は、一方でビッグチャンスの塊(かたまり)でもある。要するに、フィードバックをきちんと受け付ける情報発信者に対するニーズが存在しているということだ。
このような状況でビジネスを成功させるためには、きちんとマーケティング戦略を立て、自己のコアコンピタンスによる差別化を図り、「市場」からのフィードバックにより計画を修正していく「ローリング」が必要だ。それに加え、あらかじめ定めたメソッドを粘り強く実施していく。それにより、確固たる自分の「市場」を構築することができる、とマーケティング戦略に筆者の体験を重ねて述べる。
2ちゃんねる出身、ネットを駆使したデータの使い手として注目を集める筆者が、自身の手の内を明かし、ビジネスに生かすマーケティング手法を紹介する本書。極めてオーソドックスな手法だが、組織に置き換えて読むと、いかにこれまで単純なことを貫き通すのが難しかったかを実感するだろう。(ライター・生井俊)
■2010年1月19日紹介
日本企業が3年でハイパフォーマンス企業になるための戦略とは
アクセンチュア流 逆転のグローバル戦略――ローエンドから攻め上がれ
●西村 裕二=著
●英治出版 2009年11月
●1800円+税 978-4-86276-069-2
 世界中のハイパフォーマンス企業500社を調査した結果、この20年間でこれらの企業が飛躍的な進化を遂げていることが分かった。対して日本企業の進化は「冬眠」状態に陥っている。本書では、ハイパフォーマンス企業ではどのような経営が行われているかを解説、日本企業が3年でハイパフォーマンスを実現するための戦略をまとめている。
ハイパフォーマンス企業は、多極化が経営に対して与えるインパクトを強く意識した経営を行っている。具体的には、新興国市場の誕生・規模拡大を見据えた低価格帯製品の拡充などがそうだ。こうした地域的拡大と消費者の深掘りを行い、次のステップとして、世界規模で事業プラットフォームを構築し、それを利用して製品やサービスを飛躍的に増やし、事業の拡大を図っている点に特徴がある。
ハイパフォーマンス企業のようなオペレーション改革をするためには、まず日本企業が持つ「標準化」への誤解を解く必要がある。これから行うべき標準化は、作業者の「底上げ」のためではなく、抜本的なスピードとコスト効率向上のための必須条件だ。社員は、人事なら人事、経理なら経理のプロフェッショナルになることに努力を傾ける。つまり、「トランザクション」ではなく、「企画・管理」の能力を磨いていくべきだ、と指摘する。
ほかに、変えるべき価値観として「内需信仰」「ハイエンド志向」「自前主義」「『カイゼン』志向」「現場への権限委譲」の5つを挙げている。日本企業がこれらを意識しながら、ハイパフォーマンス企業に真似できない独自の経営スタイルを構築すること。それが、世界の頂点を目指すためにも急務だろう。(ライター・生井俊)
■2010年1月12日紹介
反復型開発手法で業務改善を目指すための入門書
反復型開発のエコノミクス――業績を改善するソフトウェアプロジェクト管理
●ウォーカー・ロイス、カート・ビットナー、マイク・ペロー=著/藤井 拓=監訳、徳永 和佳子=訳
●ピアソン・エデュケーション 2009年12月
●2400円+税 978-4-89471-544-8
 ソフトウェア開発チームで最も成功しているチームは、まず大きなレベルでプロジェクトを計画し、それから開発が進むのに合わせて反復(イテレーション)と呼ばれる小さめのステップを計画している。本書ではこうした反復型開発手法を、業務改善に関心を抱くマネージャ向けに解説する。
開発プロセス管理の大幅な改善を左右するカギは、従来のウォーターフォールアプローチから、現代的な反復型アプローチへの移行にある。従来型のプロセスには「要求に対する合意が遅い」「統合が延び、開発終盤で設計が破綻する」などのデメリットがあり、大規模プロジェクトほどその傾向が強くなる。一方の、反復型プロセス・フレームワークの特徴は「要求からテストへ異なる抽象レベルでラウンドトリップエンジニアリングが継続的に行われる」「完全性と一貫性の分析をライフサイクルの終盤まで延期する」といったことが可能で、それらにより従来型のデメリットを解消しようとしている。
また、成功するチームには、管理・アーキテクチャ・開発・評価の4つの異なるスキルを備えたメンバーが積極的に参加している。つまり、プロジェクト管理は「観るスポーツ」ではないということだ。チームワークがよいことは、個人のスキルや労力の合計よりずっと重要で、プロジェクト管理者は確固たる能力を有するバランスの取れたチームを構築し、高いスキルを持つ人材を影響力の大きなポジションに配置する必要がある、という。
よりよいソフトウェアエコノミクスに移行する最良の方法は、現代のプロセス、アプローチを理解する(構える)、組織の事業にとって重要なプロジェクトを選ぶ(狙う)、組織やプロジェクトレベルの計画を積極的に実行し、フォローを行う(撃つ)、の3点を試みることだ、とまとめている。(ライター・生井俊)
■2010年1月5日紹介
料金をとらず大金を稼ぐ“フリー”とはどういう戦略なのか?
フリー ――〈無料〉からお金を生み出す新戦略
●クリス・アンダーソン=著/小林 弘人=監修・解説/高橋 則明=訳
●日本放送出版協会 2009年11月
●1800円+税 978-4-14-081404-8
 21世紀の無料(フリー)は20世紀型のそれとは違い、言葉そのままに「無料で自由」を意味するようになった。グーグルは米国で最も儲かっている企業の1つになり、Linuxの生態系(エコシステム)は300億ドル産業だ。このように、料金をとらないことで大金を稼いでいる人々がいる時代――。本書は、それはどのようにして起こり、どこへ行こうとしているのかを追い求める。
2004年4月1日、米国グーグルはWebメールサービス「Gmail」を開始すると発表した。これに対応するために米国ヤフーも無料で使えるメール容量を増やし、2007年には無制限にした。ヤフーは有料サービスを提供していたが、心配してたユーザーの大量流出は起こることなく、ユーザーは大きく習慣を変えずにせっせと不要メールを削除し続け、容量の消費量はヤフーが懸念したほどには伸びなかった。結局、これらがうまくいったことで、Webメールにおけるヤフーのシェアは現在も首位で、利益を出しつつ、無制限の容量を無料で提供する当然の帰結に一番先に到達している。
今日のグーグルは、画像編集ソフトからワープロ、スプレッドシートまで100近いサービスのほとんどを無料で提供している。ではなぜ、グーグルではフリーが当たり前なのか? それは、これこそが最大の市場にリーチして、大量の顧客をつかまえる最良の方法だからだ。CEOのシュミット氏は、これをグーグルの「最大化戦略」と呼んでいる。このような戦略が情報市場の特徴になる、とシュミット氏は予測する。
「無料とは何か」という根源的な問題から、「無料経済とフリーの世界」についてまで、歴史をていねいにひも解きながら解説している。巻末に「フリーミアムの戦術」などを収録。ネットの過去・現在・未来が分かり、読み物としても楽しめる。(ライター・生井俊)
■2009年12月22日紹介
IT経営で満足が得られるシステム屋を選ぶヒント
ダメな“システム屋”にだまされるな!――IT経営で失敗しない33カ条
●佐藤 治夫=著/日経情報ストラテジー=編
●日経BP社 2009年12月
●1600円+税 978-4-8222-3034-0
 情報システムを評価する尺度は単純ではないが、投資対効果や費用対効果に「満足している」と答えるユーザー企業は少ない。「メイド・イン・ジャパン」の工業製品で得られているような満足感が、情報システムでは必ずしも得られない現状があり、それは視聴者が満足しないテレビ番組に似ている。本書では、ユーザー企業が“システム屋”にだまされないために、その実像を多面的に検証する。
まず、システム会社の資産は「人材だけ」といっても過言ではない。というのは、システム会社の競争力を左右するような設備は存在せず、どこも特許を押さえているわけでもないからだ。たとえ「ノウハウがある」と経営側が判断していても、そのノウハウは結局、一部の人の中に存在しているにすぎない。歴史的にも、人材を育成しない会社、育成しない業種が栄えたことは古今東西ない。それだけに、「35歳になったらシステム技術者として定年だ」と考えているのであれば、その考えから改めねばならない、とする。
情報システム会社やIT業界が抱える問題の土台には、システムインテグレーション(SI)が挙げられる。そのSIの誤訳こそが、業界の不幸を招く一因になっている。具体的には、「インテグレーターにならないと受注機会を失うのではないか」という強迫観念と、「インテグレーター認定されると、行政機関から優遇措置を受けられる」といった動機によるもの。これにより、一定規模以上のシステム会社が「インテグレーターだ」と宣言、みんなが(自動車業界でいう)「最終組み立てメーカー」のようになり、個性が生きず区別がつかなくなった、と説いている。
巻末にダメなシステム屋への対処法をまとめており、まず我慢ができないことが起きたら「イエローカード」(=警告)を文書で渡すべきだとアドバイスしている。(ライター・生井俊)
■2009年12月15日紹介
情報通信産業は統合へ回帰するかを検証
モジュール化の終焉――統合への回帰
●田中 辰雄=著
●NTT出版 2009年12月
●3600円+税 978-4-7571-2250-5
 情報通信産業は、これまで“モジュール化”が進み、産業構造が一変した。花形であった大型コンピュータ会社と電話会社の優位性が失われ、変わってベンチャー企業が隆盛し、その中から国際標準を握る米国系企業の競争力が高まっていった。しかし近年、情報通信産業ではこのモジュール化とは逆方向である“統合”に回帰するかのような動きが現れている。本書は、モジュール化の終えんと統合への回帰をテーマに、情報通信産業の展望を示す。
