[ガートナー特別寄稿]
Webサービス普及の下地は整った

ガートナー ジャパン
ジャパン リサーチ センター リサーチディレクター
栗原 潔

2001/11/10

 米ガートナーが米国のITプロフェッショナルに対して最近行ったサーベイでは、Webサービスが、CRM、災害復旧、モバイル、セキュリティ/プライバシーと共に重要トピックのトップ5にランキングされた。企業の身に差し迫った現実的課題の代表が災害対策やセキュリティであるとするならば、将来の夢をたくすべき課題の代表がWebサービスと言えるだろう。

 Webサービスの本質とは、ソフトウェア・コンポーネントをインターネット上で展開するということであり、テクノロジー的に見れば従来の技術の延長線上にあるものだ。その一方で、Webサービスは、インターネットを「情報アクセスの媒体」を越えて、「ビジネス連係の媒体」へと変革していく可能性を秘めている。テクノロジーとして見れば革新的ではなくとも、インターネット・ビジネスに与える影響という点では革新的となるだろう。

Webサービスはまだ発展途上

 他のいかなる新規テクノロジーでも同様だが、業界にはWebサービスに対する過剰な期待が見られる。しかし、現時点のWebサービス自体のテクノロジーは未成熟だ。例を挙げるなら、トランザクション、セキュリティ、そして、(ビジネスで活用するためには必須となる)課金などの重要な機能の欠如などだ。しかし、これらの機能もWebサービスの基本プロトコルであるSOAP上に段階的に実装されていくだろう。

 技術の未成熟さと同時に、Webサービスには2フェーズ・コミットの機能が欠けているとの批判を聞くことがあるが、これはWebサービスの本質を見誤った意見といえる。Webサービスが目指す連係機能は、堅牢性よりも柔軟性を重視した疎結合型のアプリケーション連係だ。2フェーズ・コミットが使用されるような、いかなる瞬間にもデータの整合性を維持しなければならない密結合型の連係はWebサービスの主用途ではないだろう。

Sun ONEとリバティ・アライアンスで動き出したサン

 今日では、主要ITベンダのほとんどが、Webサービスに将来のビジネス・チャンスを見いだし、何らかのWebサービス戦略を打ち出している。ここで、特に注目すべきなのがサン・マイクロシステムズの動きだ。

 集中管理されたサーバ上で稼働するサービスを、その実装形態を気にせずにインターネット経由でアクセスできるという「サービス・ドリブン・ネットワーク」の思想は、サンが長きにわたって提唱してきたものだ。これは、Webサービスの先駆け的思想でもある。しかし、この思想を実現する具体的ソフトウェア・アーキテクチャという点では、サンはマイクロソフトの後塵を拝す結果となってしまった。

 2001年2月にはWebサービスを中心に据えたソフトウェア体系であるSun ONEが発表されたが、その内容は概念的なものであった。しかし、10月には、iPlanet、Forte、さらに、JavaによるXMLサポート機能であるJAXパックなど具体的製品がマップされ、「サービス・ドリブン・ネットワーク」に代わる新しい概念である「サービス・オン・デマンド」も提唱された。さらに、Webサービスが企業内における活用から、連邦型で管理された企業間連携へと段階的に進展していくという現実的なロードマップが提案された。このようなロードマップは、ガートナーが考えるWebサービスの普及形態に合致するものだ。

 また、サンが中心となって設立した業界団体であるリバティ・アライアンスにも注目すべきだろう。リバティ・アライアンスは、Webサービス普及の前提となるユーザー認証のソリューションを連邦型で提供することを目的とした企業グループであり、明らかに、マイクロソフトのPassportサービスに対抗するものである。ユーザー認証処理を1つの私企業が独占するという状況は明らかに不健全であり、その意味では、リバティ・アライアンスの登場には大きな意義がある。ただし、IBMとAOLという重要プレーヤーを欠いていることが最大の課題だ。ガートナーは、リバティ・アライアンスが影響力を維持していくためには、少なくとも一方の参画ないし協力が必須の要件になると見ている。

いま、できることは何か

 サンがWebサービスへのコミットメントを強めているということは、マイクロソフト対サンという宿敵の戦いが、また別の土俵で始まってしまったことを意味する。これは喜ばしいことだろう。群雄割拠の混乱状態は問題だが、基本アーキテクチャを共通とする少数の大手ベンダの対抗は健全な競争をもたらし、ユーザーに利益を与えていくと考えられるからだ。将来、どのベンダが覇権を取るかを現時点で予測することは難しいが、Webサービスそのもの普及の可能性は高くなったと言える。

 今、ユーザー企業としては何をなすべきだろうか? Webサービスのテクノロジーについて勉強することも重要だが、それにも増して重要なのはWebサービスを活用した新しいビジネスを創生することだ。既に、ブラウザ・ベースで提供されてうまく機能しているビジネスが存在するのであれば、それをWebサービス化することはさほど困難ではないだろう。これを、他のWebサービスと組み合わせることで、何か新しい価値が提供できないか? このあたりから考えていくことが重要だろう。既存のインターネットの仕組みを覆すことなく、段階的に導入していける点がWebサービスの持つ重要な特性なのだ。

注:ガートナーは世界最大のIT戦略アドバイス企業で、本記事は同社日本支社 ガートナージャパン リサーチディレクターの栗原氏からの寄稿である。

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