日常生活まで変えるブロードバンドの普及
株式会社アッカ・ネットワークス
取締役副社長 湯崎英彦氏

待望の広帯域がやっと実現化しそうだ。ADSLを皮切りに日本の広帯域化を推進するのはアッカネットワークスの湯崎英彦副社長。1993年から2年間、そして96年と、インターネット発展期のアメリカを体験した、通産省出身の起業家が描くシナリオを聞いてみた。

2001/1/5

アッカ・ネットワークスの湯崎副社長

―― ADSL(注1)の現状を教えてください。

 2000年は準備に着手した年でした。開設された回線は日本全体で3000ほどで、サービスが受けられる地域も限られているのが現状です。ただし当社も含めて、事業者はADSLの提供に必要な設備の整備を進めており、素地はできつつあります。作業は急ピッチで進んでいますので、東京を中心にこれから2、3カ月でエリアが一気に拡大し、回線数も増えるでしょう。

 DSLに対する認知度は高くなりました。NTT東西各社も「フレッツ・ADSL」などと“DSL”という言葉を使って本格的に参入を表明しましたし、2001年には急進展を期待しています。

―― ブロードバンド化が日本では遅れていますが、原因はどこにあるのでしょうか?

 技術面の問題はかなり解決されたといえます。残る課題は、具体的に動かしていくという局面における設備と料金の2点です。設備の問題は、全国レベルに広げるための手続き、具体的にいうとNTTとのやりとりの部分に時間がかかっていることです。料金に関しては、各社ぎりぎりの料金を提示している状態です。

 ブロードバンド化は、日本はアジアの中で見ても遅れています。ですが、インフラ側がちゃんとしたサービスの提供を開始すれば追いつける範囲です。常時接続とは定額制を意味しますが、日本で定額制サービスは実現していません。優先課題は定額制に対するニーズを満たすことです。それを解決してくれるのがxDSLです。企業のシステムでも狭い帯域を大人数で使っている状態で、ダイヤルアップと状況はそんなに変わりません。つまり、本当のブロードバンドを経験していないのです。

 コンテンツという点では、日本はアニメやゲームを含め、コンシューマサイドのものは豊富です。これまで帯域が原因で配信できなかったものが、いったん流通しはじめれば価値を見いだしたユーザーからのニーズも増えてくる。それが広帯域化へのニーズへとつながり……と、コンテンツと定額制およびブロードバンド化は相互にスパイラルで発展していくでしょう。その発展もこの1、2年に起きます。2001年の中ごろにはコンテンツをはじめ大きく変わっているのではないでしょうか。

―― ブロードバンドの世界ではどんなことが実現するのでしょう?

 ブロードバンド化が進んでいるアメリカで実現している例を交えながらお話ししましょう。

 ブロードバンドの一番の恩恵はスピードです。500kbpsあたりからブロードバンドといえると思いますが、このレベルになるとダウンロードの待ち時間が大幅に短縮されます。また、画像などの転送が速いのでネットサーフィンが快適になります。コンテンツにしても、ストリーミングなどの動画が実現し、音楽も音質が向上して通常のステレオと遜色ないものになります。インターネットラジオなどが良い例で、アメリカで流行しています。商品の画像も鮮明で視覚にうったえるサイトがたくさんあります。オンライン予約も浸透しており、航空券をはじめかなりチケットレス化されてきました。

 ソフトウェアの流通形態も変わりました。大きなファイルでもネット上でやりとりが完了するためCD-ROMは不要になり、オンラインで入手しています。料金が少々高くても、店舗に行く手間を考えるとネット上で済ませているのが現状です。このように、オンラインショッピングは日常生活の中に入りつつあります。

―― 常時接続という観点から見ると、どのような変化が起こりますか?

 料金が定額制で時間を気にしないというメリットは、さまざまな効果を生みます。これもアメリカの例を紹介すると、日本のユーザーと比べてWebページの滞在時間が非常に長く、隅々まで見ています。時間が気にならないと寄り道をするようになります。バナー広告にしろ商品にしろ、繰り返し同じものを見ていると、人間の心理として“ちょっとクリックしてみようか”という気になります。そういうことが日本でも起こってくれば、オンラインショッピングが盛り上がるのではないでしょうか。

 常時接続のリアルタイム性を利用したアプリケーションの登場も考えられます。例えば、オンライントレーディングのサイトなどで、株価の変化に応じてアラームを出すようなしかけが使われています。こういったアプリケーションはリアルタイム性があればこそ成立するものです。今後もこれまでにないアプリケーションが次々と出てくるでしょう。

―― 企業のシステムにはどのような影響が考えられますか?

