[ガートナー特別寄稿]
富士通、日立、NECの生き残り戦略を再考する


ガートナージャパン
ITデマンド調査室 主席アナリスト
片山 博之

2002/2/9

 業績が低迷する富士通、日立、NECといった日本の大手システム・ベンダは、ここ数年、大きな戦略変更を行ってきた。自前主義を捨てたハードウェア事業の大幅な見直し、売上増加の見込めるサービス事業への傾注、さらには、コスト削減のためには競合他社との共同開発もいとわないといった戦略だ。

 日本のシステム・ベンダが生き残るにはサービス事業への傾注しかないのか、彼らの生き残り戦略を再考したい。

■戦略の変化

 従来の日本のシステム・ベンダの戦略は、ハード、ソフト、サービスをすべて自前でサポートし、信頼性の高い製品ときめ細かいサービスを提供することで、顧客を囲い込むことであった。ただオープン化の波が押し寄せたころから、サン・マイクロシステムズ、ヒューレット・パッカード(HP)、インテル、マイクロソフトのような外資系ベンダとの提携が増え、ここ数年で、外資系ベンダの技術は市場に深く浸透した。オープン化はハードウェアの単価を安くし、高価だったメインフレームやオフコンにも波及した結果、ベンダがハードウェアから得る収益は大幅に低下した。そのため、富士通、日立、NECの3社は、コンピュータ市場での生き残りをかけて、今後市場の拡大が見込めるサービス・ビジネスへの注力を強めている。例えば、日立は先日、米IBMとサーバ分野の包括提携を行ったが、これは同社がハードウェア・ビジネスを軽視しているようにも見えるくらいだ。

■サービス・ビジネスの利益率

 では、このように、ハードウェア・ビジネスの多くを外資に委ね、サービス・ビジネスへシフトすることが、日本のベンダが生き残るために正しい戦略なのであろうか。

 日本の市場を見ると、(プラットフォームにもよるが)ハードウェア市場は全体的には縮小気味で、サービスは着実に拡大する傾向にある。そのため、規模の大小にかかわらず多くのIT関連ベンダが、サービス・ビジネスへの注力を強めている。

 多くの日本の大手ベンダが模範とする米IBMの過去10年のセグメント別売上高を見てみると、ハードウェアの売り上げは大きく落ちこみ、ソフトウェアは緩やかに伸び、サービスからの売り上げは大きく伸びている傾向が一目でわかる。ただ、ここで気を付けなければいけないのは、ビジネスのパフォーマンスを測るのに最も重要な要素は利益であるいうことだ。

 米IBMの2001年度の粗利益率は、ハードウェアが27.7%、ソフトウェアがなんと82.5%、それに対しサービスは27.5%と最も低かった。さらに、全粗利益額に占める各セグメントの粗利益額の比率(利益への貢献度)の推移を追ってみると、1991年から2000年の間、サービスのセグメントは最も低く、2001年度でハードウェアをようやく抜いたというレベルである。同じくサービス・ビジネスを早くから強化していた米ユニシスの営業利益率を見てみても、2001年度、ハードウェアの営業利益率が11.6%だったのに対して、サービスはわずか2.1%である。

 2社のデータから明らかなことは、サービス・ビジネスで大きな利益を上げるのは非常に難しいということである。ましてや、今後、多数のITベンダがサービス市場に参入するとなると、過当競争が起き利益の確保はさらに難しくなることが予想される。

■サービス以外に戦略はないのか?

 サービス・ビジネスに傾注することは、サービス市場全体が拡大している限り、悪いことではない。だが、利益が確保できる体制が整っているかどうかも確認する必要がある。利益を確保する人の使い方という面では、日本の大手システム・ベンダは非定型なプロセスが多く、得意な分野とは言えないだろう。

 それでは、日本のシステム・ベンダに生き残りの道はないのだろうか?

 これまで、日本のシステム・ベンダは、世界に通用する技術を作れても、それを業界標準にするレベルにまで広めることには失敗してきた。だが、まだメインフレームに比べ可用性の低いIAサーバやUNIXサーバを、日本ベンダ独自の技術を付加することで大きく可用性を高められれば、それが世界に広められる技術に発展する可能性は十分にある。例えば、日立のメインフレーム技術を生かしたオープンなストレージ・システムは、サンやHPと販売・OEM提携するなどの成功を収めている。

 日本のベンダ各社が極端にサービス・ビジネスへ傾注するとすれば、それは危険である。まずは、日本の強みである信頼性の高いハードウェア技術でコア・コンピテンスを作り、それを世界中で認知させることが先決ではないだろうか。


注:ガートナーは世界最大のIT戦略アドバイス企業で、本記事は同社日本支社 ガートナージャパン ITデマンド調査室 主席アナリストの片山氏からの寄稿である。

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