IBM、Webサービスを実現する次世代eビジネス像を紹介

2001/5/2

 日本アイ・ビーエムは4月26日、27日の2日間、「The Business to Business Integrationカンファレンス 2001」を都内で開催した。同イベントは、システム・インテグレーター、ユーザー、プレスおよびアナリスト向けに同社が開くもので、米IBMのメンバーが講演を務め、eビジネスに関する最新情報を紹介した。

“パーベイシブ”と“ディープ・コンピューティング”がトレンド

 “次世代eビジネス”――今年3月に同社が開催した「IBMフォーラム2001」でも繰り返し用いられた言葉だ(「eビジネスインフラ構築へ、IBMから3つの提案」参照)。挨拶の席で大歳卓麻代表取締役社長は日本IBMの戦略と業界全体の動向を簡潔に語った。

 「今後のトレンドは“パーベイシブ”と“ディープ・コンピューティング”」と大歳社長。“パーベイシブ”は、いつでもどこでもインターネットにアクセスできるような状態を指す。携帯電話の加入台数が固定電話の加入台数を上回ったことや、PCの出荷台数がテレビの出荷台数を上回ったことなどを例に挙げ、「今後ますます、“コンピュータ”とか“インターネット”ということを意識せずに使う時代になる」と続けた。“ディープ・コンピューティング”とは、話題の遺伝子やたんぱく質の解析など大量のデータを加工するコンピューティング。今後、企業が蓄える情報量は間違いなく増大する。情報を蓄えることに終始するのではなく、活用できることが競争力になるということだろう。

 今では情報技術業界のみならず一般にも広く認知されるようになった“eビジネス”という言葉は、IBMが最初に用いた。4、5年前のことだ。ブームが一段落し“eビジネス”とは一体何なのかが問い直されている昨今、去り行くドットコム企業や、減収・レイオフを発表する新興ハイテク企業をよそに、同社は堅調な業績結果を出し、強さを実証している。「これまで(のブーム)は、運動会の前の打ち上げ花火。本当のeビジネスの時代は始まったばかり」(大歳社長)

 同社では“Integration”と“Infrastructure”をキーワードとし、パートナー戦略を進めていくという。「10年前のIBMなら独り占めしようとしただろうが、IBMは変わった」と大歳社長は笑いながら言う。Linuxへの積極投資(「IBM、アジア太平洋地域でLinuxに2億ドルを投資」参照)、EJBコンソシアムの立ち上げ(「EJBコンポーネントに関する規約を策定するコンソーシアムが発足」参照)など、オープンな技術、標準化に他社とともに取り組みを進めていることを強調する。

 「eビジネスにあらゆる企業が取り組み始めている。その伸びに比べ、供給するわれわれの能力が不足している状態だ」――、同社のパートナー戦略の目的は、パートナーと共にIT業界全体の生産性を上げていこうという呼びかけだという。


IBMの提唱する“eバリュー・ネット”とは

 大歳社長の挨拶に次ぐセッションでは、マーケットプレイスやポータルなどをテーマに繰り広げられた。その1つ、“ダイナミック・eビジネス”について講演したのはミシェル・ベジー(Michel Bezy)博士、米IBM Webサービスのプログラムディレクターだ。

 ベジー氏は、企業内でのアプリケーション統合、企業間でのプロセス統合の次にダイナミック・eビジネスが起こるとして、この概論を述べた。ここでキーとなるのがWebサービスだ。Webサービスは、2000年に同社とマイクロソフトが共同発表した技術コンセプトで用いられた言葉だ(「MSとIBMが手を組み推進する「Web Services」とは何か」参照)。「Web」とは「クモの巣」の意味。インターネット上にクモの巣のようにあるサービスを企業が自分たちの目的に応じ自由に使いこなす状態をこの言葉に託した。ちなみにマイクロソフトでは、.NET戦略全体でWebサービスの実現を目指している。

 このような緩やかな結合を実現するのがUDDISOAPWSDLなどの標準技術だ。CRMなどのビジネス・アプリケーションがプラットフォームに依存していたのに対し、Webサービスではサービスはモジュール化されている。ネットワークから利用されるためプラットフォームには依存せず、統合も自動的に行われる。

 企業はビジネス・パートナーや顧客だけではなく、複数のマーケットプレイスと接続できるようなプライベートなハブを構築する必要がある。また、Webサービス時代ではビジネスチャンスを逃さないために、自社のWebサービスを公開しておくことも必要となる。そんな近未来の企業情報システムを“eバリュー・ネット(e-Value Net)”と同社では名付けている。このeバリュー・ネット構築により、より自由度の高いビジネスが実現するという。

 「来るべき時代に企業の情報システムが備えるべきものは、自社のe-Value Netだ」(ベジー氏)。同社ではWebSphere製品群、MQSeries製品群、DB2、Tivoli製品群で体系的ソリューションを提供するという。

 今後、技術面のフォーカスはアプリケーション統合からビジネス・プロセスの統合・管理へと移行する。Webサービスを実現する各種技術の成熟が進み“次世代eビジネス”がスタートするまでに、企業側がしておくべきことは、新しい標準の採用、基盤技術の整備などたくさんある。だが、最も重要なことは、経営者やIT管理者の新しい時代の理解と適応なのかもしれない。

(編集局 末岡洋子)

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