派遣・フリーエンジニアの30歳限界説に迫る

〜30代で派遣・フリーエンジニアの仕事はなくなるのか?〜

取材・執筆:チームフォレスト
取材協力:株式会社ジェーオービー

2007/11/2

@IT派遣Plusの取材を通じて、20代の派遣・フリーエンジニアに話を聞く機会が多い。中には「派遣・フリーを続けるのは20代まで。30歳になったら正社員になろうと思っている」と考えるITエンジニアが少なくない。30代になると徐々に派遣・フリーエンジニアの仕事が減るから正社員になる → 正社員の採用は30代後半になると難しくなるので、30代前半のうちに正社員になる、という図式だ。

このキャリアプランの根底にある「30代になると徐々に派遣・フリーエンジニアの仕事が減る」というのは事実なのだろうか? 40歳を超えてフリーエンジニアとして第一線で活躍している山本伸夫さん(仮名)と、山本さんと契約をしている人材派遣・アウトソーシング企業のジェーオービーの梅崎武氏にその実態を聞いた。

43歳、開発の第一線でチームリーダー

 現在、ジェーオービーの契約社員として、ある金融機関の数百名規模の開発プロジェクトに携わっているという山本さんは43歳。4〜5人の開発チームの進ちょく管理を主に担当している。結合テストの納期が迫っていてこのところオーバーワーク気味とのこと。「本来は進ちょく管理や他チームとの調整だけで済むのですが、遅れを取り戻すために私もプログラミングしています」。この日も徹夜明けだったにもかかわらず「今日はこのインタビューのおかげで堂々と帰れました」と笑顔を見せて、恐縮する取材スタッフに逆に気遣ってくれた。

 30歳で派遣・フリーエンジニアを辞め、正社員になるという20代エンジニアが多いと説明すると、「私は28歳ごろに会社を辞め、15年間フリーエンジニアをしていますが、30代は将来のことを何も考えずにしゃにむに仕事をしていました」と答えた。この間、正社員になろうと考えたことは一切なかったと言い切る。フリーエンジニアで十分な収入を得られてきたという経済的な要因があるが、フリーで続けられた一番の理由は社員を辞め、フリーランスになったときの「強い思い」にあるという。「フリーランスとしていろんな仕事を経験して、確かにキャリアはアップしています。しかしだからフリーを続けていられるというわけではなく、自分はフリーで続けるんだという、その思いがあるからフリーエンジニアで続けていられるのだと思います」。

自分の意見が受け入れられず、10年で退職

 山本さんの「強い思い」は、フリーランスになった直後の経験が影響しているようだ。山本さんがITエンジニアとしてのキャリアをスタートさせたのは1983年。高校を卒業してすぐ大手システムインテグレータ(SIer)の関連会社に正社員として入社し、その後10年間、前半は制御系、後半は金融系のシステム開発を手がけたという。金融系に担当が変わった1980年代後半は、ちょうど汎用系からUNIXやSunなどのクライアント/サーバ(C/S)系へのリプレースの動きが始まったころであった。

「当時の会社でもC/S系システム開発を手がけるのは初めてで すし、業界的にも開発事例が少なく、まさに最先端を担っていたという自負がありました」。当時20代だった山本さん、ITエンジニア経験6年目とまさに脂が乗ってくる時期。残業も多く大変だったが、仕事はとても面白く、やりがいも十二分に感じていたという。5〜6人の部下を抱え、客先に出向いて要件定義も担当するようになっていた。

写真
山本氏(仮名)
現在、株式会社ジェーオービーの契約社員としてある金融機関の開発プロジェクトに携わっている。

 そのころは「すごく生意気でとんがっていた」という山本さんは、徐々に会社の方向性などに対して不満を感じるようにもなっていた。部長に意見を述べ、聞き入れられないとなると親会社であるSIerに直接自分の主張を伝えたこともあったという。「いきがっていたんですよね。親会社に直談判なんて聞いたことがないといわれました」。自分の主張がなかなか受け入れられないことに不満がたまっていき、このまま会社にいても自分自身がのびることはない、むしろダメになると危機感を感じた山本さんは、30歳を目前にして飛び出すような感じで会社を辞めた。

会社という看板なしに、一個人として世間に対峙する

 会社を辞めたときは自分のやりたいことの明確な方向性も見えていなかったという。「ただ、そこから抜け出したい一心でした」。転職先は決めていなかったという山本さんは、とりあえず知り合いに紹介してもらってフリーランスとして最初の仕事をした。フリーランスには会社員ではないメリットがたくさんあった。何よりも自由だ。仕事を請けるかどうか最終的な決断を下すのは自分自身。次の仕事までの間に長めの休みも取れる。いろんな会社に行って、いろんな文化に触れ、開発手法の違いや用語の違いを知ることが楽しかったという。

 と同時に、独立して初めて、フリーランスと会社員の立場との違いを知ったという。会社という看板なしに、一個人が世間と向き合っていかなければならないフリーのシビアな現実。「当時は自分がちっぽけに見えました。いきがっていた会社員のころには気付かなかったんですね」。その気付きもあり、「フリーランスになったからには、会社員に戻らず、ずっとフリーでやっていこう」と決意したという。

