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ひがやすを×新野淳一 対談「2011年、ソーシャルビジネスの世界へ、優秀な人材の流出が加速する」

2010年のIT業界は、「ソーシャルビジネスの台頭」が大きな注目を集めた一方で、従来のエンタープライズITの世界では大きな動きが見られなかった。「IT」のビジネスの形が大きく変わり始めている中、ITエンジニアはどんなスキルを身に付け、何を意識してキャリアを形成していけばよいのか。昨年に引き続き、Seasar2やSlim3の開発者である電通国際情報サービス ひがやすを氏と、元@IT発行人で現在「Publickey」を主宰するITジャーナリスト/ブロガーの新野淳一氏による「年末対談」をお送りする。

  「IT=ソーシャルビジネス」になった2010年

――2009年末の対談では、今後システムインテグレータ(SIer)はどうなるか、クラウドはSIビジネスにどう影響を与えるか、などを語っていただきました。2010年も年末を迎えますが、IT業界について、おふたりはどのような1年だったとお考えですか?

ひがやすを氏
ひがやすを氏
1992年 電通国際情報サービス入社。以後、主に金融業向けシステム開発に従事。NPO法人Seasarファウンデーションのチーフコミッターとして、2004年に開発に着手した“Seasar2”で、2006年「日経BP技術賞」、2007年には日本におけるOSS(オープンソースソフトウェア)開発の振興を図ることを目的とした独立行政法人情報処理推進機構「2006年度日本OSS貢献者賞」を受賞。

ひがやすを氏 「IT業界」と一言でいってもいろいろな分野がありますが、2009年までは、ITのメインプレイヤーはSIerでしたし、ビジネスの中心はエンタープライズITでした。でもそれが決定的に変わったのが2010年という年だったと思います。ソーシャルアプリやフラッシュマーケティングなど、ソーシャル系ビジネスがITの中心に来た、といっていいと思います。

 もちろん、売上規模などで見れば、まだまだエンタープライズITの方が大きい。でも「勢い」という意味では、やはりソーシャル系ビジネスが圧倒的でした。今年は「ソーシャル系ビジネスが本格的に始まった年だった」といっていいでしょう。ソーシャル系企業への、優秀な人材の流出が本格的に始まった年でもあります。

新野淳一氏 人材採用も、ソーシャル系の企業では活発でしたね。一方、エンタープライズ系はほとんど動きがありませんでした。

ひが氏 そうですね。SIerは、どこも意外と予想より業績が悪かったんじゃないでしょうか。

新野氏 いまのひがさんのお話を別の言葉で置き換えた形になるかもしれませんが、2010年は、2〜3年前からいわれてきた「コンシューマライゼーション」が明確になった年だったと思います。iPadが象徴的ですね。

 IT業界はこれまで、エンタープライズの世界がテクノロジをリードしてきました。でも、その流れがいつの間にか逆転して、コンシューマ向けのプロダクトがエンタープライズに影響を与え始めています。

 特に海外ではその傾向が顕著です。どのERPベンダも「うちのERPにFacebookのような機能が入りました」なんていっていますよね。Salesforce.comの「Chatter」など、社内コミュニケーションの分野でもコンシューマ向けプロダクトの影響が見られます。

 日本においては、「クラウドという言葉を大手企業が口にし始めた年」でもありました。大手はどこも決算発表時にクラウドへの取り組みを明言するようになりました。日本市場では、なんだかんだで、大手のトップの発言は重要ですから。

ひが氏 まあ、大手さんのクラウドって、プライベートクラウドなんですけどね。いままでとあまり変わらない……(笑)。

新野氏 その通りではあるんですが(笑)。でも、言葉として「クラウド」といい始めただけでも、注目したいかな、と。

――昨年の段階で、クラウドが実ビジネスに結びつくには、あと2年くらいかかるのでは、というお話でした。今年1年、クラウド周辺の動きを見ていて、いかがですか。

ひが氏 エンタープライズ領域でのクラウドについては、実ビジネスに結びつくのはもう少しかかりそう、というのは変わりません。でも、ITの中心になりつつあるソーシャル系のビジネス領域では、もうクラウドを使って当たり前という状況になっています。そういう意味では、2010年はクラウドが実ビジネスに結びついた年ともいえるでしょう。