情報通信産業では、活発な技術革新が起きているというのがこれまでの暗黙の了解だった。めまぐるしいサイクルで新製品が現れ、2〜3年先でさえ見通すことが難しい業界だが、突破的と呼ばれる技術革新が減少しているのが分かる。現状、停滞しているように思えないのは、突破型革新の減速が情報通信産業の成長・発展の停滞を意味するわけではないからだといえる。というのも、改良型革新がこれから盛り上がりを見せるからで、産業が飛躍的に成長するのは改良型革新の時代だからだ。それは、自動車や家電の花形時代がそれを証明している。
統合への回帰の一例として、iTunesと携帯音楽配信が挙げられる。iTunes登場以前の配信事業はモジュールの組み合わせで成り立っていた。iTunesとiPodの組み合わせが登場したことで、配信サービスと管理ソフトウェアと再生機器が1つの企業からセットで供給されるようになった。すなわち、統合されたサービスであり、それゆえ、使い勝手が大幅に向上した。日本でも携帯音楽配信が伸びている事実は音楽データの互換性よりも利便性が評価されたもので、これは統合への回帰と解釈できる、とする。
SaaS、クラウドコンピューティング、iPhoneといった統合型製品の広がりや、ヤフー、グーグル、アップルといった統合型製品を提供する企業群の躍進は、統合型への回帰を裏付けている。それは「突破型革新の減速」と「大衆ユーザーの登場」の2つの力が働くときに、統合型への回帰が起こるものだという。(ライター・生井俊)
■2009年12月8日紹介
プロジェクトに潜む危険を予知し成功率を高めるための事例集
100の失敗事例に学ぶ!! ITプロジェクトの危険予知訓練
●青島 弘幸=著
●ソフト・リサーチ・センター 2009年11月
●2600円+税 978-4-88373-277-7
 ITプロジェクトは失敗リスクが高く、さまざまな調査で成功率は30%程度といわれている。各種の方法論や管理体系は1つの解決策を与えるものだが、現実のプロジェクトは種々のリスクにさらされており、万能といえる「銀の弾丸」は存在しない。本書は、ITプロジェクトでの危険感度を高め、危険予知能力を獲得する訓練に使える100の失敗事例を紹介する。
危険予知訓練(KYT)とは、建設現場や生産現場での「ゼロ災害」を目標に進められている訓練方法だ。具体的には、現場に潜むさまざまな危険を予知する能力を高めることで、未然に防止策や回避行動をとり、事故や災害を起こさないようにする。訓練では、過去に発生した事故や災害事例をもとに、危険予知訓練シートを作成する。IT危険予知訓練とは、そのKYTをITプロジェクトに応用したもの。
IT危険予知訓練は、産業界でも一般的に行われている「4ラウンド法」に従って訓練を進めていく。一般的なKYTとの違いだが、ITプロジェクトの場合、危険状況をイラストで表すのが難しいため、文章で記述する。基本は、リーダーとメンバーの5〜6人で構成されるチームで訓練を行うが、マンツーマンでも可能だ。ただ、危険をより多く予知する訓練だけに、チームで行う方がシナジー効果が発揮されて効果的だ、と説く。 100の事例には、方法論不在で迷走、現場への教育不足、「自動化」の落とし穴、「レガシーシステム」は負の遺産か、SCMと日本文化、他人任せ・ベンダ任せなど、よく聞くケースが並ぶ。また、それらの危険回避策がシンプルにまとめられており、事例だけ読んでも有益だろう。(ライター・生井俊)
■2009年12月1日紹介
小売業が抱える諸問題にスポットを当てた物語
ザ・クリスタル・ボール――売上げと在庫のジレンマを解決する!
●エリヤフ・ゴールドラット=著/岸良 裕司=監訳/三本木 亮=訳
●ダイヤモンド社 2009年11月
●1600円+税 978-4-478-01190-4
 ベストセラー『ザ・ゴール』でおなじみのエリヤフ・ゴールドラット氏の最新刊。本書では、小売業の抱える問題にスポットを当て、売り上げと在庫のジレンマを解決する方法=魔法のクリスタルボール(水晶球)を解説する。
ある日、店に60インチの栗色のテーブルクロスを求める女性客がやってきた。店には在庫がなく、取り寄せるとなると次の水曜日まで待たねばならない。その状況を客に伝えると「時間があったら、また寄らせてもらうわ」という。おそらく、この客は戻ってこない。取り寄せすれば、余剰在庫として残ってしまうだろう。とはいえ、万が一、客が戻ってきたらがっかりするだけでなく、顧客を失うことにもつながる。それが分かる魔法のクリスタルボールがあれば、どんなに助かることだろうか。
一方、店舗在庫を保管する地下倉庫では、天井の水道管が破裂し、水浸しになる緊急事態が発生した。幸運にも商品への被害は最小限に食い止められたが、倉庫が利用できるまで「6週間か、7週間かかる」という。商品の被害について補償されるものの、バレンタインの稼ぎ時にこの影響で店が開けないのは辛い。かといって、近場で借りられる倉庫はあまりにも高すぎる。そんな折、地域倉庫に在庫が置けることになったが、果たしてどの商品を送り返したらいいものか――。このような小売業にありがちな物語が展開される。
主人公が求めたクリスタルボールは機会損失をなくして売り上げを確保すると同時に、不良在庫をあ祝して高収益を可能にするマジックアイテムだ。店舗マネジメントの課題を解決するのに魔法はないが、商品補充にかかる時間を考えて在庫配置を適切化すること、つまりサプライチェーン改革が有効なのだ。(ライター・生井俊)
■2009年11月24日紹介
業務変革に向けBIを導入し使いこなすためのヒント集
BI革命
●NTTデータ 技術開発本部ビジネスインテリジェンス推進センタ=編著
●NTT出版 2009年11月
●2200円+税 978-4-7571-2246-8
 瞬く間に世界中に広がった金融危機の影響により、多くの企業はこれまでに経験したことのない経営環境の変化に直面している。こうした変化を脅威ではなく、チャンスとしてとらえる発想が必要だ。本書では、業務変革のデザインにビジネスインテリジェンス(BI)を導入し、使いこなすための組織整備やシステム、人材についてまとめる。
パフォーマンス管理では、個々の対象やプロセスについて、管理指標としてKPIを定義し、その状態を測定・監視する。何をKPIとして測定するのか、監視に即時性が求められるかどうかは、現場の業務レベルと全社の経営レベルとでは異なる。経営レベルであれば、経営マネジメント層を対象とし、全社俯瞰(ふかん)的なKPIを用いて、経営状態を測定していく。経営視点で見た対策の実施が主眼となるため、年度計画、月次計画などのチェックとアクションが求められ、必要に応じて経営資源の機動的な再配分を行っていく。
また、知的サービスを実現する「プロアクティブ型BI」が、新しい変革を支えてきている。これは、ユーザーの行動を理解し、一歩先回りして気の利いたサービスを提供するもの。書籍ECサイトにみられるレコメンドサービスのような一般ユーザー向けのものから、コールセンター向けトラブルシューティングエンジンといったオフィス内の作業者向けのサービスも対象としている。プロアクティブ型BIにより、ユーザーは気の利いた知的サービスを受けることができ、企業などのサービス提供者は、マーケティングを効率化したり、自社のイメージを向上させることができる、という。
BIによるパフォーマンス管理からWHAT IF型BIによる業務改善、プロアクティブ型BIによるサービス革新と変革レベルが進むにつれ、BIの組織的能力、すなわち「BI成熟度」を高めることが大事だとまとめている。(ライター・生井俊)
■2009年11月17日紹介
日本の製造業は「ガラパゴス」なのかを検証・解説
なぜ日本の製造業は儲からないのか
●石川 和幸=著
●東洋経済新報社 2009年11月
●1600円+税 978-4-492-76182-3
 もし日本の製造業が本当にSCMを完成させていたなら――。リーマンショック以前の2005年前後からサブプライム問題に気付き、販売の鈍化に合わせて迅速に対応できたはずだ。なぜ、こうした早い時期からアクションが起こせなかったのだろうか。本書では、日本の製造業がまともなSCMを実現していない現状を示し、どうしたら儲け続けられるのかを解説する。
SCMは本来、販売計画と実績の差異と原因、今後の成り行きと複数対策案を分析し、未来に取り得る対応策を新たな計画として決定することだ。しかし、オペレーション上のコントロール業務に矮小化されたため、今回の金融危機のような状況では対応が後手に回ってしまった。つまり、粛々と目の前の作業をこなすだけで、このまま販売や生産を続けるとどうなるのかという判断(マネジメント)が生じなかったわけだ。
同様に日本の製造業のSCMは、工場を中心とした生産・調達しかその視野に置いていなかったため、海外での異常な販売状況、販売のトレンドの変化、在庫の滞留へのアクションが大幅に遅れた。それを避けるためにも視野狭窄のSCMではなく、最終消費者まで視野に入れた販売動向、在庫動向のチェックを行い、今後の読みを加味した販売計画、在庫計画、仕入・生産計画の立案を行って、最終的にマネジメントが決断することが必要だ。グローバル経済下では、こうした最終顧客からサプライヤーまでを含む広範なSCM体制への再構築が求められている、と説く。
日本の製造業が復活するために、SCMをやり直すことほかに、ROEや顧客満足度調査に振り回されないこと、アフターサービスの戦略化などにも言及。最後に、儲け続けるヒントとしてSCMの成功事例をまとめている。(ライター・生井俊)
■2009年11月10日紹介
資本と産業構造の変化を情報・通信・コンテンツ業界から検証
ネットビジネスの終わり――ポスト情報革命時代の読み方
●山本 一郎=著
