アウトソーシングの問題解決には“動的”SLA

2001/10/27

 xSPなどのアウトソーシングサービスが充実し、企業の関心が高まる中、SLA(サービスレベル保証)がまずます重要となる。そのSLAについて、ガートナージャパン シニアアナリスト 黒須豊氏がセミナーにて現状と課題を示した。その内容をレポートする。

 黒須氏によれば、人員不足やリスク低減といったメリットを提供するxSPに代表されるアウトソーシング(ガートナーではMSPとしている)は、成長市場ではあるものの、市場の安定・成熟には時間がかかりそうだと言う。

 現在、ユーザー企業は、一体どのアウトソーサーを利用すべきなのかにはじまり、アウトソーサーの提示する価格が安いのか高いのか、サービスの質は良いのか悪いのか、と、さまざまな疑問を抱えながら疑心暗鬼で業者を選択している。そして、実利用の段階に入ると、往々にして、それらの疑問は不満へと発展する。コストダウンという当初の目的は果たせているのか? (特にWeb経由の場合、)アウトソーサーは具体的に何をしているのか? といった釈然としない感情から両者の関係が悪化することは十分考えられる。実際、アウトソーシング利用企業の半数は不満を持っているという調査結果も出ている(「アウトソーシング利用企業の半数以上がサービスに不満」参照)。

 それらの不満を解決し、良好な関係構築に役立つのがSLAだ。「SLAは、これまで明確ではなかったサービスの内容/対価を可視化してくれる。それにはパフォーマンスを測定し、それをユーザー企業に明示することが前提となる」と黒須氏は言う。

 本来、SLAというと否定的なイメージをもつアウトソーサーも少なくないだろうが、実は長期的に良好な関係を維持し、さらにはビジネスチャンスにもなりうるツールだ。SLAについて、黒須氏は以下のように続ける。「必要なサービスを提供していることをユーザー企業に提示(価格の妥当性を証明)し、さらには提示した現状のパフォーマンスを向上させるために、追加提案もできる」。ユーザー企業には、“アウトソーサーの言いなり”という否定的な印象を払拭できるだけではなく、自社のシステムに何が必要なのかの正確な判断ができるというメリットがある。そのように“前向きな”SLAの条件として、黒須氏は、変更可能な「動的なドキュメントであること」を挙げる。

 黒須氏はSLA設定に対し、ガートナーが推奨しているSLA構成要素を公開するとともに、いくつかのアドバイスを行った。SLAの構成要素としては、以下の10点を挙げた。

  1. 事業目標との整合
  2. 方針
  3. SLA改編手順
  4. システム概要
  5. パフォーマンス評価尺度
  6. セキュリティ管理
  7. トラブル管理
  8. プライオリティ/重要度
  9. ボーナスとペナルティ
  10. パフォーマンス・レポート

 同氏によれば、ほとんどのSLAが4のパフォーマンス評価尺度と6、7のセキュリティおよびトラブル管理に終始しているが、1や3も重要という。5の評価尺度については、「多くのケースで、測定できるところのみを測定することが多いが、これでは本末転倒」と現状を否定する。測定すべきところと測定できるところはイコールではないからだ。まず目標を設定し、目標に沿った評価尺度を双方が合意して用いることが必要という。

 また、9に関しては、損害賠償項目とは異なる趣旨であることを強調、「“全額保証”などという考え方は間違っている。目標を達成し、改善活動に役立てるものだ」と説明する。先進している米国では、企業ではなく個人(担当者)に対してボーナスが支払われる例などがあるという。

 システムの導入が一巡すると、企業のIT部門の仕事は、インプリや運用から、いかにシステムを効率良く管理するかに変わる。その際、アウトソーシングは必要な選択となるだろう。まだ未熟なアウトソーシング業界に不満を抱くだけではなく、アウトソーサーとともに“成熟させる”という意識も必要かもしれない。

(編集局 末岡洋子)

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