――ひがさんのブログやTwitterを拝見していると、ひがさん自身もソーシャル系ビジネスを新たに始めようとされているように見えます。

ひが氏 今年の4月、受託開発には先がないと考え、ソーシャル系新規ビジネスの準備を始めました。

 いまでも受託開発はビジネス的に重要だし、急になくなるものでもありません。でも、徐々にシュリンクしていくでしょうし、爆発的な成長は見込めないと思います。

 受託開発をしている企業は、いまのビジネスを続けつつ、次の成長分野に向かわないといけない状況です。それはどこかといったら、ソーシャル系ビジネスですよね。ただし、それはソーシャルアプリケーションプロバイダになってゲームを作れば良い、という単純な話ではありません。例えば企業のマーケティングにソーシャル的な要素を付け加えて、企業と個人のコミュニケーションを促進するような流れがありますが、そこをサポートするようなビジネスを作っていくことなどが考えられます。

 あるいは、自分たち自身でソーシャルビジネスを実際にやってしまう。自分たちがやっていない領域について、お客さまのお手伝いをしますよ、といっても説得力がありません。いまは、わたしもその準備をしているところです。

  大企業でなくとも、最先端の仕事ができる時代

――2010年の状況を踏まえて、2011年のIT業界はどのようになると予想されていますか?

新野淳一氏
新野淳一氏
アスキーでITエンジニア、編集者として勤務した後、アットマーク・アイティ(現アイティメディア)の立ち上げに参画、@IT発行人として従事。2008年アイティメディアを退社後、自身のメディアである「Publickey」を立ち上げ、主宰者として取材活動を展開する。

新野氏 この1年で、中小企業が大企業よりも先にクラウドの利点を見つけ出し、活用し始めました。エンタープライズの分野でいうと、いままで中小企業は下請けをやらざるを得ないことが多かったんですよね。自分たちでパッケージを売ろうと思っても、そもそも売る力がないし、たくさん売れたら売れたで、サポートをし切れないからです。でもクラウドを使えば問題が解決することに、中小企業が気付き始めました。中小企業のビジネスプラットフォームとしてクラウドが活用され始めているのです。2011年は、こうした動きの早い中小企業から、面白いパッケージやソリューションが生まれてくるかどうかに注目しています。

ひが氏 わたしの考えは、繰り返しになりますが、「エンタープライズの分野は、重要性は変わらないけれど、シュリンクしていく」ということです。加えて、人材がどんどん流出していく年になると思います。いままで、なんだかんだいっても、業界内で優秀な人間は大企業にいました。そうした状況がなくなっていくと思います。もう、大企業にいる意味があんまりないのです。

 これまでは、大きな資本があるからこそできるビジネスがありました。大きなSIerで、何千人と人を雇って……という。でもいまは、中小企業でもクラウドを利用してビジネスができるし、しかもそちらの方が面白いことが多い。優秀な人間は面白い仕事を求めるので、優秀な人がエンタープライズ系の大企業からベンチャー系へ、どんどん流出していくでしょう。

新野氏 昔は、コンピュータで先端のことをしようと思うと、大企業しか持っていないような高価なマシンを使わないとできなかった。いまの先端は、ちょっと違う。コモディティ・サーバをたくさんつなげて新しいことをするという方向にイノベーションが移っています。これなら、大資本がなくてもクラウドで借りられますからね。誰でも最先端のことができる時代です。

 先日、Amazonクラウドが「クラスターGPUインスタンス」の提供開始を発表したばかりですが、これはスーパーコンピュータの性能でトップ500に入るマシンの性能を1時間172円で借りられるというサービス。もしかすると、高校生や大学生がこうした最先端の環境上で遊んで、新しい発見をするかもしれませんよね。

――2010年、IT業界を席巻(せっけん)した「ソーシャルアプリ」の世界は、2011年はどうなるとお考えですか?

ひが氏 「フィーチャーフォン向け」のソーシャルアプリは現在、日本のソーシャルビジネスの中心ですが、すでにピークを迎えつつあると思います。『モバゲータウン』を例に挙げると、日本の携帯総トラフィックの10%以上を占めていますし、ARPUも300円以上。すごいことですが、国内では、これまでのような成長は望めないのではないでしょうか。

 ただし、ソーシャルアプリケーションプロバイダにとっては、一番お金の動く領域であることに変わりありません。レッドオーシャン化はさらに加速して、パイの取り合いになると思います。

