[ガートナー特別寄稿]
収束の時代を迎えた基盤ソフトウェア――APSとSESとは?

ガートナージャパン
ジャパン リサーチ センター リサーチディレクター
栗原 潔

2003/6/6

 少し前の話になるが、4月10日に行われた日本BEAの記者会見において、BEA米国本社CEOのアルフレッド・チュアング氏は、「今、最も重要なキーワードはコンバージェンス(収束)である」と繰り返し強調した。これは、ひとつにはアプリケーション開発とアプリケーション統合の収束という意味もあり、また、同社が有する多様な基盤ソフトウェア製品群を「WebLogic Platform」というひとつのスイート製品に収束させているということも意味している。

 後者のソフトウェアのスイート化という現象はBEAだけに限られたものではない。また、基盤系ソフトウェアだけに限定された話でもない。過去の歴史を振り返ってみると、一般にITの世界、特にソフトウェアの世界では、拡散の時代と収束の時代が繰り返し訪れている。テクノロジがまだ新しい段階では、ベンダは製品の機能面の強化と新規ユーザー獲得の“Time to Market”を最優先し、かつ、開発のコストを早期に回収するためにも、多数の個別製品群を提供することが多い。

 しかし、多くのベンダーからひととおりの製品機能が出揃い、価格も低下すると、異なるベンダから最善の製品を選択して調達する、いわゆる“best of breed(BoB)”のアプローチよりも、ひとつのベンダにより統合テストされた複数製品をまとめて購買する“one stop shopping”のアプローチが魅力的となるケースが増えてくる。ソフトウェアのTCOに占める複数製品の統合のためのコストの割合が高くなってくるからである。

 デスクトップPC上のオフィス製品はわかりやすい例だろう。過去においては、ワードプロセッサ、スプレッドシート、グラフィック・ソフトを個別の製品として購買するケースも多かったが、現在ではオフィス・スイート製品を購買するのが通常となっている。そして、チュアング氏の言うとおり基盤ソフトウェアの世界においても、収束、つまりスイート化へのメガトレンドが進行しているのである。

 ガートナーは、このような新しい基盤ソフトウェアにおけるスイート製品の総称としてAPS(Application Platform Suite)そしてSES(Smart Enterprise Suite)という用語を使い始めている。また新しい3文字略語を作り出したのかということで批判を浴びそうな気がするが、それほど難しいことを言っているわけではない。

 APSとはインフラ機能を提供する基盤ソフトウェアを統合したスイートであり、SESはユーザー指向の機能を提供する基盤ソフトウェアを統合したスイートである。より、具体的に言えば、APSには従来でいえばWebアプリケーション・サーバ、インテグレーション・サーバ、ポータル・サーバなどの機能が含まれる。ベンダによっては、統合開発ツールやシステム管理ツールなども含まれることになるだろう。SESには従来でいえばコラボレーション・ツール、情報検索ツール、コンテンツ管理、ビジネス・プロセス管理等の機能が含まれることになる。

 ここでひとつややこしい点は、ポータル・ソフトウェアである。今まで、ポータルという用語はかなり広範な機能を指すものとして使用されてきた。大きく分けてもユーザー・インターフェイスをつかさどるコンポーネント(ポートレットと呼ばれることが多い)を統合するインテグレーション・ミドルウェアとしての要素と、サーチ、情報検索、コラボレーションなどを提供する水平型アプリケーション・ツールとしての要素がある。ポータルという言葉のニュアンスが人によって大きな差があるのはこのような理由もあるだろう。今後、ポータルのインフラ的要素はAPSに、アプリケーション的要素はSESへと吸収されていくことになるだろう。

 現在までのところ、スイート市場の形成はAPSがSESに先行している。インフラに近いほど機能の集約が容易なことから当然だろう。BEA以外の基盤ソフトウェア・ベンダもスイート化にコミットしている。BEAのように製品の緊密な統合化とバンドル化を目指すベンダもあれば、IBMのように統合製品を提供する一方で個別の製品の提供にもフォーカスし続けるベンダも存在する。また、言うまでもないがマイクロソフトは基盤ソフトウェアの多くをOSにバンドルするという独自の道を歩んでいる。2月にサン・マイクロシステムズが発表したプロジェクトOrionもAPSに近い形態と言えるだろう(同社は、OrionにはN1関連の管理ソフトウェアも含まれることから、APSをさらに包含するAPS++に相当すると述べている。)

 APSそしてSESの台頭により、従来型の個別の基盤ソフトウェアの市場が直ちに消滅するわけではない。ガートナーは、2007年までに、基盤ソフトウェアの新規購入ライセンスの75%以上がAPSベンダからのものになると予測している。つまり、特定機能の製品のみに特化したベンダは、ますますニッチな存在となっていくということである。その一方で、2006年までの間、APSを購買するユーザーの70%以上がスイートを一度に購買するのではなく、段階的に導入することになると見ている。つまり、ベンダーにはスイート製品としての統合性の高さに加えて、柔軟なライセンス体系の提供も求められているということになる。

注:ガートナーは世界最大のIT戦略アドバイス企業で、本記事は同社日本支社 ガートナージャパン リサーチディレクター 栗原氏からの寄稿である。

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