●PHP研究所 2009年11月
●952円+税 978-4-569-77178-6
 いま私たちが考えるべきことは、格差社会を解決するという美名の下で口当たりの良い社会保障政策を提唱し、なけなしの財をばら撒くことではない。より合理的で、弾力性のある産業秩序の在り方を問い直し、適切な規制と社会制度、国民の職業訓練体制を整えることにある――。本書では、そういった資本と産業構造の変化について通信、情報、コンテンツなどの業界別の事情を、市場の側から解説する。
そもそも「情報革命」とは、どのようなものだと認識すればいいのだろうか。確かに、インターネットや携帯電話の発展、普及に伴って、私たちは情報産業のインフラが充実することで、多くの知的な果実を手にしてきた。しかし、多くのことを効率よく大量に知ることができる技術を獲得し、情報化社会に突入したといっても、現在抱える社会問題がどれだけ解決したのか疑問だ。
ネット・ビジネスを語るうえで、「Web 2.0」「SaaS」「ロングテール」「クラウドコンピューティング」などの単語が作り出され、主に米国から概念が輸入された。これらの概念の1つ1つは技術的・抽象的なものであり、必ずしも思想的意味を持たない。個別具体的なビジネスを見てみれば、ネットに関するイノベーションはほぼ停滞しており、有望なアイデアだけで新たに参入する技術系ベンチャー企業が入り込む隙がなくなりつつある、と分析する。
ビジネスとは一定の成功率を確保し、願わくば集団を繁栄させるために現実可能な目標とリスクを明確にして、どうすれば存続のための利益を確保できるか考え抜くこと――。それが、意志という恵みの与えられた自我ある人々の義務だと結び、意志ある行動を促している。(ライター・生井俊)
■2009年11月3日紹介
要求を適切に扱うための原則とノウハウ集
「要求」の基本原則
●岡 大勝、三宅 和之=著
●技術評論社 2009年11月
●1480円+税 978-4-7741-4018-6
 システムは、多くの人の要望を叶えるために作り上げられる。すべての要求を満たすシステムを作ることは難しいが、すべての人を満足させるシステム開発は不可能ではない。本書では、要求を扱ううえで必要となる一連の行動を「要求プロセス」としてマニュアル化し、深い「要求の森」を進むためのノウハウをまとめる。
要求を適切にコントロールするためには、常に意識し続けなければならない原則がある。その原則とは「抽象度を識別する」「可視化する」「検証する」「トレーサビリティを付与する」「属性を付与する」「分類する」の6つだ。この6原則によって、個々の要求が1つの目的達成手段として結び付けられ、相互に検証可能な状態を維持することが可能になる。
要求の受け手(開発者)の観点で要求を扱う「導出フェイズ」では、出し手の観点で表現された要求を、受け手の観点に変換するところから作業を始める。この「要望」から「要件」への観点の変換により、曖昧な要望が具体的な手段として明らかにされ、その過程で要求スコープは拡大されていく、と説明する。
要求プロセスの流れをアクティビティ(作業)と成果物の観点から扱った本書。要求定義を成功させるためには、アクティビティと成果物が定義されているだけでは十分でなく、それを実行するメンバーの資質や継続的改善が必要だと結んでいる。(ライター・生井俊)
■2009年10月27日紹介
見積もりの進め方(ノウハウ)を中堅小売業の事例から学ぶ
これだけ押さえればすぐできる! SEのための見積りの進め方
●克元 亮=著
●日本能率協会マネジメントセンター 2009年9月
●2300円+税 978-4-8207-4599-0
 システム開発では、開発費用や納期を決める「見積もり」が欠かせない。しかし、ファンクションポイント(FP)法などの見積もり手法を一通り学んでも、うまく見積もれるとは限らない。そこで本書では、FP法やCOCOMO IIなどの王道ともいえる手法を押さえたうえで、見積もりの進め方を事例に沿って紹介する。
見積もり作業は、人間がやる以上、属人的なバイアスが入る。全体における誤差の拡大を防ぐためには、3点見積もりが有効だ。3点見積もりとは、最も可能性が高い所要期間を設定する「最頻値」、最良のケースを想定した「楽観値」、あらゆる問題が発生する「悲観値」の3つのシナリオを想定し、平均値を計算する方法のこと。統計的にも、3点見積もりは最頻値による1点見積もりよりも誤差が小さいため、見積もりの精度が向上する。
また、ユーザー要件を把握するために、インタビュー形式で顧客にヒアリングしていくことが欠かせない。そのヒアリング手法は、対面で行うインタビューのほか、質問票を配布し回収するアンケート、実際に現場を観察する方法の3つがある。例えば、インタビューは、場の共有により信頼感を高めることができる一方で、対象者の幅がやや狭まったり、会議のための時間が必要になる面もある。よりよいヒアリングのために、このような特徴をそれぞれ把握し、状況によって使い分け、ときには組み合わせることが有効だ、と説く。
多くのページを割く見積もり事例では、中堅小売業の販売チャネル拡大をテーマに、見積もりステップを確認していく。平易な文章で、イラストや図表が多く入れることで、分かりやすく仕上がっている。(ライター・生井俊)
■2009年10月20日紹介
アーキテクトたちが正しいと信じていることをまとめた心の処方箋(せん)
ソフトウェアアーキテクトが知るべき97のこと
●リチャード・モンソン−ヘフェル=編/鈴木 雄介=監修/長尾 高弘=訳
●オライリー・ジャパン 2009年10月
●1900円+税 978-4-87311-429-3
 ソフトウェア・アーキテクトは、実に中途半端な立場に居る。ビジネスサイドの人間よりは技術に詳しく、プログラマたちよりはビジネスサイドの都合が分かるが、その分、どちらに話をしても全体をきちんと理解してもらえないからだ。本書では、そんな板挟みの中で数多くの成功や失敗を重ねてきたアーキテクトたちが「正しいと信じていること」を97編(+11編)のエッセイとしてまとめている。
アーキテクチャを設計するときには、その導きの糸として、原理原則に明確に従うべきだと説くのはマイケル・ハーマー氏だ。明確な原則を持つアーキテクチャは、何から何まで面倒を見ることからアーキテクトを解放する。見解や趣味の違いは、権威のある方が勝つ政治的な議論を引き起こすが、基本原則が明確になっているところでの意見の相違は、個人の人格を掛けた争いにならず、理性的に議論を進めることができる。
Webに溢れる情報のほとんどが、手段的で陳腐化しやすい知識だと警鐘を鳴らすのは、はてなCTOの伊藤直也氏。計算機を扱うに当たっても本質的な知識であるはずのアルゴリズムとデータ構造、情報理論、計算機の動作原理、情報検索……などは、Webでは手に入りにくいし、Webがそんな情報を吸収するために最適化されているとはいい難い。ゆえに、日々の開発のために手段を学び、躍進のために本質的な技術を、バランス良く学ぶことが大切だと述べる。
「アーキテクトは手を汚せ」「再利用は、アーキテクチャだけでなく人と教育の問題」「暗黙の仮定、特に自分自身のものを疑え」「優れたソフトウェアは構築されるのではなく、成長する」など、第一線で活躍する国内外のアーキテクトからのメッセージ。個々の経験から得た信念ゆえ、すべてに納得する必要はないかもしれないが、あなたに響く言葉がきっと見つかるはずだ。(ライター・生井俊)
■2009年10月13日紹介
「日本の現場力」をうまく活かした組織モデルを構築するために
プロジェクトを成功に導く組織モデル――チームの「やる気」はなぜ結果に結びつかないのか
●浦 正樹=著
●日経BPソフトプレス 2009年9月
●1900円+税 978-4-89100-673-0
 経営陣の意思決定。これを、現場に正しく落とし込むプロセスが機能しないことがよくある。結果、多くの組織で、経営と現場がちぐはぐな動きをしている。米国で行われているようなガバナンスモデルに、強い拒否反応を示す日本の現場。その風土の違いを「経営改革の障壁」ととらえることなく、本書では逆に「日本の現場力」をうまく活かした問題解決として提示する。
プロジェクトガバナンスの目的は、「組織の戦略を実現する」「組織のビジネス価値を最大化する」の2つに集約される。プロジェクトガバナンスを強化する組織が取り組む経営手法を「マネジメントバイプロジェクト」といい、文字通り「プロジェクト型」で経営を行う。マネジメントバイプロジェクトを行う組織の経営モデルは、ボトムラインを形成する現場からトップまで「現場のマネジメント」「戦略的調整」「戦略的意思決定」という3層のマネジメント領域で構成されている。
プロジェクトガバナンスを実現するためには、現場と経営をつなぐ「戦略的PMO」が不可欠だ。戦略的PMOは、現場と経営の中間を位置取ることで、現場のプロジェクトからの情報を経営陣の意思決定のための材料となるように集約していく。これにより、現場から経営への「情報の集約(上り方向のライン)」を機能させる。さらに、経営陣の意思決定を現場の個々のプロジェクトのスケジュールや経営資源配分計画に落とし込んでいき、経営から現場への「戦略の具体化(下り)」を機能させる。このように、戦略的PMOは組織の「要」としての役割が期待されている、と説く。
プロジェクト中心主義のための新しい仕組みづくりや、統合型プロジェクトと通常のプロジェクトの違いについてにも言及するほか、日本型の組織でプロジェクトガバナンスと現場力の両立も扱っている。(ライター・生井俊)
■2009年10月6日紹介
複雑なシステムを理解し、継続的な成功を生む施策を設計する思考術
システム思考――複雑な問題の解決技法
●ジョン・D・スターマン=著、小田理一郎、枝廣淳子=訳
●東洋経済新報社 2009年9月
●4200円+税 978-4-492-53263-8
