第8回 起業まではフリーエンジニアで 

取材・執筆:加山恵美
取材協力:株式会社グッドワークス

2008/02/18

正社員ではなく、派遣社員として働くITエンジニアがいる。スキルを磨きたいから、収入を増やしたいから、プライベートな事情など、理由はさまざまだ。本連載では派遣社員という就労形態を選択し活躍しているITエンジニアを取材し、派遣社員で働くメリットとデメリットを探る。

  今回登場いただく芳賀誠氏は、正確には派遣エンジニアではない。しかし芳賀氏の考え方や働き方は、派遣エンジニアにも大いに参考になるはず。

 

  社内SEに興味を持ち、エンジニアになるために転職。それから3年間業務を経験し、自信を持てるようになった。そこで将来の起業の夢を実現させる第一歩として、フリーエンジニアになるために退職。いまは起業という夢に近づけるよう、フリーエンジニアとして修行に励む日々を送る。

社内SEの先輩を見てエンジニアを志す

 短期間でここまで成長を遂げたエンジニアはなかなかいない。大学を卒業して就職した会社では、芳賀氏はエンジニア職ではなかった。

写真  社内システムエンジニア(SE)として自社システムを構築していた先輩が芳賀氏の部署に異動となったことから、芳賀氏はシステム開発に興味を持つようになった。当時携わっていた業務のことを考え、芳賀氏は「この仕事のために業務アプリケーションを開発できるのでは」との思いを抱くようにもなった。そして本格的にシステム開発の道を志そうと心に決めるまで、さほど時間は必要としなかった。

 まずは社内システムを開発する部署への転属を希望したが、かなわなかった。次に業務時間外にシステム開発を学ぶことも模索してみたが、当時は不景気で、会社には社員にそこまで手厚く研修などを支援するほどの余裕はなかった。

 そこで芳賀氏は「自ら動いた方がいいだろう」と転職を思い立つ。エンジニアとして雇ってもらい、そこでスキルと経験を積んでいこうと考えたのだ。

   転職先として、当時芳賀氏が担当していた仕事の領域に近い業務を扱う会社に目星をつけた。それまでの専門知識を生かし、キャリアチェンジをスムーズに進めるためでもあった。しかし、目星をつけ狙った部署から不採用の連絡が。しかしその後、別の部署から採用通知が来た。それが偶然にもシステム開発部だったのだ。

過酷なプロジェクトを通じて自信を得た

 芳賀氏が転職した会社は、物質の構造解析などを行う研究所のようなところだった。芳賀氏が転職した2004年当時、そうしたアプリケーションは、その業界ではCやC++で開発するのが一般的だった。だが芳賀氏は、Javaでの開発に取り組んだ。Java経験者がいないため、ノウハウを教えてくれる先輩はおらず、そのプロジェクトの先陣として、芳賀氏は試行錯誤も交えながらJavaでの開発に独学で取り組んだ。

 「このときは確かに大変でしたが、これがあったからこそ現在の自分があると思っています」と芳賀氏はいう。これは誰も手掛けたことのない開発プロジェクトで、筆舌に尽くしがたいほど大変だったそうだ。疲労は限界の域に。

 が、芳賀氏はやり遂げた。「あのプロジェクトをやり遂げられたのだからと思うと、これからはどんな困難があっても乗り越えられるような気がします」と芳賀氏はいう。孤独と限界への挑戦を通じ、自分に自信が持てるようになった。

目指すは起業、プロジェクトマネージャ

 2社目の会社に入社したとき、プログラマから仕事を始めた。だが、Javaの開発プロジェクトなどの実績もあり、3年後には早くもプロジェクトマネージャを担うようになった。何という早さだろうか。この早さは芳賀氏の志向を知ると納得がいく。芳賀氏は、「起業」を目指しているのだ。芳賀氏はかなり早い段階から起業を胸に抱いていた。ITエンジニアを目指すよりも前からである。

 芳賀氏が将来達成したい目標の1つに起業があった。ごく若いころから夢といっても過言ではない。これは家族からの影響もある。父親が会社経営をしていて、その背中を見て育つうち、働くことのイメージに「起業」や「経営」が自然と定着していったようだ。

