[Interview] 「オープンソースは大好き」、CAにLinux戦略を聞く

2003/5/24

 コンピュータ・アソシエイツ(CA)がLinux対応を急速に進めている。Windows版で高いシェアを持つ「BrightStor ARCserve Backup」のLinux版を5月14日に発表。今後は「セキュリティにフォーカス」(Linux@CAJプロモーションプロジェクトオーナー 大西彰氏)して、製品を集中的に投入する計画だ。具体的には今後、Linuxのアクセス制限機能を強化する「eTrust Access Control」や「eTrust Web Access Control」「eTrust AntiVirus」などを発売する予定で、「LinuxといえばCA」というイメージを市場に浸透させたいところだ。

 5月21日〜23日まで開催されたLinuxWorldでは、米CAの上級副社長 Linux技術グループ サム・グリーンブラット(Samuel J Greenblatt)氏が基調講演を行った。プレス向けセミナーでは「LinuxはUNIXを超える存在になる。Linuxにとって今年は極めて重要な年になるだろう」として、「Linuxの津波がやってくる」と強調した。グリーンブラット氏に米国でのLinuxの現状と、CAの戦略、日本での取り組みなどを聞いた。



──プレスセミナーでは日本のLinux市場について「保守的」と指摘したが、どのようにとらえているのか

グリーンブラット氏 日本市場はテクノロジが出現するのを見守って、成熟を確認した後に最大活用するのが特徴だ。Linuxにおいては、米国で直面した課題を回避できる。米国であったようなオープンソースをめぐる戦いも日本ではやる必要がない。米国ではスタートしたLinux関連のプロジェクトの3分の1が失敗している。日本はこのような失敗を繰り返すことは少ないだろう。米国では、技術の専門家がLinuxをやりたいがためにスタートさせたプロジェクトは、軒並み失敗した。やはりビジネス目的のLinuxプロジェクトでなくてはいけない。金融セクターなどビジネス面での活用が成功した分野では、Linuxは非常にうまくいっている。テクノロジーが一番優れていたからといって、成功するわけではない。

米CAの上級副社長 Linux技術グループ サム・グリーンブラット氏。今回のLinuxWorldについて「米国に比べて規模が小さいね。資料を手渡す女性の方が来場者よりも多いのでは」と感想を述べた

 日本は追いつけるし、その追いつきはあっという間だろう。よい技術者は他人のミスから最大の教訓を得られる。日本市場も3年もすれば、米国に追いつき、それを上回っている状況になっても不思議ではない。ウサギと亀のおとぎ話の再現になるかもしれない。

──日本では低コストや、1社によるOSの独占を嫌ってLinuxに注目するケースが多いようだが
 
グリーンブラット氏 Linuxはコスト上の優位性や反マイクロソフトではなく、スケーラビリティの面で注目すべきだ。Linuxは拡張性、移植性、信頼性の面で優れた機能を提供している。われわれの顧客でも、その特徴に注目しLinuxを選択するケースが増えている。

──米国ではどの事業分野でLinuxの採用が進んでいるのか

グリーンブラット氏 成功しているのは金融セクターだ。証券会社各社は、1990年代末にメインフレームからサン・マイクロシステムズのサーバに移行した。サンにサイベースという組み合わせはその典型だ。その後、雪崩を打つようにLinuxに移っていった。ウォールストリートでLinux関連のセミナーを開くと、かつては5人くらいしか来なかったが、いまではすぐに50人は集まる。CAは金融セクターにセキュリティのソリューションを提供している。米国の規制に対応するには、CAのソリューションが必要だ。

 CAのLinux関連のソリューションではセキュリティが急成長している。ストレージ、アプリケーション・マネジメント、「Unicenter」も伸びている。それぞれの企業がどの程度Linuxを使ったことがあるかによって、次に何が必要かを、CAはある程度予見できるようになった。それで最適のソリューションを提供できる。

──日本ではオープンソースがソフト産業に悪影響を与えるのではないか、という議論がある。オープンソースについてはどう考えるか

グリーンブラット氏 オープンソースは大好きだ。世界中で多数の技術者がイノベーションを生み出そうと参加している。ソフトベンダは、オープンソースソフトに付加価値を付けられないと存在意義がなくなってしまうだろう。付加価値を付けて提供できれば、その見返りを得られる。OS自体は所与のもので、そこで競争する考えはもともとない。例えば、オラクルとCAはライバル同士だが、Linuxに関しては一番のパートナーだ。ラリー・エリソン(Larry Ellison、米オラクルの会長兼CEO)がCAのことをほめてくれるのは、考えてみれば奇妙なことだ(笑)。ソフトに高い価格を付けているベンダがあるが、そういう会社にとっては今後が心配だろう。

 家の電気を利用しても、どこで発電された電力かを気にすることはないと思う。OSは電力のような存在で、それを提供可能にするのがオープンソースだ。オープンソースは、日本の旧通商産業省の取り組みがモデルになっているともいわれる。つまり競争相手でも企業が1つにまとまって、国全体が産業を推進するという形だ。オープンソースでは、ライバル各社が人を出して、業界全体のために仕事をしている。

──Linuxがさらに企業内に普及するための課題は?

グリーンブラット氏 企業内でのLinux普及の課題は、3つある。1つは企業のトップ自らがLinuxを理解して、主導しなければ社内で推進されないということ。2つ目は、社内でマイクロソフト派、UNIX派、メインフレーム派、Linux派などが共存する必要があるということ。3番目は技術の専門家が、テクノロジが優れているというだけでLinuxを推進してはいけないということだ。

──プレスセミナーでは「米国ではCAといえばLinux、LinuxといえばCAと呼ばれている」と語っていた。Linux戦略におけるCAの強みは何か

グリーンブラット氏 CAの強みは3つの領域にある。1つはハードを持っていないということ。2番目は、固定費を取られてしまう大きなサービス会社を持っていないこと。3番目が一番重要で、優れたOSがあれば、その上に乗せるソフトに付加価値を付けることができるということだ。日本では、ミラクル・リナックスとのパートナーシップ、ターボリナックスでの関係強化をベースに、金融機関、政府機関への活動を強めていきたい。

(垣内郁栄)

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