 今日の私たちの難題は、私たち自身が作り出し、組み込まれているシステム構造を理解できないことにある。つまり、そこから生まれる結果こそが、私たちにとって最も危険なものになっている。本書では、ビジネスに限らず、あらゆる分野で複雑なシステムを理解する手法と、それに基づいて継続的な成功を生み出す施策を設計する手法を提示する。
モデル構築を成功させるハウツーは存在しない。モデル構築は創造的なもので、モデル設計者は1人1人異なるスタイルやアプローチを持つ。とはいえ、成功しているモデル設計者は「取り組むべき問題を明確にする」「ダイナミック仮説(問題の原因についての仮説)を立てる」「その仮説を検証するためのシミュレーションモデルを構築する」「検証する」「改善に向けた施策を設計・評価する」という5つの活動を含む秩序だったプロセスをたどっている。
また、あらゆるモデルの構造は「物理的・制度的な構造」と「その構造の中で行動する動作主の意志決定プロセス」に関する2種類の仮定からなる。前者を正確に示すのは比較的簡単だが、主体の意志決定ルールを発見して表現するのは、難易度が高く注意を要する作業だ。モデル設計者は「意志決定ルール」とそのルールが生み出す「意志決定」とを明確に区別しなければならないほか、モデル化のためには5つの原則に則ってなければならない、と解説する。
本書で扱うのは、システム思考のプロセスからダイナミックなシステム構造と挙動、成長のダイナミクス、不安定性のダイナミクスまで幅広い。システム思考や複雑性、戦略的思考の教科書として活用できる。(ライター・生井俊)
■2009年9月29日紹介
保守契約のカラクリを明らかにし、ITサービス価格を「見える化」する
日本のITコストはなぜ高いのか?――経済復活の突破口は保守契約の見直しにあり
●森 和昭=著
●日経BP企画 2009年9月
●1400円+税 978-4-86130-423-1
 日本のITユーザーが、システムの維持・管理のために年間に支払う金額は、総額1兆円に達するといわれている。この状況は、たとえていうなら、雪道を歩く下駄の歯に雪が詰まり、その詰まった雪により歩行困難になっている状況に似ている――。本書では、これまでブラックボックス化されてきた「保守契約制度」のカラクリを明らかにし、ITサービス価格の「見える化」実現を企図する。
IT保守におけるコスト削減を解決するために、まず保守サービスの内容やコスト構造を「可視化」(見える化)し、保守管理上の脆弱ポイントと課題を抽出する。ここでの重要なポイントは、「サービス報告書」の分析だ。このサービス報告書を1枚1枚厳しくチェックせずにサインすることは、IT保守の現状を「棚卸し」できていないと同じことだ。棚卸しすることによりはじめて、不要な資産を排除したり、無駄なコストを削減したりでき、システムの運用や保守の効率化が実現する。
また、アメリカでは9・11テロ以降、ハッカーに対抗する「エシカルハッカー」が登場している。これはいわゆる「倫理的ハッカー」のことで、ハッカーの手口を学ぶことで対抗手段を講じていく人たちのことだ。社会の安全と安心を守るために、エシカルハッキングのライセンスを取得した者が、企業の必要部署に配置されている。わが国でも、このようなライセンスを持つ者がITシステムを構築し、保守サービスを担当することになれば、IT技術者の技術力の底上げにつながるだけでなく、世界一安全なIT社会を作っていこうという積極的な集団へと変えていける、と説く。
ほかに、IT保守コストの監査について、実際に外部監査を導入した企業のケーススタディを収録している。(ライター・生井俊)
■2009年9月22日紹介
企業価値を向上させる「情報セキュリティガバナンス」のガイドライン集
情報セキュリティガバナンス――情報化社会を勝ち抜く企業の経営戦略
●経済産業省商務情報政策局情報セキュリティ政策室=編
●経済産業調査会 2009年8月
●2800円+税 978-4-8065-2835-7
 企業の事業基盤の安定的な確立を目指し、ひいては企業価値の向上を図るために「情報セキュリティガバナンス」の重要性が高まっている。これは、自社が保有する情報の価値を正しく認識し、リスク管理の一環として、経営者がリーダーシップを持って戦略的に情報セキュリティ対策を推進することだ。本書では、政府がこれまでに公表した6つのガイダンスをまとめている。
アウトソーシングにおける情報セキュリティ管理基盤の整備については、委託する業務や担当部署ごとに個別管理していると、部署ごと・案件ごとに情報セキュリティレベルに大きな差が生じてしまう。そこで計画プロセスにおいては、アウトソーシング戦略および情報セキュリティ戦略に基づき、アウトソーシングに対して共通に機能する全社的な情報セキュリティ管理基盤を整備し、子会社・関連会社を含む連結ベースで構築することが望ましい。
また、緊急時におけるセキュリティ水準の低下に関して、平時では受容できないとしていたリスクの一部を、緊急時にのみリスク軽減・分散・転嫁のために受容する場合がある。具体的には、可用性の水準を維持するために、機密性および完全性に関する水準の低下を認めるといったことだ。リスク管理策の維持とITサービス継続が相反する場合に、そこで改めてITサービス継続が中断するリスクを加味したうえで、可用性以外の情報セキュリティ水準を決定する必要がある、と説く。
ほかに、「ITサービス継続ガイドライン」「情報セキュリティ報告書モデル」「産業構造審議会 情報セキュリティ基本問題委員会 中間取りまとめ」などを扱っている。(ライター・生井俊)
■2009年9月15日紹介
継続的インテグレーションを実践するためのベストプラクティス集
継続的インテグレーション入門――開発プロセスを自動化する47の作法
●ポール・M・デュバル、スティーブ・M・マティアス、アンドリュー・グローバー=著/大塚 庸史、丸山 大輔、岡本 裕二、亀村 圭助=訳
●日経BP社 2009年8月
●3200円+税 978-4-8222-8395-7
 プロジェクトで最も難しく、緊張する瞬間にソフトウェアのインテグレーションがある。それまできちんと動いていた個々のモジュールを1つに統合すると、たいていどこかしらが動かなくなる。このつらい作業をこなすコツは、頻繁に行うことだ。その「継続的インテグレーション」(CI)を実践するためのベストプラクティスをまとめたのが本書だ。
CIとは、チームのメンバーが各自の成果物を頻繁に統合するソフトウェアのプラクティスで、通常1日1度以上は各自でインテグレーション作業を行う。エラーを早く検出できるよう、すべてのインテグレーションは、テストを含め自動化されたビルドによって検証される。このアプローチを用いることで、インテグレーション上の問題を大幅に削減するだけでなく、開発期間短縮につながる。プロジェクトレベルでCIの価値を見ると、リスクの軽減のほか、いつでもその環境にもデプロイできるソフトウェアの生成や、プロジェクトの可視性の改善、開発チームの自信を深めることにも効果が期待できる。
「よいビルド」の条件の1つに、早めに失敗することがある。ビルドの大部分が正常に完了した後で失敗するのは腹立たしいだけでなく、失敗したターゲットを見付け出す時間を浪費したことになる。早めにビルドを失敗させるためには、「1. 最新の変更をリポジトリから取得してコンパイルし、コンポーネントのインテグレーションを行う」「2. データベースやほかの依存関係を持たない、短時間で終わる単体テストを実施する」「3. データベースの再構築、インスペクション、デプロイなど、ほかの自動化されたプロセスを実施する」とよい、と推奨する。
これ以外にもCIシステムの構築では、継続的なデータベースインテグレーションや継続的テスト、継続的フィードバックなどに言及する。自動ビルドツールの導入と思われがちなCI。それを実践の観点でまとめた本書は、人や組織の在り方を見直すきっかけにもなりそうだ。(ライター・生井俊)
■2009年9月8日紹介
実例を多数織り込んだプロジェクトマネジメントの教科書
演習と実例で学ぶ プロジェクトマネジメント入門
●飯尾 淳=編著/中川 正樹=監修
●ソフトバンク クリエイティブ 2009年9月
●2480円+税 978-4-7973-5559-8
 プロジェクトマネジメントの重要性は強く認識されてきているが、現実味のある形で教えることが難しい。本書は、実質的な世界標準であるPMBOKに沿い、実際の話題や演習を織り交ぜることで、プロジェクトマネジメント全体を解説する。
計画が定まり、実際にプロジェクトが走り始めたら、そのプロジェクトが計画どおりに動いていくように配慮が必要だ。プロジェクトの監視は、プロジェクトの進行状況を示す実績を確実に把握すること。何らかの理由でスコープ、スケジュール、コストについて変更が生じたとき、適切に処理することでプロジェクトを管理していく。その「インプット」として重要な項目として「承認済み是正処置」「承認済み予防処置」「承認済み変更要求」「承認済み欠陥修正」「確認済み欠陥修正」がある。「予防処置」とは、リスクを考えてマイナスのリスクになりそうなものをなるべく減らすために実施する変更のことだ。
プロジェクトメンバーを含むプロジェクトのステークホルダーに、プロジェクト遂行に必要な情報を届ける「コミュニケーション・マネジメント」。その情報伝達を適切に実施し、正確な情報を連絡することが、「実績報告書」のミッションだ。プロジェクトコミュニケーション・マネジメントは、プロジェクト情報の生成、収集、配布、保管、検索、廃棄といった処理を適切に遂行するためのプロセスで構成され、「コミュニケーション計画」「情報配布」「実績報告」「ステークホルダー・マネジメント」の4つがある、と説く。
