人類の英知を1つの端末に詰め込む

2003/9/11

左から、勁草書房 代表取締役社長の井村寿人氏、松下電器産業 パナソニック システムソリューションズ社 社長の秋山正樹氏、東芝 執行役上席常務 マーケティング統括本部長の木利武氏、イーブックイニシアティブジャパン 代表取締役社長の鈴木雄介氏

 電子書籍のビジネス展開、啓蒙活動を行う「電子書籍ビジネスコンソーシアム」が10月1日に設立される。発起人代表として名を連ねているのは、イーブックイニシアティブジャパン 代表取締役社長の鈴木雄介氏、勁草書房 代表取締役社長の井村寿人氏、松下電器産業 パナソニック システムソリューションズ社 社長の秋山正樹氏、東芝 執行役上席常務 マーケティング統括本部長の木利武氏の4人。紙に変わる表示装置を持った読書専用端末を軸に新たな読書市場のビジネス展開を検討していく。

 同コンソーシアムに参加する人々の意気込みはそれぞれの立場に立ったバラバラなものだが、その底流には「グーテンベルク以来の出版文化のパラダイムシフトに立ち会っている」との共通した壮大な夢があるようだ。イーブックイニシアティブジャパンの鈴木氏は同コンソーシアムの試みについて、「単に、出版市場の新たなビジネス展開を具現化するというだけではなく、文化的な貢献を模索していきたい」と話す。具体的な貢献策については、今後、コンソーシアムの各部会で議論されるのだろうが、例えば「世界中には出版ビジネスに“弱い”言語が数多く存在しているが、電子化の技術を活用すれば、原本が1冊あれば、半永久的に保存することが可能で、閲覧も手軽に行えるようになる」(鈴木氏)という目論見も存在する。
 
 なお、現段階で想定できる部会は「書店サービス部会」「国際化部会」「Σプラットフォーム部会」「流通プラットフォーム部会」「制作技術部会」など。

 松下電器が開発した読書専用端末は「ΣBook」という名称で2003年秋以降に発売される予定。価格は3〜4万円という。XGA180ppiという高精彩を実現した記憶型液晶を2枚採用し、実際かなり鮮明に情報を閲覧することができる。単三電池2本で3〜6カ月の連続使用が可能、著作権保護を施したSDカードをコンテンツ保存メディアとして使用する。コンテンツはすべてイメージデータとして保存されるため、フォントの違いを気にする必要はない。このことは、「外国語のコンテンツを保存する際に利便性が大きい」(鈴木氏)という。保存するときのイメージデータはすべてカラーだが、表示液晶はモノクロのみの対応である。

 若年層を中心に読書の習慣が年々廃(すた)れていくことの懸念は、特に中小の出版社が等しく抱える問題である。勁草書房の井村氏は出版社の立場として、電子書籍が出版市場の枠組みを拡大する契機になるのでは、と期待する。出版市場の縮小は、日本の狭い住宅事情にあるとする同コンソーシアム 特別顧問の里中満智子氏の意見もうなづける部分はある。電子書籍に賭ける同コンソーシアムの中心メンバーの読書離れに対する議論は、電子書籍という新しいメディアを通して、現在の活字を巡る事情を根本的に見直す議論なのだが、このような議論と電子書籍市場の立ち上げ、同コンソーシアムの活動の成功とは直接結びつかないかもしれない。なぜなら、肝心のコンテンツに関する議論がすっぽりと抜け落ちているからだ。同コンソーシアムにとっては電子書籍市場が立ち上がってから検討する課題なのかもしれない。
 
 読書専用端末は果たして、ボルヘスが描く「砂の本」(1冊の中に「バベルの図書館」全体を内包する)になれるのか。

(編集局 谷古宇浩司)

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イーブックイニシアティブジャパン

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