迷走する携帯電話会社、海外戦略成功の可能性は?

2002/10/9

 NTTドコモが出資した欧米通信会社の企業価値が急速に劣化している。ドコモは出資している米A&Tワイヤレス、オランダのKPNモバイル、英ハチソン3G UKの株式評価損5730億円を、2002年9月中間期に計上すると10月2日発表した。ドコモは2002年3月期にも9474億円の評価損を出していて、累計の損失額は1兆5200億円に膨らんだ。ドコモは出資先の会社がiモードを始めたり、第3世代携帯電話のサービスを始めることで業績の回復は可能とみているが、世界の通信市場全体が冷え込んでいる状態での回復は難しいとみられる。

 ドコモは日本でのiモード成功を背景に、海外の携帯電話への出資を2000年に活発に行った。iモードの“輸出”と、第3世代携帯電話でドコモが採用した通信規格「W-CDMA」のネットワークを作るのが目的だった。投資の総額は1兆9000億円に達したが、今回の株式評価損の計上で、総額の80%が消えてしまった計算だ。iモードの海外進出については、日本でドコモ向けに携帯電話を販売しているベンダやコンテンツプロバイダの海外進出につながるとして、期待する声が多かった。ドコモの海外戦略は正しかったのか。欧米、アジアで始まったiモードサービスの現状と、J-フォン、KDDIの動向を紹介し、今後の可能性を探る。

■欧州、アジアでiモード開始

KPNモバイルがオランダ・ハーグに開いた「i-modeストア」。iモード対応の携帯電話を試してみることができる

 国内で3500万近くのユーザーを抱えるドコモのiモードが海外に初めて進出したのは今年3月。ドコモが15%出資するKPNモバイルの子会社、Eプラスがドイツで始めた。KPNモバイルは4月にはオランダでもサービスを開始。ドイツ、オランダのサービス名は日本と同じiモードで、ニュースや天気予報、着信メロディ、待ち受け画像などのサービスと、アルファベットで1000文字まで送受信可能な電子メールサービスを提供している。端末はNECが提供。今後、ドコモと提携しているベルギー、フランスが11月にも、スペインの携帯電話会社も来年前半にiモードサービスを始める予定だ。

 アジアでは台湾のKGテレコムが6月にiモードサービスを開始。台湾では日本の漫画やゲームが人気となっているだけに、日本のコンテンツプロバイダが台湾に進出した。バンダイネットワークスは待ち受け画像提供サービスを開始。インデックスも占いや、台湾でも放送されている日本の人気漫画を題材にした待ち受け画像サービスを始めた。ドコモは台湾をきっかけにして東南アジアや中国本土でもiモードサービスを始めたい考えだ。台湾でも端末はNECが提供。iモードの海外進出によってメーカーではNECが、コンテンツプロバイダも数社はすでに市場の拡大を図っている。今後他社の追従もあるだろう。

 しかし、初の海外進出だった欧州のiモードは苦戦している。KPNモバイルは、オランダとドイツのiモードユーザー数が10万人を突破した、と8月14日発表。内訳は、3月に開始したドイツが7万7000人で、4月スタートのオランダが2万3000人。日本の爆発的なiモードの成長に比べると寂しい数字だ。しかし、KPNモバイルは来年には100万人がiモードを使う、と強気の予測を崩していない。

 欧州や台湾のようにiモードが始まっている国は、ドコモにとって将来に期待が持てる。だが、ドコモが約1兆円と最大の投資をしたAT&Tワイヤレスでは、開始を予定してはいるものの時期は未定のまま。理由はAT&Tワイヤレスが独自に携帯のネットワークサービス、mモードを4月に始めたためだといわれている。mモードはiモード同様にメールやWebのサービスがあるが、技術的にはまったく別。ライセンス料がAT&Tワイヤレスからドコモに入ることもなく、日本の携帯電話メーカーやコンテンツプロバイダの米国進出のきっかけにもならない。