「プロジェクトとは何か」からWBSと資源管理、コスト見積もりなど幅広い内容を扱っており、プロジェクトマネジメントを学ぶ学生から、現場のプロジェクトマネージャまで利用できる内容に仕上がっている。(ライター・生井俊)
■2009年9月1日紹介
クラウドはどう構築し、利用していくべきかを技術要素から解説
クラウドを実現する技術
●米持 幸寿=著
●インプレスジャパン 2009年9月
●2200円+税 978-4-8443-2741-7
 クラウドを巡る議論の初期段階では、オフプレミス――すなわち、所有や管理しないことによるコスト削減が強調され、対してセキュリティはどうするのかという点が論じられた。それが今日ではオンプレミス型クラウドであるプライベートクラウドに注目が集まっている。本書では、クラウドを構築し、利用する流れについての技術要素をまとめている。
システム開発プロジェクトの始まりに、ソースコード管理やバグ管理などをどのような仕組みで行うかが議論になる場合がある。最近では、ソフトウェア開発に必要な環境を仮想的に準備することも珍しくないが、クラウドによるソフトウェア開発環境は、アプリケーション実行環境同様、セルフで環境設定が可能で、異なる管理法を採用する複数グループが1つの環境で共存できる(マルチテナント)などの特徴がある。
クラウドの課題に、パブリッククラウドにデータを預けてよいかというものがある。ベンチャー企業などを中心に、ASPなどでCRM・ERP・売り上げ管理などのアプリケーションを利用しているところが見られるが、これはクラウド事業者といわば「運命共同体」化することなる。漏えいや改ざん、消失、はたまたパブリッククラウドを提供する運営母体が破綻してサービスが突然終了したりしないか――。そうしたリクスを考慮にいれたうえで、データを失わないための手立てを講じておく必要がある。
本書はクラウドを支えるさまざまなコンセプトや技術についてページを割くほか、その投資は最適か、インターネットクラウドは企業システムを置き換えるかについても言及している。(ライター・生井俊)
■2009年8月25日紹介
セブン-イレブンの事例に「サービスイノベーション」を学ぶ
図解 セブン-イレブン流 サービス・イノベーションの条件――生活者起点のIT経営で社会と産業の新時代を切り拓く
●碓井 誠=著/日経情報ストラテジー=編
●日経BP社 2009年7月
●2200円+税 978-4-8222-1675-7
 政府の「経済成長戦略大綱」や「骨太の方針2007」を発端に、サービス産業の生産性向上とサービスイノベーションの重要性が語られるようになった。その底流には、サービスの本質的なあり方を問う、時代の大きな転換がある。本書では、セブン-イレブンのサービス革新の考え方を中心に、業務プロセスの革新や新たな価値を生む「共創・共感」の重要性と、「真IT経営」を提起する。
きめ細やかなサービスを、個店で、チェーンで、取引先を含めて実行され、改善を超えたサービスイノベーションとするためには、これを推進する経営スタイルとエンジンが必要になる。セブン-イレブンでは、この役割を「仮説−検証」「絶対の追求」「真IT経営」の3つに求めている。この中で、絶対の追求とは、相対論や平均値で評価してはいけないという考え方で、妥協せずにベストを尽くすことを意味している。
サービスイノベーションの取り組みは、産業分類別・行政組織別の縦割構造から脱却して進めることが重要だ。サービスイノベーションや生産性の向上は、水平連携、垂直連携、異業種連携から生み出されることが多い点を考えると、取り組みの枠組みを広げた連携がカギになる。また、これらの産業別、行政別の縦割りは、すぐには解消されないことも考慮し、縦割りの中から生まれるサービスを改善する技術や仕組み、方法論やノウハウをサービスモジュール化して整理・共有する活動を強化するのも大切だ、と説く。
セブン-イレブンに限らず、次世代サービスとして「ナビタイム」「スーパーホテル」の事例を取り上げるほか、オープンイノベーションにも言及している。(ライター・生井俊)
■2009年8月18日紹介
新しい「知恵」を生み出すチームイノベーションを解説
現場の「知恵」が働くチームイノベーション
●源明 典子=著
●日本経済新聞出版社 2009年6月
●1800円+税 978-4-532-31464-4
 組織のメンバーが、さまざまな制約を超えて新しい価値の創造に挑戦するためには、ハッパをかけても効果はない。組織の閉塞的な状況を打開し、変化に対応していくために、絶えず「新しいものを生み出す」というベクトルの働く、信頼で結ばれたチームが必要だ。本書では、そのようなチームによる価値創造のプロセスを「チームイノベーション」と名付け、知恵が循環する仕組みづくりを解説する。
改革をトップダウンで一方的に進めようとすると、「上は変わろうとしない」など、部下の不信は大きくなる。それを避け、部下が上司や組織を信頼し、一緒によくしていこうと前向きになるためには、まず「上層部がチームになる」ことが必要だ。改革はあくまでも部下が主役で、上司は支援者であるという「スポンサーシップ」の機能・役割をしっかり認識しなければならない。
また、知恵が働く組織にするためには、「組織の目指す方向性が見えている」「メンバーが『自ら考える』ことをマネジメントが支援している」「一緒に考え動く仲間がいる」という3つの条件を整備していくことが必要だ。現場で働く知恵は、実行がなくては生まれない「身体的なリアリティを伴った対応力としての知恵」で、「現場」と「実行」が大きなカギになる、と説く。
随所に企業事例を挟みながら、知の生産性を高めるインフラ作りを紹介。自然な流れのプロセスがつくれるよう「プロセスデザイナー目線」のアドバイスもあり、経営トップからプロジェクトマネージャまで利活用できる内容が満載だ。(ライター・生井俊)
■2009年8月11日紹介
日本のネットビジネスがなぜ儲からないかの本質を探る
グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業
●夏野 剛=著
●幻冬舎 2009年7月
●760円+税 978-4-344-98135-5
 Web 2.0という「ブーム」があった。その「エントリーバリアの低さ」(=誰でも参加できる)が生み出したのは、「みんながやっているから」という理由だけで始めた自分たちの強みを考えることのない事業だ。なぜ日本のネットビジネスが儲からないのか、iモードの立役者として知られる夏野剛氏がその本質に迫る。
IT革命は、企業や個人を「裸の王様」にした。というのも、企業情報や制作物の内容、果ては開発者の言葉などの「履歴」が、証拠としてパブリックに公開されているからだ。同様に、企業戦略も「裸」になっていて、どこの企業も、いま・どの方向を目指しているか、ごていねいにWebサイトに記している。つまり、これまでのように「俺は鎧をかぶっているから大丈夫」では通用しない、「裸を前提にしたビジネス」をする時代だといえる。
一方で、Webは正しく使いさえすれば、これまでアクセスできなかった顧客へリーチできる「飛び道具」(武器)になる。多くの企業では、「Webとは単に出口が1個増えただけ」「Webを作っておくこと自体が目標」になっていた。そこにとどまらず、ビジネスドメイン、顧客、マーケット、ビジネスのやり方など、これらすべてのプロセスを見直すことが飛び道具を使いこなすコツだ、という。
元NTTドコモ執行役員として日本のネットビジネスをリードしてきた夏野氏らしく、事例も豊富で、海外市場の分析も読み応えがある。結局は、自社(自分)の能力をありのままに受け止め、どう生かしていくかを探る「実直さ」がカギになるようだ。(ライター・生井俊)
■2009年8月4日紹介
企業内IT部門の役割と在り方を考える
企業内IT部門で働いた体験から――なぜ私は人の5〜10倍の生産性を上げられたか
●能登部 哲次=著
●文芸社 2009年6月
●1500円+税 978-4-286-06818-3
 ベンダとユーザーの間に立つ企業内IT(情シス)部門。「何でも任せてください」というベンダの言葉をうのみにすると、契約書には責任逃れの部分が多くあったりする。また、「設計書(仕様書)を渡すので確認してほしい」といわれても、普通のユーザーはその設計書から自分の仕事がどう変わるのか分からない。本書では、結局「責任を取らされることが多い」企業内IT部門の役割と在り方をまとめる。
エンドユーザーとのかかわり方だが、いまのSEはシステムの構成・設計の内部までエンドユーザーに聞こうとする傾向がある。確かに、エンドユーザーから実情や要望などを聞くとことは重要だ。しかし、エンドユーザーがいっている情報の加工方法でシステム設計をするのは「お客さまに製造方法を聞いているようなもの」であり、全体の統一が取りづらくなる。
ソフトウェアベンダの利用については、一番気になるのが効率の悪さだと述べる。生産管理の仕様書を書いてもらい、プログラムを作成すると感じが違い、筆者が仕様書を作成してから同じプログラマに依頼すると、プログラムのライン数が3分の1で済むことがあったという。また、システム間連携を考えさせるもの、全システムを同じベンダに任せればよいかもしれないが、かなり難しく、IT部門がある程度主導する必要がある、と説く。
 このほか、「他の産業や生産方式からシステム構成を考える」では、トヨタ生産方式セル生産方式多能工などがシステム設計の参考になると紹介しているのがユニークだ。(ライター・生井俊)
■2009年7月28日紹介
ソフトウェア開発は創造的か、事務的に進めるべきか
ソフトウエア・クリエイティビティ――ソフトウエア開発に創造性はなぜ必要か
●ロバート・L・グラス=著/高嶋 優子、徳弘 太郎、森田 創=訳/平鍋 健児=解説
●日経BP社 2009年7月
●2200円+税 978-4-8222-8392-6
