ベンダ任せのIT戦略は「5年で滅びる」

2003/2/15

 「IT戦略の立案をベンダに任せると、5年後にその企業のIT戦略は滅びる」。ITRの代表取締役で米METAグループ アナリストの内山悟志氏は、日本キャンドルが主催したイベント「Candle Day 2003」の講演でこう述べて、IT戦略をベンダに丸投げする傾向にある日本企業の問題を指摘した。

ITRの代表取締役で米METAグループ アナリストの内山悟志氏。「ITが経営の課題をリードしていく必要が出てきた」と述べた

 内山氏は大企業などが情報システム部門を分社化したケースを挙げて、「大手企業の情報システム子会社の中で成功した企業は10社に満たないのではないか」と指摘。「情報システム子会社には本社やグループ子会社のIT戦略への積極的な関与が求められているが、能力がない子会社が多い」と説明した。情報システム部門や情報システム子会社が頼りにならないために、IT戦略の立案をベンダに丸投げする企業もあるが、ITに対して理解が少なく「企業はベンダにだまされる」というのだ。

 IT戦略の立案自体が難しくなっているのは事実だ。企業は今の経営状況を考えてIT戦略を立てるが、戦略に基づいたシステムが運用開始されるのは1年や2年先。その間に経営状況が変わってしまい、システムが当初想定したような働きをしないケースが多くあるという。そのため内山氏は「企業には変化に対して柔軟性があるIT戦略が必要だ」と訴えている。

 柔軟性があるIT戦略によって実現されるのは「適応性のある経営、Adaptive Enterprise」(内山氏)だ。かつての国内企業や、現在も一部の企業では、経営環境の変化を予測可能と考えて、四半期や年単位でビジョンや方針を立ててビジネスを行っている。あらかじめ決められた路線や停留所を走るだけで、運転手に裁量権がないことから、内山氏はこのような経営を「バス会社型経営」と呼んでいる。

 一方、現在多くの企業が直面しているのは、これまでのパートナー企業が瞬時に競合企業に変わったり、資産だと思っていたシステムがレガシーとなり負債に変わるような予測困難な経営環境だ。このような経営環境ではビジネスに関係する外部シグナルを受けて、1時間、1日単位で経営方針を見直す必要がある。内山氏はバス会社型経営に対して、基本的なルールはあるが、さまざまな外部からの情報を判断して即座に移動し、顧客をつかむことから「タクシー会社型経営」と呼んでいる。競争が少ない分野などでまだバス会社型経営の企業は残っているが、金融や通信、流通、小売など顧客に近いところでビジネスしている企業が急速にタクシー会社型経営にシフトしているという。このタクシー会社型経営に対応するには、高度な適応性が必要だというのが内山氏の主張だ。

 適応性の経営をサポートする企業のITインフラとは、どのような性格を兼ねそろえているのか。内山氏は「ITガバナンスの構築が不可欠」だとしている。内山氏の説明によるとITガバナンスとは「企業が競争優位性構築を目的に、IT戦略の策定、実行をコントロールし、あるべき方向へ導く組織能力」を指す。企業の情報システム部にとってITガバナンスを実現するうえで重要としているのが、IT投資の効果について「経営者やユーザー部門に対して説明責任を果たしていくこと」だという。社内や顧客に対して、合意したサービスを提供できるかというサービスレベル管理についての説明責任も重要になる。

 ITガバナンスを構築できるスタッフを社内で育成するのは困難だ。しかし、IT戦略の立案をベンダに丸投げするのも将来に対して危険が大きい。経営トップをはじめ、社内全体でITに対する理解が高まる必要があるだろう。

(垣内郁栄)

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