 システム構築も変化するでしょう。出入りが簡単なBtoBの企業間システムが構築されるようになると思います。これまでEDIをやる場合、専用システム構築のために莫大な投資が必要でした。現在はVPNという仮想の専用線技術があり、基本的にはインターネットと同じ感覚で使えるようになっています。かつてはその足回りも専用線で、申し込みから2カ月もかかって実現していました。DSLだと5、6日で完成しますし、システム構築自体も簡単になります。こういった理由から、企業でVPNを利用したEDI化はさらに広がるでしょう。同時進行でオープン化も進み、新規企業が参加しやすくなります。この利点は、マーケットプレイスで生かされるでしょう。

「政府の支援はありがたいが、ユーザーサイドを刺激するべき」。元通産省という経歴を持つ湯崎氏

 従来は、システム設計のときにだれが参加するのかを定義した上で実際のプラン作りを行っていました。今は、サーバサイドの設計さえ行えば、足回りは比較的簡単に、早く導入できます。新規に参加希望者が出てきた場合も、サーバがWeb(HTML)化しているので、パスワードとセキュリティさえ確保すればいいのです。

 このところ、企業の中では情報化に加えて調達方法にも変化が表れており、ブロードバンド化はこの傾向をさらに加速します。すでにVPNを使ったBtoBシステムはできつつあるので、DSLという安価なインフラが提供されれば普及に一気に火が付くのではないでしょうか。

―― 光ファイバへの移行はいつごろになるとお考えですか?

 最終的には光ファイバ。これは間違いありません。DSLを含め、銅線は10M〜50Mbpsが限界ですが、光は無限大に近いデータを載せることができます。ただ、移行は急には進まないでしょう。その理由はいくつかあります。

 まず、コスト面。オフィスにせよ家庭にせよ、線を1本1本引き込んでいく必要がありますが、材料費、工事費といったコストはかなりの額です。

 次に、現在必要とされている帯域幅とのバランスがあります。例えば、家庭で2台のテレビをつないで別のチャンネルを見ながらインターネットをする。これは10Mbpsで実現可能です。光ファイバの持つ帯域に見合うアプリケーションが登場するなど、抜本的な変化が起こらない限り、近い将来は必要ありません。

 アプリケーション、バックボーン、機器コスト、この3つがバランスよく発展していくのが理想です。例えば、NTTが低価格での光ファイバ試験サービス開始を告知しましたが、ISP側はどうでしょうか。設備面でも接続料金にしても受け入れ態勢は整っていません。光ファイバに限った話ではありませんが、ある特定の技術にとらわれたり、現実がどう動くかを無視してはいけないと考えています。

 出てくるコンテンツとしては、放送と通信が融合することは明らかです。インターネットTVが登場すれば、衛星放送が線に載ることも考えられます。それ以外にも今では想像がつかないようなものが出てくるでしょう。

 今の時点では2005、2006年ごろから中小企業や一般家庭に浸透すると思います。

―― アッカ・ネットワークスは今後どのようにビジネス展開するのですか?

 当面はDSLサービスの提供を進めます。家庭にはADSL、企業にはSDSL(注2)を提供します。現在の技術で8Mbpsの帯域を実現しますから、帯域の幅に応じてメニュー化したサービスを提供する予定です。同時にISPと協力しながらEDIのソリューションを提供するようなサービスも視野にあります。

 2002年ごろには帯域が増えることを前提に、VDSL(注3)を念頭においてビジネスを進めます。その後、コストとタイミングを見て光ファイバに進出します。われわれ自身が光ファイバを各家庭に引いて行くことは現実的ではありませんから、光ファイバのアンバンドルが必要になります。ですから、光ファイバがある程度引かれていることが前提です。光ファイバ分野への進出については、2005年ごろを考えていますが、その間の進展を考慮して柔軟に対応していくつもりです。

 シナリオとしては、DSLと光ファイバが突然入れ替わるのではなく、徐々に置き換わっていくし、ある程度は共存するのではないでしょうか。

―― 最後に、政府の支援をどう思いますか?

 推進はありがたいですが、私の考えでは支援すべきはわれわれのような事業者ではなく、デマンドサイドであるべきです。

 現在、支援策としてわれわれ事業者が機器を購入する際に割引してもらえますが、リースの場合は該当しません。もっとユーザーを刺激するような策を講じてほしいですね。例えば、政府が国民にブロードバンド接続の振興券を用意すれば、エンドユーザーが事業者を自分の目で選択するようになる。事業者間でも競争が生まれますし、エンドユーザーがDSLを選ぶのか光ファイバを選ぶのかで、ニーズも見えてきます。こういったやり方の方が前向きではないでしょうか。

注1
ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line):非対称型加入者線
銅線の加入者線を用いて高速通信を実現する技術。上りと下りの伝送速度が違うため非対称と呼ばれる。上りは16〜5Mbps、下りは1.5〜10Mbps。(用語集参照…URL:http://www.atmarkit.co.jp/icd/root/15/5785115.html


注2
SDSL(Symmetric Digital Subscriber Line):対称型加入者線
上りと下りの伝送速度が同じスピード(〜2Mbps)のDSL。


注3
VDSL(Very-high-bit-rate Digital Subscriber Line):非対称型加入者線
上りの伝送速度が〜6Mbps、下りが〜52Mbps。ADSLより広い周波帯域を利用して高速に通信できる。


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