CDNはISP業界を救うか、月額500円の接続サービス

2002/8/2

 価格競争が行き着くところまで行き尽くし、年々懐具合が苦しくなる中、新たなビジネス・チャンスを模索しているISPにとって、今回のこの発表は1つの契機となるのだろうか?

 エキサイトは8月1日、インターネットイニシアティブ(IIJ)とNTT東日本、NTT西日本のインフラを用いたCDN(Contents Delivery Network)によるコンテンツ配信サービス、ならびに同CDNを快適に利用するためのインターネット接続サービスの「BB.excite」の提供を開始すると発表した。接続サービスは8月1日より、コンテンツ配信サービスは8月8日より提供を行う。

 Yahoo! BBの投じた一石により、日本のインターネット接続環境は、低価格化と高速化が急速に進んできた。だがそれと同時に、「回線はブロードバンドになったが、それに見合ったコンテンツがほとんどない」「価格競争の激化で、価格以外での差別化ポイントを探す必要がある」など、ISPにとっての課題も見えてくるようになった。ブロードバンド向けコンテンツと接続料以外での新たな課金モデル、この両者の要求を満たすものとして最近注目を集めているのが「CDN」だ。CDNとは、Mbpsクラスのストリーミング・コンテンツや大容量のファイルなどを、バックボーン回線や特定のサーバに対して大きな負荷をかけることなく、多くのユーザーに同時に配信する技術である。CDNではユーザー管理や課金システムなども考慮されているため、ISPはCDNを用いて新たな収益源を確保することも可能となる。

「接続料500円という価格を実現できたのは、IIJ/NTT東西などの協力により、大きな投資を行うことなく事業を実現できたことが大きい。今後はコンテンツ・ビジネスで新たな収益源を模索していきたい」と語る、エキサイト 代表取締役社長の山村幸弘氏

 エキサイトが発表したのは、コンテンツ配信サービスの提供開始と、CDNを快適に利用するためのインターネット接続サービスの2つである。CDNで広帯域向けのストリーミング・コンテンツを効率的に配信するためには、ISP側でキャッシュ・サーバを配置するか、もしくは配信先のユーザーの接続するISPと協力なバックボーンを結ぶ必要がある。今回、CDNサービスの開始と同時に、インターネット接続サービスの開始も発表したのは、同接続サービスを利用したユーザーに対して、より高いビットレートでコンテンツ配信を行うことができるからだ。BB.excite接続サービスを利用しているユーザーは、1〜6Mbpsの広帯域でフルスクリーンのコンテンツを、それ以外のISPを利用するユーザーからの接続は、56〜500kbpsでコンテンツの配信をそれぞれ受けることが可能。将来的には、ほかのISPに接続するユーザーでも広帯域での配信が受けられるように、提携戦略を進めていく予定だという。

 今回のコンテンツ配信サービスでは、インターネット接続のためのバックボーンにIIJを、アクセス回線部分にNTT東西のフレッツ網をそれぞれ利用して、システムを構築している。ユーザーは、NTT東西が提供するフレッツADSL/Bフレッツ/Mフレッツ(フレッツ・スポット)経由でBB.exciteに接続し、月額500円(Bフレッツのベーシックタイプでは1000円)の接続料金と300円のコンテンツ利用料を支払うだけで、Mbpsクラスのコンテンツ配信サービスの利用が可能となる。配信コンテンツ予定はエンターテインメント系が中心で、8月8日の配信開始時点で10社、提携予定のパートナーが2社となっており、今後も順次提携先を広げていく予定だという。

 IIJ 常務取締役 マーケティング本部 本部長の保条英司氏は、「IIJで1995年から個人向けISP事業を続けてきているが、最近ISPのあり方が変わりつつあるように感じている。ISPは、インフラの維持とユーザーへの接続サービスという2つのサービスが軸になっているが、これらのインフラの上でコンテンツ・サービスを展開する今回のエキサイトの新事業は、ISPの新たな事業への第一歩といえるではないだろうか。新たな事業の成功のために、わが社のエンジニアは夜を徹して作業を進めてきた」と、新たな方向性を持ったISPの出現に対し、賛辞を送る。

 インフラを他のISPから借り受け安価なコンテンツ・サービスを提供するISPの出現や、ISP同士が提携関係を築き新たな展開を図る「メガコンソーシアム」の結成など、ISP業界再編の動きが加速しつつあるようだ。ブロードバンド時代の到来は、同時にISP業界の第2ステージの始まりとなるのかもしれない。

(編集局 鈴木淳也)

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