 ソフトウェア開発はアートか、工業製品かという論争には長い歴史がある。もし、まったく、あるいはほとんど創造性が必要ないというならソフトウェア開発を単純化し、ルーチンワーク化できるはずだ。一方で、いま、そしてこれからも創造性が必要であれば、自由奔放な方法論とクリエイティブな解決策が必要とされ続ける。本書ではこれらの問題に言及し、解決策を模索する。
「規律」の反対語を探すと、「柔軟性」という言葉にたどり着く。ソフトウェア構築をめぐる意見の対立が、まさしくそこに起因している。ある実験のデータだが、「管理者が設定したスケジュール」「開発者が設定したスケジュール」「スケジュールを強制しない形」という3つのパターンで、ソフトウェアを作った。ソフトウェアの生産性は、予想通り管理者よりも開発者自身が設定したスケジュールの方が高かった。しかし、最も生産性が高かったのは、スケジュールをまったく立てなかった場合という、意外な結果が出ている。これは、開発者の責任感や仕事に対する情熱が、どんな圧力や管理よりも動機付けになることを示唆している。
また、ソフトウェア開発が知的か事務的かという問題がある。「ソフトウェア開発の自動化には、どの程度の利益があるのか」という点については、事務的作業よりも知的作業の方が多く、その比はおよそ4:1だという分析結果がある。このような結果から、ソフトウェア開発はかなり知的なもので、かなり簡単な開発作業であっても「誰でもソフトウェア」が作れるとはいえない、と解説する。
「創造性」が口先だけにならないよう、あらゆるデータや事例を引用し、実践に役立てるようにする一方で、規律か自由奔放かという点においては結局は「どちらも正しい!」とまとめている。(ライター・生井俊)
■2009年7月21日紹介
建築理論がなぜソフトウェアの世界で花開いたのかを紐解く
パターン、Wiki、XP――時を超えた創造の原則
●江渡 浩一郎=著
●技術評論社 2009年8月
●2280円+税 978-4-7741-3897-8
 パターンWikiXP――この3つには、共通の祖先がある。それは、建築家クリストファー・アレグザンダーによる建築理論である。本書はパターンランゲージをはじめ、アレグザンダーの概念が誕生した経緯と、建築の世界の思想がソフトウェアの世界で花開くまでの過程をまとめている。
ソフトウェア開発におけるパターンとは、プログラムに繰り返し現れる構造や設計を 再利用しやすい形式にまとめたもの。プログラマのウォード・カンニガムは、こうしたパターンを収集するツールとして、パターンブラウザや「WikiWikiWeb」を開発し た。カンニガムは、なぜパターンに注目したのか――それはプログラミングにパターンを利用することで、ソフトウェア開発が大きく改善できるのではないかというビジョンがあったからだ。インターネット上で広くパターン収集活動をしたことにより、「デザインパターン」という成果を生み出した。
また、パターンと同じように個々の意味や社会的背景、組み合わせ規則といった性質のものがほかにもある。その1つが「単語」(word)で、人は単語の組み合わせで文を作り出す。このような活動と概念の集合を「言語」(language)と呼ぶように、アレグザンダーはパターンの集合である総体のうち、建築活動に必要なパターンの集まりを「パターンランゲージ」と名付けた、と解説している。
後半では、パターンランゲージのプログラミングへの応用やアレグザンダーが提唱した「6つの原理」とWiki設計原則との比較などを扱う。源流から理解していきたい人向け。(ライター・生井俊)
■2009年7月14日紹介
ドロドロした世界での「ど根性プロジェクトマネージャ」指南書
土壇場プロジェクト 成功の方程式――回避可能な12の落とし穴
●キンバリー・ウィーフリング=著/田中 健彦=訳
●日経BP社 2009年6月
●1600円+税 978-4-8222-8394-0
 プロジェクトをいかに管理すべきかをまとめた「PMBOK」のコンセプトは素晴らしく、理想の世界では確かにうまくいくやり方だろう。しかし、われわれの住む現実世界は、もっとドロドロしている。そんな世界の「ど根性プロジェクトマネージャ」向けに、まやかしやお飾りをすべて切り捨て、プロジェクトの混乱をいかに生き延びて、勝利をつかむ方法を紹介するのが本書だ。
成功するプロジェクトマネージャの条件は、完ぺきに、そして強情にお客さまのことを考える続けることだ。本当のお客さまの後を影のように1日、あるいは1週間ずっとついて回ったり、お客さまが生活しているその場の空気を吸うことで、彼らの痛みが何であるかを知り、あなたの製品やサービスが鎮痛薬として本当に効くのか、そして彼らを喜ばせることができるのかを徹底的に調べ上げていく。
計画では、プロジェクトの最初から最後までの、ハイレベルの事象を示す1枚のスケジュールを簡単なフローチャートで作成する。これは、細かなガントチャートに目を奪われず、プロジェクトの全体像を頭にいれるためには有効だ。さらに効果を高めるために、重要なリスク個所には骸骨や救急車、時限爆弾などの絵も添えておくと、この種の飾りにめざとい幹部たちに印象を強めることができる、という。
日本のプロジェクトとやや印象が異なる部分もあるが、コミュニケーションや優先度、学習されない教訓など、よくある落とし穴を紹介しながら、ユニークな切り口で読ませている。分かりやすさとストーリーの面白さが光る。(ライター・生井俊)
■2009年7月7日紹介
ソフトウェア要求で共通の理解を作り上げるのに役立つ参考書
実践ソフトウェア要求ハンドブック
●エレン・ゴッテスディーナー=著/平山 輝、藤井 拓=監訳/オージス総研=訳
●翔泳社 2009年6月
●2800円+税 978-4-7981-1708-9
 業務部門の担当者と情シス部門の担当者が集まり、新しいソフトウェアの開発や既存のソフトウェアのリプレースを行うとき、自分のニーズをほかのチームメンバーが理解できるように表現するのが難しいと気づく。本書では、それぞれの立場のニーズを伝え、共通の理解を作り上げることができるツールや手法、モデルを紹介する。
効果的に要求を分析するためには、ステークホルダーがニーズに優先度を付けることがポイントとなる。そして、ソフトウェアに要求を割り当てられるぐらいまで、要求を十分に理解し定義することで、要求モデルが作成される。要求モデルを作成することで、技術担当者とビジネス担当者間でのコミュニケーションが促進されるほか、要求の漏れ・間違い・あいまいさ・矛盾を発見することができる。
要求の管理だが、要求の変更を管理する仕組みを確立するために「変更管理ポリシー/手順」を、補足的な要求情報を識別するために「要求属性」を、要求の系統と関係を理解するために「要求追跡マトリックス」を成果物として作成する。このように手順を確立して、チームが変更の影響を素早く理解し、要求変更にどう対処するかを判断し、要求についての確約を交渉できるようにするのがカギになる、という。
要求の抽出や分析、妥当性確認などにも多くのページを割いている。ツールについて「どのようなものか」「なぜ利用するのか」「何ができるのか」「どのように行うのか」まで深掘りするなど、ていねいな作りになっている。(ライター・生井俊)
■2009年6月30日紹介
工事進行基準の導入プロセスで学んだ教訓をまとめた現場の教科書
システム開発「見積り」のすべて――「工事進行基準」に完全対応
●野村総合研究所SE応援ネットワーク=編
●日本実業出版社 2009年6月
●2600円+税 978-4-534-04555-3
 工事進行基準の導入は、中途半端な対応でお茶を濁すことができるほど簡単ではない。また、職人技でプロジェクトごとに数値を集計すればすむようなものでもない。本書は、工事進行基準適用の導入プロセスで学んだ教訓を基に、実践で活用できるノウハウを紹介する。
工事進行基準に対応した見積もりの「勘所」だが、まず見積もる前に課題を見える化することから始まる。そして、ソフトウェア開発の見積もり手順では、大まかに「規模見積もり」「工数見積もり」「原価見積もり」の3つの流れがポイントになる。これは1回だけ実行するのではなく、プロジェクトの進ちょくに従って見積もりを見直し、徐々に内容の精度を上げていく。
見積もりの精度を最大限まで高める要件定義術だが、精度を高める前に「正しいタイミングをとること」が重要だ。というのも、見積もりで失敗する最大の理由として、要件定義以前に見積もっていることが挙げられる。いくらリスクが高いといっても「要件定義前に見積もってほしい」という要求はしばしば発生するが、見積もりは要件定義前と後、基本設定が終わった後の計3回で行うようにすべきだ、と説く。
野村総合研究所が、実際に自社で取り組んだ内容をまとめていて、理想論だけでなくより現場に近い学びが得られる1冊だ。(ライター・生井俊)
■2009年6月23日紹介
さまざまなPMOの役割や機能を整理・解説した参考書
戦略的PMO――新しいプロジェクトマネジメント経営
●PMI日本支部=編
●オーム社 2009年5月
●3300円+税 978-4-274-20705-1
 経営戦略や組織計画の実行を支援する役割を担う「戦略的PMO」(Project Management Office)。ある組織では、PMOは特定プロジェクトを支援するため、また別の組織ではプロジェクトマネジメント・プロセスを標準化するために存在している。本書では、さまざまなPMOを幅広くとらえ、経営層や実務者の参考になるよう、その役割や機能を整理する
優れたPMOを導入・運用できれば、組織的プロジェクトマネジメント能力は向上し、大きな成果を得ることができる。その一方で、PMOには多様性という特徴があり、画一的に必要な機能や組織を定義することは困難だ。そのことを踏まえ、戦略的PMOの基本方針を「組織にとって必要な機能の選択」「柔軟で自在な組織の構築」「臨機応変な導入アプローチの実行」「継続改善の重視」「経営環境の変化への即応」「テンプレートをベストプラクティス集積のツールとして活用」という6項目に集約している。