■写メールは今秋に欧州で開始

 J-フォンは、世界最大の携帯電話会社、英ボーダフォン傘下。J-フォンが開発してヒットさせた写メールサービスをボーダフォンを通じて“輸出”する。ボーダフォンは世界中のグループの携帯電話会社で利用できるようにしていく考えだ。携帯電話にデジタルカメラを内蔵し、撮影画像をメールで添付して送る写メールは、手軽に画像をやりとりできることが受けて、国内で600万台の対応端末を出荷。J-フォンユーザーの約半分が利用している計算になる。写メールのヒットを受けて、au、ドコモもカメラを搭載した携帯電話を発売した。日本では携帯電話の機能として写真を撮ってメールで送ることが一般化しつつある。

 こうした日本での成功を受け、ボーダフォンはドイツ、ポルトガルのグループの携帯電話会社で写メールの実験を今春から実施した。今秋には欧州7カ国のグループ会社でサービス開始する予定だ。写メールにメールやWebアクセスのサービスを組み合せ、J-フォンが日本で行っているJスカイに似たサービスを「ボーダフォン・ライブ」の名で始めることを計画している。ボーダフォンは写メールをキラーサービスにしてデータ通信料の収入をアップさせ、伸び悩む音声通話収入を補う考えだ。ボーダフォンにとって、J-フォンに出資して傘下に入れた一番大きなメリットが、写メールの欧州への輸出になる。

 ただ、ボーダフォンにとっても日本で生まれた写メールを欧州でどう具体的に展開するかはまだ明確ではないようだ。ボーダフォンは、ボーダフォン・ライブのテレビCMに、日本の写メールのテレビCMで使われていたドラゴンアッシュの曲を起用する。CMの内容も日本で放映されていた写メールのCMと同じにして、写メールの利用法を欧州のユーザーに説明する予定。日本での成功のみが頼みの綱となっている。日本でのマーケティングを参考に展開していくのだが、それがそのまま風土や文化の異なる欧州で受け入れられるか、未知数だ。

 日本の携帯電話メーカーにとってメリットはあるのか。これまで日本と通信規格が異なる欧州向けに端末を提供していたメーカーなら、カメラを搭載するだけですむが、新たに欧州用の端末を開発することはコストもかかり、容易ではない。実際にドイツ、ポルトガルの実験サービスで使われているのは、欧州で端末提供の実績のある大手のノキア製とソニー・エリクソン製。日本で写メール対応端末トップシェアを誇るシャープが欧州でカメラ付き端末を発売する計画というが、日本のほかのメーカーが進出できるかは疑問だ。

■KDDIは中国第2位と業務提携

 一方、KDDIは高成長が期待できる中国市場に注目し、中国第2位の携帯電話会社、中国連合通信(チャイナユニコム)と昨年6月に技術、業務分野で提携した。チャイナユニコムはKDDIのauと同じ通信規格のCDMAを採用し、KDDIは自らが開発した携帯電話のサービスを中国に“輸出”することが可能になる。中国の携帯電話利用者数は今年初めで約1億5000万人。日本の人口以上のユーザー数だが、中国の全人口からみれば9人に1人が使っているに過ぎない。今後さらに携帯電話が拡大するのは確実で、世界最大の市場に成長するとみられている。

 KDDIがチャイナユニコムを通じて技術やサービスを提供できるようになれば、日本の携帯電話ユーザーをはるかに超えるユーザーを獲得できる。チャイナユニコムは第3世代携帯電話でもauと同じCDMA 2000方式を採用するとみられている。auはすでに第3世代携帯電話で高速データ通信サービスやGPSサービスを提供している。これらの技術やノウハウをチャイナユニコムに提供していくことも考えられる。そうなれば、日本の携帯メーカーの端末がそのまま輸出可能になり、コンテンツプロバイダも現在行っているEZウェブのコンテンツの転用もできるだろう。

(垣内郁栄)

[関連リンク]
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