価格は現行の2割引、SAPが見せた中堅市場への本気度

2003/9/5

SAPジャパン バイスプレジデント マーケティング本部長兼ソリューション本部長 玉木一郎氏

 SAPジャパンは中堅企業市場から高まる要望を受け、同社が提供するERPソリューションを再定義し、新たに中堅企業向けエントリーパック「mySAP ERP」として提供すると発表した。同社ではこれを「ERP Renaissance」と位置付け、「これまでの会計・人事・販売・購買など基幹業務に特化したソリューションから、企業マネジメント全体とITインフラ整備を包括する新しいERPソリューションとして生まれ変わった」(バイスプレジデント マーケティング本部長兼ソリューション本部長 玉木一郎氏)と語る。

 同社の主力製品である「SAP R/3 Enterprise」は、会計・人事・販売・購買モジュールから成るERPパッケージ。従来のmySAP ERPは、mySAP SCMやCRM、PLMなどと並んでR/3 Enterpriseを中核に据えたERPアーキテクチャの名称だった。新しいmySAP ERPは、SAPアプリケーションの基盤である「SAP NetWeaver」と「R/3 Enterprise」を組み合わせ、さらに連結会計やバランススコアカード機能を提供する「SAP SEM」やBIツールの「SAP BW」のほか、アイコンベースの分かりやすいインターフェイスやEAI機能、独自インターフェイス開発環境を標準搭載した企業システム基盤としてパッケージング化したもの。もちろん、NetWeaverに標準で含まれている「SAP Enterprise Portal」や「SAP Master Data Management」などの製品や、データウェアハウス機能も利用できる。価格は1ユーザーあたり76万8000円。現行の約2割引の価格で、数年前「SAP R/3」を単体で販売していた時の価格と同じだという。

 SAPジャパンでは今年2月から、中堅企業市場に向け「SAP All-in-One」を提供してきた。これは業界別の導入ノウハウテンプレートで、あらかじめ導入コストと期間の目安を設定し、導入工数を大幅に削減できるという製品だ。しかしエンドユーザーからは「ソフトウェア自体の使い勝手を良くしてほしい」「レガシーなど社内既存システムと連携できる機能も必要」「決められた機能だけでなく、必要なモジュールを自由に選択したい」といった要望が寄せられており、中堅企業に向けた新しいエントリモデルの登場が待たれていた。今回のmySAP ERPの登場で、アドオン開発や分かりにくいユーザーインターフェイスの課題を解決し、実際の運用にかかわるソフトウェアコストそのものを低減するという。

 mySAP ERPの特徴は4つある。1点目は、ユーザーインターフェイスそのものを改善し、アイコンベースで直感的な操作を可能にしたこと。2点目は、ユーザー独自のインターフェイス開発を容認し、標準機能としてEclipseベースの開発環境を搭載したこと。画面項目要素はあらかじめ規定してあるので、ユーザーは画面作成だけに注力でき、バージョンアップの際の保証となることも大きなポイントだ。3点目は、将来のシステム拡張に向け、柔軟に対応できるアーキテクチャをあらかじめ提供している点。最後の4点目は、NetWeaverにより人・情報・プロセスを統合し、生産性を向上できること。NetWeaverのEAI、データウェアハウス、ポータルを使うことで、エンドユーザーは個人の業務と役割に応じて必要な機能・データを利用することができ、その結果従業員の生産性が向上するということだ。

 また本製品の発表に合わせ、同社内では中堅企業市場へのビジネス強化に向け新たに「SMB事業部」を設置した。事業部専任スタッフのほか、既存の営業部門や業界別セクターの中から担当者を任命し、中堅市場層への販売策を強化するとともに、ビジネスパートナーが提供する中堅企業向けソリューションなども合わせ、中堅マーケットに特化したビジネスを統括するという。

 今回のmySAP ERPの登場により、All-in-Oneの位置付けも変わってくる。玉木氏は「まず価格の見直しがあるだろう」としながらも、現時点で詳細は語らずに「次の機会に譲る」と述べた。いずれにせよ、次のAll-in-Oneの戦略により、SAPのミドルマーケット層に対する「本気度」がさらに問われるだろう。

(編集局 岩崎史絵)

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SAPジャパンの発表資料

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