この基本方針を受け、第5章では「PMOの成熟度モデル」を扱う。組織ごとにPMOに求める期待(ゴール)やPMO導入時点(スタート)の成熟度が異なるだけに、画一的なモデルの提供は困難だ。故に、それぞれの組織が取捨選択した機能ごとに、PMOベストプラクティス(PMOBP)に対する達成度を測定し、それを数値化したスコアリングモデルを「PMO成熟度モデル」として定義する。このPMO成熟度を定期的に測定することで、結果をもとにした継続的改善が可能になる、と説く。
PMO機能体系、PMO成熟度モデル、PMOプログラムが密接な関係を持ち、戦略的PMOフレームワークを構成しているが、大事なのは組織それぞれの事情に応じて、柔軟に活用していくことが肝要だとまとめている。(ライター・生井俊)
■2009年6月16日紹介
PMの本質からプロジェクトを成功へ導くまでを扱うPM入門書
プロジェクトマネジャー・リファレンスブック――プロを目指す人への指南書
●プロジェクトマネジメント学会PM人材育成研究会=編
●日刊工業新聞社 2009年4月
●2000円+税 978-4-526-06246-9
 厳しい経済環境の中、企業は生き残りをかけてイノベーション(変革)を行っていく必要がある。そこでは、リーダーシップ、チャレンジ能力、行動力、コミュニケーション力など、プロジェクトマネージャ(PM)の能力を持った人材が特に求められている。本書では、その「PMの本質」から「プロジェクトの成功を目指す」までのヒントを、会話形式でまとめる。
優れたマネージャの最も重要な職務は、「部下の才能を業績に結び付ける一番の方法を見つけ出すこと」にある。これを参考にPMの職務を考えると、「プロジェクトメンバー1人1人の才能を把握し、メンバーの才能をプロジェクトの目的達成に結び付ける一番よい方法を見つけること」となる。ここでは才能とは何かを定義する必要があり、またスキルと知識との違いをきちんと認識し、言葉の表層をとらえるのではなく、深掘りする。
プロジェクトをマネジメントするうえでは、会議が重要になる。ただ、非効率な会議を行っていると、プロジェクトのパフォーマンスは著しく低下する。効果的な会議を行うためには、「会議の運営方法」と「会議で出席者がとる行動」の2つのポイントから考えるのも手だ。メンバー1人1人が、PMの基本スキル、傾聴、質問、共有・共感のスキルを持てば、会議だけでなく、プロジェクト全体のパフォーマンスが向上し有益だ、と説く。
本書の構成は「師匠の語り」としてPMのキーポイントが書かれ、そこにPLとPMO担当者がそれぞれの考えを出し合う形で話が展開する。1つの気付きを、あらゆる角度から説明し、より理解が深まるよう工夫されている。PMを目指す人から、PMを育成する立場にいる方にもオススメ。(ライター・生井俊)
■2009年6月9日紹介
SOAの理解を深め次世代のプレーヤーに変身するためのヒント集
生き残る企業のIT戦略――ビジネスに効くSOA
●的場 大輔、橋本 浩美=著
●日経BP企画 2009年5月
●1300円+税 978-4-86130-390-6
 IT構築の現場では、ITの開発容易性が主題となり、作り手の「できる・できない」が優先されることが多い。ITは利用者側の業務部門の業績達成にあるべきで、その考えを具現化する技術としてSOAがある。本書では、より多くの日本企業がSOAの真の価値を理解し、次世代のプレーヤーに変身するためのヒントをまとめる。
SOAのビジネスへの効かせ方は、「コストの削減」「売り上げ向上」「企業維持」(サステナビリティ)の3点に集約される。また、SOAはビジネスに効くだけでなく、「再利用性の向上」「共通化の促進」「単純化の促進」「柔軟性の向上」「可視性」といった面で、ITそのものを変化させる力を持つ。
現在、企業の情報システムの多くは「群生するタコノコ」のようなものだ。群生するタケノコ情報システムの問題は、不ぞろいな情報システムの狭間に見えないコストが潜んでいること。見えないコストとは、そのコストにまつわる業務プロセスを可視化していない、あるいは十分に分析していないため、誰もが気にしていなかったコストを指す。この膨大なコストは、SOAを使いシステム統合することで解消できる、と説く。
ほかに、戦略の転換を図った企業として、ユニクロのファーストリテイリングやヤマダ電機、パナソニックを紹介。導入事例としては、三井住友海上火災保険のプロジェクトを詳述している。(ライター・生井俊)
■2009年6月2日紹介
旧態依然のビジネス構造を変革する「覚醒型ビジネスモデル」とは
野村総研の「覚醒型ビジネスモデル」がPC管理を変えた
●岡崎 誠、北村 俊義=著
●リックテレコム 2009年4月
●1500円+税 978-4-89797-826-0
 普段自然と存在しているサービスやモノ、当たり前で何の変哲もなく延々と引き継がれてきたビジネス。実は、それらの中に多くのビジネスチャンスが眠っている。それらを発見し、新たな手を加えることで、旧態依然としたビジネスの構造やルール、ひいては業界構造まで変えてしまう可能性を秘めている。本書では、その気付きを「覚醒(かくせい)」と呼び、覚醒型ビジネスモデルの例として、PC管理手法を紹介する。
PC管理の改革が進まなかった背景には、ツールベンダなどサービスやソリューションを提供する側の問題がある。しかし、それよりも改革を大きく阻んでいたのは、実はシステム部門自身であることが多い。というのも、経営からの指示で改善させられるシステム部門であれば、いままでの活動を否定されることにつながることから、抵抗勢力になってしまうことすらある。ここは、メンツや過去の経緯を脇に追いやり、改革の荒波に自らが飛び込むべきだ。
PC管理業務については、サービサーのマネージャに確認しても、現場スタッフが行っている業務を正確に理解していないことが多い。外部から見たら、サービサーのメンバーがバラバラに、極めて属人化された対応をしているようにも思える。そこで、サービスの可視化の第一歩として業務プロセスを文書化し、業務フローと実際の業務を一致させていく。そして、サービスしたことをすべて記録するなど、手順どおりにやることがメンバーの命綱になる。こうした作業を徹底することが大切だ、と説く。
ほかに、PC運用管理で肝となる作業や、運用コスト削減とサービス品質の向上の両立、ITILなどの活用にも言及する。情シス部門の担当者なら「うちの会社でも!」と感じることが多く、課題解決につながるかもしれない一冊だ。(ライター・生井俊)
■2009年5月26日紹介
クラウドコンピューティングの技術動向と今後を予測
クラウドコンピューティング――技術動向と企業戦略の詳細
●森 洋一=著
●オーム社 2009年5月
●1600円+税 978-4-274-50232-3
 クラウドコンピューティングは逆境に強い。調査会社IDCが2008年9月に実施した調査によると、現在の経済危機の流れに逆らうように、クラウド関連サービスは今後5年間にわたって成長し続けると予測されている。企業ITの大幅なコスト削減が期待できるクラウドコンピューティング、その技術動向を中心にまとめたのが本書だ。
一般企業にも、クラウドビジネスの運営企業にとっても、仮想化は切ってもきれない関係となった。これまで主役だったヴイエムウェアの足元には、マイクロソフトとシトリックスが近づいている。仮想化が普及して一般化すればするほど、今度はその運用に目が向いてくる。仮想化では使いやすさも大事だが、TCO削減が最大の適用目的だからだ。多面的に適用され始めた仮想化技術を、どうやって効果的に運用していくかが勝ち残るポイントとなる。
システム運用管理市場では、もちろんアマゾンやグーグルもシステム運用サービスを提供しているが、それだけでは十分ではない。デベロッパーの幅広い経験や意見が大事で、グーグルの意見投稿サイトのような方法が、より使いやすくする1つの道だといえる。もう1つは、情報をできるだけ公開して自由にすること。いい換えれば、仮想化システムの基盤だけ提供し、あとは市場に委ねるのが大事だ、と説く。
大手ベンダの今後の戦略として、アマゾンでトライアルを開始したオラクル、マイクロソフトのAzure、IBMのダイナミックインフラストラクチャ、サンのオープンクラウド・プラットフォームを取り上げる。(ライター・生井俊)
■2009年5月19日紹介
小規模プロジェクトのリーダー向けに実践型チームビルディングを解説
ソフトウェア開発を成功させる チームビルディング――5人のチームを上手に導く現場リーダーの技術
●岡島 幸男=著
●ソフトバンク クリエイティブ 2009年4月
●1900円+税 978-4-7973-5243-6
 プロジェクトが始まったとき、リーダーが真っ先に取り組むべきこと。それは、プロジェクト計画を練ることではなく、「チームビルディング」にある。本書は、「はじめて5人程度のメンバーを任された」「何回か小規模なプロジェクトのリーダーを経験しているが、うまくいかない」という現場リーダー向けに、実践(プラクティス)重視のチームビルディングを解説する。
まず、チームの定義。メンバー各自がさまざまなスキルを出し合い、共通の目的のために共同作業する約束があって、グループはチームへと変わる。そのときに、「飲み会などのイベント頼み」「熱すぎる独り語り」といった「魔法の瞬間」頼みのアプローチは、理想論に傾きすぎであり、誰もが必ず実現できる手段ではない。チームとは、ある日を境にチームになるわけではなく、地道な活動を通じて浮き沈みしながら成長していく「プロセス」と考えると、余裕が生まれる。
