後出しジャンケンで勝ちにいくSAP

2003/6/25

 SAPジャパンは6月24日、サプライチェーン・マネジメントソフト「SAP SCM4.0」と顧客管理ソフト「SAP CRM4.0」の2製品を発表した。製品のキーワードは「アダプティブ(Adaptive:順応性、適合力のある)」。特にSAP SCM4.0は、導入企業・顧客・サプライヤ・パートナーにわたるビジネスプロセスを、市場環境の変化に合わせて柔軟に対応できる「アダプティブサプライチェーンネットワーク」というコンセプトを打ち出し、イベント管理モジュールや企業間連携モジュールなどの新機能を搭載している。SAP CRM4.0も、実際に導入しているユーザー企業の声を取り入れ、23におよぶ業界別テンプレートを搭載。ビジネスプロセスの変化や市場環境に合わせ、パラメータを設定するだけで簡単にシステムを導入・変更できる仕組みを確立したという。

SAPジャパン代表取締役社長 藤井清孝氏

 製品発表に先立ち、SAPジャパン代表取締役社長 藤井清孝氏が2002年のエンタープライズ・アプリケーション市場について説明。「矢野経済研究所によると、SAP製品の国内シェアはERP市場で42.7%、SCMで27.9%、CRMで23.4%と他社を大きく引き離している。2年前まではSCMやCRM分野では専業ベンダが圧倒的に強かったが、Best of BreedからBest of Suiteへと顧客のニーズが変化したこと、さらに幅広い業種・業界における実績などからSAPを選ぶ企業が増えた」(藤井氏)と語る。続けて、「リーディングベンダだからこそ、顧客企業と永続的な関係を続けなければならないという責任がある。現在パッケージベンダの間で買収合戦が繰り広げられているが、顧客企業からすると、オーナーも方向性も定まらない会社に、自社のシステムを預ける気になるだろうか」と、ライバル社の動向と比較し、自社の優位性をアピールすることも忘れなかった。

 そんな同社が今秋出荷するSAP SCM4.0の新機能は3つ。1つは、計画系モジュール「SAP Advanced Planning & Optimization(SAP APO)」の機能拡張だ。具体的には、消費財、プロセス製造業や、半導体などのディスクリート業界向け機能を強化したという。もう1つは、新機能「SAP Inventory Collaboration Hub(SAP ICH)」の搭載だ。SAP ICHは、導入企業とサプライヤの間で互いの在庫情報を共有し、迅速な在庫補充を可能にするWebベースの企業間連携モジュールで、特に自動車・ハイテク・消費財業界のサプライチェーンプロセスを強力にサポートするものだ。最後に、サプライチェーン内で起こるあらゆるイベントを管理する「SAP Event Management」を投入し、計画・実行・監視・協業というプロセスをトータルで支援していくという。

 SAPジャパン・ソリューション本部ディレクター 塚越秀吉氏は、「環境変化に柔軟に対応するには、まず市場状況を元に適切な生産計画を立て、企業間で情報を共有し、また資材の配送状況や出荷の遅れなど、さまざまなイベントをリアルタイムに監視する仕組みが必要になる。SAP SCMでこれら3機能を提供すると同時に、基幹システムであるSAP R/3を組み合わせれば、より強力なアダプティブサプライチェーンネットワークが確立できる」と語る。

 対してSAP CRM4.0は、「SAP社最大の開発工数をかけた製品で、プログラム量は旧バージョンの2倍はある」(CRMビジネス・ディベロップメント 三村真宗ディレクター)というもの。プログラム量がこれだけ膨大になったわけは、自動車・銀行・エンジニアリングなど23業界に対応したビジネステンプレートを実装しているためだ。本製品では、営業支援やコールセンターなどCRMパッケージのコア機能に加え、各業界向けのデータモデルや項目を搭載。R/3が業界別ソリューションをアドオンの形でインストールするのに対し、CRMでは「あらかじめ実装されている業界別ソリューションの中から、適合するものをパラメータで設定していくだけで導入できる」(三村氏)という。導入期間も、「数十名程度のシステムであれば、2週間もあれば十分」(同)とのことだ。

 この業種別ソリューションは、同社が全世界に持つユーザー企業と共同開発したものだという。例えば販売促進管理機能であればネスレで使っている機能を、自動車ディーラーの管理機能であればフォルクスワーゲンやアウディで開発した機能を一般化し、汎用的に使えるようにした。昨年12月にはすべてのコーディング作業を完全に終え、半年以上テストを繰り返し、「導入・稼働に際し、何ら問題はない」(三村氏)と言い切るほどの品質を実現。「自社のプロセスに合わない」「バグがあって動かない」といったトラブルをなくし、短期導入とROIを実現することで、CRM市場を牽引していく構えだ。出荷開始は6月25日からで、すでに大手ハイテクメーカー12社への導入が決定しているという。

 また、SAP CRM4.0はWebブラウザからのユーザーインターフェイスにもこだわり、操作性を向上させたことも明らかにした。「他社製品を徹底的に研究し、顧客の声にも耳を傾けた。結果、非常に洗練されたものになっているはずだ。社内ではこれを『後出しジャンケン構想』と呼んでいた」(三村氏)

 ちなみに両製品とも、統合アプリケーション・プラットフォーム「SAP NetWeaver」を介して社内外のビジネスプロセスを統一することができる。もちろん単体パッケージとしても導入可能だ。

 藤井社長は「Best of Suiteが要求されている現在、1社ですべてのアプリケーションを開発するには膨大なコストがかかる。しかし顧客企業のことを考えれば、方向性が見えない企業買収はすべきではない。SAPは、マーケットインの発想で顧客企業とともに製品を進化させている」と語った。同業他社が買収合戦に明け暮れる中、静観を続けるSAP。新製品投入で「漁夫の利」を狙う。

(編集局 岩崎史絵)

[関連リンク]
SAPジャパンの発表資料(SAP CRM4.0)
SAPジャパンの発表資料(SAP SCM4.0)

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