第9回 派遣やフリーは、得意分野や生活で仕事を選べる!

取材・執筆:加山恵美
取材協力:ソフトハウス株式会社

2008/03/25

正社員ではなく、派遣社員として働くITエンジニアがいる。スキルを磨きたいから、収入を増やしたいから、プライベートな事情など、理由はさまざまだ。本連載では派遣社員という就労形態を選択し活躍しているITエンジニアを取材し、派遣社員で働くメリットとデメリットを探る。

最初からLotus Notes/Domino一筋

 派遣やフリーエンジニアはプロジェクト単位で仕事を引き受けることが多い。自分の得意分野や生活のステージに合わせて「仕事を選べる」のが最大のメリットではないだろういか。今回のエンジニアはMH氏。派遣を5年経験し、2年前からフリーエンジニアとして働いている。仕事も家庭も充実しており、考え方も前向きでとても頼もしいエンジニアだ。

写真  社会人になったのは1999年。IT業界は2000年問題への対応で大変なときだったが、MH氏は新人だったこともあり、2000年問題に関する作業はあまりなかったという。

 代わりに何をしていたかというと、IBM Lotus Notes/Dominoを使った開発案件を担当した。エンジニア最初の仕事がベンダのWeb FAQシステムの開発で、Lotus Notes/Dominoで構築した。Lotus Notes/Dominoは企業に導入するナレッジマネジメントやコラボレーションのためのツールで、MH氏がかかわり始めた当時は、Lotus Notes/Dominoの漢字アドレス帳(DJXと呼ばれる新体系の Lotus Domino ディレクトリサービス)がようやく安定してきたころに当たる。

 「最初は独特のUI(ユーザーインターフェイス)のせいか、 違和感を覚えたという印象がありました。しかし、生産性を考慮したUIは、使い続けることで次第に好きになりました」という。最初に出合ったLotus Notes/Dominoとは現在に至るまでずっと何らかの形で携わり、それを中心に経験やスキルを伸ばしてきた。

派遣の自由さ、しがらみのなさがいい

   なおMH氏は最初から派遣として経験を積んでいる(特定派遣として)。入社して3カ月ほど新人研修としてVisual BasicやJavaを学び、派遣先に向かった。派遣先はIBM Lotus Notes/Dominoのシステム構築では大手の会社で、実質的にはその会社で働いていたことになる。職場にはNotes/Dominoの専門家や技術情報にアクセスしやすく、Lotus Notes/Dominoのエンジニアとしては恵まれた環境に配属された。

 就職してほぼ5年、ずっと同じ派遣先で働いた。その間、配属先の部署やプロジェクトの顧客企業が変わることはあったが、社内の異動のようなものだ。特定派遣という形態ではあったが、MH氏には派遣が性に合っていると感じていたようだ。

 「会社員というと、会社の上と下から圧力やつながりに縛られているというイメージがあります。外部の人間ならそういったものはなく自由でいられます」とMH氏。しがらみがない方が気楽でいられるという。

 またプロジェクトごとに職場を渡り歩くことも気にならないようだ。環境変化に強い適応能力があるのだろう。「いろいろと職場を渡り歩いたせいか、配属されてすぐにその現場の空気を感じることができるようになりました。直感的にどんな職場か察知し、その中で自分の立ち位置を見つけます」

Lotus Notes/Dominoを通じて開発の経験を積む

 冒頭に述べたとおり、MH氏が携わった業務のほとんどはLotus Notes/Dominoの開発案件である。第一印象はさておき、後からLotus Notes/Dominoの醍醐味(だいごみ)を知り愛着を覚えるようになったという。「ブラウザを開いているのに、たまにEscキーを押してしまうことがあります」と笑う。Escキーは、Notesでよく使う「画面を閉じる」ショートカットに割り当てられているからである。それだけNotesの操作が体に染みついていたのであろう。

 MH氏がLotus Notes/Dominoの良さを実感するきっかけとなったプロジェクトがある。これは全社的に用いる情報発信システムだった。各部署が持つ情報を統合し、特定キーワードによる上長への通知機能や関連コンテンツ間の自動相互リンク機能を実装するなど、多機能なシステムを構築した。

技術的には当時リリースされたばかりのLotus Notes/Domino 6、またJavaやXMLも駆使したため、新しいスキルをふんだんに吸収する機会にもなった。「Lotus Notes/Dominoって何でもできるんだ、と実感できたのがこのプロジェクトです。ミドルウェアとしての資質や可能性に引かれました」とMH氏はいう。

