[Interview]
400名解雇の米レーザーフィッシュ、Webインテグレーターの将来は?

2001/2/8

 米大手Webインテグレーターのレーザーフィッシュ(Razorfish)は全従業員数の約20%にあたる400名という大規模な解雇を明らかにした。同社は米マーチファースト(marchFIRST)、サイエント(Scient)、iXLらとともに、SIPS(Strategic Internet Professional Service)と呼ばれ、ドットコム全盛期の90年後半に立ち上がり売上を伸ばした。彼らの顧客のほとんどがベンチャーキャピタル(VC)から巨額の投資を受けたベンチャー企業で、盛んだった投資の恩恵を2次的に受けて成長を続けてきた。

 2001年に入り“米国経済の減速は確実”とささやかれる中、1月に米マーチファーストが解雇や事業所の閉鎖を発表しており、今回のレーザーフィッシュも予想通りの発表となった。

 レーザーフィッシュは日本では、インタービジョン・レーザーフィッシュとして昨年立ちあがったばかり。日本でのSIPS旋風の先陣を切ったネットイヤーグループなどと並んで、その動向は注目されてきた。今回、来日したレーザーフィッシュのCOO(最高執行責任者)ジャン-フィリップ・マヒュー(Jean-Philippe Maheu)氏に日本市場での戦略を含め、再建のシナリオを聞いた。

米レーザーフィッシュCOO ジャン-フィリップ・マヒュー氏

――現在の米国のWebサイト構築/SIPS業界の状況を教えてください。
業界全体を見ると、好調とは言い難い状況です。これには2つの理由が考えられます。1つ目は、経済全体が減速傾向にあるため、IT業界も類に漏れず需要が伸び悩んでいることです。2つ目は、Web構築事業にコンサルティング会社やメーカーが参入し、競争が激しくなったことです。

――御社の業績は?
 2月8日に正式発表となりますが、2000年第4四半期は、創業以来はじめて成長率がマイナスとなる見込みです。
 わが社ではこれに対応する策として、人員削減によるコスト減を図ります。また、顧客ターゲットの絞り込みを行い、得意分野に特化した土俵でビジネスをして行きます。わが社では金融、ヘルスケア、エンターテインメントといった分野になります。もちろん、提供するソリューションの質を向上させるのはいうまでもないことです。わが社では、得意とする“ユーザー・エクスペアリエンス”で差別化を図ります。

――“ユーザー・エクスペアリエンス”について詳しく教えてください?
 わが社の定義する“ユーザー・エクスペアリエンス”とは、触れる・見るなど、ユーザーが感じることができるものの総称です。製品やサービスがコモディティ(日用品)化する中、ユーザーは“ユーザー・エクスペアリエンス”で違いを感じるようになります。個人的には、ソニーはこのコンセプトを良く理解している企業だと感心しています。ユーザーを分析・理解し、ソニー・ブランドを確立することにより、価格が少々高くても、ソニーのファンになったユーザーは繰り返し同社の製品を購入しています。
 株取引サイトで有名なチャールズ・シュワブ(Charles Schwab)は顧客の一社です。オンライン株取引サービスのサイトの場合、必ずしも全員が株取引に慣れたユーザーというわけではありません。不慣れなユーザーのために、サービスボタンの機能の説明も必要です。これを後ろで動いている、大量の情報、非常に複雑なシステムと連携させる必要があるのです。わが社ではこの作業を「インフォメーション・アーキテクト」と呼び、ステップ毎に行います。あの人気サイトはこうやって誕生したのです。
 さらにはこれをクロス・プラットフォームで実現して行きます。携帯電話、PDA、インタラクティブTV、最近では「フィジカルプロダクト」といってホームデバイス製品のデザインも行っています。コンサルティング会社やIBMなどのメーカーの提供するSIPSと比較したとき、この点が独立系であるわが社の最大の特徴となっています。

――今後の業界の動向をどのように見ていますか?
 3つの傾向が見られます。まず、業界内での淘汰です。市場事体は引き続き成長しますが、企業数は減り、一社あたりの規模は拡大するでしょう。
 また、ソフトウェアがわれわれの業務のいくつかをリプレースすることが考えられます。最先端の技術とサービスを提供できる企業だけが生き残ります。
 3つ目に、マネージメントのサービス・プロバイダ、MSP(Management Service Provider)やASPの台頭も考えられます。

「われわれのビジネスは、ビジネスの機会を定義し、それに合うソリューションを提供すること。具体的には、アプリケーションの開発とミドルウェアが守備範囲。これからも組織内の情報システムと共存していく」

――日本市場での展開は?
 アメリカでは解雇による経営の引き締めを行うのに対し、日本では違った戦略をとります。具体的には3つ想定しています。1つ目は教育です。これは日本特有の課題で、顧客開拓という点から教育の必要性を感じているからです。まずは顧客にデジタルを使ったソリューションを示し、どういった付加価値が得られるのかを説明します。これにより顧客からの需要を喚起できるでしょう。必要があれば、日本の大企業とパートナーを組んで行うことも考えています。
 2つ目はわが社の顧客である米国企業の日本子会社をターゲットとすること。サン(マイクロシステムズ)やシスコ(システムズ)はわれわれの顧客で日本でも展開しています。3つ目は得意分野で勝負することで、われわれの場合はワイヤレス分野です。

――これからのWeb構築はどのようになるでしょう?
 ここ2〜3年でシステムのプロジェクトは大きくなりました。企業がインターネットの可能性に気がつき始めたことが挙げられます。
 具体的には、これまでは、研究・開発、製造、マーケティング、販売と企業の部門があれば、システムはそれぞれに特化したものでした。それに対し、現在では部門間を縦断的にまたがる案件が組まれるようになりました。将来的には企業の枠を超えたものが増えてくるでしょう。もう1つの傾向としては、よりミッション・クリティカルなものが求められています。

 今回の同社の解雇を市場は肯定的に受け止め、株価は一時的に上昇した。だが楽観はできないというのが大筋の見方。急成長した若い会社には体力やノウハウの不足が指摘される上、ドットコムばかりをクライアントに持つことは健全な経営とは言えないからだ。また、米国では、Webシステムに割く予算比率が高くなり、安心という理由から、ベンチャーのイメージの強いSIPSよりも、名の知れたコンサルやメーカー系を選ぶ企業も少なくない。生き残りの明暗を分ける鍵は、技術、戦略、顧客…?、模索は始まっている。

(編集局 末岡洋子)

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