いまから会社員になるという選択だってある

 以来15年間フリーエンジニアとして働いてきた山本さんは、現在43歳。将来に対する不安を少しずつ感じているそうだ。「自分の意識の問題かもしれませんが、40歳を過ぎたころからチームの自分に対する目も違ってきたように感じるんです」。30代後半を過ぎて参加するプロジェクトのマネージャが自分より年下であるケースが増えたのが原因だ。「私は年下から指示されることに何も思いませんが、マネージャはやりにくいだろうなぁと勝手に想像してしまうのです」。

 さらには次々と現れるテクノロジや開発手法、システム概念など、IT業界はスピードが速い。30代前半くらいまでは意識しなくても最新情報や知識を得ていたが、最近では気を抜いていると知らないことや、未経験分野の仕事が増えているという。

 不安はあるものの、山本さんは現実問題として仕事にも収入にも困っているわけではない。しかしこのまま50歳になってもフリーエンジニアを続けるのは難しいだろうと、そう遠くない将来の選択肢をいくつか考えているという。「会社を興すというのも1つの選択肢だし、会社員になるという選択肢も捨ててはいません。自分が望めば会社員になれると思っていますから」。30歳前後はITエンジニアの転職適齢期だと理解しているが、「いままでひとりでやってきたという実績がある。私の仕事を評価して誘ってくれる会社も実際にありますから」。山本さんの場合、これまでのフリーエンジニアとしての実績が実力と自信につながっているのだろう。

 自身の将来とは別に、山本さんはIT業界の5年後、10年後への期待としていくつになってもITエンジニアとしてやっていける環境になっていてほしいと語ってくれた。アメリカでは50歳代の上級プログラマがたくさんいるが、日本のエンジニアは年齢を重ねると開発現場を離れて管理職への道を余儀なくされる。「建設業界では、年齢にかかわらず現場に出ていい仕事をしている人たちがたくさんいる。うらやましいですね」。業界自体がまだ若いIT業界。いずれ成熟して建築業界のように現役シニアエンジニアが許容されるのではと山本さんは期待している。

分水嶺は40歳

  派遣・フリーエンジニアのキャリア事情について、山本さんと契約しているジェーオービー 事業統括部 梅崎武部長は「30代では派遣・フリーエンジニアへのニーズが減ると心配する方がいるようですが、ニーズは十分あります」と太鼓判を押す。

 労働者派遣法(正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」)では、業務遂行能力にかかわりのない属性(年齢や性別など)によって、派遣労働者を特定することは禁じられている。しかし、実態としては派遣先企業から年齢などの要望が寄せられることが多いという。

 梅崎氏は「弊社が用意する書類には、法令を順守して技術レベルのみを記載して派遣先に提出しますが、選定の際に『この方は何歳?』とまず聞かれます」と実情を話してくれた。年齢を気にするのは現場での年齢構成を考慮してのこと。現場のリーダーが35歳だから、35歳までの人が望ましい、といった具合だ。ジェーオービーでは、法律に則り、業務遂行能力が要件を満たしていれば、年齢にかかわらず積極的に紹介し、企業の希望する制限年齢以上のITエンジニアの派遣契約を成約させている。しかし、それも40歳以上だと厳しいという。梅崎氏が感じている派遣・フリーエンジニアの分水嶺は「40歳」だ。

写真
株式会社ジェーオービー 事業統括部 
梅崎部長

派遣事業を一から立ち上げ、派遣エンジニア累計100人以上と面談

 では山本さんのように40歳を過ぎても仕事に困らない派遣・フリーエンジニアの条件とは何だろうか。 梅崎氏は「特定分野での技術力とコミュニケーション能力が高いこと」を挙げる。年齢的にもプロジェクトマネージャ、リーダー的な役割を担うことが多いので、クライアントやベンダとの交渉・調整など高いコミュニケーション能力や、配属されたチームの運営能力などが期待されるという。技術レベルは、これだけは他人に負けなという高いスキルが1つでもあればいいという。「何でもできますという人はかえって敬遠されます。何でもできるといいつつ、実際にはすべて中途半端な人が多いです」(梅崎氏)。顧客の信頼を得て、そこからまた仕事が広げられるような人物が好まれる。山本さんもその1人だ。彼が顧客から信頼されたことで、彼の元で働くITエンジニアの派遣を依頼されたそうだ。

 最後に梅崎氏は、「30代で派遣エンジニアは続けられないと思っている方は、無給期間のリスクを考えているのではないでしょうか」と指摘してくれた。独身であれば多少の無給期間は、長期休暇と捉えることもできるが、家族がいると無給期間は日々の生活基盤を脅かされる可能性がある。「弊社では無給期間をつくりたくないという希望があれば、派遣期間終了のタイミングに合わせてすぐに次の仕事をアサインしています。弊社に限ず、どの派遣会社でも無給期間をつくりたくないと事前に要望しておけば、要望に沿った仕事をご案内できると思いますよ」(梅崎氏)。一方、時給単価だけを見れば、概して短期の仕事の方が長期よりも高い。短期で高収入を得て、次の仕事までの少し休みがほしい人には、こうした短期の案件の方が向いているだろう。つまりニーズに合わせて仕事内容を選べばよいということだ。

 正社員になったからといって安心・安泰という時代ではない。社員であれ、派遣・フリーランスであれ、顧客から求められる能力を身に付けなければ、いらないITエンジニアになってしまう。山本さんのように自然と仕事が広がっていくようになれば、雇用形態に問わず何歳になってもIT業界で働いていけることだろう。