「将来は会社経営」を目指す芳賀氏にとって、システム開発は自分が経営する会社の業務である。また会社を率いる立場を目指す芳賀氏にとって、エンジニアとしてスキルを磨くことよりも、プロジェクトを統率することに自然と目が向くようになっていた。それで短期間で実力を身に付け、プロジェクトマネージャへと登りつめたのだ。

フリーエンジニアとして業務請負で働く

 ITエンジニアとして転職して3年、プロジェクトマネージャも経験するようになった。30歳を前にして「そろそろ本格的に起業準備を」と思うようになり、会社を退職した。すぐに起業するのではなく、まずはフリーエンジニアとして働き、さまざまな経験を得ようと考えたのだ。

「起業するにはいろいろと準備が必要です。学ぶべきこともあります。起業してからできることもありますが、起業する前にできることはできるだけやっておきたいと思っています」と芳賀氏はいう。

フリーエンジニアになった後、芳賀氏はフリーエンジニア求人サイトの「グッドワークス」を通じて、現在は業務委託という形でプロジェクトマネージャを務めている。直近の仕事でいえば、金融系業務のシステム開発にて仕様統括という部門のプロジェクトマネージャを、ほぼ半年ほど請け負うなどした。

芳賀氏は今後も同様に、フリーエンジニアとして業務請負としてプロジェクトマネージャを請け負うつもりだという。クライアント側のプロジェクト関係者と面接して業務請負の契約を締結することが多いのだが、中には芳賀氏の仕事への態度を見て、「業務請負ではなく、当社の社員として仕事を任せたい」といわれることもあるそうだ。それだけリーダーとしての存在感や心構えを感じ取れるからだろう。

終業後には起業準備で忙しい日々

仕事の仲介役となるフリーエンジニア求人サイトグッドワークスの須合憂氏は、「数あるフリーエンジニアの中でも芳賀氏は別格です。仕事に対するモチベーションが違います」と太鼓判を押す。実際、芳賀氏はグッドワークスのWebサイト構築にも協力したという。それだけグッドワークスに登録されているフリーエンジニアの中では頼れる存在というわけだ。

とはいえ芳賀氏にとっていまは、起業のための準備期間に過ぎない。「すでにロードマップは引いています」と芳賀氏はいう。来るべき日はいつか。「早ければ来年3月には」と芳賀氏。そうであればもう後1年しかない。

「いまは起業の準備があり、フリーエンジニアとして働いている時間よりむしろ自宅に帰った後の方が忙しいくらいです」と芳賀氏はいう。確かに起業は、書類手続きから事業計画などやるべきことは山積みである。

もう少しで起業、それまではフリーで

これから起業する会社はシステム開発を主な業務とする予定だ。現時点では芳賀氏はプロジェクトマネージャをしているが、将来の会社経営と照らし合わせて仕事を見つめる。「顧客から仕事をもらえるかどうか、つまり顧客から「開発を任せてもいい」と思われるようにするには、社内体制が確立している必要があると思います。現在のプロジェクトマネージャの仕事からは、そうした体制作りには何が必要かを学んでいます」と芳賀氏。

フリーエンジニアという就業形態を選んだことも、起業することに役立つと芳賀氏は考える。「退職していきなり起業することもできますが、フリーエンジニアとしていろいろと学び準備することができると思っています。個人事業主と法人の社長は同じではありませんが、何でもこなさなくてはならないところは似ています。まずは個人事業主としてひととおり経験して、後に法人登記をしようと思っています」

起業に向けて不安はあるかと聞くと、「あります」と芳賀氏は正直にいう。「最初は1人で始めることになりますが、どう事業を広げていくか、どう社員を採用し信頼関係を築いていくかなど、課題はいろいろとあると思っています」(芳賀氏)。不安はあるにせよ、課題を具体的に割り出し自分なりに対策や考えをまとめているところだ。

数年前までは「起業したい」というのは、願望に過ぎなかった。だがいまでは未来形ではあるが、「起業する」と強く確信している。夢の起業まであともう少し。それまでの間、芳賀氏はフリーエンジニアとして、プロジェクトマネージャをやりながら着々と経験を積んでいるのだ。それが起業への近道と信じて。