便乗ウイルスが登場、SARSがITに与える悪影響は

2003/4/29

 トレンドマイクロは中国、香港を中心に流行している新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)に便乗したコンピュータ・ウイルスを発見したと発表し、注意を呼びかけた。

 発見されたウイルスは電子メールを媒介にして広がり、PCが感染するとInternet Explorerのホームページを世界保健機関(WHO)のWebサイトに変更する。同時にハードディスク内に数MBから数百MBのごみファイルを作成する。また、Windowsアドレス帳にあるすべてのあて先にウイルス付きの電子メールを送信し、感染を広げる。電子メールの差出人や件名、添付ファイル名が「sars」や「virus」、それにSARSが風邪を引き起こすコロナウイルスの一種と見られていることから「corona」、大規模な感染が広がっている「honkong」などになっていて、SARSに関する対策情報を装っているという。トレンドマイクロではこの新種ウイルスを「WORM_CORONEX.A」(コロネックス)と名付けた。トレンドマイクロでは「現在、まだ感染報告はない。作成者は愉快犯とみられる」としている。

 一方、ビジネスの現場ではSARSの影響が出始めている。便乗ウイルスの注意を呼びかけたトレンドマイクロは、北京や上海、南京、広州、台湾、香港への渡航注意を社員に呼びかけた。トレンドマイクロはアジアで広くビジネスを展開するだけに、SARSの感染拡大で悪影響が懸念される。

 海外本社の担当者が日本への出張を自粛するケースも出てきている。マイクロソフトが先週開催したイベントには米本社から事業の担当者が来る予定となっていたが、「イラク戦争、SARSの影響で来れなくなった」(マイクロソフト)という。米本社から担当者が日本に来る場合、同時に香港や中国などの現地法人を訪れることが多い。SARSの影響でアジア地域の現地法人に行くことができなくなり、来日も取り止めたという。マイクロソフトは社員に対して、香港とシンガポール、ベトナム、中国の広東省への渡航を自粛するよう通知しているという。今後、アジア地域で開催するイベントの場所や日程を変更することも検討しているといい、アジア戦略に影響を与えそうだ。

 現状では、SARSの流行が企業収益にまで悪影響を与える状況はまだないようだ。日本IBMは中国全域、香港、シンガポール、ベトナムのハノイ、カナダのトロントへの出張を控えるように社員に通達しているが、「ビジネスでの深刻な影響は出ていない」という。マレーシアと中国の廈門(アモイ)に工場があるデル・コンピュータも「出張は控えるようにしているが、製造、物流には影響は出ていない」という。

 ただ、中国などアジア地域で大規模に製品を製造しているベンダや、アジア企業との取引が大きい企業は、今後SARSの感染が広がれば、ビジネスへの影響を避けられないだろう。先週、2003年3月期の決算を発表した富士通は、2004年3月第1四半期について、「昨年度より悪い。イラク戦争とSARSの影響で非常に見えにくくなっている」と述べた。富士通は第1四半期に400億円の損失を見込んでいる。アジア地域のビジネスが冷え込めば、世界のIT企業にも悪影響を与えることは確実。各社は社員の安全と同時に、自社のビジネスを守る施策が必要だろう。

(垣内郁栄)

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