 一方で、2011年は「スマートフォン向け」のソーシャルアプリの世界が広がっていくでしょう。まだまだビジネス規模は小さいのですが、2011年初頭には国内で600万台くらい(直近2年間のスマートフォンの販売数の合計)の規模になるはずなので、ビジネスを始められるくらいの市場にはなります。4月ごろから本格的になっていくのではないでしょうか。

  2011年の注目はHTML5、クラウド、サーバサイドJavaScript。そして「所有から利用へ」

――ここまでのお話を踏まえて、2011年、エンジニアはどんなスキルを習得すると良いでしょうか。現状の転職市場では、LAMP経験者にニーズが集中していますが……。

ひが氏 確かに、いまニーズがあるのはLAMPとFlash。でも、フィーチャーフォン向けのソーシャルアプリはピークを迎えているので、すでにその技術を持っている人はよいのですが、これから新しく習得するのは得策ではないかもしれません。

 若い人が新たに覚えるなら、クライアント側はHTML5。iPhoneやAndroid端末などクロスプラットフォームを意識した方がいいですね。同じスマートフォンでも、iPhoneだったらObjective-C、AndroidだったらJava、というイメージですが、時代の流れは「ネイティブアプリからWebアプリへ」だと思います。iモードのときも、iアプリからWebへという流れが起きました。同じことが、スマートフォンでも起きるのではないでしょうか。先のことを見据えると、HTML5の方がいいでしょう。ただし、現段階ではHTML5のパフォーマンスが低いので、派手なアニメーションなどはまだ厳しいですね。

 サーバ側はクラウド環境の技術を習得すると良いと思います。Amazon Web Services(AWS)かGoogle App Engine(GAE)が、無料で試せるのでオススメです。

 サーバ側の言語として、2011年はサーバサイドJavaScriptが流行ると思います。世間的にはnode.jsが注目を集め始めていますが、ほかのものも出てくるでしょう。例えば、クラウドでJavaをサポートしているGAE/JではRhinoという、JavaからJavaScriptを呼ぶためのエンジンがあります。そういうものを使って、サーバ上でJavaScriptを実行できる環境が簡単に作れるので、普及していくと思います。わたしも「Slim3 JS」を作ろうかなと思っています(編注:Slim3は、ひが氏が開発した、GAEに最適化したJavaフレームワーク)

対談の様子

新野氏 わたしも技術的な部分については、ひがさんの主張にほぼ同意です。気になるのは、WebテクノロジとエンタープライズIT、両方理解している人が少ないということです。Webの人たちは、「エンタープライズって何?」「業務って何?」という感じ。一方、エンタープライズの人たちは、「JavaScriptで作ったことなんてないよ」「HTMLはデザイナーに任せています」というケースが多い。でも、これからはクロスオーバーが必要になってきます。両方を意識することがとても大事なのではないでしょうか。

 もう1つ、大枠の話をします。クラウドが普及することで、顧客が「所有から利用へ」という意識を強く持つようになります。そうすると、何もないところからコツコツと作るんじゃなくて、既存のものを利用してうまくカスタマイズするためのテクノロジとは何か、ということが重要になります。そこを意識するといいんじゃないでしょうか。

ひが氏 ビジネスは月額利用に移っていくでしょうね。最初に大きな金額をドンと払う、というのは、今後は減っていくでしょう。使った分だけ、月額1人当たりいくら、の世界が主流になると思います。

  「もうイノベーションは社内にはない。社外に目を向けよう」

――では最後に、エンジニアの今後のキャリアについて、アドバイスをいただければと思います。

新野氏 もうイノベーションは社内にない可能性が高い、ということを意識すると良いと思います。積極的に社外の人と交流してほしいですね。勉強会に参加するとか、セミナーに出るとか。

 そういうことを繰り返すと、社外の人とつながりができます。すると、自分なりに業界を俯瞰(ふかん)して見られるようになると思います。勉強会に参加すると、いろいろな人と出会えますからね。

ひが氏 技術的に尖りたい人はWeb系のベンチャーが向いていると思いますよ。一方で、SIerの中でも、新しいことをやろうとしている企業はあります。転職を考えるなら、そういう企業を視野に入れるのも1つの手でしょう。

 あとは、新野さんのいう通り、勉強会が重要です。参加するのも良いのですが、できれば自分で開催するくらいの勢いがあると良いですね。社員に勉強会を推奨していたり、自発的に勉強会を開催するような社員の多い企業も、転職先としては良いでしょう。

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企画:アイティメディア営業企画
制作:@IT自分戦略研究所 編集部
掲載内容有効期限:2010年12月27日

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