仕事の基本は、「目的の確認→課題の発見→アクションの実行」という流れに沿って進められる。同じように、プロジェクトを運営するときも、この「目的・課題・アクション」のステップが大事だ。ここでの必須テクニックとして、目的の確認しチームのアクションを決める「運営会議」、発見された課題を整理し有意義に保つ「課題管理」、メンバーのアクションを管理しチーム内で共有する「アクション管理」の3つがある。そして、会議でプロジェクトが駆動していくだけに、「会議力」を高めていかなくてはいけないと、その手法を詳述する。
ほかに、トラブルに打ち克つための4つの原則、シンプルに考えるコツなど、すぐ実践で役立つアプローチやアドバイスが満載。「朝会」での問題発見や、「KPT」を使った週1回の振り返りなども参考にしたい。(ライター・生井俊)
■2009年5月12日紹介
エンタープライズ視点の情報システムアーキテクチャ概論
企業情報システムアーキテクチャ
●南波 幸雄=著
●翔泳社 2009年4月
●3800円+税 978-4-7981-1685-3
 昨今、アーキテクチャなき情報システム構築がビジネスの足かせになっている。この問題を解決するためには、まず企業情報システムにおける「アーキテクチャ」が何かを理解することが必要だ。本書では、特にエンタープライズレベルの視点からのアーキテクチャを対象とし、その意義と体系の明確化を試みている。
第5章では、ビジネスアーキテクチャを表現するデータの設計と配置を扱う。ビジネスアーキテクチャとは、実世界で行われているビジネスの仕組みを意味する。ビジネスの構造や状況をデータとして写し取ったのが概念データモデルで、そのプロセスが概念データモデリングになる。これは、静的モデルと動的モデル、組織間連携モデルの3種で表現する。
第10章では、アーキテクチャの成熟過程を扱う。情報システムの発展過程や成熟度については種々の見解があるが、これらは主として視点の相違によるものだ。発展過程というときは、時間軸が明示されることが多く、成熟度というときは、成熟の方向性としてゴールが示される。また、技術の普及を成長曲線ととらえると、途中にクリティカルマスやキャズムと呼ばれる臨界点がある。この点を越えられるかどうかで、その技術が市場で普及するかどうかが決まる、と説明する。
ほかに、企業情報システムのアーキテクチャの表現、情報システム管理とリスク管理、SOAとWebサービス、アーキテクチャ視点から見たガバナンスとマネジメントにも言及する。情シス部門のPM、PLに向けた、よりよい情報システムを作るための参考書になっている。(ライター・生井俊)
■2009年4月28日紹介
CIOの役割として求められる「7つのC」を解説
図解 CIOハンドブック 改訂版
●野村総合研究所 システムコンサルティング事業本部=著
●日経BP社 2009年4月
●2000円+税 978-4-8222-4743-0
 IT活用に対するめざましい効果が期待できなくなるにつれ、CIOは既存システムのお守りをする閑職と見される時期が続いた。ビジネス価値を生む武器として、ITの役割が再認識されるようになった昨今、その挑戦に満ちたエキサイティングなCIOの役割について、「7つのC」を示すのが本書だ。
CIOが実践すべき「7つのC」とは、「1.価値創造」「2.価値協働」「3.価値統制」「4.価値保全」「5.価値構築」「6.価値生成」「7.価値競争」のこと。その中の価値創造、ビジネス価値を高める情報活用の実践に向けては、大きく2つの観点がある。1つが、顧客、取引先、競合他社が持ち得ない独自性を持った情報資産を生み出すことにより、自社の優位性を発揮するやり方。もう1つが、情報の使い方で差をつける方法だ。さらに、これら2つの観点を企業活動のどの場面で実践していくか検討する必要がある。
価値構築の場面では、EAによる全体最適化が有用だ。IT資産全体最適化の実現ステップには大きく分けて「現状EAモデルの策定」「将来EAモデルの策定」「将来のEAモデル実現に向けたロードマップの策定」「個別システム開発の実施」「EAの評価・改善」の5つがある。そして、それらが効率的に実施できるようにするためには、「抜本的な再構築を伴うアーキテクチャの導入」「各システムの維持スパンに合わせた緩やかなアーキテクチャの導入」の2つが代表的なアプローチだ、と説く。
本書は、2000年に登場した「CIOハンドブック」の改訂版。この9年で企業を取り巻く環境が大きく変化し、成熟する一方で、複雑にもなった。いま一度、CIOの役割を見つめ直すのに最適だろう。(ライター・生井俊)
■2009年4月21日紹介
IT人材を再生し「想像力のあるエンジニア」にするアプローチを紹介
IT人材再生戦略――企業を支える「幸せなSE」
●淀川 高喜=著
●日経BP社 2009年4月
●1600円+税 978-4-8222-4745-4
 IT活用に関する取り組みは、一時的に効果が上がるが、継続して改善するのが難しい。それをやり切るIT人材が少なく、「結局は人次第」という話で終わってしまう。そんないまこそ日本のIT人材の再生、ルネッサンスが必要で、「想像力のあるエンジニア」にならなくければいけない。この問題について、企業の事例を研究しエッセンスを抽出、その解としてまとめられたのが本書だ。
企業はどのようにIT人材を育成していくべきか。IT人材の活性化に成功したユーザー企業の事例を見ていくと、「VOICE」という枠組みが浮かびあがる。これは、組織の活性化に欠かせないアプローチの頭文字をとったもので、「バリュー(価値観の共有)」「オポチュニティ(成長機会の設定)」「イノベーション(創造の実感)」「コミュニケーション(コミュニケーションの活性化)」「エンパワーメント(能力発揮環境の提供)」の5つから構成される。
現場レベルで「どのような人材になるべきか」や、個々のエンジニアが「どんな人材になるべきか」を考えるためには、ITスキル標準そのものはある程度の参考にしかならない。いわば、幅広くて柔軟な専門性を身に付けたマルチタレントになるためには、サービスマインドが不可欠で、ビジネスに関する想像力を養っていく。そのために、過度に分業化が進みすぎたシステム構築の仕事を一通り体験させるとよい、と説く。
ユーザー企業の成功事例はもちろん、情報サービス企業や情報子会社での人材再生に言及するほか、コンサルティングの勘所として8カ条をまとめているのも見どころだ。(ライター・生井俊)
■2009年4月14日紹介
ITコンサルタントの適性と必要知識領域が見える参考書
ITコンサルティングの基本――この1冊ですべてわかる
●克元 亮=編著
●日本実業出版社 2009年4月
●1800円+税 978-4-534-04533-1
 ITは私たちの社会の基盤技術となっている。IT投資は「企業改革のレバレッジ」として存在意義が増しており、それを支援する「ITコンサルティング」が果たす役割も大きくなってきた。その「ITコンサルティングとは何か」について、基礎から解説するのが本書だ。
ITコンサルタントは、SEの次のキャリアと考える人が多いが、SEの延長線上にあるものではなく、顧客企業に対する立場や役割が異なる別の職種といえる。顧客の指示または承認したとおりの情報システムを作るのがSEで、ITコンサルタントの仕事は、顧客の抱える経営課題に対してITを使った解決策を提案することにある。そのためには、「問題解決力」「思考ツール活用力」「IT戦略立案力」のスキルが特に重要だ。
ITコンサルタントの適性だが、「体力」と「人間的な魅力」がすべての基本となる。その中で成果を出している人は、共通して「強いプロ意識」を持っているのが特徴だ。また、顧客の将来を左右する戦略レベルの問題を扱うだけに、一見解決不可能に思えることでも「必ず解決策はあるはず」と考える「前向きな姿勢」と、考え抜く「ねばり強さ」が欠かせない、と説く。
ITコンサルタントの働き方からITコンサルティングの値段やテーマ(領域)、必要なスキルなど、一通り必要十分な内容がそろっている。内容を深掘りしたいときは、各章で挙げる参考文献リストが役立つはずだ。(ライター・生井俊)
■2009年4月7日紹介
フェイズごとの経済性やコスト削減の余地がチェックできるヒント集
ITコスト削減マニュアル――あなたの企業はムダなIT投資をしていませんか?
●岡村 和彦=著
●技術評論社 2009年4月
●2380円+税 978-4-7741-3798-8
 ITコストは年々増加基調をたどり、企業全体の経費に占める割合も極めて大きくなってきている。IT投資の投資効果をしっかり見極めない限り、費用対効果が薄れ、ITコストの負担だけが増大していく。本書では、情報システムのライフサイクルにわたり、フェイズごとの経済性やコスト削減の余地をチェックする仕組みを提供する。
全体のIT戦略としてまず、社内のIT環境におけるグリーン化を検討する。「グリーンIT戦略」を持つことで、CO2削減と電力コスト削減が効果として期待できる。そして、IT戦略計画と投資効果、情報システム全体計画と費用対効果を明確にしていく。
また、運用業務では、運用段階計画と実績のコスト評価を行う。これはコスト、作業効率、顧客行動の3つを着眼点とし、計画と実績の差異を把握していく。運用段階のシステム評価を行うことで、改善すべき点を次期システム開発に生かせる。そして、システムの導入後監査(PIA)により、新システムのコスト削減効果だけでなく、結果的にプロジェクトで繰り返してはならない教訓を得ることもできる、と説く。
企画、開発、運用、保守などそれぞれのフェイズでの経済性チェックリスト(計114)を用意。個々の事象について深く解説したものではなく、広い範囲を網羅しており、現状把握と次へのヒントとして活用できる。(ライター・生井俊)
 
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