新しい技術を会得し、自分のプログラミングであらゆる機能を実現してきた。エンジニアなら快感を覚えるところであり、自信につながったことだろう。全社的に使う営業向けポータルサイト構築のプロジェクトにおける功績に対して、ベンダーから表彰されたこともあった。

派遣を卒業してフリーエンジニアに

 特定派遣としてWebサイト構築でオープン系技術の実践、またLEI(Lotus Enterprise Integrator)を用いた基幹システムとの連携まで幅広く経験した。だが5年ほど過ぎ、退職を決断した。長距離通勤をしていたこともあり、住居を遠くに移すことになったのだ。

 転居先はMH氏の地元となる関西。派遣時代に人脈を多く切り開いてきたため、前職の知り合いから関西の職場を紹介してもらえた。差し当たって会社員になる必要がなかったためか、ここからMH氏はフリーエンジニアになった。

特定派遣や一般派遣など、派遣という形態を続けなかった理由について聞くと、「派遣というと社内では手が足りない仕事を一時的に外注することが多く、高度なスキルや経験を要する仕事はさせてもらえません」と話す。スキルも経験も十分に積んだため、一時的なサポート役ではMH氏には不釣り合いということだ。

派遣と違いフリーエンジニアとなると、契約としては業務請負という形になる。MH氏にはこれまで得たスキルと経験から、プロフェッショナルとして仕事を引き受ける自信がある。MH氏は自信満々に「かかってきなさい、という感じでした」と話す。

資格なしでは不利、それならば上級資格を

最初からフリーエンジニアとして自信満々ではあったが、待遇では辛酸もなめた。ある業務では、報酬に関して契約前と実際とで食い違いが生じていた。「実際の報酬が少なく、これでは続けられないと思いました」とMH氏。

 ただし学ぶこともあった。この時の仕事はSCM(Supply Chain Management)の構築で、PHP、PostgreSQL、Oracle、Delphiなど、これまでMH氏が経験したことのない技術が豊富に含まれていた。「待遇はよくなかったのですが、この短期間でかなり多くの技術を学べました。その点はよかったです」とMH氏は振り返る。

待遇面で不利になった原因の1つに、MH氏が資格を何も取得していなかったことが挙げられる。実際には資格で証明する必要がないほどスキルがある。だがそれでは「発注する側の企業が高い金額をつけられない」という話を聞いたのだ。

「それならば」と後になってから資格を取得した。Lotus Notes/Dominoの開発者向けの資格で最上位となるIBM 認定アドバンスト・アプリケーション・デベロッパー(CLP AD)を取得した。「勉強せず、行きました」と笑いながら語る。

大胆なのはそれだけではない。上級資格を取得するには初級資格の取得が前提となるが、1日で初級から上級まですべて受験してしまったのだ。「1日に4つ、受験しました。全部合格したので問題なかったです」とMH氏はおどける。

得意分野や生活に応じて仕事が選べる

 2007年秋からMH氏は東京で働いている。ただし家族は関西に住んでいるので単身赴任だ。フリーエンジニアが単身赴任とは異例ではあるが、「単身赴任で住居費がかかっても、まだ東京で仕事する方が収入は多いです。2割ほど違うのではないでしょうか」と話す。

 「つまり、出稼ぎです」とMH氏は笑って話す。ただし出稼ぎはそう長くない。実は数カ月後には新しい家族が生まれるので、しばらくは関西で働くそうだ。親心として生まれたばかりの子どものそばにいたいということだろう。「わが子に『また来てね』という顔をされるのは切ないですからね」

こうした事情にもうまく切り抜けられるのが派遣やフリーエンジニアという働き方だとMH氏はいう。「いまなら得意分野のスキルを生かし、ときには家庭の事情に合わせて仕事を選ぶことができます。会社員じゃできません」

フリーエンジニアになったいまは、派遣時代と比べて責任の重さも感じるという。「派遣なら営業が交渉や調整などをしてくれます。しかしフリーエンジニアであれば自分が交渉や調整をする必要があります。そのため、話し方にも気を付けるようになりました」

派遣を経験したことで、フリーエンジニアとしてステップアップした。これからも得意なスキルを武器に、自由な働き方のメリットを最大限生かしていきそうだ。